「が、は……」
デュエルで負けるなんて、旅人とやったあの時以来じゃねぇか……!?
俺様のモンスターたちが軽くねじふせられた……あんなガキに!
ガキは無表情に俺様を見てくる。ちくしょう、ガキのくせに、ガキのくせにガキのくせにガキのくせに!
幻魔なんて使いやがって、だったらもっと徹底的に潰してやったのによぉっ! 今すぐにだってヤってやりてぇ!
だが……くそっ、あの幻魔のせいで体が動かねぇっ!
くそっ、くそっくそっくそっ!
「おい大丈夫か!? ……杞憂だったようだな」
無駄にごつい警察まで来やがった……あぁくそっ!
警察に無理矢理立たされるが暴れる気力がねぇ。
「てめぇっ! 覚えてやがれ! ぜってぇぶっ潰してやる!」
「黙れ!さぁ逮捕だ! ―――あーこちら岡田。犯人を現行犯逮捕した。応援頼む」
見慣れた手錠を嵌められる。ちっ……だが次は絶対、潰して、削って、なぶって、最後に笑いながら殺してやる!
くはぁ……疲れたぁ……。何故か分からないけど、デュエル終わったとたんに凄い長い距離を走ったみたいになって、動けない。誘拐犯に逆ギレされて攻撃されなくて良かった。
あ、もう立ってられないや。脱力するように座り込む。
「「あの!」」
んー? もう首を動かすだけでも辛いんだけど……あ、あの姉妹(?)だ。
「「助けてくれてありがとうございます!」」
いーよいーよ。困った時はお互い様だよ。……って喋れればいいんだけど。バックも無いし紙もペンも無い。この子たちが親切にも持ってってくれたみたい。
仕方無く首だけを振る。気にしないで。
「その、どうお礼すればいいのか……」
「あなたすっごいデュエル強いねー! ねっねっ、デュエル教えて!」
ありゃ、妹さんは僕にお礼したいみたい。お姉さんの方はデュエルしたいの?
「もー、お姉ちゃんは……」
「さっきのでっかい龍凄かったよ! ねえねえ、なんていうモンスターなの? 私たちにも見せてよ!」
ごめんね、流石にもう一回はしたくないかな。っていうかウリアはだめ、封印! 二度と出してあげない!
首を振る。
「え~」
「お姉ちゃん落ち着いて! 先にお礼しなくちゃ!」
妹ちゃんも結構頑固だね?
留置場。
堅牢に作られたその中で
「……どうせ居るんだろ~旅人さんよぉ~」
「まぁね」
十式が虚空に向かって呟くと、目の前に闇が現れそこから楽しげな声が聞こえてきた。
そうして、闇の中から少年が歩き出てくる。
「また捕まったんだね」
「……まぁな。ふざけたガキが居やがったぜぇ」
十式は苦々しげに壁を叩く。その様子を見て少年はニコニコとした声で質問する。
「どんなカテゴリーだったの? ハウシサイドはそう簡単には負けない筈だけど」
「ウリア」
「ん?」
少年はよく聞こえなかったと聞き返す。十式はイライラしつつも言い直す。
「罠モンスターを基本にしたウリアだ。しかも芝刈り型」
「ウリア……幻魔かぁ」
少年はうんうんと頷く。
「じゃ、その子頂戴」
「……なんだって?」
今度は十式が聞き返す事になった。
「はいコレ、ハウシサイドの新しい力」
「……良いのか? 俺は一度負けてんだぜぇ~?」
十二枚のカードを渡してくる少年に、十式は疑問の声をあげる。
十式に旅人と呼ばせているこの少年はおよそ少年とは言い難いほどの冷静さと、子供らしい無邪気な残酷さを持っている。
使えない部下は切り捨てられる事を知っている十式には、自分を生き残らせる理由が分からない。
勿論、切り捨てられないのならそれに越した事はないが。
「理由はね? まず君がそれなりに強いデュエリストだっていうこと。つまり今までで一番長続きしてるんだ。たった一回の負けで手放すのは惜しいかな。
次に、君を倒したその子が僕の求めている相手の可能性が高いんだ。その子の顔とかを知ってるのは、僕じゃなくて君だ。
それに今渡したハウシサイドたちは十分強いよ。使い方を間違えないようにね」
旅人はそう言い残して闇の中に戻っていく。
「……あー、旅人さんよぉ~」
「なんだい?」
「さっきから表情がおかしいぜぇ~」
「そーう?」
旅人はそう楽しげに言いながら、
「なかなかねー。こんな感じ?」
眉根を寄せて鼻を上げる。つまり、子供が怒った顔。
「ん~微妙……ってか俺様も連れてくんだよなぁ?」
「みゅむ」
顔を揉みながら頷き、旅人は今度こそ闇の中へ消えた。
『ハウシサイド』
上級モンスターからの大量展開を得意とするカテゴリー。
フィールド魔法で上級モンスターを呼び出し、そこから下級モンスターを展開し相手の場を荒らす事が基本の動きとなる。
下級モンスターはレベル・属性・種族がバラバラな上にチューナーも存在しない。よってアドバンス召喚のリリースとなるか、或いはリンク召喚の素材とするのが良いだろう。
だがフィールド魔法が無ければ上級モンスターも特殊召喚できず、展開も出来なくなる。