呪われた呪術師の走馬灯   作:千α

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ついに奴を書く。


07話

「クソがっ」

 

 甘菜は苛立ちを隠さずに呟いた。

 今回の任務は七海、虎杖と共に映画館の事件について調査、解決するものである。はずだった。

 七海は敵アジトの調査……という名の乗り込み。虎杖と伊地知は今回の事件に関係していると思われる、吉野順平の調査。これに甘菜も参加することになっていたが、途中で状況が変わってしまった。

 

「伊地知さん、別件だ」

「え? あ、甘菜君!?」

 

 戸惑う虎杖と伊地知を車に置いて、そのまま街を走り出した。

 というのも、ある呪力を感じ取ったことが原因である。

 

「どこだ…どこにいやがるっ! なんで生きてる!?」

 

 糸を出すと、その呪力を感じる場所への近道となるであろう建物へ飛び移り、そのまま空を飛ぶようにして移動する。

 何とも言い表せない言葉が競り上がるが、結局意味を持たない言葉の叫びとなる。

 今となっては、それを直ぐに信用できる大人に話すべきだった。だが、今の甘菜にはそんなことは一切頭にない。

 

 たどり着いた場所にいたのは、黒い服を着た男。

 

「やぁ、久しぶりだね綴。キミならわかると思ったよ」

「……………そりゃあ、繋がってる(・・・・・)からな……夏油、さん」

 

 夏油傑。

 かつて甘菜に呪術を教えた人物。

 一般人を100人殺害し、高専を追われた特級呪術師。

 

「でも術者が呼ばないと、ソレには反応できないだろう?」

「アンタは、何もしなくてもわかるのにな。不公平だぞ、コレ」

 

 奥歯を噛み締める。

 1年前の百鬼夜行。あの時甘菜は乙骨達2年生の救援に向かったが、夏油に味方になるように持ち掛けられ、とある呪いを受けた。

 それは恐らく、今後(・・)、大きな戦力となる甘菜を確保する目的だったのだろう。

 

「アレからもう1年か……また強くなったね」

「余計なお世話だクソが」

「アレ? さらに口も悪くなった? 私の可愛い綴が……これが反抗期か……」

「安心しやがれください。アンタが高専からいなくなってから反抗期は始まってます」

 

 それでも、近づいてくる夏油から逃げることはない。

 

「キミも、刺青も順調に育っている。私は誇らしいよ。こんなに素晴らしい家族を持てて」

「………っ」

 

 家族。

 それを聞いて、甘菜は初めて夏油から目を逸らした。

 

「なんで、今頃……っ」

「綴には、私が生きていることを教えておこうと思ってね……今まで高専への潜入(・・)お疲れ様」

「は?」

「ん?」

 

 甘菜は目を点にさせ、夏油は首を傾げる。

 この人はいったい何を考えているんだろう。甘菜に姿を現せば、それが高専側に伝わるとは思っていないのだろうか。

 そんなはずはない。なら何故?もしかして本気で自分が呪術高専に潜入していると、そう思っていた?

 そこで綴の心に違和感の塊ができた。

 

「……わ、悪いけどアンタとはもう袂を分かってる。それは去年にもアンタに伝えてる。俺にそんなつもりは……」

「そうか、じゃあ……コレは要らなくなったかい?」

 

 夏油は本当に残念そうに、悲しそうに甘菜に箱を差し出した。目で開けろとそう訴えているのがわかった甘菜は、恐る恐る箱の蓋を開ける。

 そこにあったのは、蜘蛛(・・)だった。黒い蜘蛛。大きさは10cm以上ありそうなほど大きい。それを見て、甘菜は急激に腹が空くのを感じた。

 

「……あ、ああ…あぁぁあ……っ」

「もう、我慢しなくていい。綴は優秀な呪術師だ。あんな猿共と同じように生きる必要ないんだよ」

 

 美味しそう。なんて美味しそうなんだ。

 食べよう。食べちゃえ。食べなさい。食べようか。食べろ。

 

 がぶり

 

 それを見て、夏油は心底嬉しそうに微笑んだ。

 

「ほら、綴。やっぱり君はこっちにいるべきだ」

 

 その一言で、甘菜は正気に戻り顔を上げた。口の周りには、蜘蛛の体液がこびりついている。

 

「……ち、違う…違うんだ!! なんで、なんでこんなこと! たべっ、食べたくなかったのに!! お、俺は……っ」

「今の綴を、呪術高専が受け入れるとは思えない。

 本気で心配しているんだ。こんなに痩せて……これじゃあ、この呪いを綴に施した意味が無い。私はね、綴に長生きして欲しいんだ」

 

 夏油が甘菜の頭を撫でる。幼子にするように、慰めるために甘菜の背中を優しくたたく。

 

長生きして欲しい?この呪いがあるから生きられないのに?

 

 その言葉は喉から出てこなかった。

 

 

 

────────────

 

 

 

「……虎杖……と、誰だ?」

「それじゃぁ、綴。また今度会いに行くよ」

「………」

「答えてくれないのか? 流石に傷つく」

 

 橋の上で夏油と甘菜は虎杖を見つけた。その隣にいる青年を、甘菜は知らなかったが、夏油は知っている様子だ。

 

「高専には私と会ったことは、内緒だよ。また苦しい思いをするのはわかっているはずだ」

「…………」

「それから、次会った時にまたアレを持っていくよ。今の綴にはアレが1番美味しいし受け付けられないだろうからね」

「…………」

「綴」

「………はい、夏油さん」

 

 少し強く名前を呼ばれ、甘菜は苦虫を噛み潰したような顔で、返事をする。そんな甘菜に満足したのか、夏油はそのまま歩いて甘菜の前から去って行った。

 

 とにかく虎杖と合流しよう。

 甘菜は河川敷に飛び降りると真っ直ぐ虎杖の方へ向かう。

 

「あれ? 甘菜先輩?」

 

 キョトンとこちらを見る虎杖と、怯えたようにこちらを見る青年。

 だがそんなことは知ったことではない。

 

「何をしとんのんだ手前はぁ!!?」

「グハァッ!!?」

 

 甘菜はいつもの調子で虎杖の額を手のひらで叩いた。

 

 

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