呪われた呪術師の走馬灯   作:千α

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65話

 甘菜綴はどこまでも人間(・・)だった。

 人間から産まれた呪霊、真人は綴のことをそう語る。

 大切なものを捨てることのできない、どこにでもいる人間だ。

 

 ただ、1つ人と違うことをあげるとすれば、きっと彼の感情が人間にしては凪いでいたことだろう。

 別に感情が無い訳では無い。怒る時は怒っている。京都で会った時、その一端を見ることは出来た。

 

 だがまあ……彼と会敵した花御も同意したことであるが、彼ら呪霊からすれば、甘菜綴は気持ち悪い存在だった。

 

 呪霊であるのに呪霊ではない。

 人間であるのに人間ではない。

 そして、呪霊の源である負の感情をあまり向けてこない。

 

 初めはそういう風に訓練でもされているのだろう、と思っていたがどうやらそうでは無いらしい。

 まるで他の感情で本来の感情を隠しているような、そんな感じだ。

 意図的、というわけではなく無意識に。

 それが更に彼の気持ち悪さを助長している。

 

 それでも綴は人間だった。

 同情するくらいに人間で、あまりにも脆い存在だった。

 真人は綴のことを頭のどこか自分自身と同じ呪霊だと勘違いしていたようで、綴が死んだとわかった瞬間、やっと綴を人間だと認識することができた。

 

 

 

 

 ずっしりと重い筒を背負いながら真人は虎杖と戦う。

 虎杖は綴の筒を奪い返そうと手を伸ばすがそれを避ける真人のせいで中々掴むことがかなわない。

 学生証ケースは雑に後方へ投げられ、いつ戦火に晒されるかわからない。

 だがこちらも奪い返そうとしても改造人間によって阻まれる。

 

「くそっ」

 

 真人を虎杖は殴ろうとするが、真人は筒を盾にする。

 反射的に腕を引っ込めてしまった虎杖は、横からの改造人間からの攻撃を受けてしまう。

 

「重いだけかと思ったけど、割と使い道あるじゃん」

「……っ」

「そんなに甘菜綴のこと尊敬してんの?」

 

 そりゃそうだ。

 同年代の人間で、呪術師になって初めて弱味を見せれたのは綴だけだった。

 

 

 "共振"の話を宿儺から聞いた時、真っ先に頭に浮かんだのは大好きな、尊敬する綴だった。

 足は自然と綴の方へ向かっていた。

 どうすればいいか、綴に相談しようとした。

 だが、その考えは霧散してしまった。

 

 綴が、3年生の教室の自身の席に座って、ぼうっとしていたからだ。

 それだけならまだ話しかけていたが……しかし、その綴の瞳がそれを拒んでいるような気がして、虎杖は綴を呼ぼうとして伸ばした手を引っ込めた。

 決して遠くない距離にいるのに、虎杖には全く気が付いていない。

 綴らしくない。

 そんな綴に虎杖は何も言えなくなった。

 

 綴にも弱いところがあるのだと、理解した。

 どれだけ頼りになる存在でも、綴はまだ18歳の子供なのだ。

 

 その時だけ、虎杖は綴に弱味を見せなかった。

 順平の時、呪術師としての自分を相談した時、修行の時。

 それぞれ綴に何度も見せていたのに、あの時はそんな綴の子供の部分を見てしまった。

 

 あの時、相談していたら自分は多くの人を殺さずに済んだのではないだろうか?

 

 

 

......................................................

 

 

 

「綴先輩、今日任務なの!?」

「あれ、綴言ってなかった?」

 

 虎杖はガックリと項垂れる。

 

「今日はマツリが修行休みとか言ってたから、見てもらえると思ってたのに」

「どうしても付きっきりになっちゃうからね。

 僕から綴に頼んでみようか?」

 

 五条は項垂れる虎杖を覗き込んでそう言うが、虎杖は首を横に振る。

京都での任務以降、綴はまた色んな任務を受けるようになってしまっていた。

 

「いいよ。先輩に悪いしさ」

「そ? まぁ悠仁が頼めば時間作ると思うよ?

 綴は憂太と恵にもそうだけど、悠仁にもだいぶ甘いから」

 

 虎杖はそうか?と記憶を掘り起こす。

 だが思い出すのは理不尽な綴の要求。

 

「先生、それはないと思う」

「そう? でも3人くらいだよ、真剣にどこ伸ばすか考えてたのは」

「マジ?」

 

 五条は頷く。

 

「恵を鍛えてた時と悠仁を鍛えてる時、構えが違うのはしってる?」

「え? あー、そういえば……でも呪流体術って結構構えに種類あるんじゃ?」

「それは型を使う場合ね。

 綴はパワーでどうにかするタイプじゃなくて、技術でどうにかする。

 多分、恵にもそっち方面で教えてると思う」

 

 そういえば、伏黒と綴が修行をしている際にいつの間にか、本当に必要最低限の動きで伏黒を転がしている綴を何度も見ていた。つまりそういうことか?

 

「悠仁は……多分教えてもいいんだけど、それじゃ悠仁の良さを活かせないって気が付いて、すぐに呪流体術以外にシフトチェンジ」

「じゃあ、俺が今教えて貰ってるのは?」

「……綴の師匠直伝の体術だよ」

 

 一瞬五条の口元が強ばったかと思ったが、すぐにいつもの笑みに変わり綴の体術について説明する。

 

「綴は2種類の体術を使っていてね。

 状況によって使い分けてるんだ」

「綴先輩に体術教えたのって、五条先生じゃないんだ?」

「うん。綴の相手することはあるけど、生徒として教えたことはほとんど無いかな」

 

 そう言った時、また五条の元に来訪者が現れる。

 

「五条先生、甘菜先輩はどこに……て、虎杖」

 

 伏黒だ。

 考えていたことは虎杖と同じようである。

 

「よ、伏黒!」

「なんでここに?」

「先輩は任務だってさ」

「……マツリの修行が無くなったのはそういうことか」

 

 伏黒は深くため息を吐いた。

 しかし任務となれば仕方が無い。

 呪術師はいつでも人手不足、しかも綴は1級呪術師だ。暇な時なんて本当にたまにしかないのだろう。

 そのたまにしかない時間、綴は全てマツリに使っている。

 どうにかして見てもらいたいのに、見て貰えないという、虎杖と伏黒にとっては頭を抱えたいくらいの悩みどころだ。

 

「……うーん、そうだなぁ……確かに最近の綴はまた根を詰め過ぎてる感はあるし……」

 

 五条はニッと2人に笑いかける。

 

「綴の任務はぜーんぶ僕がどうにかしてあげるよ」

「できるんですか?」

「普通は無理だけどね。前もやらかしたし。

 後進を育てるため、となればきっと融通してくれるでしょ」

 

 サラッと言ってみせるが、この後五条は上層部及び補助監督や他呪術師に悲鳴をあげさせ、綴に「またやりやがったな!?」と蹴られるのであるが、今度はしっかり調整するつもりである。

 

「さて、僕はそろそろ用事があるから行ってくるよ」

 

 と言って五条はその場を立ち去った。

 取り残された虎杖と伏黒は少し緊張が解けたような気分になる。

 

「俺さ、先輩といると安心するんだけど、伏黒は?」

「……なんだ、いきなり」

「いや、こんな風に思ってるの、俺だけかな?て思って」

 

 伏黒は虎杖の問いにしばしば考える。

 

「安心、というよりも……むしろ緊張する」

「え? なんで?」

「なんて言うか……あの人の前では背筋が伸びるっていうか。でもそれが嫌ではない」

 

 義姉の津美紀が寝たきりになった時、恐らく1番伏黒を気にかけてくれたのは綴だ。

 言葉には出さなかったが、わざと自分を色んなところに連れ回したり、思考が駄目な方へ向かうと思いっきり額を叩かれたものだ。

 

「俺は、あの人を尊敬してる。

 背筋が伸びるのは、あの人に無様な姿を見せたくないからだ」

 

 綴が呆れてしまうようなことを、伏黒は絶対にやるまいと心に決めていた。

 

「わかる」

 

 虎杖は伏黒のそれに同意した。

 綴の前では少しでも自分の成長を見てもらおうと背筋が伸びる。

 例えるなら、学校の授業中に挙手する時のように、スっと自然に。それでいて背筋を伸ばすのに疲れを感じない。

 

「あとさ、先輩に相談するの凄く頼りになるよな」

「そうだな」

「やっぱり伏黒も先輩に相談してるんだ」

「呪術のことに関してだけだ。それ以外は結構抜けてるところあるから」

「確かに、先輩整理整頓できないもんな」

 

 京都での任務、泊まった旅館での出来事を思い出し、虎杖は力なく笑った。

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