艦船たちの日常   作:Garbage

2 / 6
○人間
鉄血指揮官:鉄血生まれ鉄血育ちの金髪碧眼の青年。ヘタレを卒業して、プリンツ・オイゲンとケッコンの誓いを交わした。

○艦船
グラーフ・ツェッペリン:グラーフ・ツェッペリン級1番艦。とある他国の空母をベースに設計されていたが、結果的に建造されることなく終わった。
Z23:通称ニーミ。駆逐艦でありながら、みんなのまとめ役。個性の強い鉄血の艦船たちに多少頭を痛めがち。
Z46:通称フィーゼ。グラーフ・ツェッペリンと同じく未成艦。同じ未成艦ということもあって彼女とよく行動を共にしている。
プリンツ・オイゲン:アドミラル・ヒッパー級の2番艦。指揮官とは最も付き合いの長い艦船であり、ケッコン相手。
ティルピッツ:ビスマルク級の2番艦。母港着任当初は他人と距離を置いていたが、最近は皆と打ち解け始めている。




鉄血母港の日常・2~悩める未成空母~

 

 

 

 

「指揮官。グラーフ・ツェッペリンがいつまで経っても部屋から出てこないのだが、私はどうすればいい?」

 

 ビスマルク級2番艦にして「孤高なる北の女王」との異名を持つ戦艦《ティルピッツ》が執務室にやってきたのは事務仕事を一通り終えた昼前であった。鉄血を支える若き指揮官と秘書艦である重巡洋艦プリンツ・オイゲンはなんとも意外そうに顔を見合わせる。

 

「グラーフが? ドイッチュラントじゃなくて?」

「ああ。時間になっても起きてこないから部屋に行ったのだが……」

「……グラーフは確か他国の空母機動部隊との合同演習に出ていたよな?」

「ええ。Z46やZ23と一緒に重桜との合同演習に参加していたわ。それで昨日無事に帰投したはずよ」

 

 グラーフ・ツェッペリンは重桜のある空母を参考に建造される予定の航空母艦であったが、結果的に完成に至らずに終わった未成艦である。しかし、セイレーンの出現によって彼女もまた他の艦船と同じように人の姿と意志を持って新たに生を受けた艦船の一人だった。ただ、未成艦として終わった過去からか、他の艦とは少し異なった価値観の持ち主でもあった。

 

「……オイゲン。ちょっとグラーフのところに行ってくる。執務室の番は任せていいか?」

「ええ、大丈夫よ。任せて頂戴」

 

そう言って微笑んだ彼女の薬指が陽の光に当たってキラリと輝く。実に頼もしい秘書艦兼ケッコン相手を得たものだ、と指揮官は内心喜びながら、ティルピッツと共に艦船寮へと向かった。ティルピッツに案内されて着いた艦船寮では、グラーフと共に重桜に派遣されていた駆逐艦《Z23(ニーミ)》と《Z46(フィーゼ》が不安そうな顔をして指揮官が来るのを待っていた。

 Z23ことニーミは駆逐艦でありながら優秀で面倒見がよく、他の艦に勉強を教えるなど母港随一の才女として知られている。もう一人のZ46ことフィーゼはクールで、着任当初はあまり他の艦とは積極的に交流をしようとしていなかったが、自らと同じく完成することなく終わった艦であるグラーフの着任以降は彼女と共に他の艦との交流を深めていた。

 

「あっ、指揮官……」

「状況は?」

「全く出てくる気配がない。私やニーミが呼びかけても反応すらない」

「そうか……重桜へ一緒に行ったのはお前たち二人だったな。そこでグラーフに何か変わったことは無かったか?」

「そうですね……特に変わったところは見受けられませんでした。フィーゼは何か気付いた?」

「……そう言えば」

 

 もしや、といった様子で首を傾げるフィーゼ。クールな彼女はこんな時でも無表情だが、腕を組んだ指をピクピクと動かしている辺りはそれなりに焦っていることがわかる。

 

「重桜の空母、彼女たちと演習をした後、少しグラーフがおかしいように見えた」

「重桜の空母……あっ」

 

 重桜の空母と聞いて指揮官は思わず天を仰いだ。今回合同演習を組むにあたって、何故グラーフたちを重桜に派遣したのか、ということには二つの理由がある。

 一つは本来のグラーフ・ツェッペリンという艦は重桜のとある航空母艦を元に設計されたということ。自分の元となった空母と共に研鑽を積むことで、より彼女の成長に繋がることを期待したからだ。そしてもう一つの理由が、指揮官の交友関係にある。かねてより鉄血と重桜は交流があり、その縁で重桜の艦隊を預かる指揮官とは面識があったのだ。そして重桜の指揮官とは時折、手紙のやり取りをしていたのだが、彼の送ってくる手紙にはこんなことが書いてあったのを思い出した。

 

 

 

―――重桜の艦船たちは愛が深い―――と。

 

 

 

「ありがとう。ニーミ、フィーゼ。だいたいの原因はわかった」

「本当ですか!?」

「ああ。後は俺に任せてくれないか」

「……いいのか?」

「俺は艦隊の指揮官だ。艦船のためにも俺が動かなきゃどうしようもないだろう?」

「感謝する」

「ありがとうございます!」

 

 グラーフのことだから、一対一でなければ上手くいかないだろう。指揮官は二人をその場から遠ざけると、一呼吸おいてグラーフの部屋をノックした。反応はないが、何となく中に誰かがいるのはわかる。指揮官はドアの外からグラーフの名を呼んでみた。すると、ドアの鍵がガチャリ、と外れるのがわかった。

 

「入るぞ」

 

 グラーフの部屋に入った指揮官が見たのはベッドの上で体育座りをしながら折り曲げた膝に顔をうずめるグラーフの姿だった。寝間着のままなのか、その魅力的なスタイルがより一層際立つ。艦種によって異なるのかもしれないが、戦艦や航空母艦といった元が大型の艦船たちはどういうわけか皆スタイルがよく、グラマラスな女性が多いのは何故だろうか。そんなことを思いつつも、指揮官はグラーフの隣に座った。

 

「……卿に聞きたいことがある」

「なんだ?」

「卿は、私が嫌いか?」

「藪から棒になんだ」

「……重桜の空母が言っていた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようこそ、西方の友人たち。私は重桜の機動部隊を預かる一航戦《赤城》と申しますわ」

「同じく一航戦《加賀》だ。我が艦隊の指揮官より貴艦らの歓待をするように命じられた。ここより少し行ったところに我ら重桜の母港がある。遠いところをすまないが、もう少しだけご足労願わないだろうか」

 

 重桜に赴いたグラーフたちを出迎えたのは頭から狐の耳を、臀部からは九本の尻尾の生やした美しい二人の女性であった。この女性たちこそ重桜に名高き一航戦の赤城と加賀である。重桜の人々は古来より神を信仰しており、その信仰の影響か皆獣の特徴をその身に宿しているのが特徴だ。一般的な人間とは姿形こそ異なるが、力の大小に差異こそあれど、皆が神の霊力を持つと言われている。

 

「鉄血艦隊所属、グラーフ・ツェッペリン。そしてこの二人は駆逐艦のZ23とZ46だ。卿らの手厚い出迎えを感謝する」

 

 最初はグラーフも淡々と遠征部隊の旗艦としての役割を十分に果たすことができていた。しかし、重桜の母港に到着し、赤城と加賀の案内で重桜指揮官の執務室に赴いた時である。グラーフは目を疑った。執務室にいる重桜の指揮官に赤城・加賀とは別のまた二人の美しい女性が侍っていたからだ。

 

「指揮官様? この仕事は私が全て行いますので、指揮官様はどうぞゆっくりしてくださいね?」

「指揮官! そんな奴に仕事させる必要なんてないよ? ここは全部私がやるからね?」

 

 頭に鳥の頭部をあしらった髪飾りを付けた黒髪の女性と、髪の毛がまるでミミズクの耳羽のように逆立った紫色の髪をした女性が指揮官を挟んで睨み合いを利かしている。重桜の指揮官はそんな二人の仲裁に入ろうとするが、二人はまるで聞く耳を持たない。

 

「……なんだあれは」

「また始まったか。姉様、ご客人の前です。決して我を忘れぬよう」

 

 加賀がそう言った瞬間である。大和撫子の如く微笑みを浮かべていた赤城の顔が憤怒に染まったのは。

 

「客を迎えに席を外してみれば……お前たちは鼠のように湧くのね!《大鳳》!!《隼鷹》!!」

 

 一歩遅かったか、と加賀は小さくため息をついた。そこには先ほどまでの物腰柔らかな美女はいない。そこにいたのはまさに鬼や妖怪の類といってもおかしくはなかった。あまりの変わりようにグラーフたちは言葉を失う。

 

「あらどうしました赤城先輩? そんなに怒って。また目じりに小皺が増えますよ?」

「黙りなさい! あなたのその猫撫で声いい加減耳障りなのよ!」

「全くね。大鳳は指揮官に対する畏敬というものを感じないわ。その点オサナナジミの私と指揮官は深い絆で繋がっているのよ? この母港の他の誰よりも、ね?」

「最近着任したばかりの人が何を言ってるんですか~? 真面目にその性格を改めないと《飛鷹》さんが胃潰瘍になってしまいますよ?」

「隼鷹、《綾波》がこんなことを言っていたわ。「幼馴染は負けポジション」とね」

「綾波……後で空爆してやる……とにかく、赤城も大鳳も出ていって! 私と指揮官の空間を邪魔しないで!!」

「出ていくのはお前たちだ! 加賀、指揮官様にまとわりつく羽虫共を退治するのでお客人たちのことはお前に任せますわ!」

「羽虫呼ばわりは酷いですねぇ……人を羽虫呼ばわりする先輩は私の彗星と流星で撃ち落とす!!」

「指揮官。私、あなたのために勝つから! オサナナジミとしてあいつらぶっ飛ばすから!」

 

 目の色を変えて三人は執務室を出て行った。呆気にとられるグラーフたちに加賀は自嘲するかのように「これがうちの日常だ」と告げる。ちなみにこのあと三人は指揮官の命を受けた《三笠》から雷を落とされ《鳳翔》からは優しくお灸を据えられるのだが……それはまた別の話である。

 

「他国の艦船たちも驚いている。だが、戦場においては話は別だ。特に姉様は誰よりも重桜のことを考えて戦線に立っている。それは心胆に刻んでおいてほしい」

「あ、あの加賀さんはああいうことはしないんですか?」

「皆が皆ああではない。あの三人と……あと重巡一隻が指揮官のことになると目の色が変わるが他の皆はいたって普通だ。最も私は……」

「私は?」

「戦場で襲いくるセイレーンを屠ることこそ指揮官に認められる術だと思っているのだがな。ヒヒヒ……」

 

 自分ではこう言うが、加賀も加賀でやはりおかしなところがあり、彼女たちと同じようでそれには気づいていないようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「指揮官。私は赤城たちのように指揮官に愛想を振りまいてもいなければ、加賀のように戦場で多くのセイレーンを沈めているわけでもない。私は彼女たちのように指揮官に愛されるようなことをしていないのだ。指揮官、卿は失望しているのであろう? 不甲斐ない私に……」

 

 グラーフの秘めていた想いを黙って聞いていた指揮官は、彼女が話し終わると同時にぷっと吹き出した。それを見たグラーフの顔には明確な不快感というものが現れる。

 

「指揮官。その反応はいくら指揮官と言えども見過ごせんぞ……」

「すまんすまん。だが、悪意があったわけじゃない。お前の悩みはそんなことだったのかと思ってな」

「そんなことだと? これでも私は酷く悩んで……!!」

「俺がそんなことでお前を嫌いになると思ったのか? お前はよくやっている。確かに重桜の空母たちは皆素晴らしい艦船かもしれないが、俺にとって一番の空母はお前以外いない。他がどうあろうと関係ない。お前は……俺にとっては絶対に欠かせない存在の一人なんだ。だから、下を向くな。グラーフはグラーフらしくやればいいんだよ」

「指揮官……」

 

 グラーフの潤んだ瞳に真剣な指揮官の顔が映る。この時、グラーフ・ツェッペリンは確かに噛み締めていた。艦船として第二の生を享けた幸せというものを。愛される幸せを知った彼女は、もう二度と全てを憎むことはないはずだ。

 

(……そういや鉄血に空母ってまだグラーフしかいなかったような気がするけど。そこは触れないでおこう)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





「グラーフ・ツェッペリンが引きこもった? 全く、誇り高き鉄血の艦船の風上にもおけないわね!」
(3日に1回引きこもるドイッチュラントにだけは言われたくないと思うけど……)
「あのー?」
「はい?」
「鉄血の母港はここで合っているでしょうか?」
「合っているけど……」
「実はこちらの指揮官さんにご挨拶に参りました。本日付けでこちらの艦隊に加わりますので……」
「あら、新入り? だったら私が鉄血艦のなんたるかを教えてあげるわ! 私はドイッチュラント級1番艦のドイッチュラントよ! でこっちは私の妹のアドミラル・グラーフ・シュぺーよ!」
「あなたがたがあの高名なポケット戦艦、ドイッチュラント級装甲艦でしたか……私は―――《ローン》と申します」




  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。