呪われた呪術師の走馬灯   作:千α

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【死因】最新話
そしてじゅじゅさんぽで復活しました。


61話

 甘菜綴は優しい子だ。それが七海健人が綴に抱いている印象である。

 本当にあの(・・)2人の先輩に人格形成をされたのか目を疑うほどに、優しくて良い子だった。

 同時に、そんなところが心配だった。ハッキリと言ってしまうと、綴は呪術師に向いていない。綴が幼い頃から交流のある人間からすれば、それは明白だ。

 

 優しすぎる。

 どれだけ厳しい態度をとったとしても、人を寄せつけようとしなくても、優しすぎたせいで結局は人に手を差し伸べてしまうような子だ。 呪霊に感情移入してしまうこともあった。

 そのせいでまだ殆ど呪霊を祓う実力がない幼少期、蠅頭を祓おうとして逆に取り憑かれる、なんてことは日常茶飯事だったように思う。

 

 だからだろうか。あの人、夏油がどんどん力をつけていく綴を見て悲しそうにしていたのは。

 蠅頭に襲われて大号泣する綴を抱きしめて、夏油はいつもそんな顔をしていたように思う。

 

──そうだ、あの頃綴君は泣き虫だった。

 

 

 メカ丸から事の顛末を聞いた時、綴のことを真っ先に思い出した。

 綴が呪術師達を裏切るということはしない、と信じていたい。

 だが、もしもそんなことがあれば……と自然と手に力が入る。

 

 思い出すのは今とは違う、天真爛漫な笑顔を向ける綴。

 綴と出会ったのは、七海が高専に入学してすぐ。まだ桜の咲く頃だった。

 

 

 

 

......................................................

 

 

 

 

「けん、けん、ぱ!」

「おぉ、上手い上手い!」

「次、雄兄ちゃんね!」

 

 七海は任務を終えて高専に帰ってきたところだった。

 目の前の光景が信じられず、目を擦る。

 しかし、それでも幼児と遊ぶ同級生と転がるライン引き、幾つも並んでいる白線は消えない。

 

「………なにやってるんだ?」

 

 ぼそりと呟くと勢いよく同級生の灰原が振り向き、幼児は灰原の後ろへ隠れる。

 

「や、七海! 任務帰り?」

「そうですけど……この子は?」

 

 灰原の後ろを指差す。

 

「ああ、この子は甘菜綴君だよ。夏油さんと五条さんが帰ってくるまで面倒見ることになってさ」

 

 信じられない名前を聞いたような気がする。

 先輩の問題児と言われている2人組……夏油はまだわかるが、五条もこの幼児、綴と知り合いなのか。

 

「綴君、このお兄ちゃんは七海健人くんだよ」

「……じゅじゅちゅし(呪術師)、ですか?」

 

 呪術師が言えていない。

 そんな舌足らずな綴は灰原のズボンを握り、七海の様子を伺うようにして見ている。

 

「そう、呪術師」

「……綴です、よろしくおねがいします」

 

 そう言いながら深々と七海に頭を下げる。それに七海が応えると、綴は嬉しそうに笑った。

 

「雄兄ちゃん、健人兄ちゃん! あのね、次ね、んーとね……かくれんぼ!」

「いいよ!」

 

 その綴の一言に七海は思わず「は?」と言ってしまう。

 ギュッと七海と灰原の手を握りしめ、グイグイと引っ張って行くではないか。

 待って欲しい、本当に。こっちは任務明けなんだ、遊ぶ余裕なんてないんだ。と言う暇も与えてくれない綴に若干怒りが湧く。そんな綴を見て、やはりあの2人の関係者だと確信する。

 

「健人兄ちゃんオニね」

 

 急に決められ目が点になっていると、綴と灰原は楽しげな声を上げながら校舎の中へ入っていった。

 無視して寮へ帰ってやろうかと思ったが、そんなことをして綴が夏油と五条にこのことを話したら、ほぼ間違いなく七海は絡まれる。特に五条に。

 深い深いため息を吐いてから、七海は校舎へ足を運ぶ。

 

 

「……何やってるんですか?」

「あ、七海」

 

 1番初めに見つけたのは灰原だった。

 灰原は1階校舎の窓から外へ出ようとしているところであった。

 

「いや、七海の呪力を感じたから場所を変えようかなー?と」

「馬鹿なことしないでください」

 

 早く寮に帰って休みたいんだ、と訴えるも灰原は笑うだけだ。

 教室を灰原と一緒に虱潰しに探すが綴の姿は見えない。呪力探ろうとしても上手く隠れているようだ。

 

「お、七海じゃん」

 

 2年生の教室を開けると、そこにはいつの間にか帰ってきた五条と夏油がいた。

 夏油は椅子に座り、五条は教卓の前に立っており、さっきまで五条が何かを熱弁していたようである。

 

「灰原、綴の面倒見てくれてありがとう」

「いえ、俺も楽しかったですから!」

 

 夏油に礼を言われると、灰原は嬉しそうに笑う。

 

「で、その綴は?」

「今かくれんぼしてて……七海が鬼なんですけどね」

「七海が!? 似合わねー!」

 

 五条はそう言うとゲラゲラと笑う。

 うるさい、じゃああれをどうにかしてくれ。という無言の訴えも虚しく、2人は口々に「がんばれー」と気の抜けた声援をそれぞれ送ってくる。

 

「先輩達は綴君が隠れそうな場所知りませんか?」

「さぁ?」

「1回かくれんぼした時は職員室で夜蛾先生の膝の上にいたな」

「アイツ心臓に毛でも生えてるんですか?」

 

 というかそれは隠れているんだろうか。この流れで行くと七海も職員室へ行かねばならないようだ。

 七海を踵を返し教室を出ようとすると、子供の可愛らしい(七海からすれば忌々しい)クスクスという笑い声が聞こえる。

 出処は……教卓付近である。

 

「………五条さん、そこどいてもらえます?」

「え? なんで?」

 

 七海が教卓を掴んでどけようとすると、五条がそれを阻止しようとする。

 それならば、と教卓の後ろへ回り込もうとすると五条は七海の行く手を阻む。

 

「いるのはわかっているんで大人しく引き渡してください!」

「えー? なんのこと?」

 

 わざとらしくすっとぼけるが、五条はこの状況を酷く楽しんでいるようだ。その後ろでは夏油が笑いをこらえるので必死になっていた。

 七海が渾身の力を入れて教卓をひっくり返すと、驚いて目を真ん丸にさせた綴が口を抑えて七海を見つめていた。

 

「見つけ……」

「今だ綴、逃げろ!」

 

 やっと見つけたと綴を捕まえようとすると、五条が立ちはだかる。

 その隙を見て綴は楽しげな悲鳴をあげて逃げていった。

 

「な、何してくれてるんですか……?」

「七海、顔怖いって」

 

 七海は倒れた教卓を殴りつけて教室を出る。いろんな所をまた虱潰しに探すが一向に姿が見えない。

 どうしたものかと考えていると、綴の泣き声が聞こえてきたではないか。

 急いでそこへ向かうと、綴が何故か木の上に登っていた。

 

「………何やってるんですか?」

「おりれなくなっちゃったぁ」

 

 なんで下りれないような所に登ったんだ、とつい言ってしまいそうになるが飲み込む。

 

「傑兄ちゃぁん、悟兄ちゃぁん……っ」

 

 綴はべそべそと泣きながら弱々しい声で夏油と五条を呼ぶ。

 だがここは校舎から離れた場所にある木で、その助けを呼ぶ声は届かないだろう。灰原も置いてきてしまったようで、気が付いた時にはいなかった。

 つまり、今この場で綴を助けられるのは七海だけということになる。

 校舎へ助けを呼びに行ってもいいが、その間に綴が木から落ちたら大変だ。

 

「ほら」

 

 七海は両手を広げる。

 このくらいの子供なら受け止められると思ったからだ。

 

「……うん」

 

 綴はしばらく考えてから、気を持っていた手を離す。

 支えを失った身体は傾き……そのまま七海の腕にスッポリと収まった。

 

「う゛ぇぇえ゛っ、健人兄ちゃーん!!」

「ちょっ! 鼻水ついた!」

 

 綴は七海に抱きつくとそのままぐりぐりと顔を制服に押し付けてきた。

 明日が任務でなくてよかった、と心の底からそう思った。

 七海は綴の手を引かれながら夏油と五条の元まで連れていく。

 

「え? 木に登って下りられなくなった?」

「うわ、どんくさ! 大丈夫かよ?」

「兄ちゃぁんっ」

 

 先程の教室へ行くと、五条と夏油が待っていた。

 2人を見た瞬間綴は七海と繋いでいた手を放し、夏油に抱きついた。

 綴が木から下りられなくなったことを聞くと、2人は綴を慰める。

 

「七海、綴に付き合ってくれてありがとう」

「………いえ、別に大したことじゃ……」

「それでもだよ。

 これからも月一ペースで来るから、その時は仲良くしてあげて欲しい」

 

 七海は頷きながら綴を見る。

 今度は夏油ではなく五条に抱き上げられ、背中をさすられていた。鳴き方もだんだん嗚咽が漏れる程度になってきた。

 

「傑ー、綴寝ちゃった」

「え、この中途半端な時間に? どうするんだよ、夜寝なかったら」

「どうせ明日は俺らオフだしいいでしょ」

「良くない。綴の生活リズムが狂ったらどうする」

 

 五条と夏油は七海を「それじゃ、寮に戻るから」と声を掛けると教室を出て行った。

 ポカンとそれを見送ってから七海は寮へ戻ることにした。

 

「あ、七海いた! どこ行ってたんだよ! って、綴君は?」

「おそらく夏油さんの部屋です」

 

 こうして七海と綴の交流は始まったのであった。




前書きの死因ですが、本当にやばかった。
綴を殺すタイミングを見誤った可能性がある。
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