【1年前……】
「納得できない」
「なんでだよ」
筒を大事そうに抱える綴の顔には達成感が滲み出ている。それを五条は本当に嫌そうに見ていた。
「俺が頑張ってそこそこ高度なことしたんだから、褒められてもいいと思う」
「もうちょっと違うものだったら褒めてた。なんなら頭撫でて高い高いもしてた」
「俺もう子供じゃねぇんだけど?」
五条は本当にこの筒が嫌いだった。
この筒にはある特殊な封印術が綴の手によって仕込まれた。
発動条件は、綴が死んだ時だ。綴の死は(五条は諦めるつもりは無いが)近々決まったも当然である。
しかし綴が死んだ時のことを考えてみるとなかなか問題が山積みになってくるのだ。
まず、子蜘蛛に殺された場合。その子蜘蛛に食われて力を持っていかれてしまう。こうなると周りに大きな被害を与えることになるだろう。
次に、子蜘蛛以外に殺された場合。殺した相手が子蜘蛛となってしまう。
そして、綴が成体として完成し意識がなくなってしまった場合。これは単純に、次の子蜘蛛が産まれないようにするためである。
そうしなければ、悲劇がいつまでも続く。
今までの三十蠱毒の被呪者はすぐに意識をなくし呪霊へと変容する。しかし少しの間だけは意識が残るのだ。
その間に被呪者は己を陽の光も届かない場所に閉じ込めてもらい、死の時を待つのである。
だが綴はどういうわけかいつまでも意識と人の形を保っている、初めての例だった。五条と絃栄の力がほとんどではあるが、そういった要因のお陰である程度の自由がきいていた。
「だからって、殺した相手ごと綴も封印するってどういうこと?」
「言った通りだけど? 安心しろ、子蜘蛛をできるだけ多く道連れにしてやるから」
「そんなこと言ってなーい!」
「? じゃあ何がそんなに不満なんだ?」
五条はわざと綴に苦虫を噛み潰したような顔を見せる。
「………あれか、降霊術を他の呪術師に教えてもらったから?」
「違う」
「えーと……母さんを降霊したこと? でも母さんも了承したから成功しているわけで……」
「違う」
「……………………えーと?」
五条はため息を吐いた。どれだけ大事にしても、綴はそれに気付かない。というか無意識に気付かないようにしているのだろう。
「綴が死ぬこと前提なのが、気に食わない」
「……え、そんなこと?」
だからこんなことが言えてしまうのだ。
「恵も大概だけど、綴も綴だよ、その自己評価の低さ」
「アイツよりマシだろ」
「僕から見たらいい勝負」
今度は綴がため息を吐いた。
「……死ぬつもりなんざねぇよ。
ただ、俺はあんたじゃない。死ぬ時は、多分あっさり死ぬと思う。だからといって、タダで死ぬなんて我慢できないんだよ」
「死んでも勝つ」その意気込みだけで、綴はここまでやってしまった。
しかし、これでは………。
──万が一綴が死ぬ時は、きっと俺が傍にいられない時だ。
──綴が封印される時は、俺は綴の傍にいられないんだ。
──そうなった時。俺は、綴の死に目には会えない。
──死体すら、俺は見ることができないんだ。
──この馬鹿、それに気付いてんのか?
夏油と手を繋いで笑っていた綴を思い出す。
──傑、もしも綴がそっちに行ったら……蹴り飛ばしてでもこっちに送り返してくんない?
──………無理か。
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報告・10月31日 渋谷
渋谷某所にて、甘菜綴の死亡、及び子蜘蛛95匹の封印を確認。
子蜘蛛は甘菜綴の作った筒の中で未だに祓われずにいるが、放置することで餓死すると結論付けられる。(29の蠱毒は全て餓死によって祓われる)(祓うにはおよそ千年は掛かるとされている)
残った子蜘蛛は東京都立呪術高等専門学校にて、その契約者夏岸祭とともに保護されている。子蜘蛛は夏岸祭の呪力を受けることで人を襲うことはなく、これ以上の力を持つことはできないため、無害化が完了したと思われる。
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渋谷の各地で改造された人間や呪霊から首無しの白い蜘蛛が人々を守っているのを真人は見た。
それが呪霊であることはすぐにわかったが、その正体がわからなかった。
一体何故、あれば渋谷に現れたのか。それがわからない。
だが白い蜘蛛はだんだん弱ってきているのを真人は感じる。目立った外傷はないし、どちらかといえば呪霊達のほうがだいぶ酷いことになっている。
──しかし、蜘蛛かぁ……。
思い出すのは綴のことだ。
真人は綴が苦手である。
1度だけしか戦う機会などなかったが、その1度で一方的に追いかけ回された。しかも本人には何らかの技で無為転変が効かないのだから本当に困ったものだ。柳は2度と受けたくない。
そのせいもあるのか、真人は蜘蛛を見ると綴を思い浮かべてしまうのだ。
──あの時の甘菜綴めっちゃ怖かったなぁ……。
そんなことよりもあの白い蜘蛛はいったい何なのか。
一瞬綴が何か起こしたのかと疑いもしたが、アレに綴の呪力は感じられない。いや、僅かにだが綴の呪力は混じっている。
だがその程度。水の中に異なった飲み物が1滴入っている程度。真人でなければ気付かなかっただろう。
──あの呪霊が人間を守ってるのはそのせいか?
──いや、でも……。
──それじゃあ、結局
問題はそこだ。
この際綴の呪力が僅かに混じっていることは置いておこう。
使役もされていないような呪霊が人間を守るだなんて聞いたことがない。気紛れでもなんでもなく、死にかけた今でも人間を守ろうと必死だ。
「白蜘蛛様!」
あの人間は呪霊が見えているようだ。まるで神様を見るかのような目を白い蜘蛛の呪霊に向けている。見えていないであろう人間も、自分達を守っている存在には気が付いているようで、見えている人間と同じように手を合わせて拝んでいた。
「私達、白蜘蛛様の邪魔になってる!」
誰かがそう叫んだ。
「でも、どこに逃げたらいいんだよ!」
「落ち着いて! こんな所で暴れないで!」
「白蜘蛛様、負けないで!」
本当に神様のように崇められている。実際には真人でもすぐに倒せてしまいそうなくらいの力しか持たない、よくて2級程度の呪霊だ。
「あ」
真人がそう言った時、白い蜘蛛はついに倒れた。
「……さて、虎杖探しに行こっと」
真人はすぐに白い蜘蛛から興味が失せ、目をそらす。
だから気が付かなかった。白い蜘蛛が消えても、人間達の腕から糸がいつまでも消えないことに。白い蜘蛛が祓われた跡から人型の
原作のストック無くなってしまった……ので、もしも見たい番外編とかありましたら教えてください。勝手になんか書いてるかもですが。