艦船たちの日常   作:Garbage

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※キャラストーリーのネタバレを含みます。



王室母港の日常・1~無口な女中は愛を告げる~

 

 

 

 

 

 

「害ち……ご主人様、ロイヤル本当より手紙が届いております」

 

 指揮官、と呼ばれた若い男性に右目を前髪で隠した小柄なメイドが手紙を渡す。彼女の名はロイヤルの前線基地で秘書艦を務めるロイヤルメイド隊の一隻・シェフィールド。どちらかというと指揮官を「主」と認識して忠実かつ恭しく接してくる他のメイドに比べてこのKAN-SENだけはいつもクールであり、不愛想だった。

 

「ありがとう、シェフィールド。あとそろそろ害虫呼ばわりはやめてほしいんだが」

「私はご主人様を害虫などとは全く思っておりません。憶測による決めつけは紳士の行いではありませんよ」

「そうか、まあいいや。さてどんなお手紙かな……」

 

 指揮官机の引き出しの中に入っているペーパーナイフを手に取ると、手紙の封を切る。これまで送られてくる手紙といえば、だいたいはセイレーンやレッドアクシズとの戦いぶりを評価するものや尻を叩いて来るものなのだが。

 

「……良かったな、シェフィールド」

「いきなりなんですか」

「仲間が増えるぞ。ロイヤルメイド隊からまた一隻この基地に着任することになった。ダイドーというKAN-SENだそうだが、面識はあるか?」

「ダイドー……ああ、彼女ですか……」

 

 その名を聞いたシェフィールドは小さくため息をついて俯く。彼女がこのようなリアクションを取る時はだいたいどのようなKAN-SENなのかが想像できてしまう。

 

「ダイドーはシリアスの姉にあたるKAN-SENです」

「シリアス……ああ、なんとなく察した」

 

 シリアスはダイドー級の五番艦にあたるKAN-SENであり、メイド隊においては随一の戦闘能力を持っている。取り分け航空母艦との相性が良好であり、イラストリアスやユニコーン、セントーといった航空母艦が出撃する時は決まって彼女も随伴させている。

 しかし、戦闘能力が飛びぬけている反面メイドとしての素質はあまりよろしくなく、料理も上手くなく(一生懸命ではあるが)、掃除をしていて花瓶を縦に真っ二つに割ってしまったりと残念な報告が多いのだ。そんな彼女の姉となると、なんとなく会ってもないのにキャラクターが掴めてしまう。

 

「ダイドーの名誉のために補足しておきますが、彼女は妹とは異なりメイドとしての職務はしっかりとこなすことができます」

「そうか、じゃあ問題ないか」

「ですが……彼女はとても働き者です。過分なほどに」

 

 シェフィールドによると、ダイドーはメイドとしての能力はあるのだが、シリアスの姉だけあって忠誠心および奉仕精神が強すぎるきらいがあるのだという。そのため自らに課せられた職務が全て終わり、暇になってしまうとたまらず他のメイドの仕事を肩代わりしたがるというのだ。

 メイドというものはそれぞれ特定の分野に特化した能力を持っており、シェフィールドの場合は掃除、サフォークの場合は菓子作りと誰もが「自分が一番」と思える才能を持っている。それを門外漢の人物がやってしまえばどうなるか。少なくとも専門的な人物がやるほどの成果は期待できないだろう。

 

「彼女は役目を与えないと自分は不要なのではないか、と思ってしまうと推測されます。なので彼女が着任した場合はなるべく目を配らせておいてください。彼女の人となりを知るために秘書艦に据えるのもいいでしょう」

 

 この間着任した同じメイド隊のグラスゴーはシェフィールドをこう評していた。彼女は口は悪いけれどとてもいい子である、と。言葉尻に刺々しさはあるが常に仲間を、同じメイド隊のメンバーを見ているからこそこういう的確なアドバイスを送れるのだ。

 

「わかった、そうさせてもらう。ありがとう、シェフィールド」

「礼には及びません……それでは」

 

 そう言ってシェフィールドは部屋を出ようとする。クールで不愛想な彼女であるが、実は結構わかりやすいところもある。

 

「待った、シェフィールド」

「……なんですか、私にはまだ掃除が残っているのですが」

 

 指揮官はシェフィールドを呼び止めると、カーテンで窓を覆う。日中であるにも関わらず、指揮官室が薄闇に包まれる。指揮官とシェフィールドは互いに向き合った形となった。

 

「改めて言っておくけど、仲間が増えるのはいいことだし、それによってセイレーンやレッドアクシズ陣営との戦闘を有利に進めることができるだろう。だけど、新しいKAN-SENが来てくれたからといって、俺からシェフィールドへの信頼の厚さは変わらない」

「……」

「シェフィールドの左手薬指……それが俺の決意だ」

「よくもまあ白昼堂々からそんな恥ずかしい言葉を言えますね。その振る舞いは紳士的とは言い切れません。ですが……」

 

 そう言ってシェフィールドは指揮官に歩み寄ると、そっと彼の身体に己が身を預けた。自分は現メイド長のベルファストや先輩にあたるニューカッスルのように指揮官に対して優しく、素直に振る舞うことはできない。しかし、ベルファストもニューカッスルもまたシェフィールドになることもできない。シェフィールドにはシェフィールドだからこそできることがある。それを認識させてくれたのが他ならぬ指揮官だったのだ。

 

 

 

「……ご主人様、私はあなたを愛しています。KAN-SENとしてだけではなく、一つの命を与えられた者として。別れの時まで傍にいたい。その気持ちは私も変わりません」

 

 

 

 それだけを告げると、シェフィールドはそそくさと部屋を出て行ってしまった。この時の彼女がどのような顔をしていたかを知る者はシェフィールド自身であった。

 

 

 

 

 

―――ご主人様、好きです。大好きです。愛しております―――

 

 

 

 

 

 クールで不愛想なメイドは、仮面の下に熱い想いを秘めながら、今日も励み続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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