呪われた呪術師の走馬灯   作:千α

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連続で過去話ですが、どうぞ。



67話

「俺、あと3年で死ぬらしい」

 

 東堂葵は今年の交流戦後に綴からそう言われた。

 

「下手をすればもう少し早く寿命が来る」

「……それは、確定か?」

 

 誰もいない校舎でたまたま2人きりになったから綴はそう東堂に切り出したようだ。

 きっとそうならなければ話さなかっただろう。

 

「確定だ」

 

 東堂は思わず黙る。

 

 東堂にとって綴はライバルであり、目標であった。

 1年生の頃、ストレート負けしたことを東堂は思い出す。

 あの頃から綴の背を追いかけ……いつの間にか追い越してしまっていた。

 それも、綴が呪いにより弱ったから、という不本意な方法で。

 

「何故、俺にそのことを?」

「………頼みがある」

「頼み?」

 

 夕焼けを背にした綴は真っ直ぐ東堂を見る。

 

「俺が死んだ後、もしものことがあれば……俺の後輩達を頼む」

「………!」

 

 プライドの高いあの綴が、東堂に頭を下げた(・・・・・)

 

「顔を上げろ、お前らしくもない!」

「……頼む。アイツらは、俺の宝物(・・)なんだ」

 

 初めて誰かにそのことを吐露した。

 五条にも言ったことがない。

 というか、五条に言うとニヤニヤしながらからかうに違いない。自分が死んだ時のことなんて、聞いていないと言わんばかりに。

 

「俺が、守りたいって思ったんだ。

 人生で懺悔と後悔することが多かった俺が、必死にかき集めた希望なんだ」

 

 自分が生きている間なら、目が届く範囲なら、絶対に死なせないと決めている。

 だが死んでしまったあとは?

 

「もう、尾上先輩や青木みたいに、誰も死なせたくない……!」

 

 綴の顔を上げさせようと両肩を掴んだ東堂は、尾上と青木の名前を聞いて動きを止めた。

 かつて綴が大切にしていた、親友と想い人。

 置いていかれる恐怖を、綴は知っている。

 その立場に綴はなってしまう。きっとそれを感じているのだろう。

 

「自分勝手なのは充分わかってる」

 

 東堂が掴む両肩はあの頃に比べると細く、頼りない。

 だが……。

 

「頼む。

 俺が気兼ねなく頼めるのは、手前だけなんだ」

 

 だがゆっくりと、顔を上げる綴のその目はあの頃以上の強さを持っていた。

 

 何故、彼ばかりがこんなめに合うんだろう。

 幸せを願っていただけで、彼がいったい何をしたというのだろう。

 

「……甘菜、お前は誰がなんと言おうと誇り高い男だ」

 

 そんな男が頭を下げてまで、東堂に頼み込んでいる。

 

「わかった。俺に任せろ、甘菜!」

「……わるい。こういうこと、本当は頼むべきじゃねぇんだが……」

 

 それ(・・)は呪いになる。

 綴も東堂もよくわかっている。それをわかっていて綴は東堂に呪い、東堂は綴の呪いにかかった。

 

「しかし、あと3年どうするつもりだ?」

「……子蜘蛛を全部食う……のは当たり前として、まずは身辺整理だな。

 五条にバレたら邪魔される。手伝ってくれるとありがたい」

「なるほど、どこから手を付ける?」

「とりあえず、甘菜家から貰ってる菓子類は処分したい」

 

 綴はそっと、何も言わずに東堂に手紙を渡す。

 それと同時にメモも一緒にしてある。そこには、文字が書かれていた。

 

『甘菜家の人間は月に1度、当主とその側近に盗聴される。

 自然体で頼む』

 

 それを読んで、東堂は返事を返す。

 

「なら京都の奴らにも声をかけておこうか」『了解』

「助かる」『この手紙を、窓の佐々木って女に渡して欲しい』

「他には?」『尾上先輩と青木と初めて任務へ行った時の被呪者だな?』

「後のことは、自分でもできる……」『頼んだ』

「我が好敵手(ライバル)の頼みだからな!」

 

 綴は少し寂しそうに笑った。

 その顔を東堂は今でも覚えているし、きっと一生忘れないだろう。

 

 

 

 

......................................................

 

 

 

 

【2年前・東京都立呪術高等専門学校】

 

 

「お疲れサマンサ〜」

 

 東堂に話しかけてきたのは、五条だった。

 自身のライバルである綴の兄貴分であると、噂で聞いたことがある。

 

「何か用か?」

「いんや、偶然」

 

 交流戦も終わり、京都校の者達は帰る準備をしていたが、東堂は綴を探していた。

 

「葵さ、綴と仲良くしてあげてよ」

 

 五条は笑いながら東堂にそう言う。

 

「甘菜と?」

「あの子、友達少なくて少なくて。僕、ちょーっと心配なんだよね」

 

 綴は他の1年生と距離を置かれていた。

 彼の性格や上級生とのイザコザだったりが要因で、まともに話しかけてくれる同級生がいないのだ。

 綴と仲がいいと言えば、ポメラニアンの青木くらいだろう。

 

「残念だが、俺と甘菜は好敵手(ライバル)! それが覆ることは無い!」

「んー、そっかそれは残念」

 

 東堂ならあるいはと思っていたが、本人にそう言われてしまえば何も言えなくなる。

 そうこうしている間に、京都校の生徒達が帰る時間になってしまう。

 東堂は結局綴に会うことはなく、しばらく粘っていたが引きずられて帰って行った。

 

 

「………残念だったね〜、綴」

「は?」

 

 京都校の生徒達が見えなくなった頃、五条は隠れていた綴に話しかける。

 木の枝に寝転びながら、怪訝そうに眉をひそめる綴は、東堂がやっと帰ったことで一安心だ、と気を抜いたところだった。

 

「だって、本当は好敵手(ライバル)なんかより、友達(・・)になりたかったんでしょ?」

 

 気を抜いていた綴は一瞬動揺して木から落ちそうになる。

 

「大丈夫?」

「誰のせいで……!」

 

 綴は東堂のことを苦手ではあるが嫌いではなかった。

 初めてだった、何の偏見もなく自分に話しかけてくれる同級生なんて。

 だが東堂と友達になるか、言われれば綴は即答できない。

 

「綴にしては、1人にムキになりすぎてたから、てっきりそうなのかと。

 素直に言えないって、辛いね〜。綴の天邪鬼!」

「意味がわからないからとりあえずその口閉じてくれ」

「やだ」

「このクソ野郎が」

 

 五条は綴の気付いていない本音に気付いていた。

 他人と距離を置いてしまう綴もどこかでそういった関係を望んでいた。

 好き好んで孤立しているわけではないのだ。

 

 本来の綴は呪術師限定ではあるが、もっと社交的で人との接するのが好きだ。

 昔はそんな彼に癒される呪術師が続出。彼に癒されるためにわざわざ高専に赴く呪術師もいた。

 呪術高専の大天使ツヅリエル、だなんて夏油と家入と一緒になって言っていたことを思い出す。

 まあ、今はその面影すら残っていないのだが。

 

 そんな綴だが、子蜘蛛のせいでいつ死ぬかわからなくなり……周りを突き放すようになった。

 大切なものを増やさないように、未練なんて作らないように。

 

 五条は綴が死ぬ準備をしているようにしか見えなかった。

 少しでも綴が生きたいと思ってくれるよう、五条は尾上や青木を紹介したし、伏黒だってそうだった。

 

 しかし、そうやって閉じこもる綴の殻を東堂は無理矢理こじ開けてしまった。

 これには五条も大爆笑。

 

「そもそも俺が必要最低限の交流でいいって思ってんの、知ってんだろ?」

「知ってるけど、綴は寂しがり屋さんだから」

 

 本当は友達欲しくて仕方がないくせに。

 と、言うと上から綴が飛び蹴りをしてくる。

 五条はそんな綴の両足首を掴んでぶら下げる。

 

「はいまた僕の勝ち!」

 

 綴は非常に悔しそうに奥歯を噛み締める。

 

「は、なせ!」

 

 腹筋の力を使って起き上がると、五条が綴の足首から手を離す。

 重量に逆らわず、綴は地面に着地すると、五条を睨みつけた。

 

「寂しがり屋は五条だろ」

「え、綴から見たら僕ってそうなの?」

「………もういい、寮に帰る」

 

 綴は溜息を吐いて五条に背を向けた。

 

「綴」

「何?」

「お疲れ様、ゆっくり休みなよ」

「……うん」

 

 

 寮に帰る道で、綴は五条の言葉を思い出す。

 

 東堂と友達になりたかったか否か。

 

 友達にいれば、まあ楽しいだろうタイプではある気がする。

 ただし1人でいい2人以上はいらん、腹がいっぱいになるわ。あんな奴2人とか高熱が出た時の悪夢かよ。

 

 だが、その本人が友達でなく好敵手(ライバル)がいいと言っているのだから……綴がそこに水を差すのは野暮だろう。

 

 

 

 

 

「って、俺はおもうんだよな」

「キャン!」

──綴の親友は僕だけどね!

 

 と、綴に相談された青木が誇らしげに鳴いていた。




普段勝手に喋ってくれる東堂が喋ってくれなかった。

ちなみに、綴は「為虎添翼」で東堂以外に高田ちゃんゲストのラジオや、タピオカを勧められても聞かないし飲まなかった、とかいう裏事情があったりします。
出す機会、なかったけどね!
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