デュエル無しが二連続なのは今回と最終回だけにしようと思います。
五枚ドロー! えぇと、『カードカー・D』『チキンレース』『闇の誘惑』『闇の誘惑』『闇の誘惑』……固まるのは変わらずかぁ。うーん。
「……」
僕は小野寺さんに連れてこられたこの場所、こざっぱりした部屋に軟禁されてる。あの後車の中で寝ちゃったからなぁ。ここが何処だか分からない。警察さんと“君”のデュエルもどうなったのか……。
寝て冷静になったから分かるけど、名も無い“君”と出会った時の僕は暴走気味だった。お世話になった警察さんが負けてもいいやと思ってしまうぐらいには。それがちょっと怖い。
だけど冷静になった今でも“君”の言葉は覚えてるし囚われてる。だからこの場所、小野寺さんの家に居ても慌ててないどころかラッキーって考えてる。おかしい……よね。実は僕こっそり洗脳されてたりしない?
「……」
まぁそれはそれとして話は変わるけど、『DOD』がさ。デッキトップに来ないの。絶対来ないの。
いやまぁイカサマすればね? デッキトップを確定させたら、それがいつの間にか変わってる、なんてことは無いんだけど。ランダムシャッフルだと必ず下に行っちゃう。だから汎用カードがドローカードばっかりなんだろうね。
「……」
……。あのー、メイドさん? そんなじっと見られるとちょっと恥ずかしいというか気になるというか。
「どうか致しましたか?」
こっちのセリフだよ! 可愛らしく小首かしげても騙されないよこの
「まだおやつの時間ではありませんよ?」
お腹はすいてないよーだ! うぅー、この見張りがあるせいで部屋の外で自由に出来ない。
っていうか気になるから食事の時は一人にさせてよ食べるところ見られるのは気まずいよ! あと着替えぐらい自分でできるよ! トイレにまで付いてこないでよ! ……よ、夜は付いてきてもよし!
んー、でもよく考えたら小野寺さんってメイドさんを雇うぐらい裕福なのか……それともそういう趣味? 黒髪ツインテールなだけのテンプレートなメイドさんが好きなの? うーん、ドン引き。
まぁ僕が見たメイドさんはこの人と食事運んでくる人だけだけど。
あと、この人いつ食事してるんだろう。僕が起きてる間は何も食べてないんだよね。少なくとも何かを食べてる姿は見たことない。
「……そんなに見つめられると、照れます」
もー、無表情でそんな事言って! 僕も人の事言えないけどさ! もう無視する!
といっても暇なんだよね。ご飯を食べるか『DOD』を眺めるか、あとはそれこそメイドさんを見るしかやれることがない。
メイドさんデュエルしてくれないしなー。まあでも手持ちのデッキ、『DOD』と『ウリア』しかないからデュエルしなくていいや。『サイレント』と『メタファイズ』と『破壊剣』は警察さんの所に置きっぱ。スケッチブックとかが入ってるバックと一緒にね。
だから意志疎通出来ない。せめて紙とペンがあればなぁ。それを伝える事も出来ない。
いや、試したんだよ? なんとか伝えられないかなって、身ぶり手振りでお絵かきしたいなーって。
無理だったね。うん。清々しいまでに伝わらなかったよ。わざとなんじゃないかと思うくらい分かってくれなかったね。
ほんっとこのメイドさん嫌い。
ポーン、ポーン
「おやつの時間です。ココアとマシュマロ、そして焼きプリンです」
わーい、おやつだー!
軟禁生活が始まって三日たった。今、僕は、小野寺さんの私室に忍び込んでいる。
なんでも警察さんが怪我で病院に居るらしい。お見舞いに行きたいけど我慢。
この情報を知った例のメイドさんが慌てて何処かに行ったから、僕はこの部屋に来れた。何かに呼ばれてる感じ。
「……!」
有った、『DOD』のカード! 金庫をガチャガチャしてたら急に開いちゃった! セキュリティ大丈夫?
えぇーっと、二枚あってどっちもペンデュラムモンスター。片方は『DOD―
もう片方は―――
「ここにも無い、か」
うおわぁっ!? き、き、“君”!? ビックリした、何処から入ってきたの!?
「なら何処に? まだあの場所に隠されて……?」
あれ? おーい。僕はここに居るよ? そんな悲しそうな顔しないで?
「となると……そうだな。じゃあ、“君”はその鍵を持っててくれる? 僕はそっちの鍵を持ってるから」
“君”はそう言って僕から『DOD―Pent in Dream』を取る。カードじゃなくて、鍵?
「そうそう、“君”がもっと『DOD』の扱いに慣れれば、もっと面白い事が出来るんだよ。こんな風に」
“君”が片手を上げると、その後ろの空間が十字に切り裂かれ、次元の裂け目が出来る。……うえぇぇっ!?
「場所さえ分かればいつでも会いに行けるんだ。……まぁ僕もまだまだ慣れてないから、そう頻繁には使えないけど」
あ、そっか! 急に出てきたのは来るときもこれを使ったからか!
ねえねえ、僕も連れてって! 一緒に居ようよ!
僕は“君”の服を、黒いローブの裾を掴む。声が出せないから、行動で示すしかない。
「……なんだい?」
“君”は変わらない悲しそうな顔で僕を見てくる。……一緒に居よ? “君”は、僕の事を知ってるから。『DOD』の事を知ってるから。僕は“君”の力になりたいんだ。
「離してくれないかな。これを開き続けるのも結構疲れるんだ」
“君”の顔が、ゆっくりと、無表情になっていく。僕と同じ……うぅん、違う。僕の表情が仮面だとすれば、“君”のそれは仮面が剥がれた後の……。
「あぁ、一緒に居たいのかい? 僕らには探し物があるんだ。それを見つけなきゃいけない。その為には二手に別れた方が都合がいいんだ。だから、ね?」
声は優しいのに、顔は冷たい。それが悲しくて悲しくて、でも僕には何も出来なくて。
仮面を外せない僕には、“君”を軽く抱きしめるしかなかった。
瞬間、何かの記憶と繋がった……気がした。
「……気は済んだかい? それじゃあ、またね」
うん、大丈夫。僕は……なるべく間違えないようにするよ。
またね、“君”。僕と一緒に天野地草から追い出された、僕の半身。
“君”の姿が裂け目の中へと消え、裂け目は閉じられる。
僕も行かないと。でも何処へ? んー……。とにかくこの家(すっごい広い豪邸だった)から脱出しよう!
『DOD』
天野地草が生み出したカテゴリー。除外を活用し、永続罠を多様する。
シンクロモンスターの『DOD―Star Dust』は相手のモンスターを無視してダイレクトアタックができ、更に自身の効果により場持ちがいい。
しかし『DOD』は主人公の持つものとは別にもうひとつある。そちらは『DOD―Xing Diabolic』というモンスターの名前だけ判明している。