一人一つの性格《カテゴリー》   作:yourphone

12 / 17
『ソロジャー』使いの強者、小野寺常勝

「岡部! 邪魔をするな!」

「そうはいかないだろ! お前が勝とうとその子が勝とうとろくな結果にならない! ……ましてや、あの『DOD』のデュエルなんだぞ……!」

 

 息も絶え絶えに岡部は訴えてくる。車を入れられるギリギリの場所からここまで全力で走ってきたのだろう。

 俺も、岡部も、天野地草のデュエルを知っている。相対した者にしか分からないプレッシャーも身をもって理解している。

 そして『ダメージの実体化』というのがどういうものかも、同時に体験している。故に1ポイントのダメージも受けられない……のだが俺の最後の手札は『ピッグソロジャー』ではない。

 一撃ならば、或いは。しかし先程の『DOD―Star(スター) Dust(ダスト)』の攻撃は俺を一撃で葬る勢いだった。

 

「分かっている……だが!」

「なぁ、すまないがサレンダーしてくれないか? このままなら『DOD』の勝ちは揺るがないだろう―――」

 

 岡部は俺を無視して子供に語りかける。そこへ子供を守るように黒い竜が間に入る。

 

 岡部の言う通りだ。『ソロジャー』は手札一枚から逆転を狙えるテーマだが、それも自分フィールドのモンスターが全滅した場合の話。

 ダイヤウルフは縛られ、効果破壊に耐性を持たせた『ライオソロジャー』は効果を使えない上に攻撃力は1250で、あの竜を破壊出来ない。

 そしてあの竜はこちらのモンスターを無視して攻撃してくる。打破するカードは……一枚だけ入れた『ブラックホール』。ドローによるデッキ圧縮をあまりしないテーマなのが裏目に出ている。『チキンレース』を破壊しなければ……関係ない、か?

 俺がデュエルの状況に思考する間も岡部は説得を続ける。

 

「―――だが『DOD』の勝利は、すなわち相手の死を意味する。あいつは俺の戦友なんだ。……少々失礼な奴だが俺に免じて許してくれないか?」

「おい」

 

 お前だって子供には()かれないじゃないか!

 と、突然山が、フィールド魔法『強者の頂き』が消えていく。サレンダーしたのか。……なんだと?

 思わず迷彩柄のデュエルディスクを二度見する。やはりサレンダーにより俺の勝ちとなっている。

 それはつまりこの子供が岡部の言うことを聞いたということで。

 

「……お前、『心変わり』でも使ったか?」

「何が言いたい。いや、やっぱりいい。俺としてもびっくりだしな」

 

 ちっ、カロリーサモンのメェプル味は買っておくべきだったか!

 

 キイィィィィ―――

 

 黒き竜の離脱の準備がようやく完了したようだ。……『DOD』のモンスターは実体化ができる。だからデュエルが終了した後しばらくモンスターが残る事がある。幸い、デュエル外では『DOD』は破壊行動は行わない。

 

 イィィィイアァァァッ―――!

 

 咆哮を残し、黒き竜は何処かへと消え去った。相変わらずうるさいものだ……天野地草を見つけるにはうってつけな騒音ではあったがな。

 

「……しかし、まさか『DOD』の後継者が、この子とは」

「ああ」

 

 どうしたものか。前回、俺の『ソロジャー』が勝てたのは偶然か奇跡。それはこのデュエルで証明されてしまった。だが俺よりもデュエルが強い者はプロのデュエリストの中でもごくわずかだ。

 弱くとも、『DOD』は除外を活用するデッキだから除外を封じれば勝てる……だろう、か? どちらにせよ 基本的にメタを張るデュエリストは少ない……俺を含めてもな。

 

「いや、待て。そもそもお前がこの子をここへ連れてこなければ『DOD』は目覚めなかった筈だ。どうして連れてきた?」

 

 その言葉には若干の苛立ちが含まれている。怒鳴らないのは、何も考えずにこんなことをするとは思ってないからか。信頼されたものだ……いや、それなりの付き合いだ、当然か。

 

「『DOD』だけならば、それは実体化すれどカテゴリーの一つ、使わなければ結局ただのカードだ。現に、『DOD』のカードの一部は俺が保管してある」

「なにっ、いつの間に」

「真に警戒するべきは、奴のエース。災害のごときモンスターだ。……お前は知らないだろうがな」

 

 知る筈がない。あの『D O D』は、天野地草が次元を破壊する際にしか使わないカードなのだから。全てを無に返すあのカードは、な。

 

「つまり、そのエースカードを探していたと言うことか」

「ああ。あれは召喚条件が厳しく、特定のカードがフィールドに存在しなければ出てこない。その特定のカードの一枚とその子供がそっくりだったから―――」

 

 そう言いながら指差そうとしたが、子供の姿がない。

 

「おい! ガキはどこ行った!」

「なっ、ちょっと目を離した隙に!? だがそんな事をするような子では……」

「なら尚更危険だ!」

 

 ちくしょう、逃げられるなんて思ってもみなかった! 完全に裏をかかれた!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あるー日ー、森のー中ー、黒い手にー、掴まーれーたー。

 ……何これぇっ!? いやー! たす、助けてー!

 

「ごめんね“君”。こうでもしないと彼らに邪魔されちゃうから」

 

 僕の横から僕と同じくらいの年の男の子が声をかけてくる。僕を手招きして連れ出した犯人だ。

 っていうか本当にこのでっかい手はなんなの? 僕は握ってるのに男の子は手のひらに立たせてる。その状態で森の中を移動してる。

 暗くて顔は見えないけど髪が真っ白なのは分かる。染めてるのかな。

 

「ふふっ、“君”は寡黙だね。僕はペラペラ喋ってないと……特に誰かと二人きりの時は落ち着かなくてね。あぁ、僕は今のところ名前がないから、旅人と呼んでくれないかい?」

 

 良いけど、そもそも喋れないんだ。ごめんね。……くそぅ、なんか分かんないけどこの自称旅人くんの声を聞くと凄く落ち着く。

 

「あ、ここらへんでいいかな。Xing(クロジング) Diabolic(ディアボリック)

 

 手は森の中の少し開けた場所で止まり、そのまま次元の裂け目へと消えていった。裂け目が根元にあったせいで気付かなかった。

 次元の裂け目に、黒い見た目? それに名前が独特ってまさか。

 

「『DOD』……?」

「ん、やっと喋ってくれたね。そう、さっきのは『DOD―Xing Diabolic』。僕の……僕らの切り札さ。“君”は思い出せないかい?」

 

 ……。……はっ、ちょっと意識が飛んでた!

 明るい場所だからようやく顔を見れたけど、旅人くん、くっそイケメンだ! なんか重要そうな事言ってた気がするけど全然聞いてなかった!

 

「そっか。うん、まあそういう時もあるよね」

 

 え、どういう時? あーもー喋れないのが憎い! 聞き返すぐらいはさせてよ!

 

「うーん……“君”の『DOD』にも入ってなさそうだね。あの強い人が『DOD』の一部を持ってる、だったっけ。ふふふっ。耳は良いんだ、僕」

 

 ていうかずっとニコニコしてるね旅人くん。顔が動かない僕からしたら羨ましいよ。……旅人、旅人かぁ。なーんか合わないなぁ。旅してるようには見えないし。旅人くんに合わせて、“君”って呼ぼう。うん、こっちの方がしっくりくるね。

 

「ん? ……うわ、真っ直ぐこっちに来てる。これは困るなぁ」

 

 そんなことを“君”は言ってるけど、全然困ってるようには見えない。変わらずニコニコしてる。

 

「本当はもっと“君”とお話したいけど、仕方無い。“君”にお願いがあるんだ」

 

 なになに? “君”の頼みならなんでも聞いてあげるよ! 出来る限りの事しか出来ないけどね!

 

「あの強い人……小野寺さん、だったかな? その人が持っている『DOD』を回収して欲しいんだ。恐らく自宅の机とか隠し部屋とかにある筈だからね。……きっと、僕らの力になる」

 

 了解! ……って、ええ!? 難しくない!? そもそも僕小野寺さんの家知らないよ?

 

「大丈夫、運命は僕らを祝福してくれる。さぁ、行くんだ」

 

 “君”が指差す方向に顔を向けると、小野寺さんと警察さんが飛び出してきた。凄い必死な表情で、ちょっと……凄く、怖いよ。

 

「居たぞ! ……む!」

「何者だ貴様!」

 

 今更だけど、二人ともゴツい体格にサングラスをかけてるせいでより怖いんだよね……。

 

「僕は旅人。次元を越える者の……後継者だよ」

 

 おお、カッコいい! でも次元を越える者ってもしかして。

 

「天野地草の後継者だと? ならば、悪さをしないうちに懲らしめておくか」

「岡部! もし本当に天野地草の後継者というならばお前には荷が重い! ここは俺が―――」

 

 一歩前に出た警察さんの肩を小野寺さんが掴む。けど警察さんは軽く振り払う。

 

「お前はさっきのデュエルで消耗している。でなければこんな足場の悪い場所で俺とお前が並走なぞ出来る訳がない」

「ぐっ……」

「お前はあの子を保護しろ! あの子も『DOD』を扱える以上、あいつの側に居させるのは危険だ!」

 

 “君”をあいつ呼ばわりって! むうぅ、警察さんってそういうとこあるよね!

 そう(いきどお)っていたらデュエルが始まった。先攻は、警察さんだ。

 

「俺のターン! 『GM Hyw』を召喚! 効果発動!」

「うん」

 

 警察さんのデュエルディスクはスタンダードなもので銀色が鈍く光ってる。対して“君”のデュエルディスクは髪と真逆の黒。刺々しくて腕を振ればそのまま武器になりそう。

 ……ん? でもさっきまで“君”はデュエルディスクを付けてなかったよ? んー?

 

「モンスターを宣言! さあ手札を一枚見させてもらうぞ!」

「どうぞどうぞ」

 

 なんだろうな。どうやら“君”の『DOD』と僕の『DOD』はちょっと違うみたいだし、このデュエルは見届けたい。

 デュエルをじっと見てたら、急な浮遊感。小脇を抱えられたらしい。見上げるとサングラスの怖い顔。思わず失神するところだったね。

 

「よし、岡部! 子供は回収した!」

「魔法か……ドローしろ! お前は逃げろ! 時間稼ぎぐらい出来る! いくぞ、相手の手札が六枚以上ある時、『GM Alfe』は特殊召喚可能!」

 

 僕が確認出来たのはそこまで。結局“君”がどんなカードを使うのか見れなかった。

 

 

 けど、またすぐ会おうね。

 

 会えるよね?




『ソロジャー』
この次元において最強に近いカテゴリー。レベル4の『ソロジャー』モンスターは一体のみの場合において力を発揮でき、全てモンスターを装備して自身の攻撃力を上げるという効果を持つ。
逆に言えばトークンや壊獣などを送りつけられると本来の動きが出来ずじり貧となってしまう。
対応するために汎用性の高いモンスターをエクストラデッキに入れるか、全体破壊できるカードをデッキへ入れるといい。
幸い、獣族と獣戦士族のモンスターのみなので種族サポートは豊富にある。モンスター一体でも火力のでるカテゴリーなので相手の展開を待たず一気に攻めよう。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。