呪われた呪術師の走馬灯   作:千α

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そろそろ終わりが見えてきました。



48話

 あの頃から着実に綴の身体は衰え始めた。呪力でなんとかしても、その分に割く呪力のせいで今度は技の威力が衰える。限界は目に見えていた。

 だがその身体の衰えは子蜘蛛に抗っているという証だ。恥じるべきことでは無い。

 

 ただひたすらに子蜘蛛を追って走る。

 あちらは綴が弱るのを待っているはずだ。だから綴に求められるのは短期決戦。あと2匹捕らえればそこで自分の役目は終わる。

 高専に帰ったら家入と寿命がいくら減ったか調べないといけないな、と考えながら走っていると、ふとよく知っている呪力を感知した。

 

「悠仁?」

 

 虎杖がここに来て、呪霊と戦っている。しかも、今まさにその虎杖に異変が起きている。真っ先に思い浮かべたのは虎杖の死。

 しかし綴は今子蜘蛛を追っている。虎杖か子蜘蛛か、どちらを優先するべきか、普通ならそこで悩んでしまうところだ。しかし綴はそれに対して悩むことはしなかった。

 綴は走る。()()()()へ。

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 史上最悪の呪術師であり、御三家の汚点・加茂憲倫が妊婦への実験によって生み出した特級呪物・呪胎九相図の一番が受肉し生まれた脹相には、弟が8人いる。

 しかしそのうちの2人は釘崎と目の前にいる虎杖によって殺された。

 その虎杖は、肝臓や他にも重賞の傷を負わせ、あともう少しという所まで追い詰めている。弟達の仇を、今ここで……。

 

 だがその時、虎杖にしか集中していなかった脹相の目の前に拳が現れた。

 思わず飛び退くと、虎杖を庇うようにしてボロボロの男が立っていた。

 

「……甘菜、綴」

「俺の事知ってんのか?」

 

 絶対に殺してはいけない呪霊、子蜘蛛に呪われ子蜘蛛になった男、甘菜綴。

 その存在を確認した瞬間、脹相の警戒心は格段に上がる。

 

「悠仁、大丈夫か?

 なわけないか……ちょっと我慢してろ、どうにかするから」

 

 なんとか意識を保っていた虎杖だったが、その言葉を聞いて気が抜けてしまったのか、目を閉じる。

 綴はあくまで表向きは冷静なフリをして頭では様々な思考を巡らせる。綴には脹相が特級呪物・呪胎九相図の一番であることは全く知らないことであったが、その呪力を感じ取ってしまったからだ。

 

──おそらく特級だな。悠仁がこれだけやられるわけだ。

  まだ悠仁が戦える状態ならまだしも、これはまずい。

 

 自分を知っているということは、綴が子蜘蛛であることがあちらはわかっているのだろう。ならば殺されることはない。しかしいくら殺されないという確信があっても、1人では手に余る相手だ。

 

──真人(ツギハギ呪霊)の時もそうだったが、ちょっとこれは勝てる気がしない。

 

 かと言って、真人のように追い払えるかと聞かれたら頷くことはできない。真人の時は事前に七海や虎杖からの情報があったからこその作戦。しかし脹相は完全に初見の相手。しかも綴の状態は万全なものではない。

 綴は虎杖を抱えると脹相に背を向けて走り出した。

 

「なに!?」

 

──①できるだけ遠い所へ逃げる。

  ②そこで糸張って頭を回す時間を作る。

  ③なんとかして虎杖を治療する。

 

 正直この状態ではよくない方向へと進んでしまう。綴は①を達成するために、糸で幾つもの罠を仕掛ける。後ろから仕掛けが作動する音がしたのでこれで時間稼ぎができるだろう。

 

 しかし、弟の仇である虎杖を脹相がそう簡単に諦めることはない。

 脹相は糸の罠に引っかかり、思わず足を止めた。糸は脹相の皮膚を容易に切り裂くほどの威力を持っている。にも関わらず逃げたということは、この糸は決して常時発動できるようなものではないことが伺える。

 ならば、必ず綴に隙が生まれるはずだ。

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 なんとかして綴は①を達成することができていた。次は②。

 しかし綴と虎杖の血がボタボタと地面に流れる。血が流れすぎて頭がうまく回らない。

 どうしたらいい、虎杖を助ける方法はないか?綴は糸を周囲に張りながら思考を巡らせる。

 無理だ。自分には反転術式は使えない。呪力を流すための操作能力と体術しか取り柄はない。

 

「おえっ……」

 

 ビシャビシャと口から血が吹き出す。そこからゴロンと転がるそれ(・・)を見て、乾いた声で綴は笑う。

 

「死にかけだな」

 

 虎杖から虎杖ではない声が聞こえてきた。

 

「……案外あと2、3年生きてるかもしれねぇぞ?」

 

 虎杖の目尻に洗われた目と口を見て、綴は気を引き締める。

 

「この小僧の命になんの意味がある?」

「さぁてな。何にも意味なんてないかもしれないな」

「ならば何故、救おうとする? そんな貧相な身体で」

「………」

「小僧を救わず子蜘蛛を追い、喰えば僅かでも延びた寿命だろう。

 まあ、この状況では救えたかも怪しいがな」

「だからその方法を考えてんだろうがよ」

 

 どうしたらいい、何をしたらいい。ふと目に留まったのは自身の細い腕。

 綴はあることに気が付いてしまった。

 

「………ま、そうするしかないよな」

 

 綴は虎杖の肝臓が貫かれた箇所に両手を置く。

 その綴の行動を見て、宿儺は首をかしげる。何をする気だ?酷く、凪いだ呪力が虎杖の身体に流れている。

 

「昔、落語で「死神」てのを見たことがある」

 

 別に宿儺に話すために言ったのではない。今からする術の開示を綴は行うつもりなのだ。

 

「やることなすこと失敗し、金もない、妻にも貶された男の前に死神が現れる。死神と男には縁があり、それによって死神は男を助けるという。

 「どんな重病人であっても死神が足元に座っていればまだ寿命ではなく、逆に症状が軽そうに見えても枕元に死神が座っている場合は程なく死ぬ。足元にいる場合は呪文を唱えれば死神は消えるので、それで医者を始めるといい」そう言って死神は男の前から消える」

 

 ケホケホと咳き込むと、今度は鼻から血が出てきた。

 

「男はその言葉通りに医者を初め成功するが、しばらく経つと、患者の枕元に死神がいて治すことができなくなってまた金に困るようなった。

 そんな時に大金が舞い込む仕事ができて、その金欲しさに枕元の死神がうたた寝している隙に主人の布団の向きを変え死神が足元に来るようにした瞬間に呪文を唱え、死神を消した」

 

「その帰り道、その事を死神に咎められ、洞窟に連れて行かれる。

 そこには沢山の蝋燭が、あって……男と、その患者の寿命が入れ替わっていた。他の人間の蝋燭に自身の蝋燭を継ぎ足せば、助かるという、死神の言葉を信じ、男は蝋燭に火を付けようとする。話は男の「あぁ、消える…」という台詞で締めくくられる」

 

 イメージするのは、火の点る蝋燭を他の蝋燭で継ぎ足すこと。

 それを行うには、子蜘蛛の糸と呪流術を同時に使う必要がある。自分の命を継ぎ足しても、傷が塞がっていなければ意味が無いのだ。

 正直、子蜘蛛の糸と呪流術を同時に使うのは苦手ではあるが、四の五の言っている場合ではない。

 

「ケヒッ。その物語通りなら、小僧も貴様も死ぬぞ?」

「できるよ、俺は、この世で最も素晴らしい呪術師の弟子だぞ」

 

 強がってみるが勝率は5分。

 

──夏油さん俺さ……今、やっと呪術師としての答え(・・)を見つけられそうなんだ。

 

 虎杖の傷を糸で縫い合わせ、そこから自身の呪力を流し込む。

 

「死ぬなよ、悠仁……死んだら、伏黒に殺されんだろ?」

 

 死んだら殺せねぇよ、と交流戦での呪霊の襲撃時での虎杖と伏黒の会話を思い出す。

 

「生きろよ、しつこく呆れられるくらい、生きてやれよ」

 

 この男に思うのはそれだけだ。

 だが、その時腹部から血が流れる。何かが刺さった。後ろを振り返ると、そこには追いかけてきた脹相が立っていた。

 

「なんだ、もう追いついてきやがったか」

 

 綴が何らかの治療を虎杖にしていると気が付いた脹相は、また攻撃しようとするが、綴が先程よりもだいぶ弱っていることに気が付いた。

 

「………何故、そこまでする?」

 

 思わずそう聞いてしまった。

 弱っている、もう生きているのも不思議だ。なのに、綴の目はまだ死んでいない。目の前の虎杖の為に全てをつぎ込もうとしている。

 

「何故? さぁ……俺がコイツのこと好きだからじゃねぇの? 悠仁は俺を兄貴みてぇだって言ってくれたんだ。なら、()()()()()()()()()()()()()()()()じゃねぇの」

 

 挑発的な笑み。

 その言葉を聞いて脹相が思い出すのは、虎杖と釘崎に殺された壊相と血塗。

 

「血の繋がりはねぇけどさ……嬉しかったんだよ」

 

 脹相は思わず動けなくなってしまった。

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