僕はベンチに座っている。目の前で子供たちがデュエルしているね。
「ぼくは3体のモンスターをリリースして、『神獣王バルバロス』をアドバンス召喚だ!」
「うげっ!」
「バルバロスの効果だ! 吹き飛ばせぇ!」
「うわあぁっ!」
バルバロスが放つ暴風が少し離れていた僕の元まで届く。……これ、近くに居たら立ってられない強さなんだけど?
それはともかく、あのデュエルは決まったね。『
「―――っ」
でもあの変な話し方の女の人が少し改造してEXモンスターゾーンが付いた。うん、凄かった。僕がこれを捨てて欲しくないって書いたらパパパッと、何してるのか分からなかったけどEXモンスターゾーンがくっついてた。ドーム部分を押してもゆっくり開閉されるようになってたし、あの人カッコいいなー。
で、なんでこの公園に居るかっていうのはね、僕の記憶が戻るかもしれないって警察さんに言われたんだ。
僕が倒れていたのはこの公園で、もしかしたら何か思い出したり僕の事を知っている人が居るかもしれないと言ってた。
僕は何者なんだろう。どうして生きているんだろう。
―――なんて考えは僕には難しい。そんな事を考えられる程僕は賢くないみたいだ。
「お姉ちゃんもうやめようよぉ」
「やだ! ゆーかいはんを見つけて、絶対に見返してやるんだから!」
「!」
うわっ、急に後ろから声が聞こえてきてビックリした。
「無理だってばぁ。危ないし怒られちゃうよ?」
「ゆーかいはんだってデュエルすれば倒せるよ!」
「じゃあ何処に居るの?」
「うっ……」
誘拐犯、誘拐犯かぁ。怖いなぁ。そんな危ない人に捕まる前に戻った方が良いかも。そう思ってベンチから立つ。
「きっとこの辺りに……そう、その人がゆーかいはんだ!」
え、誘拐犯近くに居るの? ヤバい、さっさと逃げよう!
「こら! 逃げるな悪者!」
「え、お姉ちゃん!?」
公園から逃げようとした僕の腕が捕まれる。……ん? あれ、僕なんで捕まってるのかな?
恐る恐る後ろを見る。
「捕まえたぁっ!」
「ひいぃっ、ごめんなさいごめんなさいお姉ちゃんがごめんなさい!」
「…………!?」
僕よりも小さい女の子が1人、僕を捕まえていた。どうやら僕を噂の誘拐犯だと勘違いしたみたいだ、うん。
そんなことがどうでもよくなる光景なんだ。問題はそんなところじゃなくて、その女の子の後ろに他の子供が居ないところだ。
……でも、女の子の声は2人分なんだ。
Q.女の子が1人、声は2人。なーんだ。腹話術じゃないし声真似とかでも無いよ!
A.『ツイン・フォトン・リザード』
「さあデュエルだ!」
「ごめんなさいお姉ちゃんこうなったら止められないんですー!」
デュエルディスクを構えた女の子には瓜二つな顔が2つあった。
顔というか首が2つある。何を言っているか分からないだろうけど僕も理解出来てない。に、人間ですか?
「ボーッとしてるなら私の先攻!」
「!」
慌ててデュエルディスクを構える。デッキは……あ、これか。手札が悪いや。
「『
『ハードアイズ』ってまた知らないカテゴリー!
『
レベル4 闇属性 戦士族 ペンデュラム
ATK1000 DFE1000 ◇5
《このカード名の効果は1ターンに1度しか発動できない。
①1ターンに1度、もう片方のPスケールにカードが存在しない場合に発動できる。デッキから『心の眼の魔術師』をPスケールに置く。その後デッキから『ハートアイズ』カードまたは『下降薬』を手札に加える》
とある密命を受け弱き龍を捕獲する騎士。その手に持つは緑色の薬……。(通常モンスター)
「『心の眼の騎士』の効果です。デッキから『
『
レベル4 闇属性 魔法使い族 ペンデュラム
ATK1000 DFE1000 ◇7
《このカード名の効果は1ターンに1度しか発動できない。
①もう片方のPスケールにカードが存在しない場合に発動できる。デッキから『心の眼の騎士』をPスケールに置く。その後デッキから『ハートアイズ』カードまたは『上昇薬』を手札に加える》
とある密命を受け弱き龍を捕獲する魔術師。その手に持つは赤色の薬……。(通常モンスター)
『
このカード名の効果は1ターンに1度しか発動できない。
①自分フィールド上のカード1枚を破壊して発動できる。デッキ・墓地から『ハートアイズ』モンスター1枚と『上昇薬』または『下降薬』1枚を手札に加える。
あれ……『ハー《ト》アイズ』? 『ハー《ド》アイズ』じゃないのか……紛らわしいなぁっ!
っと、それよりもスケールが揃った!
「『可愛いお目々の悲劇』を使うよ!」
「『心の眼の騎士』を破壊して、『
『
レベル6 光属性 ドラゴン族
ATK0 DFE1800
このカード名の①②③の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか発動できない。
①デッキから『ハートアイズ』モンスター1枚を手札に加える。
②デッキから『上昇薬』または『下降薬』1枚を手札に加える。
③墓地のレベル6通常モンスター1体を守備表示で特殊召喚する。
『下降薬』
装備魔法
『ハートアイズ』モンスターにのみ装備可能。
①装備モンスターは他の魔法カードの効果を受けない。
②自分フィールド上に存在する『
一瞬でスケールが無くなった。それに、名前に似合わずパワーカードだったし……ん? そう言えば今破壊された『心の眼の騎士』って『心の眼の魔術師』を呼び出していたような。
「スケールが無くなったから『心の眼の魔術師』の効果だー! 『心の眼の騎士』を呼び出して『
『可愛いお目々の桃色龍』
レベル6 光属性 ドラゴン族
ATK1800 DFE1600
桃色ゆえに他のドラゴンたちから襲われるドラゴン。ある日人間たちに捕まってしまい、怪しい薬を飲まされる……。(通常モンスター)
やっぱり! 手札1枚からこんなにアドバンテージを取るなんてずるい! 気付けば手札7枚になってるし!
「スケールは5と7……ペンデュラム召喚!」
「『可愛いお目々の桃色龍』2体、『可愛いお目々の休息龍』を1体です。そして『可愛いお目々の休息龍』の効果発動」
「ええーと、②の効果! デッキから『上昇薬』を手札に!」
『上昇薬』
装備魔法
『ハートアイズ』モンスターにのみ装備可能。
①装備モンスターの攻撃力はレベル×100ポイントアップする。
②自分フィールド上に存在する『
わ、その、うん。ぼんやり見てたけど、この調子だと悪い筈の手札が最高の手札になる。
「片方の『可愛いお目々の桃色龍』に『上昇薬』!」
「もう片方に『下降薬』を装備です」
桃色の鱗にハートの目をした龍が薬を一気飲みする。片方は若干赤くなってピョンピョン飛んでいる。頭の周りに星が
……ってそれ絶対危ないお薬じゃん! 何てもの飲ませてるのさ!?
「『上昇薬』の効果!」
「お姉ちゃん、先に『下降薬』でしょ」
「先攻だし関係無いでしょ? 『上昇薬』と、これを装備している『可愛いお目々の桃色龍』を墓地へ送って進化だ!」
姉妹(?)で少し言い合ってから装備魔法の効果が発動される。片方の龍は元気よく空へと飛び立つ。
「弾けたテンション、飛び出すファイアー、薬が回るは『
空から降り立ったのは赤い鱗の龍。滅茶苦茶な方向へ咆哮している。
これ絶対危ないお薬だー!
『
レベル6 光属性 ドラゴン族
ATK1800 DFE1600
このモンスターは通常召喚できず、『上昇薬』の効果でのみ特殊召喚できる。
①自分フィールド上のモンスターの攻撃力・守備力はそのモンスターのレベル×100アップする。
②1ターンに1度ライフを1000払って発動できる。フィールドのモンスター1枚を選んで破壊する。
③このモンスターが破壊された場合、自分の墓地のレベル6モンスター1枚を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。
「もぅ、お姉ちゃんは勝手なんだから……『下降薬』の効果です。『可愛いお目々の桃色龍』とそれに装備されている『下降薬』を墓地へ」
今度は項垂れていた龍が丸くなる。どんどん色が煤けていって……え、ヤバいよ?
「駆け巡る悲劇、落ちる涙、薬が回るは『
『
レベル6 闇属性 ドラゴン族
ATK1800 DFE1600
このモンスターは通常召喚できず、『下降薬』の効果でのみ特殊召喚できる。
①自分フィールド上に表側で存在するモンスターは相手の魔法カードの効果を受けない。
②1ターンに1度発動できる。自分のライフを1000回復する。
③このモンスターが破壊された場合、自分の墓地のレベル6モンスター1枚を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。
もう……召喚口上だけで涙が出てくるよ……。
その2体に囲まれている『可愛いお目々の休息龍』はほんわかとした雰囲気を崩さない……え、休息してるんだよね? お薬で無理矢理じゃないよね!?
「どうする? このまま出しちゃう?」
「それは弱いよお姉ちゃん。1枚伏せてターンエンド」
なんか不穏な事言ってたけど……。
「ドロー」
さてさてとにかくようやく僕のターンだ。本当はこのデッキ、先攻を取りたいんだけど……仕方無い。
「あ、そうだった。覚醒龍の効果で私たちのフィールドのモンスターの攻撃力・守備力はレベル×100アップしてるよ!」
「それに、滅気龍の効果で表側のモンスターはそちらの魔法の効果を受けません」
む、魔法カードが効かないのは……ちょっと計画が崩れるね。けど相手にとって残念なことにドローカードが良いカードだ。
「メイン。『破壊剣士の伴竜』」
っていうかこの子が来なかったら本当に何も出来なかったね。
「わあ、可愛い!」
「ドラゴン族……あっちもドラゴンデッキなのかな?」
キューキュー鳴く伴龍に目を輝かせる女の子(たち?)。……でもあの反応、多分このデッキの事知らないね?
じゃなきゃ『可愛い』なんて言ってられないし。
「『破壊剣士の伴竜』、『破壊剣―ドラゴン・バスターブレード』」
召喚で万能サーチ。で、このデッキのメインモンスターは既に手札にある。……2枚。事故りすぎだー!
「『破壊剣士の伴竜』、『バスター・ブレーダー』」
伴龍はリリースする事で手札の『バスター・ブレーダー』を特殊召喚出来る。ただし『破壊剣の使い手―バスター・ブレーダー』はフィールドか墓地に居ないと『バスター・ブレーダー』として扱わないから注意しないといけない。
……手札に来ちゃったんだけどね。どうやって墓地に送ろうか。
まぁ、とにかくシンクロしようか
「『破壊剣―ドラゴン・バスターブレード』、『破壊剣―ドラゴン・バスターブレード』、『破戒蛮龍―バスター・ドラゴン』」
一応動きを確認しておこうかな。まず『バスター・ブレーダー』に『破壊剣―バスター・ブレード』を装備してから特殊召喚、シンクロした。
『破壊蛮龍―バスター・ドラゴン』の効果の一つ、『相手をドラゴン族にする』というのは意味がないけど……
「『破壊蛮龍―バスター・ドラゴン』、『バスター・ブレイダー』」
墓地蘇生ならいくらでも。さーて、と。
「『破壊剣士融合』」
二人(?)には悪いけど地獄を見て貰うよ!
蛮龍の意思を受け継ぎし剣士よ! その力をもって頂点をねじ伏せろ! 融合召喚!
「『龍破壊の剣士―バスター・ブレイダー』」
長大な剣を持った剣士が立ちはだかる。おお、背が高くて大きくて凄く頼もしい! けどそのずんぐりとした鎧は結構動きにくそうだね。
融合バスター・ブレイダーは剣を天高く掲げる。すると剣から謎のオーラが放たれ女の子(たち…?)の竜は本能のままにひれ伏す。
うーん……ひれ伏してるのがあの薬漬けの竜たちだから……とても……うん、申し訳なく思うよ……。
「え!? なんで……」
「思い出した! お姉ちゃんヤバいヤバいこのままじゃ負けちゃう!」
あ、妹(?)の方は『破壊剣』の事を知ってるみたいだね。けど手は抜かないよ!
「バトル。『竜破壊の剣士―バスター・ブレイダー』、『可愛いお目々の覚醒龍』」
融合バスター・ブレイダーはその剣の切っ先を赤い鱗をキラッキラさせている竜に向ける。……守備表示、だよね? 気絶してるみたいなんだけど……いや。そうか、そうだ! ここで倒してあの怪しいお薬を体から抜こう!
相手の墓地にドラゴン族が二体、フィールドに三体もいるから、融合バスター・ブレイダーの攻撃力は2800+5000の7800!
対して覚醒龍の守備力は1600+600の2200!
「スラッシュ・ドラゴン・バスター」
融合バスター・ブレイダーが気絶している竜に突撃、真っ二つに斬る。
喰らえ、貫通だぁっ!
「うわあっ!?」
「きゃうっ!」
よーし……これで5600もの大ダメージ!
「いったた……破壊された『可愛いお目々の覚醒龍』の効果発動! 墓地に存在する『可愛いお目々の桃色龍』を蘇生させるっ! ……あれ?」
「お姉ちゃん! バスター・ブレイダーはドラゴン族の効果を使わせてくれないんだよ!」
「ええっ!?」
うん、その、ごめんね? このデッキなのは偶然なんだけど……。
カードを二枚伏せ……いや、片方は良いか。一枚伏せてターンを終了する。
「むっぐぐぐ……やるね!」
「お姉ちゃんサレンダーしようよぉ……私たちのドラゴンじゃ勝てないよぉ……」
女の子の妹の方は泣きべそをかきながら姉に訴えるけど姉の方はまだまだやる気だ。『ブラックホール』でも入ってるのかな……?
「ドロー!」
「うぅ……スタンバイフェイズにトラップカード! 『八咫烏の骸』! 一枚、ドロー!」
おぉう。一枚ドローする罠カードって……珍しいというか、確かに小学生っぽいというか……。それでも手札四枚なのは怖いね。
「……あ、これ!」
「うん、もしかしたら行けるかも!」
ん、何か良いカードでも引けたみたいだね。……でも、どんなカードなんだろう?
「魔法カード発動!」
「『盗人ゴブリン』です!」
……へ? 『盗人ゴブリン』? え、え、何?
「ライフを500、貰うね!」
「いただきます!」
あ、女の子たちのところに例のゴブリンが。バックを二人(ん、一人?)に渡してペコペコしてる……って! それ僕のバック!? ちゃんと背負ってたのにいつの間にっ!
「カードをセットします!」
「『ロード・オブ・ドラゴン―ドラゴンの支配者―』召喚っ! ……ターンエンド!」
うん? 何もしてこなかった……ってだから僕のバッグ返してよぉっ!
「あ、お姉ちゃん。これどうしよう」
「え? あ、気付かなかった。はい」
うんありがとう。良い子達だ……でもデュエルでは容赦しないよ?
「ドロー」
デュエルディスクを確認したら僕のライフが500減ってた。女の子の言葉からして、恐らく僕のライフ500を女の子たちが吸った……じゃなくて
あ、何となくやりたい事が分かったかも。
「スタンバイ。『破壊剣士融合』」
墓地の『破壊剣士融合』の効果を発動して、手札の『破壊剣一閃』を捨てて回収。これで『破壊輪』は怖くなくなった……ちょっと待って。それならもう使ってるよね? うーん。
セットしたし恐らく罠カード……いや、こっちのバトルフェイズにしか使えない速攻魔法?
うーん、分かんないや!
「バトル。『竜破壊の剣士―バスター・ブレイダー』、『可愛いお目々の滅気龍』。スラッシュ・ドラゴン・バスター」
融合バスター・ブレイダーが剣を振り上げ、うずくまりガタガタ震える竜へと斬りかかる。ごめんね……すぐ楽にしてあげるから!
「ここだあっ! トラップ!」
「『業炎のバリア―ファイヤー・フォース―』です!」
うげぇっ!? これが返しの一手!
むむむ……破壊されても全然大丈夫だけど……確か、破壊されたモンスターたちの元々の攻撃力の合計の半分をお互いにくらう……だったっけ? じゃあ、僕はこれで返させてもらうよ!
「『破壊剣の追憶』、『バスター・ブレイダー』」
手札の『破壊剣の使い手―バスター・ブレイダー』を捨てて、デッキから『バスター・ブレイダー』を特殊召喚する。
「え、え? なんで、破壊されちゃうのに!」
僕と女の子との中心部に球体状の爆炎が現れ、僕のバスター・ブレイダーたちが炎に飲み込まれる。
うぁついぃぃぃっ!?
「「きゃあああっ!」」
融合バスター・ブレイダーの攻撃力が2800、バスター・ブレイダーの攻撃力が2600だからお互いに2700ダメージ! ……女の子(たち)、『盗人ゴブリン』使ってなかったら負けてたね。残りライフ200か。
うん、ごめんね。
「『破壊剣の追憶』、『竜破壊の剣士―バスター・ブレイダー』」
「……え?」
罠カードによる墓地融合。除外するのは『バスター・ブレイダー』と『破壊剣―ドラゴン・バスター・ブレイド』。
「スラッシュ・ドラゴン・バスター」
『竜破壊の剣士―バスター・ブレイダー』が竜を切り裂く。
……うーん。うーーん。うん、その、メタっちゃってごめんね?