呪われた呪術師の走馬灯   作:千α

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64話

 それから綴のことを知り、虎杖は彼を尊敬するようになった。

 綴との初めての任務、弱味を見せた虎杖に掛けてくれた言葉が本当に嬉しかった。

 

 

 

「先輩! はよっス!」

「……おう」

 

 無愛想な返事だが、出会った当初はそれすら無かったことだ。

 

「綴先輩、今日任務?」

「川崎で任務だ……って、なんでそんなこと?」

「いやだって先輩、忘れ物よくするじゃん? スマホとか財布とか。見かけたら忘れ物の確認しろってさ」

「五条だな、そんなこと言ったのは………普段使わないんだ。持っていても仕方がないって伝えとけ」

 

 とか言いながら綴は筒の中を探り、財布を取り出す。

 どうやらスマホは筒の中には入っていないようだ。今度はポケットの中を探している。

 綴と付き合い初めて、もう両手では数え切れないほど日にちが立った。

 そんな中でわかったのは、綴は意外と抜けている、ということだ。

 昔から付き合いのある五条や伏黒からは、綴は呪術意外はポンコツと評されている。整理整頓も出来ないし、包丁なんて持たせた日には大変なことになるとか。

 

「先輩、ズボンの後ろのポケットは?」

 

 それらしき膨らみを見つけた虎杖は綴に指摘する。

 綴は虎杖の言葉に素直に従い、後ろのポケットに手を伸ばす。

 どうやらこちらにあったようだ。綴はスマホ、ではなく携帯電話をポケットから取り出す。

 と、同時に別の物がポケットから落ちた。

 

「同じとこ入れてたら結構膨らみなるから気付くと思うんだけどな……」

「うるせぇなぁ……」

 

 綴は携帯電話を確認している。

 渋い顔をした、ということは誰かからメールか何かが来ていて、返信に困っているのだろう。

 その間に虎杖は廊下に落ちたそれを拾おうとして、手を止める。

 どうやら学生証が入った2つ折りのケースのようだ。

 それが落ちた時に開いている。学生証の他に、なにか入っている。

 

「これ……」

 

 写真だった。

 日付は2年前の8月。つまり、綴が1年生の頃だ。

 高専の何処かの教室でそっぽを向く1年生の綴と、その隣でカメラに向かって満面の笑みを浮かべる少女、それからその少女に抱かれる白いポメラニアンが写っている。

 

「おい悠仁、このCcはどういう意味?……て、人の学生証見てどうした?」

「あ、いや……先輩の1年生の時だーって思って」

 

 虎杖に手を伸ばす綴に学生証ケースを渡す。

 それを受け取ると中にある写真をしばらく見つめてから、綴はポケットではなく筒の中に入れた。

 

「隣の人、3年生?」

「………1個上の先輩」

「じゃあ、今4年生か!」

 

 綴はメール返信を諦めたようで、筒の中に乱雑に携帯電話を突っ込むと筒を背負い直す。

 

「行ってくるわ」

「うん、気を付けてー」

 

 そうして綴は直ぐに歩いて高専を出た。

 虎杖はそれを見送って、写真を見つめていた綴の表情を思い出す。

 とても寂しそうなのに、凄く嬉しそうな……それだけであの少女が綴にとって大切な存在であることがわかる。

 

「……え、まさか、そういうこと(・・・・・・)?」

 

 

 

 

......................................................

 

 

 

【2年前・呪術高専】

 

 

「綴がまーた学生証を無くしましたー、心当たりある人挙手してー……って誰もいないじゃん」

 

 教室の席に座る当時の1年生達は知らないと首を横に振る。

 

「もー、これで何度目?」

「普段使わないんだ。持っていても仕方がない」

 

 五条と綴は任務へ向かう1年生達を見送りながら会話を続ける。

 

「そう言って、この前任務帰りに補導されたでしょ? 学生証あったら、少しは融通効くんだから……」

「アンタと伊地知さんの番号覚えてんだからいいだろ?」

「うん、それ携帯電話忘れて公衆電話使いまくってたからだから、褒められたもんじゃないよ?」

 

 五条はそういうところ雑な弟分にため息を吐く。

 

「綴、これなーんだ」

「……それ、は……!?」

 

 五条が持っていたのは綴と尾上がツーショット(青木もいるがそれはそれで嬉しい)で写る写真だ。

 尾上はピースして満面の笑み、ベストショットだ。対する綴は照れすぎてそっぽを向いてしまっている。

 いや、自分のことなんてどうだっていい、問題は尾上だ。

 これは確か、8月頃に任務の為に集合していたところをカメラを持っていた五条に激写された物だ。

 それが何故今ここに?

 

 いや、そんなことより尾上先輩が可愛い。

 なんで軽率に男の自分と腕を組むかな?

 勘違いしても知らんぞ?

 いや、この時はそう思ってたけど実際は尾上先輩に意中の相手がいて俺なんか眼中になかったんだが。

 くたばれ猪野。

 え、てか可愛い。

 めっちゃ可愛い。なにこれ?

 つーかこの写真撮ったの交流戦の前じゃん?

 なんで今頃持ってきたのコイツ、ふざけんなよ、あるなら寄越せよ。

 なんで渋ってんだよふざけんなよ。

 ……ふざけんなよ。

 

 この間約1秒。

 綴はいかんいかんと首を振り、直ぐに冷静を取り戻す。

 

「で、それがなんだよ?」

「おっと、正気に戻っちゃったか〜。

 綴の真っ赤な顔、面白かったのに〜」

 

 そう言いながら五条は写真をまるでうちわのようにして自分を扇ぐ。

 綴はハラハラしながらその写真を目で追う。

 

「小町にもあげてるから、綴もいるかな〜って、どうする?」

「まぁ、わざわざ持ってきたんだから……」

 

 素直になれない綴はちょうだい等言えず、控えめに五条に手を差し出し、写真を受け取ろうとする。

 のだが、五条はその写真を渡さず、学生証の入った2つ折りのケースを取り出した。

 

「これを、こうします」

 

 五条は写真をケースの中に入れる。

 綴が首を傾げていると、ニヤリと笑ってケースを席の方へ向かって投げた。

 

「うぉああああぁぁああ!!?」

 

 ケースは綴の頭上を超えて放物線を描き重力に逆らわずに落ちる。

 それを見た綴はバランスを崩しながら、座っていた椅子から転げ落ちる。

 だが、そのかいがあって綴はケースを床に落とさずに済んだ。

 

「……………」

 

 ほ、と息を吐くが次の瞬間、綴は五条を睨みつける。

 

「何しやがる!?」

「アッハハハ! 綴、焦りすぎ!」

 

 綴は頭に血が上るのを感じ取る。

 拳が五条へ向かいそうになるのを必死で堪えていると、五条がいつの間にか目の前に立っていた。

 

「これでもう、学生証は無くさないよね?」

 

 そう言うと、五条は綴の頭をポンポンと撫でる。

 

「ああ……うん、まぁ……」

 

 綴はケースを見ながら嬉しそうに笑った。

 

 

 

 

......................................................

 

 

 

 

【現在・渋谷】

 

 

 虎杖は走って、走って、走ってB5階を目指す。

 目指していたのに、目の前でまた失ってしまった。

 真人、という呪霊の手によって、七海が虎杖の目の前で死んだ。

 

「あ、そうそうここに来る前に拾ったんだけど……」

 

 真人はおもむろに、改造人間に持たせていたそれを虎杖に見せつける。

 

()()、なーんだ」

「……っ!?」

 

 綴と紬が眠り、そしてその2人が必死の思いで封印した子蜘蛛が入った筒だ。

 

「あんな所にポツンとあるもんだから拾ってきちゃった。

 俺さ、甘菜綴が苦手なんだよ。山の中で鬼みたいに追いかけ回されてさ。

 でも、その甘菜綴はもういない。俺も慎重に動かないでよくなった」

 

 真人はニヤリと笑い、綴の筒を改造人間から受け取る。

 

「この中に、甘菜綴がいるんだろ?」

「先輩達に何するつもりだ……!?」

 

 ケタケタと真人は声を上げて笑う。

 

「これの蓋を開ける(・・・・・)

 

 虎杖の顔から、表情が抜け落ちる。

 蓋を開ける、ということは子蜘蛛の封印が解けてしまう。綴と紬の苦労を台無しにされるこということと同義だ。

 そんなこと許せるはずがない。

 

「ま、あの甘菜綴が開けるのに苦労しない蓋を設計するはずがないから、開けるには時間が掛かるだろうから………」

 

 真人が言葉を続けているが、虎杖は容赦なく渾身の力で真人を殴る。

 

「させねぇよ……」

「いや、俄然やる気が出てきた」

 

 そう言って真人は殴られた頬から出た血を拭う。

 

「あ、そうそう……こんな物も見つけたんだよね」

 

 真人が虎杖に見せたそれは、綴の学生証ケースだった。

 あれだけ綴はボロボロになっていたというのに、そのケースには血どころか塵すらついていなかった。

 

 あの綴が大切そうに持っていた物。

 きっとあの中にある写真を常に気にしていたのだろう。

 

「……返せよ。それはお前が持っていていい物じゃない!!」

「嫌だね。どうせ直ぐにゴミになるんだから有効活用しないとさ」




次……誰メインにしようかな……?
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