呪われた呪術師の走馬灯   作:千α

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SAN値回復……したかった。



66話

 それ(・・)はこの渋谷の状況を見て泣いた。

 

 その目の前に現れる改造人間。

 それ(・・)を襲おうとするが、ピタリと動きを止めた。

 途端に、己が人間であった時のことを思い出した(・・・・・)

 ソッとそれ(・・)は改造人間の頬に触れ、まるで抱きしめるかのようにして改造人間を撫でる。

 

「……あ、あぁああ………あり、あ、ありが、とう……」

 

 そう言って、人間の形に戻った(・・・)彼は絶命した。

 それ(・・)はまた、シクシクと泣きながら渋谷を歩き始める。

 強い願い(・・)を持つ者の所へ、向かう。

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 釘崎野薔薇が綴と出会ったのは、交流戦の時が初めてだった。

 それから交流と呼べるような交流はほとんどしなかったが、虎杖と伏黒がとてつもなく彼を尊敬していることは知っていた。

 

 ある日釘崎は椅子に座り寝ている綴を見かけた。

 釘崎はついつい綴を観察する。

 いつも険しい顔をしていたため気が付かなかったが、意外にも幼げな顔立ちをしている。眉間にシワもないため、一見すると優しそうな目元をじっと見つめる。

 

「うわ、マスカラ無しでこのまつ毛かよ……」

 

 綺麗な顔をしていることは知っているが、釘崎は見れば見るほど女が羨む特徴を兼ね備える綴に思わずそう呟いた。

 

「なんか用か?」

「ひっ!?」

 

 目をつぶったまま、綴が喋った。

 

「お、起きてたんならそう言ってよ……」

「……いや、そっちのが気まずいと思って……」

 

 だがあまりにも釘崎が見てくるもんだからついつい喋ってしまったらしい。

 

 

「本当に奢ってくれるんですか!?」

「ん、暇だしな」

 

 暇を持て余していた綴と釘崎は高専に1番近いコンビニで買い物をすることにした。

 

「ハーゲンダッツとかも、いいの?」

禿()? ……まあ、なんでも良いけど」

 

 釘崎は早速コンビニのアイスコーナーにより、高級アイスと名高いハーゲンダッツに手を伸ばす。

 綴はというと、スイーツコーナーにある新商品を眺めていた。

 

「あれ? 買わないんですか?」

 

 見ているだけで手を伸ばさない綴に釘崎は首を傾げる。

 

「いや、虎杖がこれのこと言ってたな、くらいしか……。

 コンビニで買いたいものも、そんなに無いし」

 

 つまり、この人は特に用もないコンビニで、釘崎に何かを奢るために声を掛けたということだ。

 

「……それだけでいいのか?」

 

 今度は逆に綴が釘崎に質問する。

 釘崎が持っているのはハーゲンダッツのみ。

 

「え?」

「虎杖と伏黒にも言ってっけど、手前ら意外と遠慮するよな。300円のアイス1個だけって……」

 

 なんか無性にイラッとした。しかもハーゲンダッツの値段をうろ覚えだと?

 すると、綴は新商品のスイーツを6個カゴの中に躊躇なく入れる。

 

1年(手前ら)の分。

 あと、菓子も買っとくか。手前らの食べる物がよくわからんから、適当に5、6個探しといてくれ」

 

「あの、まさかそれ全部……っ」

「? 現代高校生はこういうのが好きなんだろ?」

 

 虎杖が言っていた、と綴はそう言いながらついでと言わんばかりに飲み物コーナーで数種類の500mlペットボトルの飲み物をカゴに入れる。

 

「あ、肉まんも好きだって言ってたな……食うか?」

 

 先程感じていた苛立ちは、困惑に変わる。

 そうあえば、虎杖が綴に向けて「これだからボンボンは!」と言っていたことを思い出す。

 だから綴の実家が裕福であるということは何となく知ってはいた。

 しかしこれは、なるほど確かに虎杖が叫びたくなるのもよくわかる。

 

「でも欲求には勝てない! 肉まんが美味い!」

「そうか、良かったな」

 

 結局、釘崎は綴に大量のコンビニ商品を奢ってもらっていた。

 

「コンビニの会計で5000円超えたの初めて見たわ……」

「俺も久しぶりに見た。虎杖と買いに行ってカゴに入れてると、なんか静かに首を横に振られんだよな」

 

 それは綴が見境なく何でもかんでも買おうとするからだ、と突っ込んでやりたくなったが口を噤む。

 この人は感性が庶民とはまったく違うのであろう。

 

「そういえば、先輩のは買わなくて良かったんですか?」

「俺の?」

「欲しいのなくても自分の1つくらい欲しくなりません?」

 

 肉まんを半分食べ終えたところで、釘崎は綴にそう質問する。

 

「いや……マジでいらんから。

 別に買いたくもないもの無理して買う必要ねぇだろ」

 

 本当に奢るためだけに買い物をしたらしい。

 中には2年生用のものもあるようだ。

 

「後輩に奢ってやるのが先輩の務めらしい」

「五条先生が言いそう……」

 

 綴にそんなことを言うのは五条くらいだろうと考え、釘崎は五条の名前を出したが、綴が少々嫌そうな顔をしたので、五条ではない誰かに言われたのだと察した。

 

「……俺の、ひとつ上の先輩からだよ」

 

 人を寄せつけない雰囲気のある綴がその一言を発すると、なんとなく先程よりもだいぶ穏やかな雰囲気になったように感じた。

 それもすぐに霧散してしまったが……。

 

「てことは、今4年生?」

「………」

 

 言われたことを真に受けて実行するくらい、その先輩のことを尊敬しているようだ。

 どうやら綴は意外と義理堅いタイプらしい。

 

「1年前に亡くなったから」

「………」

 

 釘崎は思わず足を止めた。

 こういう業界だ。そんなこといくらでもある。

 

「あの……」

「別に気にしてない」

 

 それから釘崎は綴と話さなかった。というより話せなかった。

 気まずい雰囲気が高専の門をくぐるまで続く。

 

「あ、甘菜先輩!………と、釘崎?」

 

 声のするほうを向けば、虎杖が綴と釘崎に駆け寄って来ていた。

 虎杖は珍しい組み合わせを見て首を傾げる。

 

「たまたま会ったから……」

 

 綴はそう言いながら虎杖に持っていたコンビニの袋を1つ差し出す。

 

「え、釘崎とコンビニ行ってきたの?

 俺も行きたかったなぁ……」

「欲しいものがあったのか?」

「いや、そういうわけじゃなくて」

 

 恐らく、綴と一緒に行きたかったのだろう。

 残念ながら虎杖の思いは綴に届かない。

 

「ハーゲンダッツと肉まん奢って貰っちゃった」

「えー!?」

 

 釘崎が自慢すると、虎杖は羨ましそうに声を上げる。

 

「……その袋の中の1年と2年で分けとけ」

「え、これ全部!?

 先輩また自分の買わなかったの!?」

「自分の買ってたら手前に全部渡さんよ」

 

 綴が呆れるように溜息を吐いた。

 

「いや、部屋まで持って行けってことかと……」

「俺、そこまで酷い奴に見えるか?」

 

 若干ショックを受けながら綴は釘崎に尋ねる。

 が、釘崎は何とも言えない。何故なら釘崎は綴のことをよく知らないからだ。

 

「……甘菜先輩さぁ、たまには自分のためになんか買ったら?」

「買いたいものがない」

「あー、うん……そういう人だよな、先輩は」

 

 虎杖は綴が持っていたもう1つのコンビニ袋を率先して持つ。

 少々不満そうにしたが、綴は気にせず校舎へ向かう。

 

「釘崎」

「はい?」

「楽しかった、ありがとう」

 

 そう言うと綴は歩き出し、虎杖はその後ろをついて行く。

 

 

「てことがあったんだけど……あの人、どんな人なの?」

「俺に聞くのか?」

 

 文庫本を片手に持つ伏黒に尋ねるが、怪訝な顔をされる。

 

「あ、もしかして拗ねてる?」

「拗ねてねぇ」

「ムキになるってことは拗ねてんのね?」

「だから……っ!」

「まぁまぁ、そう拗ねんなって」

 

 ニヤニヤしながら煽る釘崎に、伏黒は苛つく。

 

「そもそも、あの人が出かけることなんか稀なんだよ」

「へぇ? じゃあ私は運が良かったってことね」

 

 伏黒は更に眉をひそめて釘崎に忠告することにした。

 

「いいか、次からは気を付けろよ」

「どういうこと?」

「甘菜先輩は人になんか渡して喜ばれると、また奢ったり手渡してきたりしてくる」

 

 それのどこが悪いというのだろう。

 釘崎が首を傾げると、伏黒は言葉を続ける。

 

「釘崎、実家から送られてきたけどいらないからやるって言われて、雑に投げ渡されたそれが()()()()()()()()()だったことあるか?」

 

 釘崎は頭に雷が落ちたような衝撃を受ける。

 

「そもそも金銭感覚がバグってんだよ、あの人」

「あんた、それ……貰ったの?」

「断ろうとしたら睨まれた」

 

 それは貰っちゃうわ。

 

「高価すぎて未だに付けて出かけたことねぇけど」

「でしょうね」

「そしたら次はいらないからって財布渡された」

「………ちなみに、どこの?」

「ルイヴィトン」

 

 釘崎は頭を抱える。

 

「それ、どうしたの?」

「時計貰ったからって断ったら、虎杖にまわっていった」

 

 虎杖も高価すぎて未だに箱からも出すことができないらしい。

 

「虎杖がコンビニで首を横に振った理由がわかったわ……」

 

 

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