呪われた呪術師の走馬灯   作:千α

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少しだけ進みます。
その後は回想だけ。多分こんなのがしばらく続きます。

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59話

 夏油一派の美々子と菜々子は、虎杖に宿儺の指を食わせ、目覚めた宿儺に夏油の身体を乗っ取っている呪詛師を倒してもらおうと画策していた。

 

「あ、この筒……」

 

 そこで見たのは綴の筒だ。

 1年前も背負っていたそれは、その時よりも大きくなっており一瞬では綴の筒だと気が付かなかった。

 この筒がここにあり、肝心の綴がいない状況を見て2人は察する。というよりも、夏油の身体を乗っ取っている呪詛師が言っていた。この筒は綴が死んだ時に発動する封印呪具であるということを。

 

「……つまり、死んじゃった……ってこと?」

「そんな……」

 

 美々子と菜々子にとって綴の存在は大切だった。何故なら夏油が最も愛していた弟子だからだ。その話を聞いた時、初めは嫉妬していたがだんだんとその気も失せた。それだけ大事な弟子なのだとわかってしまった。美々子と菜々子は綴が夏油と同じように大好きだった。

 

「綴お兄ちゃん……」

 

 ポロポロと涙がこぼれ落ちる。

 

 

 

 

────────────

 

 

 

【2018年1月某日・某所】

 

 

「なんか用かよ?」

 

 美々子と菜々子に詰め寄られた綴はため息を吐く。

 見覚えがある2人が綴の任務先に現れたことに驚いたが、それも一瞬だった。すぐに思いつく。きっと夏油のことできたのだろう。きっと何故五条を止めなかったのかを問われるはずだ。

 

「甘菜、綴……さん、だよね?」

 

 だがその声色に嫌悪や怒りを感じなかった。寧ろ、綴の様子をうかがうような、そんな態度である。

 

「……手前らは夏油さんとこにいた奴らだろ?」

 

 そう聞き返すと、2人同時に頷いた。

 

「夏油様はあなたのこといつも話してくれた」

「だから、本当はゆっくり話してみたかったの」

 

 夏油がいつも話していたと聞き、綴は意外だと感じた。あまりそういうことを味方に話すと思っていなかった。

 

「……俺と何話すんだよ?」

 

 本当なら綴は美々子と菜々子を捕まえなければいけない立場にある。だが夏油に付き従っていた人物だと言うだけで、捕まえたくはなかった。攻撃してこなければ、この1度だけなら見逃しても良いとさえ思っていた。

 

「……え、と」

 

 だいぶ緊張しているようだ。百鬼夜行やその数日前に会った時とは雰囲気が全く違う。それを感じた綴は首を傾げる。

 

「……綴、お兄ちゃんって呼んでいい?」

 

 その瞬間、綴は非常に嫌そうな顔をした。綴は全く知らない人間から「お兄ちゃん」だのと言われることが我慢ならなかったため、びくつく美々子と菜々子のことなどお構い無しに睨みつけた。

 

「だ、だめ?」

「ダメも何も俺は手前らのこと全く知らん。名前も知らん相手に、何で兄と呼ばれねぇとなんねぇんだ」

 

 綴の主張もわかるが、美々子と菜々子はそんな綴の素っ気ない態度に少なからずショックを受けている様子だった。

 

「お願い、綴お兄ちゃんって呼ばせて!」

「夏油様にお兄ちゃんの話を聞いてから、ずっとそう呼びたかったの!」

「だっから「お兄ちゃん」って呼ぶな! 夏油さんからどんな話聞いてんだ!?」

 

 ウルウルと目を涙で潤ませながら美々子と菜々子は綴にせがむ。綴は何となく、夏油が美々子と菜々子に甘かったんだな、ということを察した。

 

「私、美々子! こっちは双子の菜々子!」

「やめろ、聞いてもねぇのに名乗るな、阿呆!」

 

 

「ほら、綴お兄ちゃんピース!」

「……ぴいす?」

 

 場所は東京某所のクレープ屋。そこで美々子と菜々子が綴を挟んで写真を撮る。

 あれから押し切られて、こうやって東京散策をすることになってしまった。振り切っても良かったのだが、そうなると付きまとわれそうだったので綴は2人が満足するまで付き合うことにした。

 

「お兄ちゃん、これ美味しいけど、食べれるかな?」

 

 私のクレープを食べてくれ、とグイグイクレープを押し付けてくる美々子。控えめに服を引っ張って逃げ出さないようにする菜々子。どこか遠い目をして虚空を見つめる綴。はたから見れば妹のわがままに付き合う兄、という構図の仲の良い兄妹に見えないことも無い。

 

「あとどこ行くんだよ」

「その前に休憩しよ」

 

 今まで散々連れ回しておいて、急にそんなことを言われたのだから、綴は不思議そうに首を傾げた。

 

「お兄ちゃん、非術師()が嫌いなんでしょ?」

「よく非術師()が大勢いる所で酔ってたって夏油様が言ってた」

 

 なら連れ回す、という考えを捨ててくれないだろうか。

 人を気遣っているように見えて、結局は自分達のことしか考えていない双子に綴は再度ため息を吐く。

 連れてこられたのは、人があまりいない公園。何個も遊具があるにも関わらず、そのほとんどにテープが引かれ、立ち入り禁止と書かれている。

 

「今日は一緒に遊んでくれてありがとう」

 

 ベンチに座ると、菜々子が綴に礼を言う。

 しかし綴はこの2人が何かを企んでいるようにしか見えなかった。企み、というほど仰々しいものではないにしても、何かあるのだろう。

 

「で、結局何が目的だ?」

 

 回りくどく聞いたり、探るのも面倒臭い。綴は直球で2人にそう聞いた。

 美々子と菜々子は顔みを合わせてからポツリポツリと話し始める。

 

「……一緒に、来て欲しいの」

「…………」

 

 そう夏油の仲間に誘われるのは可能性として無いわけではなかった話だ。むしろよくここまでそんな話を持ち掛けてくる奴がいなかったなと少し疑問に思うくらいだ。

 

「夏油様は綴お兄ちゃんの勧誘はしないようにって言われてて」

「私達がすると綴お兄ちゃんは拒否するだろうから、夏油様がするって……」

 

 夏油が高専を去ってから約10年。なのに、綴のことをよくわかっている。それが何となくムカついた。

 綴は夏油以外の人間から勧誘されたら、絶対に拒否する。そして直接誘いに来なかった夏油に腹を立てて夏油からの誘いも断るようになるだろう。

 もしも、高専に入学する前に夏油に誘われていたら……五条がいなければ、きっと2つ返事で夏油の元へ行っただろう。だが、そうするには高専に大切な物が増えすぎた。

 

「……散々人のことほったらかしといてよく言う」

「そんな事ない! 夏油様はずっとお兄ちゃんのこと……」

「聞きたくない」

 

 今更過ぎる。

 

「それでも、夏油さんが俺のことをあそこに残したのは事実だ」

 

 だんだん眉間のシワが酷くなっていることが自分でもよくわかる。

 

「お兄ちゃん、怒ってる?」

 

 そう指摘されて、自分が怒っていること(・・・・・・・)に気が付いた。

 

──何に対して?

──不躾に夏油さんの話をする双子に?

──ずっと迎えに来なくて、勝手にいなくなって、勝手に死んでいた夏油さんに?

 

 おそらくその全部だ。

 

「……とにかく全部聞かなかった、見なかったことにしておく」

「………」

「これ以上手前らと話すことは無い。

 そもそも俺は任務が終わって報告も済んでる。これ以上油売ってたら他の呪術師も集まってくる」

 

 綴は立ち上がって公園を出る。

 

「見逃すのは今回だけだ」

 

 公園から出ていく綴の背中を見て、美々子と菜々子は何かを言わなくてはいけないような気がした。しかし咄嗟に出てくる言葉はなく……だがそんな中でつい、こう言っていた。

 

「夏油様は、綴お兄ちゃんのこと、本当に大好きだったよ!!」

 

 綴は片手を上げその言葉に応える。

 

「知ってる!」

──俺だって、傑兄ちゃんが大好きだった。

 

 こんな呪術界(地獄)で手を差し伸べてくれた最初の人だった。

 

──ああ、そうか。

──俺、自分に怒ってるんだ。

 

 夏油を止められなかったこと、五条に夏油を殺させてしまったこと、夏油に対する憎悪も殺意も怒りも、全てまとめて綴は大好きだということ。

 そんな、煮え切らない自分に怒りを感じる。

 

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