一人一つの性格《カテゴリー》   作:yourphone

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『DOD』使いの絶望、僕

 ギャハハハハハハハハッ!

 

 キイィィィィアァァァァッ!

 

 グルアァァァァァッ!

 

 DODたちは最後に激しく勝鬨(かちどき)をあげてから各々、次元の裂け目から帰っていった。ああ、うるさかった。うるさすぎて途中から頭が働かなくなってたよ。

 デュエル中と打って変わって静かになった広場で一人、呼吸を整える。疲れたぁー。

 

 ん、あれ? 一人? あいつは、誘拐犯は? うーん、居ない。どこにも居ない。影も形も無い。

 

 いや。一つだけある。それはデュエルディスク。誘拐犯が着けてたやつ……。

 

 誘拐犯、どこに行ったんだろう。“君”が連れていったとか? でもデッキを置いていくなんて無用心というかなんというか―――

 

「素晴らしい」

 

 後ろからパチパチと拍手の音。振り返ると、そこにはいつの間にか“君”が居る。多分裂け目から出てきたんだろう。

 僕相手に取り繕うのはやめたのか無表情だ。それとも、忘れてるとか?

 

「良いね。これで君も天野地草の力を正しく理解した訳だ」

 

 え? 急にどうしたの? 天野地草の力って……。

 

「今の君ならデュエルディスクを使わなくても『DOD』たちを実体化出来るし、彼らの力を借りて次元の裂け目を作ることも出来る。当然、この世界を攻撃することもね。

 さあ、行こう。僕たちなら天野地草の意思を継げる」

 

 き、“君”? 何を言ってるの? そんな怖いこと僕はしないよ? する筈ないでしょ。だってこの世界には、大事な友達……が……。

 そもそも! そんな力使える訳ないでしょ!

 

「うん? なんだい?」

 

 ふるふると首を振る。“君”に着いていきたいよ? でも出来ないのは出来ないよ。

 すると“君”はこてんと首を傾げる。かわいい。

 

「……もしかして気づいてないのかい? 君の手で彼を消したんじゃないか」

 

 そう言って“君”は落ちているデュエルディスクを指差す。

 

「ほら、よく見て。デッキはどうなってる?」

 

 “君”はそっと僕の肩に手を置き、耳元でささやく。

 デッキは、デュエルディスクに入って……ない。散らばってる。……絵が、消えてる?

 

「じゃあそのカードの周りには何がある?」

 

 散らばったカードたち。雑草。土。服。……服?

 これは、この服は……見たことある。

 

「見つけたね? そう、彼の服だ。

 彼は良い仕事をしてくれたよ。二度も君を見つけるだけじゃなく、君の力も引き出してくれた。それに見合う報酬は渡したけどね。君の前では無力だった。

 ……僕が渡した報酬(ハウシサイド)ごと君が消したんだ。楽しかった?」

 

 違う、僕はそんなつもりじゃ! ただ襲われたから、だから!

 

 大丈夫。君は悪くない。いずれこうなる運命だったんだ。

 

 でも! 人を消すなんて!

 

 良いじゃないか。彼は悪人。消えて喜ぶ人は居ても悲しむ人は居ないよ。

 

 そういう事じゃない!

 

 もう起こってしまった事だよ。起こった事を無くすことは出来ない。この事を前向きに捉えよう。

 

 やだ、やだやだやだ! 僕は怖い事したくない! 誰かを傷つけたい訳じゃない!

 

 

 その言葉は、もう遅いんじゃないかな。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あ……」

「……」

 

 その男子は頭を抱えてうずくまる少女を見ていた。少女の周りには黒い霧が漂っている。

 

(やっぱり君に対しては効きが悪い。……逆に言えば君自身の意思でこちらへと来てくれるということ。それに、もうほとんど堕ちてる)

 

 彼には名前が無い。だから『駒』やこの彼女には旅人と名乗っている。

 彼には感情が無い。だから唯一の使命である『天野地草の意思』を継ぐ事に拒否感も嫌悪感も無かった。

 だが……片割れである彼女には感情があるようだ。

 

(それも当然か。僕らは元々一つ。天野地草を二分(にぶ)した存在。随分極端に分けられたから、天野地草の『感情』は全て君に、『表情』は全て僕にというようになったんだろう。

 当然、デッキも―――)

 

 誰かの足音が広場に聞こえてくる。彼は、彼女を連れて逃げようと手を上げるが、一瞬の思考の後に何もせず手を下ろす。

 彼女にまとわりつく闇は彼女に決心させる彼からの手助け。今、逃走の為に力を使うとなるとその闇は一旦しまわなくてはならない。折角もう少しで決心してくれるのだから現状維持を貫く。

 それに、大抵の相手なら彼自身が対処できる。簡単だ。

 

「「 あ、師匠! 」」

「おや、君は……」

 

 駆け足でやってきたのは女子。恐らく小学生。顔が二つある奇形児で、彼女(たち)の事を彼は知っている。

 

「失礼、君たちは佐藤姉妹だね。彼女の友達の」

「あっ師匠のお知り合いですか?」

「師匠大丈夫!?」

 

 大人しくて丁寧な方は何故だか良かった良かったと胸をなで下ろしている。

 そして元気な方は彼女の様子がおかしい事に気付いている。

 

「う……二人…は……」

「え? 今の師匠の声!? 喋ったぁっ!?」

「逃げ……」

 

 そのまま少女は闇に呑まれる。辛うじて顔は出ているが、体は昼前だというのに暗い広場の影に溶け込んでいる。

 

「って師匠!? どうしたの師匠!」

「あなた! 師匠に何をしたの!?」

「はいはい、静かに」

 

 子供特有の甲高い声でまくしたてられるが彼は動じず、手を鳴らして注目させる。

 

「な、なに?」

「君たちは彼女の親友、心の支えだったから特別に教えてあげよう。彼女は今から自分を取り戻すんだ……君たちの消滅という形でね」

「「……え?」」

 

 少年は真っ黒なデュエルディスクを構える。その顔に表情はない。

 

「さあ、やろうじゃないか」

「お姉ちゃん逃げよう、嫌な感じがする!」

「それはやだ! 師匠を助ける!」

「お姉ちゃん……分かった!」

 

 異形の双子は異質な少年の挑戦を受ける。きっと何も知らぬまま、ただ自分たちの為だけ(謝りたいだけなの)に。


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