呪われた呪術師の走馬灯   作:千α

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ふと思いついたネタ。




一笑千金

 東京都立呪術高等専門学校の学長を勤める夜蛾正道は頭を抱えた。

 

「つまり、一緒に任務に行っていた虎杖を庇って、呪詛師の攻撃を受けた結果……こうなった、と」

 

 夜蛾の目の前では、1年生達に連れられたブカブカの作務衣を着た1歳前後の子供が大号泣していた。

 そしてこの子供は何を隠そう綴である。

 

「呪詛師は倒して呪いも解かせたんですけど、元に戻らなくて……」

 

 虎杖と釘崎が綴を宥めようとしている間、伏黒が詳細を説明する。

 綴は虎杖と釘崎に「あっち(行け)! あっち(行け)!」と叫んでおり、そろそろ2人が可哀想になってきた。

 

「ギャー!!!!」

 

 子供特有の泣き声が高専中に響き渡る。

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

「先輩ってちっちゃい頃から人見知りなの?」

 

 ちなみに綴(小)は未だに泣きわめいている。

 

「そうだ! 伏黒、玉犬は?」

「場合によっちゃもっと酷くなるぞ」

 

 そんなリスクを背負いたくない。虎杖と釘崎は首を横に振った。

 あれからもう30分を過ぎているのに綴は泣き止む気配がない、話し掛けると更に泣くので構うこともできない。

 

 泣きわめく綴を家入に診せたところ、年齢は1歳くらいで健康そのものらしいが、記憶がないことと、術を上手く扱えないようである。

 家入が綴を落ち着けさせしばらくは泣き止んでいたが、急患により家入がいなくなるとまたこの調子に戻ってしまった。

 

「やっほー! GTGだよー!」

「五条先生!」

 

 どうしようかと頭を悩ませていた時、担任の五条悟が出張から帰ってきた。

 その顔はどこか嬉しそうだ。多分事の顛末は聞いているのだろう。

 

「マジでちっちゃくなってる!」

 

 テンションがおかしい。

 しかし五条の行動は落ち着いており、鼻水と涙でベショベショになった綴の顔を慣れた手つきで拭き取ると、これまた慣れた手つきで抱き上げる。

 泣き声は酷くなったが、五条が綴を寝かしつけるように背中を優しく叩くとすぐに落ち着き、極めつけに耳のマッサージを始めると最後には寝てしまった。

 

「五条先生慣れてんね……」

「まぁね。1歳の綴と5歳の綴の寝かしつけ方が同じでよかった」

 

 五条曰く、あと足を揉む、頭を撫でるのも効果的らしい。

 

「綴、泣くとしばらく止まらないんだよね」

 

 嗚咽を漏らしながら寝る綴はがっしりと五条の服を掴んでいる。

 

「あ、指吸ってる」

「可愛い……あの人と同一人物とは思えないわね」

 

 五条は呪詛師の話によると、綴は明日まではこのままである可能性が高い、と生徒達に伝える。

 それまで綴はこのまま。もしも明日以降も呪いが解けない場合、捕まえた呪詛師を尋問するそうだ。

 

「──と、言うわけで! 明日は僕、任務もないし綴とお出かけしたいと思いまーす!」

「だからやたらハイテンションだったのか」

「先生が任務無くても授業は普通にありますよ」

「というか、先輩高専から出したら駄目って学長から言われてるんですけど」

「大丈夫、僕最強だから!」

 

 それで全部まかり通ると思うなよ、とこの場にいた誰もが思ったがグッと堪える。

 どうせ何言っても聞かないのだから。

 

「でも大丈夫? 先輩の人見知り、今よりめっちゃ激しいけど」

「んー、まぁ大丈夫でしょ。

 扱いが全部同じって訳にはいかないだろうけど、5歳の綴思い出してやってみるから」

 

 五条がベッドの上に綴を寝かせる。

 

「それに、あんまり綴を不安にさせたくないし」

 

 普段と打って変わった雰囲気に、虎杖と釘崎は少し目を見開く。

 この男にそんなふうに人を気遣う心があったとは、と感心していると伏黒が口を開いた。

 

「いや、ただ先輩で遊びたいだけでしょう?」

「あ、バレた?」

 

 やっぱりいつもの五条だった。

 

 

「結局、綴先輩起きてからもずーっと五条先生にベッタリだったな」

「伏黒、あんた生きてる?」

 

 五条に抱っこされている綴はボケっと玉犬を見つめていた。

 その近くで待機している1年生達、とりわけ伏黒はグッタリとしていた。

 伏黒がこうなったのには理由がある。

 いつまでも、どこへでも綴を抱っこしているわけにもいかない五条は、つい先程生理現象だと告げて綴を1年生に任せた。

 「無理だ」と首を横に振るが、綴は動物好きだから玉犬も気に入る、というアドバイスにより玉犬を出す。

 

「食いついたところまでは、良かったんだよな」

 

 綴は興味津々と言った様子で玉犬にヨチヨチ歩きで自分から近寄り、そしてもふもふと顔をうずめたり、乗ろうとしたりとにかくめちゃくちゃなことをしていた。

 何度も肝が冷えた。ここで怪我をさせると後が怖い、主に五条の反応が。

 それは五条が帰ってきてからも収まらず、伏黒が玉犬をしまうと「やー! わんわん!」と泣き始めた。

 よってそれからずーっと伏黒は玉犬を出しっぱなしにしているのである。

 見ていない、遊んでいないと思って消すとすぐに気が付いて火がついたように泣く。

 

「もー、泣き声が耳に残りそう」

 

 ところで何で五条はあんなに嬉しそうにしているんだろうか。

 

「先生、そろそろ俺ら部屋に帰りたいんだけど」

「え? ああ、もうそんな時間か……うん、じゃあ綴、バイバイしよっか」

 

 と、五条が3人に向けて手を振る。

 

「や」

「え?」

「やー!」

 

 綴は気に入った物を溜め込むタイプの人間である。

 例えば着物。

 別に着る訳でもないそれを買うことがよくある。そう、着る訳でもないのに。

 そして箪笥に入り切らなかった場合、場所を借りてそこに保管する。つまり手放したがらない。

 別に着る訳でもないのに。ただ単に好きな物に囲まれていたいがために。

 

「この頃から、そういう性分だったんだなぁ……」

 

 しかもわがまま。いったいどれだけ甘やかされて育ったんだろう。

 ちなみに伏黒はその犠牲者となり呪力が底をついた。

  ▽伏黒は倒れた。

  ▽玉犬は消えた。

  ▽綴は泣いた。

 大号泣する綴を別のもので落ち着かせるが、玉犬のことをふと思い出すとまた泣きそうになる。

 

「先輩ちっちゃくなったって?」

「真希先輩!」

 

 それを繰り返していると、2年生達がやって来た。

 真希の他にも狗巻とパンダも一緒だ。

 

「ぱんら!」

 

 ▽綴はパンダを見て機嫌を直した。

 

「なんか、複雑だわ……」

「俺らめっちゃ泣かれてたのに」

 

 今度はパンダに興味津々になった綴だが、一向に五条から降りる気配がない。

 

「しっかし意外だな」

「なにが?」

 

 真希が綴を見ながら呟く。

 

「いや、先輩ってどっちかって言うと真面目なタイプじゃんか。

 わがまま何て、滅多に言わないし。言ったとしても五条か伊地知さんくらいで」

「まあ、確かに」

 

 ここまでわがままをするなんてこと、見たことがない。

 本当に普通の、どこにでもいる子供にしては少しわがまま過ぎるが、綴もこんな時期があるのだと思う。

 

「そう言えば、何で伊地知さんにはわがまま言うんだろ。五条先生はなんかわかるけど」

「ん? ああ、あれでもマシになったんだよ。

 昔は多分、伊地知のこと自分よりも下に見てたから」

 

 主に五条のせいである。

 そしてその度に夏油にたしなめられて今の状態。ちなみに怒られた際謝るのだが、何故か伊地知にではなく夏油に謝り夏油はそれで許すので、夏油もそれに無自覚に加担していた。

 高専に入学した綴は言った。

 「これからはもう少し、伊地知さんに優しくしよう」と。

 




続く。

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