40話
パリッ
二の腕にヒビが入ったのは10月に中旬をすぎた頃。ヒビからは黒い物が見えている。それに包帯を巻いて、綴はいつものように筒を背負う。
──もう、時間が無い。
綴はおそらく大人になれない、その前に死ぬ。
2018年10月31日19:00
東急百貨店 東急東横店を中心に半径およそ400mの"帳"が降ろされる。
「は? なんでアンタが1人で行かなきゃなんねんだよ」
五条から突如言われたことに、綴は眉をひそめた。
今回の件を起こしたのは、交流戦の時と同一犯と思われその犯人が五条悟を指名した。「五条悟を連れてこい」それが閉じ込められた人々の訴えだ。上層部はこれを受けて、五条1人をこの帳の中へ向かわせることに決定した。
「ま、こればっかりは仕方がない。僕だって、一般人巻き込まない為にも
「じゃあ連れてけよ」
「やだよ。
ま、僕だけで充分だって。綴は何も心配することなんてないよ」
綴は補助監督の人間からも五条から言われても納得はしなかった。いつものようにこうやって粘っていれば、きっと考えを変えてくれると綴は思い、訴えるが今回は考えが変わることは無いようだ。
「………ふっざけんなよ、手前はいつもそうだな」
綴は五条をジロっと睨みつける。
「本当に心配することないよ?」
「ある。手前に何言われたってある」
いつも五条は自分を心配してくれる。だから自分も五条を心配している。大事だから。その気持ちは五条も綴も一緒なはずなのに、どうしてもそれが噛み合うことがない。
「綴、今日なんか変じゃない?」
目ざとく綴の変化に気が付いた五条は綴の肩を触る。その時、皮膚が
「……っ!?」
左二の腕から肘にかけて走るヒビを見て、五条は絶句する。
「綴、部屋に帰ろう」
「は?」
「それが治るまで任務に出なくていいから」
「ちょ、待てよ、何言ってんだよ手前は!?」
五条は綴の右腕を掴んで部屋に連れ戻そうとする。だが綴はその手を振りほどき、五条を拒絶する。
冗談ではない、この男は戦うなと言ったのだ。綴に言ってはいけないことを言ったのだ。
「やめろ! 変なのは手前のほうだ! なんで俺が……っ」
いくら五条を蹴ろうが、もう決定事項だと言わんばかりに五条は綴を引きずりながら部屋へ向かう。
何故、どうしてと尋ねてくる綴を五条は無視して部屋の中へ綴を押し込めるように入れる。
「五条!」
「ごめん、綴……でも、お前まで死んだら、僕は……」
それは五条悟の小さな悲鳴のように聞こえた。それを聞いてしまえばもう何もできなかった。綴は1発殴ってやろうと振り上げていた拳を下げる。
「………五条、質問に答えろ。
なんで、伏黒や悠仁には変化を求めるのに、俺には求めないんだ? その方が都合がいいからか?」
違う、五条はそんな風に思っていない。しかし口から出た不満と不安は次々と吐き出されていく。
「そんなに俺に戦って欲しくないなら、あの虫かごから出さなけりゃ良かったんだ。そしたら、誰も、俺もお前もこんな思いしなかった。俺はあの時何も感じなかったんだ、そのままでいさせてくれたら、こんなに苦しむこともなかったんだ!」
ドンッと五条が壁を叩く。
「綴があの虫かごから出なかったら? なんの冗談だよ?
俺が、お前があんな物みたいに扱われてて、黙っていられると思うか!?」
「…………"綴"は、
俺は最初から道具なんだよ! 母さんが大事にしてたのは、思った以上に愛着持ったってだけで、それを夏油さんが人間みたいに使ったから、人間になっただけの道具なんだ!」
違うんだ。こんなことを言いたくないんだ。自分はただ、五条が心配なだけなんだ。一緒にいたいだけなんだ。死んで欲しくないだけなんだ。
甘菜綴にとって五条悟は最強ではない。どうしても、まだ最強ではなかった
だから、五条が自分に向ける感情と同じで、綴は五条が心配なのだ。もしかしたら傷付いてしまうんじゃないか、死んでしまうんじゃないかと、彼が任務へ行くたびに不安になる。
「………誰がなんと言おうと、綴は道具なんかじゃない。
絶対にここから出ないで。僕が帰ってくるまで、ここにいて、待ってて」
先程の激情はなんだったのか、五条は今度は綴に言い聞かせるように話しかける。それが、まるで夏油のようで腹が立った。
「──~~~っ! 好きにしろ! 俺の気持ちも知らないで! 手前のことなんか、もう知らん! 嫌い、大っ嫌い!!」
綴は思い切り扉を閉める。
「口から思わず出たって感じだけど……思ってたより、キツイな……」
扉の前で五条は綴に言われた「嫌い」という言葉に少なからずショックを受けていた。
部屋で待機する綴は、誰かに呼ばれる。いや、通信機器無しに綴を呼び出せる人間なんて1人しかいない。
「……………夏油さん?」
綴は急いで部屋の扉へ向かうが……そこから足が進まない。五条から言われたことが足枷となったからだ。
「俺は、知らない、あんな奴の言うことなんか、聞かなくていい」
綴は意を決して扉を開け、