今回短めです。
「あ〜!! また、落ちた!」
五条は階段からバランスを崩して落ちた綴を爆笑しながら助け起こす。
「次伏黒が来るまでに何とかしねぇと……」
「恵のこと、ちゃんと見てやってるんだね」
「約束したからな」
何とか手すりを掴んで立ち上がると、綴はまた階段を上る。
尾上の影響なのか、綴は乙骨を始めとする後輩という存在に優しくなった(ような気がする)特に以前のように真希を邪険にすることも無くなったことはとてもいい傾向だと言えるだろう。
「うわっ!?」
また落ちた。
それから何度も10段も行かずに落ちるので、いったん休憩させることにした。
「硝子の所行く?」
「こんくらいの怪我で行く必要ねぇよ」
高専の中でも景色がいい場所に綴を座らせ、階段で打った場所に冷えピタを貼っていく。
「やっぱり階段はまだ早いんじゃない?」
「平面の地面は歩けるんだ、階段ももう行けんだろ」
「の割には落ちまくってたじゃん」
「うるせぇ。
箸の練習もしねぇとな、フォークは使いにくい」
「フォークを使いにくいって言う奴初めて見たわ」
夏油から聞いた話だと、綴は物心ついたころにはもうフォークは卒業し、それ以降使ったことがないそうだ。しかしそれだけ手先が器用なら、夏休みの工作はもっとマシな物になったんじゃ?と綴の小学校初めての夏休みの工作で大爆笑し、その後工作の手直しするのを手伝った五条はぼんやりと思う。
「………なんだよ?」
「いや、毛虫炙ったの見て泣き喚いてた綴が懐かしいなーと」
「うるせぇ! 未だにトラウマだなんだぞ、アレ!」
ちょうど小学1年生だった頃の焼け死んだ毛虫を菜箸で掴んだまま全力で逃げ綴を追いかけまわし、夏油に殴られたのはいい思い出だ。
「思い出したらゾワゾワしてきた」
「僕的には爆笑物なんだけどなー」
「信じらんねぇ」
五条は見える範囲で冷えピタと絆創膏を綴に貼り終えると、ニヤリと笑う。
「もう1回見てみる?」
「しんっっじらんねぇ!!」
「今なら綴はほぼ動けないから、僕から逃げられないもんねー!」
「最悪だぁ! も、ほんっと最悪だコイツ!」
綴を肩に担ぐと五条は毛虫を探しに校内を散策しようとするが、途中で夜蛾に見つかり彼のおかげで綴は救出されたのであった。
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「それは災難だったな」
「笑い事じゃねぇよ……」
結局綴は家入の所で避難することになった。今頃五条は夜蛾に絞められていることだろう。反省して欲しい、本当に、切実に。
「五条にあのこと・・・・は伝えなかったのか?」
「伝えてない。怒るじゃん、アイツ」
「いつかはバレるよ?」
わかっている。それでも今は言いたくなかった。言えるものか、自分の寿命があと5年も無い・・・・・だなんて。
「あのさ、家入さん」
「なんだ?」
「俺、できるだけ五条に心配掛けたくない」
五条を気遣う言葉を綴は吐き出す。本当に優しい子だと家入は思う。だがその優しさが五条を苦しめていることには誰も気が付かない。綴が五条に見せる優しさは、何かを我慢させているのでは?という五条の疑念となり苦しめてしまう。しかしそれは飄々とした態度によって隠されてしまうのだ。
「だから、絶対に言わないで欲しい。俺の事で五条の夢を、台無しにしたくないから」
「わかった。その代わり寿命のことは私からじゃなく、綴から話すこと、それが無理なら私は今すぐにでも五条にこのことを伝えに行く」
「わかってる、そこまで家入さんには頼らねぇよ」
本当だろうか?もしかしたらこのまま有耶無耶にして一生五条が気付かない、なんてことにもなるかもしれない。ただ、その可能性は限りなく低いと言えるだろう。なぜかと問われれば家入はハッキリと答えることができる。
五条悟は甘菜綴に優し過ぎる。
どちらも互いを思い、優しさを持っているのに互いにそれを伝える気がないのだ。
──2人とも、変な所で不器用だ。
………そういえば、あの夏休みの工作貯金箱は結局どうなったんだっけ?
不器用な綴のために、五条と夏油が一緒に手伝ったあの貯金箱を綴はとても気に入っていた。しばらくはどこへ行くにもその貯金箱を子供サイズのリュックの中に詰めて持ち歩いていたほどだ。
しかしある時パッタリとやめてしまった。夏油に聞けば恥ずかしくなったんだろう、と言われた。確かにその頃から高専の生徒達を「兄ちゃん」「姉ちゃん」と恥ずかしがって呼ばなくなったな気がする。誰よりも五条と灰原が残念がっていたのは笑えたな。
貯金箱のことは聞けば答えてくれるだろうか。だがそれを聞くということは自然と夏油の話にも触れることになるので……。
「綴ー! 待ったー!? 綴が見捨てた悟兄ちゃんだよー!」
「げぇ!? 待ってねぇよ、帰れ!」
「綴が慰めてくれるまで帰りませーん!
ってか僕がいないと部屋に帰れないでしょ?」
「そん時は秤辺りに頼むわ」
「……噂通り同級生とも仲良くできてるじゃん」
五条は抗議する綴を担ぐと家入に礼を言ってから医務室を飛び出した。
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それから数日が経って、任務も支障なく終えることができるようになった。
綴は金額の増えた通帳を見て、よし、と気合いを入れる。
少し予定がズレてしまったが、この調子なら目標金額・・・・になるまで4年生までかかると思っていたが、3年生の夏頃には目標金額を超えるはずだ。
決してこれは冥冥の真似というわけではない。綴には綴なりの金を貯める理由がある。元々金はほとんど使わないので貯まるのは早かった。
「今年中には超えてやる……着物、ちょっと売るかな?」
正直着ないで箪笥の肥やしになる着物が多いのだ。
無駄遣いと言われてしまえばぐうの音も出ないのだが、言い訳をさせて欲しい。誘惑されたのだ。買って欲しいと着物が言うのだ。
「いや、いやいや……でもこれ眺めてるだけでも満足するやつだし」
そう、着ていないやつは観賞用だ。こんな高い物ものしょっちゅう着れるわけないだろう。
「甘菜先輩、あの時間なんですけど」
普段使わない着物をしまっている桐箪笥を開けながらうんうんと悩んでいると、部屋に伏黒が入ってきた。
「何で入ってきてんだ手前はよぉ……!」
思わず伏黒の額を叩く。
「呼べよ、外から!」
「呼んだのに出てこなかったのはそっちじゃないですか!?」
「じゃあ、ちょっと待ってろや!」
待っていたら待っていたで怒るに決まっているが、それ以上伏黒は何も言わなかった。これ以上面倒なことにはなりたくない。
「………」
「あの、甘菜先輩?」
「伏黒、ちょっとこれ着てみてくれないか?」
「は?」
毛虫は実際に近所の兄ちゃんがやってたのを見たことがあるのでそれをネタにしてます。
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アンケート選択肢
①東堂と任務へ行った時の話
②綴を語る原作キャラ達
③綴12歳、伏黒10歳