「っし、3体目」
綴は逃げた子蜘蛛の1体白い杭で突き刺すと、子蜘蛛の腕を1本ちぎり取り口の中へ放り込む。するとどうだ、世界がぼやけて見え始めた。だがその代わりに光の感知であまり見えていない視界を補う。それに加えて視覚情報がすぐに脳に伝わってくる。視覚情報の伝達が早ければ、その分動きも早くなる。
ポタリと鼻から血が出る。身体が急激な変化に耐えられないと悲鳴を上げる。だがそれ以上に自身が興奮していることがわかる。ボロボロになる身体も気にならないほどに気分はここ最近で1番いいと言えるだろう。
子蜘蛛数・56匹
もう半分以上が人間では無くなっている。
予定していた子蜘蛛との戦闘時間はとうに過ぎた。何かをしなければいけないと思っていたのに、今はそれよりも子蜘蛛を貪り食いたくて仕方がない。だがダメだ。それでは五条との約束を破ることになる。
「………あ、そうだった。思い出した。五条の所に早く行かねぇと……」
しかし子蜘蛛を無視しておく訳にはいかない。子蜘蛛が人間を食べる可能性が全くのゼロではない。
子蜘蛛の栄養源は同じ子蜘蛛だが。人間や他の呪霊は子蜘蛛が食べることができない時の苦肉の策。人間が食べ物がない時に水で腹を膨れさせるのと一緒だ。それで幾ら生き延びることができていても、いつかは限界が来る。終わりのない飢餓は子蜘蛛を狂わせるには充分だ。
──本当なら、もち丸みてぇに契約術師から呪力を貰えたら1番良いんだろうが……。
呪霊操術を扱えるマツリからもち丸は呪力を貰って腹を満たしている。子蜘蛛が生まれた千年前は術者から呪力を貰い契約を結ぶことを想定していた。マツリともち丸の関係は、三十蠱毒の本来あるべき姿である。
しかしそれが簡単にできるかと言われたら、綴は無理だと答えるだろう。子蜘蛛は基本的に人間に支配されることを拒む。どんなに飢餓から逃れられる方法の1つだとしてもだ。それだけ、己達を呪いへ転じさせた人間という生き物への恨みは凄まじい。
今、捕まえた子蜘蛛を全て食べてしまうと本当に呪霊と成り果ててしまう。そうなった時、自分がいったいどうなってしまうかは綴でもわからない。きっと、碌でもないことが起きるのだろうというぼんやりとした想像でしかその先を予想することができなかった。
「ゲホっ」
息が苦しくなり思わず咳き込むと、手のひらに血が付着した。今までで見たことの無い量の吐血。だというのに身体に倦怠感は感じられない。その逆だ、身体が軽い。
潰れた左眼側を執拗に攻撃してくる子蜘蛛だが、この時綴は最盛期であった高専1年であった頃の感覚に戻ってきている。呪力を使わなくても綴の身体は思うように動いてくれる。こんな感覚はいつ以来だっただろうか。
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【1年前・呪術高専】
綴は足を滑らせて階段から落ちた。
その事実に呆然としながら起き上がろうとしてみるも、腕や足に力が入らない。声を出そうとしてもそれは意味の無いか細い声となるばかりだった。
運悪く、この階段には人が近寄らない。
「こんな所で何やってんの?」
「…………」
声色はいつもと同じ、しかしその表情はどことなく焦りが見えた五条が綴を探し出すまで、綴はずっと階段の下で倒れていた。
「綴?」
「…………」
声が出ない、身体が動かない。それすら伝えることができない。
五条は何も答えず動かない綴の四肢を持ちゆっくり動かして正常かどうかを調べていく。
結果は問題なし。折れているわけでも脱臼しているわけでもない。肺や喉にも異常はない。
「綴、ちょっと我慢しててね」
そう言うと五条は綴を抱き上げて急いで家入の所まで走った。抵抗はしたくてもできなかったが、不思議と悪い気にはならなかった。
──なんか、こういうの懐かしいな。
・
・
・
「硝子〜、ちょっと綴診てあげて〜」
「今度はどんな無茶を……」
綴を抱き上げたまま、五条は器用に医務室の扉を開ける。
家入は、また綴が任務か何かで無茶をしたのだろうと思ったが、五条に抱き上げられている綴を見て考えを改める。
「何があった?」
「僕もよくはわからない。綴が見えないから探しに行って階段の踊り場で見つけた」
その時にはもうこの状態だった。
「外傷は頭のたんこぶ以外特にないな」
「まさか階段から落ちた?」
──その通りだよコノヤロウ。
とは今は言えないので少し表情がムッとしただけだが、長年の付き合いにより意図は五条に伝わったらしく軽く謝ってくる。
「五条、通訳しろ」
「わかった」
綴の表情を見て何を言いたいか完璧でないにしろわかるのはこの場に五条しかいない。
「綴、どうして階段から落ちた?」
「………」
──わからない。急に身体に力が入らなくなった。
「……わからないみたいだよ」
「呪力の操作はどうだ?
試してみると、どちらの呪力も操作することがままならない。何も出来ない。このままでは本当に、どうすることもできない。
「……できてない? 綴、お前から呪力操作と体術取ったら何が残るんだよ」
とりあえずこれが治ったら五条はぶん殴る。いや、確かに五条に稽古を付けてもらうと「呪力操作と体術以外は平均って感じ」等とダメ出しを受けることが多かったが。
しかしこの状態は本当にヤバい。もしも甘菜家、もしくは上層部にこのことが知られでもすれば「綴を引き渡せ」という命令を出すに決まっている。
綴は自分で戦い自分で子蜘蛛を捕まえるとそう宣言していたからこそ、甘菜家も上層部もそこまでの圧力を綴にかけてこなかった。しかし綴が戦えなくなったらその時は……。
──どうしよう。
「そう不安な顔しなくていいから。どんなことがあっても僕がいる」
五条が思い出すのはあの虫かごだ。綴がまるで本当に虫のように飼育されていたあの場所。あそこで綴は子蜘蛛を何匹も与えられていた。生体にして早く先人達が
綴がこのまま動けず戦えなくなったら、きっとまた綴は甘菜家の繁栄の為に虫かごで人権もないような扱いを受け、臆病な上層部によって子蜘蛛を食わされ最期に諸共殺される。
仕方がなかった犠牲だと。最後の三十蠱毒を祓ったのは我々の判断の賜物だと。甘菜綴は快く協力してくれたのだと。そうなった時奴らはそう言うはずだ。自分達を正当化させて、綴に対して罪悪感など持たず、子蜘蛛を祓ったのは自分達の手柄だと言うのだろう。
「綴、まずは呪力操作からやっていこうか」
五条に声を掛けられて、綴は使いやすい自分の呪力を操作しようとする。のだがやはり上手くいかない。
「落ち着いて、ゆっくりでいいから」
今まで意識せずともできていた、1番得意だと言っても過言ではないことができなくなるのは思っていた以上にストレスになる。
焦る綴を落ち着かせながら、五条は綴の頭を撫でる。
それから綴は寮の部屋に運ばれ、3日間呪力操作ができずにいた。コツを掴んできたのは4日目の昼だった。
「あー、あー」
「お、声出るようになったね!
喉に違和感とかある?」
「ない」
「それは良かった。あとは腕と足だね、綴今できそう?」
「…………無理」
声を出したのと同じ容量で四肢を動かそうとするが指先すら動かない。
五条は家入から綴がこうなった原因を、身体が弱っているからだと伝えられた。
その身に巣食う子蜘蛛と毎日身体の主導権を争っている綴の身体が限界を迎えてしまい、自力ではまともに立つことすらもうできないだろうと言うのが家入の見解だ。
今回は腕や足、声だったからまだ良かった、これがもしも心臓等の生きるために必要不可欠な部分の機能低下だったら?今後綴に同じようなことが起きたら?
五条が考え込んでいると、視界の端で何かが倒れる。綴が布団から僅かに離れた場所で仰向けになっていた。
「綴!?」
「……コツは、掴んだ。だから、あんまり、不安そうな顔、すんじゃねぇよ」
もう少しで上手くいきそうだと、綴はまた呪力を身体に流す。ゆっくり、しかし確実に綴の足が動く。
五条が長年の付き合いにより綴の表情で言いたいことがわかるように、綴も五条の感情がそれだけでわかる。表情を変えないように努めていた五条だが、綴には看破されてしまう。
「立つから、もう1回、だから見てろ」
綴はゆっくりと立ち上がる。まるで産まれたての子鹿か何かのようだ。でも立った。綴はまだ立てるのだ。
「綴、頑張ろう」
「うん」
そう返事した瞬間、綴はバランスを崩してまた後ろに倒れた。
ここから先ただの茶番
・格付けチェックパロ
常勝無敗の五条悟!しかしそんな五条の相方をするのは相当なプレッシャーが掛かり、誰も一緒にやってくれない!そんな時に現れた甘菜綴!綴は五条の誘いに一言でOKを出す!
他の参加メンバーからの「ずるい!」「この2人を一緒にすんな!」というブーイングも諸共せず、五条と綴はノーミスという快進撃を続け………。
五条「A」
綴「B」
「「………………」」
どうなる!?じゅじゅ格付けチェック!?
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アンケート選択肢
①東堂と任務へ行った時の話
②綴を語る原作キャラ達
③綴12歳、伏黒10歳