ユニオン指揮官:数多の戦場を渡り歩いてきたベテランの軍人。KAN-SENたちからは父親のように慕われている。
○KAN-SEN
エンタープライズ:ヨークタウン級2番艦。ユニオン最強の名を欲しいままにする航空母艦であり、打ち立てた武勲は去ることながら、その真面目な実直な性格は他のKAN-SENからも憧れの対象になっている。
ヨークタウン:ヨークタウン級1番艦。エンタープライズの姉であり、何処か儚い雰囲気をまとった美女。
ホーネット:ヨークタウン級3番艦。ヨークタウンとエンタープライズの妹で、姉二人とは違って明るく快活な性格。
―――エンタープライズ……どうか、私の代わりに皆を導いて。
全てが終わったはずだった。しかし、追い詰められた鼠は猫を噛む。死に際に放った敵の一撃が一隻の空母に直撃した。彼女は今わの際に私に国の象徴である白頭鷲を横に立つエンタープライズと呼ばれたもう一隻の空母に託す。そして彼女はエンタープライズの腕の中で事切れた。
―――あはは……あたし、ここまでなんだね。先に行って待ってるね、エンタープライズ。
今わの際だというのは太陽のような笑顔は隠さない。ユニオンのKAN-SENにおいて伝統あるスズメバチの名を与えられた彼女は最期の時まで笑っていた。眠りについた妹の姿を見た空母の眼からは大粒の涙が零れ落ちていた。
*
海軍の夜は長い。いつ何時何が起きるかわからないからだ。これまで数多の戦を潜り抜けてきた指揮官も例外ではない。戦場に向かうKAN-SENたちを見送る側の指揮官は、KAN-SENのようにセイレーンと戦うことはできない。彼らにできるのは戦闘に使うための装備を用意したり、彼女たちに作戦を伝授すること。そして、彼女たちが帰還する母港を守り、彼女たちの非戦時の生活を保障することくらいだった。
「ん……?」
歴戦のベテラン指揮官の執務室。草木も眠る丑三つ時、といった時間だっただろうか。指揮官はドアがノックされたような気がした。少なくともこんな時間に執務室にやって来るというのはあまり感心することではない。人間と同じ姿をし、人間のような生活を送るかつての軍艦たちの体調を考慮することも上に立つ者の務めであるからだ。
大方フレッチャー級の駆逐艦が夜ふかしがてらに悪戯でもしに来たのだろうか、それともユニオンにおいて夜更かしの常習犯である軽空母・ロングアイランドあたりだろうか。そう思った指揮官はふとドアを開けてみる。そこにいたのは意外な人物だった。
「……どうした、エンタープライズ」
エンタープライズ。ヨークタウン級の2番艦にして、先の大戦においては幾度となく敵の攻撃を受けながらも沈むことなく、戦場に舞い戻り続けたことから我が国屈指の武勲冠といえる。KAN-SENとして再誕してからも、その武勲に霞むことなく、ユニオンの機動部隊の中核を為す正規空母だ。
「指揮官……指揮官ッ」
彼女の髪のように真っ白なナイトウェアを身に纏ったエンタープライズの眼には涙が光っていた。そしてもたれかかるかのように指揮官へと身を預けた。何があったのだろうか、と思った指揮官はこのままでいるわけにもいかず、彼女を執務室へのソファへと座らせる。そしてホットココアを差し出した。
「大丈夫か、エンタープライズ。何かあったのか?」
「すまない、実は……夢を見てしまったんだ」
「夢?」
「ああ。また、ヨークタウン姉さんとホーネットの最期を見届ける夢を……」
彼女の姉妹艦であるヨークタウンとホーネットも彼女同様にKAN-SENとして生を享けている。しかし、その二人はかつての大戦では彼女とは違って生き残ることができなかった。エンタープライズはヨークタウン級で唯一の生還艦なのだ。
「KAN-SENとして生まれ変わった私たちはセイレーンとの戦いで苦境に立たされることはあっても、沈むことはなかった。今度は三人でずっと一緒にいられる。指揮官がいてくれて、艦隊のみんながいてくれる。今度はずっと一緒だ、って思いたいのに……もしもがあったらどうしよう。そんな気持ちが私の中から離れないんだ。私は、このユニオンの象徴たる空母なのに、情けない……」
指揮官は何も言わず、エンタープライズの言葉を聞いていた。彼女が話し終わると同時に、指揮官は彼女の白く美しい髪を優しく撫でた。
「し、指揮官!?」
「よく話してくれた。今まで辛かったな」
「……し、失望しないのか? こんな弱い私を」
「誰だって弱音くらい吐きたくなることもある。私だってそうだ。それに、恐怖心を持つことは悪いことではない。恐怖心があるからこそ、慎重に物事を見定めることができる。勇猛果敢はいいことばかりではない。勇猛になりすぎたが故に墓穴を掘ることもあるのだからな。お前は我がユニオンの旗艦として必要なものを持っている。改めてお前のようなKAN-SENと共に戦えることを誇りに思う」
指揮官の言葉を聞いたエンタープライズの白い顔が真っ赤に染まる。普段はそのクールさと強さから羨望の対象となる彼女であるが、ここまで真正面に臆面もなく褒められたことはなかったのだろう。
「あ、あなたは平然とそのようなことを言うのだな」
「私が何か変なことを言っただろうか?」
「……朴念仁め。ふふっ、でも……話してよかった。指揮官、今日からというわけではないが……また、こうして話を聞いてくれても構わないだろうか?」
「KAN-SENの精神状態もチェックするのが指揮官だ。辛いことがあったらなんでも言ってくれ」
上に立つ者として下にあるものをよく見ることも大切だ。かつてはそういう当たり前のことであってもこなせない者をたくさん見てきたエンタープライズであったが、この指揮官にはそれがない。故に彼女たちKAN-SENはこの無骨な指揮官に敬意を払って接するのだ。
(だが……指揮官はまだ、私の本当の気持ちには気づいてくれないようだな)
指揮官に炒れてもらったホットココアを口にしながらエンタープライズはにっこりと微笑む。仄かな甘さと暖かさにその気持ちを隠すように。
「シ、シ、シャングリラ!! 大変よ! エンタープライズ先輩が指揮官の部屋に夜中に入っていくのを見たわ! もしかして指揮官とエンタープライズ先輩は……」
「落ち着いてください姉さん。というかなんで姉さんがそれを知ってるんですか」