wakkaronさんが綴を表紙風に描いてくれました!ありがとうございます!!
イラストはあらすじに貼っているので、興味がある方はどうぞ。めっちゃカッコイイイラストです!
伏黒は、かつて綴に体術を教えてもらう際にいろんなアドバイスをもらっていた。
綴は虎杖のような力があるわけではない。呪力による補強で虎杖以上の腕力を出すことはあっても、無ければ虎杖に負ける。
甘菜呪流体術はそれを使うために必要な筋肉以外は付けない。むしろ必要なのは身体の柔らかさである。
それを、目の前の敵。と言って良いのかも分からない、特級呪霊との戦いに乱入、後にその特級呪霊を祓い……今は自分を襲ってくる男の攻撃から逃げる伏黒は思い出していた。
────────────
「身体が柔らかいと怪我をしにくい」
どんな体勢でもバランスを取る。綴は最初、伏黒にそれを教えていた。それが甘菜呪流体術の基礎だからということもあるのだが。
その次に教えられたのは防御について、だった。
「そうだな……自分よりも圧倒的に強い相手と対峙した時、まともに攻撃を受け止めようなんて考えるなよ」
「避けるってことですか?」
「それができたらな。
でも
綴はそう言うと構える。
「思いっきりこい」
それは相手の攻撃を受けるための構えであることを伏黒は知っていたし、自分も多用している。右手は顔の前に、左手は胴の横。決して拳は握りこまないように。
そんな綴に攻撃をする伏黒だが、気が付くと手首を掴まれて床に転ばされる。あまりにも早く、そして静かに。
「これをするのに力はほとんど使っていない、梃子の原理に少し似ているな。少ない力で大きな力を動かす。身体で相手の攻撃をもろに受けず、力の流れを外へ……自分は暖簾か何かだと思うこと。
そのためにも身体の柔軟性は必要不可欠な要素になってくる。今のは手首の柔らかさを利用した」
口で言うのは簡単だが実際にやるにはだいぶ修練が必要だ。綴もそうで、呪流体術を本格的に指導された時は一生出来ないのでは?と感じるほどに習得するのは難しかった。
「できるようになれとは言わん。ただ、こういうことができる、ということは覚えておいて損は無い。どこかに活かせるだろうから」
活かせる場面が本当にあるのだろうか。疑問はあるが綴が言うのだから、きっと役に立つだろうと伏黒は思った。
「まあ、使い所は今は分からんでもいい。お前は名前の通り賢い奴だし、いつか役に立つだろ」
「え?」
「なんか質問か?」
「いや……その、名前のこと……」
伏黒は自分の名前に対する指摘の意味がよく分からず聞き返してしまった。
「……恵には賢い、聡いという意味がある」
そう言うと、綴は適当に木の枝を拾い上げ、地面に『恵』の文字を書く。
「元々は「
スラスラと随分と達筆な字で『惠』という字を書く。
「上のこの部分、「
仏教では、「恵」は真理を見通す心の働きで……物事をよく見極め、道理を正しく把握する精神作用。三学の1つ、すなわち智慧」
分かりやすく図解しながら綴は伏黒に説明する。どうやら伏黒の親は簡単にとんでもない名前を寄越したらしい。
「……でも、多分意味なんて考えてないと思いますよ」
きっと思いつきだ、どんなにその文字自体に良い意味であろうと。
「意味なんて、自分で決めたらどうだ?」
「自分で、決める?」
「名前に意味が欲しいならの話だが」
そう言いながら綴は木の枝を肩に置く。
「元から意味があるなら、それを曲げるのはだいぶ骨が折れることだが……無いなら簡単だ」
「そんなもん……なんですか?」
「俺はそう思う」
まっすぐ伏黒を見る目は一点の曇りもない。それだけで伏黒の胸の内はスっと心地よい風が通った気分になった。
「先輩は?」
「は?」
よくわからないこの気持ちを誤魔化すべく、伏黒は綴に質問をする。
「先輩の名前の意味は、あるんですか?」
何気ない質問のつもりだった。
「
「え?」
何気ない質問のはずだった。
「正確には、綴ったもの。つづり合わせたもの。つぎ合わせて作った、粗末な着物。また法衣、という意味がある」
綴は今度は地面に『綴』の文字を書く。
「俺の名前はこのうちの粗末な着物……
綴の母親は、甘菜家の人間だったが縁を切ろうとしていたらしい。そして、もしものことがあれば綴を甘菜家に差し出すつもりだった、と。その時のために名前の1字に「糸」の字を入れ、名前にはそういう意味を持たせた、と。
「小学校の課題で「名前の意味について調べる」てのがあって、その時に甘菜家宛に母さんが書いた手紙を見せられた。そこに名前について書いてあった」
その瞳には何の感情もない。本当に物か何かになってしまったかのようで、思わずゾッとする。
「それ、本物なんですか?」
甘菜家の綴への執着はよく知っているつもりだ。そんな奴らなら手紙の偽造などお手の物だろう。もしかしたら、そういう可能性もあるかもしれない。
「………知らない」
そう言うと、綴は木の枝を放り投げた。
「気にしていた所で名前を変えれるわけじゃねぇ。名前変えたとしても、根源の意味は変えられない」
だからもう諦めた。
綴は吐き捨てるかのように呟くと、その場を去って行った。
諦めたと言っていた。しかしそうには見えない。本当に諦めたというのなら、あの人ならもっと感情を表すのではないのだろうか?
そもそも、あの人が物のように扱われることを受け入れるだなんてありえないことだ。
────────────
そんな、戦いに関係の無いことまで思い出したのは、この伏黒を襲ってきて自ら自害した男が伏黒の名前を尋ねてきたからだ。
綴のアドバイスのおかげで攻撃をいなすことはできなかったが、攻撃の打点を自らの影に男の片足を沈めたことで
その事をあの人に伝えたらどういう反応をするだろうか。きっと「そういうことじゃねぇ」と額を叩くに違いない。
そういえば、この渋谷に来ていると言われていた綴はいったい何処にいるのだろう?
早めに虎杖と共に合流したいところだが、場所がわからなければそれも叶わない。
だがその前に、七海と真希、禪院直毘人の無事を確認しなければ………と考えたところで背中を鋭い痛みが走る。
──そういえば、甘菜先輩が、任務中は頭と背中は常に意識して死守しろって言ってたっけ……?
今思い出したところで後の祭りである。