魔女の居ない世界で恋物語を   作:コリブリ

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目標字数に到達ならず。
かなり加筆しつつだったのですが区切り的に難しかったです。


とある放課後のお話

「で?」

「……………」

 

 新学期が始まり既に2週間が経ち金曜日、次の日はやっと休日だと開放感に満ち溢れている学生が殆どであろう放課後現在、俺達は見滝原学生がよく使うカフェに居た。 俺達と言うのは勿論さやか、恭介、そして自分である。

 周りを見渡せば楽しそうに歓談中の見滝原生徒、どこかの高校の制服を着てイチャイチャしている男女、ノートパソコンを開きつつ真剣に何かを打ち込んでいる眼鏡の男性。

 そして目の前にはジト目で私怒ってますオーラ全開なさやか。

 

「で、と言うのはアレですよね」

「中沢の言うアレが何かは分からないけど、アイツよアイツ! 杏子の事に決まってるでしょ!」

「ですよね」

 

 こんなことになっているのも衝撃の自己紹介から今日までの杏子の行動のおかげだ。

 そう、例えば――――

 

 

 

 

「オッス中沢、昼飯一緒に食おうぜ!」

「あー……えっと、先約があって」

 

 チラッとさやか達の方を向く、ついでにどうしようと目で訴えかけてみた。

 

「……フンッ」

「え、えっと、一緒に食べるのはいかがですか?」

「そ、それが良いよ! 佐倉さんとも仲良くなりたいし、ね?」

 

 そっぽを向くさやかに続き志筑さんと鹿目さんのフォローがすかさず入った、やはりこの二人は天使である。

 

「恭介もそれでいいよな?」

「うん、僕は構わないよ」

「んじゃ決まりだな!」

 

 こうして昼食を一緒に食べることになった、ちなみに初日はさやかがずーっとムッとした顔をしていた……二日目からは観念したのか杏子とも喋っていたのだが内容が問題だった。

 俺はどちらとも幼馴染だったワケだがさやかと杏子はどちらが長く俺と遊んでいたか、どちらがより親しいかなどの言い合いをし始めたのだ。

 

「む、昔は一緒にお風呂入ったりもしたし! バレンタインデーとかも一応毎年あげてるし!」

「ハッ、それくらいアタシだってやってるさ。 それに加えてアタシは毎年クリスマスはずっと一緒だ」

 

 聖誕祭と言う事で俺は毎年十二月二十五日には教会へと赴いていた。 いや待て、反応すべきことはそこじゃないだろう俺。

 

「いや、お風呂入ってたとかあんまり大声で言われるのは……」

 

 入っていたと言ってもそれは小学校低学年の、性知識の欠片すらないような時期だ。

 食事をしているのは教室の一角、さやか達の机の周り。 教室のほぼ真ん中なので他の生徒たちに丸聞こえである。

 

『中沢は黙ってて!』

「はい」

 

 こういう時、得てして男子の地位は低い。 横ではやはり恭介が笑いを堪えていたし、ぽわぽわシスターズもくすくす笑っている。

 ただ、さやかが杏子に対抗して言い合ってくれたことに何とも言えない嬉しさを感じていた。 いわゆる独占欲からくる対抗心なのかもしれない。 少なくとも、さやかの内側に多少なりとも入り込めているという事だろう。

 そんな些細な事に充足感を得つつ弁当を突く。

 

「だから中沢は――――」

「いやいやアタシは――――」

 

 誰か止めてくれ、頼むから。

 

 

 

 

 それ以外にも事あるごとに杏子は俺に喋りかけて来るし、ちょっとオーバーなのではと言わざるを得ない肉体的スキンシップが多かった。 勿論さやかの前で。

 対抗するかのようにさやかも体をひっ付けて来て大変嬉しく――悩ましい状況が昨日今日と続いて、現在の状況に繋がる。

 

「何か申し開きは?」

「弁護人を要求します!」

「却下します。 判決、私刑」

 

 即却下である。

 かつてここまで放漫な裁判官が居たであろうか。

 

「まあまあ、さやかも落ち着きなって。 中沢が何かやったワケじゃないんだし」

「……杏子に抱き付かれてニヤけてた」

「やっぱり私刑で」

 

 弁護人が速攻で手のひらを返した。 確かに膨らみかけの何かが腕に当たったりして鼻の下が伸びていたことは否定しない……いや、勿論さやかのだぞ?

 

「ハァ……結局さ、中沢と杏子はどういう関係なわけ?」

「何度も説明したけど幼馴染だって」

「僕たちが聞きたいのは諸々の経緯なんだけどね、この前言ってた休日に知り合いのおじさんの所に行ってるってのいうのがそうかな」

 

 ウッと言葉に詰まってしまう。 そういえば春休みにそんな事を話してしまったな……少々迂闊だったか。

 

「そんなに隠さなきゃいけない事なの? この際秘密にしていた事はいいけどさ、いや良くないけど」

「うーん……まぁ、ここまで来たら仕方ないか」

 

 そこまで頑なに秘密にするような事ではないのかもしれない。 ただ話さなかったのには理由があった、その事も交えつつ杏子との関係を語って行く。

 

 

 小学生の頃に一度だけ口を滑らせてさやか達以外の、そこまで仲の良くない友人に教会に行っていると言ってしまった事が秘密にしている一番の要因だった。

 教会と言うからには勿論それは宗教になる。 神父さんが破門されているとはいえ崇めている神が居るのだ、幼少期と言うのはそういうのに敏感で少し饒舌に語ったら少しだけ話が広まり危ない子認定されてしまった、主に語った子供の親に。

 それ以来この話題には触れないようにして来た、一種のトラウマと言う奴だろう。 そこまで重くないとはいえさやか達相手でも少し尻込みしてしまう。

 

「とまぁそんな感じで、杏子とは幼馴染と言うより従妹みたいな関係だよ」

「なるほどねえ……ふーん」

 

 一応納得はしてくれたみたいだがどこか歯に何か挟まったような表情をしているさやか。

 

 

「でもさ――もうちょっとあたし達を信用してくれてもいいんじゃないかな」

 

 

 どこか不満げな、それでいて凛とした声、表情で自分を見据えてきた。 それ言われた時ジクリと胸が痛んだ。

 

「うん、中沢は実に馬鹿だな」

「ちょっ、それは言い過ぎじゃないかな」

「言い過ぎじゃない! その程度でどうこう言うような奴だと思ってたの!?」

「むう……」

 

 確かに自分が過敏に意識し過ぎていたのかもしれない。

 さやか、ついでに恭介に向けて素直に謝っておくことにした。 後が怖いからではない、決して。

 

「ごめん」

 

 簡潔な一言に全てを篭めた。

 黙っていて、信用出来ていなくてすまなかったと。

 

「ん、許す」

 

 帰ってくるのは懺悔を受け入れる言葉。

 昔から俺達の中では一言謝れば何でも許す、そういう暗黙の了解の様なルールがあった。

 喧嘩があっても次の日にどちらかが謝れば直ぐに仲直りしてきた、さっぱりとしていてお互いを分かりあってないとできない事。

 

「それじゃあこの話題は終わり。 次は……中沢と杏子の関係についてね!」

「いや、話題終わってないじゃん」

 

 それまでに話していた事と何が違うのか、全く変わっていない議題に突っ込む。

 

「今までのは杏子との馴れ初めと責任の所在の話。 ここからは現在の中沢と杏子について、オーケー?」

「ノーサンキュー」

「結局中沢は杏子の事どう思ってるのかな」

 

 おいコラ恭介、拒否してるんだから話を続けるんじゃない。

 

「そういえば春休み中に意中の相手が居るような話をしたっけ、あれは杏子の事だったのね」

「いや、本当に違うんだって。 杏子とは幼馴染以上の関係じゃないし。 それこそ従妹か兄妹くらいの感覚なんだよ……」

 

 やはり春休み中のメールでの弁解はあまり意味を成していない模様だった。 こればっかりは誤解させるわけにはいかないので強く否定しておく。

 

「欠片も? 少しも異性として意識してないの?」

「ああ」

 

 確かに最近は女性としての象徴も少しずつ成長してきているようでふとした時、杏子に女を感じる事はあった。

 それでも自分には心に決めた人が居るのだ。 それが茨の道だと分かっていようとも止まる事はない。

 

「あんなに可愛いのに、中沢には勿体ないくらいだ。

 知ってるかい? 今中学校じゃ彼女に突撃して散っていった男達がお互いを慰める会が出来ているそうだよ」

 

 おい、まだ杏子が転校してきて2週間だぞ。 どんだけ手が早い連中なんだよ。

 と言うかそんな事態になってるなんて知らなかった。

 

「その顔は知らないって顔だね。 でもそれなら興味が無いってのは本当かな」

「今初めて聞いたよ。 と言うか杏子だけ何でそんなに人気出てるんだ?」

 

 見滝原中学内で美少女と言えば上がる名前は幾人か居る。 自分の知り合いでは志筑仁美さん。

 それ以外なら上級生の巴マミと言う人がそうだ。 他にも幾人か居るらしいが自分は名前すら知らない。

 鹿目まどかさんは隠れファンが多いとか聞いた事もあったっけな。 とにかく、杏子が2週間でそんな《見滝原中学校有名美少女》の仲間入りを果たしていたのには驚きだった。

 

「彼女って誰にでも分け隔てなく接するんだよね。

 僕が聞いた話じゃ部活中に怪我をした女生徒を担いで保健室まで運んだとか、とある男子生徒の無くし物を夜になろうって言う時間まで一緒に探してたとか」

「ああ、それあたしも聞いたわ。 虐められてる生徒を身を挺して庇ったとか……何か半分以上噂に尾ひれがついた様な内容になってたけど」

「なるほど、それでいて顔も整ってるから勘違いする男子が後を絶たない、ってことか?」

 

 多分、いや確実にその噂の8割がたは本当の事だろう。 神父さんの教えを忠実に守っているだろうし、杏子ならそんな人たちを見つけたら関わらずにいる事はしないはずだ。

 

「そうそう。 『杏子さんマジシスター』『むしろ天使』とか言って男子生徒は勿論女子生徒からの人気も高いらしいからねえ」

「……確かに悪い奴じゃないし」

 

 普段接する時は猫の様に気を逆立てて警戒心をむき出しにしてるさやかですら内心はこの評価である。

 どれだけの男たちが杏子の行動で籠絡されたのかは想像するに難しくなかった。

 

 

 杏子人気の話を肴に注文したカフェオレ一杯だけで数時間を過ごしていた。

 そんな感じで、とある放課後のお話。

 

 

 

 

 今日は中沢と杏子の関係について問い詰めると決めていた日だった。

 先週・先々週と金曜日は杏子が早く家路についているのを知っていたからあらかじめ恭介と中沢を誘っておいたのだ。 さやかちゃんは知能犯。

 最近杏子から中沢へのボディスキンシップが目立っていたので何となく悔しくなりなにかと対抗してしまっていた。

 あの距離の近さは幼馴染だけに許された距離――そう言う風にあたしは思っていたから。 ポッと出の奴に身内を好き勝手されるのは許せることでは無かった。

 中沢の話を聞いているとどうやら中沢は子供の頃からずっと教会に通っていたらしい。 そしてそこのシスター見習いである杏子とも幼馴染であり、過去にその宗教関係で悔しい思いをしたと。

 

 

 ――もうちょっとあたし達を信用してくれてもいいんじゃないかな。

 

 

 その話を聞いた時咄嗟に口からもれでてしまった言葉、本心。

 この本音には色々な気持ちが篭められていた。 単純に秘密にされていたという憤り、過去に囚われて話してくれなかった事に対する悲しみ。

 そして何よりあたし達以外に《こういう関係》を持っていた子が居たことに対する悔しさ。 そう言った感情を全て纏めて吐き出した。

 

「ごめん」

「ん、許す」

 

 中沢は何か言いたげだったがあたしの言葉から何かを感じ取ったのか数言後には素直に謝り、いつもの私達に戻る。

 その後は現在中沢が杏子に対してどう思っているかを聞いてみたかったのでそっちの方向へ話を進める。

 どう見ても杏子は中沢に惚れている、前に中沢も想い人が居るような事を言っていたのでもしかしたらと思ったのだがそれはハッキリと否定されてしまった。

 あたしとしてはこの関係が崩れるのも嫌なので現状維持という結果に落ち着いたのはやぶさかではない。 話のネタとして中沢を弄れないのは残念であったが。

 中沢は杏子を異性としては見ていない様だし、これから杏子がどう動いて行くのかは少し気になった。

 ……もし付き合うようになったとしても、あたし達の関係は変わらないよね? そんな言いようの無い不安を胸に抱え込む。

 

 そんなこんなで話を続けて行ると恭介に少し違和感を感じた。 いつもなら他人、特に女性についてあれこれ言う様な性格じゃなかったはずなんだけどな。

 杏子の噂話を積極的に話していたが、中には女性の情報網にすら引っかかっていないような物まで語っていた。 どこから仕入れたのだろうか。

 半分以上は身内ネタの様な物だったのでいつも通りかとスルーしたけれど、これが後々後悔する原因になるなんてあたしは少しも思ってなかったんだ。

 

 

 恭介に違和感を感じつつ今日は解散。

 そんな感じで、とある放課後のお話。

 

 

 

 

 カフェでの雑談が終わり解散した。

 その後そのまま家路についていたのだが突然携帯がバイブレーション、数回の振動で止まったのでどうやらメールらしい。

 歩きながら携帯を弄るのは危ないので壁際に寄りメールを開くと、送信主は恭介だった。

 

『少し話があるから昔よく遊んだ公園に来れないかな?』

 

 内容はいたって簡潔。 しかし呼び出しとは珍しい、カフェで話している時には言えない事だったのだろうか。

 『分かった』と返信して小走りで公園へと向かう。 現在の場所からはあまり離れていないから直ぐに着いた。

 公園内をキョロキョロと見回すと隅っこのベンチに座っている恭介を発見。

 

「恭介、急に呼び出しなんてどうしたんだ? 何か渡すものでもあったのか」

「ああ……わざわざごめんね」

 

 自分も恭介が座っている横にドカッと腰を下ろす。

 何やらかしこまった雰囲気を纏っている、本当にどうしたのだろうか。

 

「どうした……何か不味い事でもあったか?」

「いや、うん」

 

 恭介の視線はこっちの様子を伺うように俺の顔と自分の手元を行ったり来たりしている。

 そうして数十秒ほどした後何かを決意した様な顔をしてコチラを見据えて来た。

 

「中沢はさ、杏子さ――佐倉さんの事、どう思ってるの?」

「ん? カフェでも言ったけど妹とか従妹とかそういう感じだよ。 お前らと同じような付き合いだよ」

「そっか……そっか、実はさ――」

 

 恭介が意を決したように紡ぎだし語られることは俺にとって驚愕以外の言葉が出ないもので、同時に悪魔のささやきでもあった。

 俺達が知らない間に恭介と杏子は街中で偶然会う事があった。 その時恭介はバイオリンに使う小道具――俺が聞いてもそれが何なのかは分からなかった――を落としてしまっていたらしい。

 空は茜色に染まりそろそろ帰りましょうと言う時報的な放送が流れるような時間帯。 諦めかけていた時杏子が現れたそうだ。

 事情を話したら一緒に探し始めてくれて、学校からの帰り道に歩いていた場所分かれて探し始めるけど、数時間経っても見つからなかった。

 もう夜も遅いから諦めようと言うと、何か言いたそうにしつつその場は納得して解散したらしい……しかし後日満面の笑みを浮かべた杏子に探し物を手渡された。

 杏子は次の日も見つかるまでそれを探していた様で、渡したら良かったなと一言だけ残して去ってしまったとか。

 まぁつまり纏めると――

 

 

 

「僕……佐倉さんの事が好きみたいだ」

 

 

 

 普段なら『あの恭介が女の子に興味持つなんて』『お前熱でもあるのか?』と茶化していただろう。

 しかしこれを聞いた今、自分の中はとある言葉で埋め尽くされた。

 

 『恭介と杏子をくっつけてしまえばいいじゃないか』

 

 これが最低な考えだって事も理解っている。 どれだけさやかの想いを踏みにじる行為なのかも、痛いほど理解っている。

 それでも一度あふれ出した考えは心の奥底に根付いてしまったように引きはがす事が出来なかった。

 ダメだ、絶対に。 そんな事をしてはいけない――いや、もし実行したとしても恭介を助けているだけだ。

 でもさやかの想いはどうなるのか――なら恭介の想いはどうでもいいのか。

 己の内の天使と悪魔がせめぎ合うように次から次へと否定の念と正当化の為の言い訳が駆け巡って行く。

 

「そうだったのか……気づかなかったよ」

「あ、あはは。 表には出さないようにしていたからね」

 

 自分も湧いてしまった考えを表に出さない様に残った理性から振り絞るように別の言葉を発する。

 

「で、俺に声をかけたって事は……仲を取り持ってほしいって事か?」

 

 ああ、ダメだ。 これを自分から聞いてしまってはダメだ。

 そんな事を言ったら――――

 

「まあ、そんな感じなんだけど……。

 何をして欲しいとかじゃないんだ。 今度教会に行く時、僕も一緒に行っていいかな?」

 

 

 俺は、どうすればいいのだろうか。

 

 

 

 

 




ご読了ありがとうございました。
片思いスパイラス完成。
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