クール部門担当P「実はお前キュート部門だろ」   作:炸裂プリン

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クールP「ライブバトル」

 

 歓声は鳴りやまない。

 喉が張り裂けるのすら厭わないとばかりに渦を巻く歓喜の念は、雷鳴もかくやとばかりに、しかしその質量すら纏いかねない大音量をして高垣楓(たかがきかえで)は「優しい声援をありがとう」と応えた。

 するりと頬を伝う熱い汗で、ふんわりと空気を孕むボブカットの美しい髪が頬に張り付き、興奮冷めやらぬとばかりに上気した頬はどんな化粧よりも艶やかに彼女の肌を彩った。

 ありったけの想いを込めて奏でた歌の余韻に浅く深呼吸を繰り返し、彼女が身に纏うドレス調の幻想的で美麗な衣装を、ファンに向けて大きく振り続ける手で穏やかに揺らしながら、楓は満足げに微笑んでいた。

 その姿を舞台袖にて眺めていた彼女の担当プロデューサーも、ライブの成功と大きな歓声に心を踊らせながら客席のファンと一緒に拍手していた。

 

『――流石ね、楓』

 

 瞬間、会場を包む熱気と声援は静寂に満ちる。

 スピーカーを通して発せられた余りに無機質で寂寥感のある声音に、最高潮を迎えたファンのテンションが一瞬にして刈り取られた。

 僅かにざわめく観客達の中で、ステージの上に立つ彼女だけがオッドアイの瞳に静かな熱を灯した。

 

「あの日、私が敗北を喫した刻から、幾星霜の刻が巡った」

 

 異なる色を煌めかせる視線の先、いつの間にか開け放たれたライブ会場の出入口にて、月光の輝きを白銀の美髪に纏いながら歩む影法師が、ヘッドセットに付随するマイクを通して言葉を紡ぐ。

 一歩一歩、確実に歩を進める先にあるのは、楓が立つメインステージから伸びるもう一つの舞台。

 

「勝敗に興味はない。等と己を偽る虚勢では、私の胸の奥で疼く喪失感は誤魔化せない――今度は、勝つ」

 

 カツン。喝采するように眩く照らすライトの下で、相反するように暗色の深い青のライトに照らされたその人を、高垣楓はどこか嬉しそうに細めた瞳で捉えた。

 深海を思わせる紺碧の中で、脈動するように電子の波紋を走らせる黒の衣装に身を包むその影は、感情の読み取れない表情に反して雄弁に闘志を語る瞳で、歌姫の視線へ応えるようにその細められた瞳を鋭く射抜いた。

 

「リベンジを心待ちにはしていましたけど、まさか今日のこのタイミングで来るだなんて思っていませんでした」

「あの日の私も、アナタと同じ心持ちだったわ」

「あら、ではこれは意趣返し。と言うことでしょうか」

「そうなるわね。どうかしら、全力を尽くした後に強襲される気持ちは」

「んー、これは中々ピンチですね。強襲した日を思い出すと郷愁感に苛まれてしまいます」

「・・・・・・余裕ね?」

 

「そんなことはありませんよ」穏やかに微笑みを浮かべる彼女に相対した鉄面皮のアイドル――高峯(たかみね)のあは、インカムから伸びるマイクをサラリと撫で付け「その余裕、崩してあげる」そう告げた彼女の頭上から飛来した白銀に煌めき美しく微細な装飾の刻まれたリボルバーを受け取り、構えた。

 銃口が睨めつけるは、346の誇る歌姫。高垣楓ただ一人。

 

「――!」

「これは、不可能を可能にする銀の弾。運命を穿ち、アナタを討ち落とす――必殺の弾丸(シルバーブレット)・・・・・・!」

 

 紺碧の舞台で、六発の発射炎が迸る。

 一発目。射撃の瞬間に狙いを上方に修正し、楓の頭上に向けて放たれた不可視の弾丸は、見事に照明を撃ち抜き歌姫を讃える輝きを消失させステージを漆黒に染めた。

 無論、本物の弾丸の装填はなく、空砲とライブスタッフの協力による演出なのだが、のあの放つ荘厳な雰囲気が、あまりに真に迫った効果音とエフェクトが演出と感じさせない真実味を生み出していた。

 

「これは・・・・・・!?」

 

 動揺に声を漏らす歌姫を黙殺。続けて二発、三発と。反動で跳ね上がる銃の角度すらも計算に入れた完璧な動作で、のあの立つ舞台へ続く道のライトも撃ち消していく。

 四発目、反動を利用して体ごと銃を反転させ背後から自身を照らすライトを封じ。五発目は強い光を放つ観客席のライトを穿つ。

 そして、最後の一発。

 

「・・・・・・刮目しなさい。このステージで――新たなる輝きを得る私を」

 

 掌中で滑らかに繰り出されるガンスピンを交えて頭上に向けた拳銃。それから放たれた撃鉄の音色と、白い発射炎が紺碧の舞台を翔け抜け切り裂けば、反響する銃声がしばしの間二つのステージを闇に包んだ。

 怒涛の展開に度肝を抜かれた観客達は、しかし状況を飲み込み始め、次第に胸中を荒れ狂う熱情で満たしていく。

 ――反響する銃声は鳴り止まない。

 舞台袖で見守っていた楓Pは、これから巻き起こるであろう事態にやはり胸を踊らせながら、自身のアイドルの勝利を信じていた。

 ――反響する銃声は鳴り止まない。

 闇に包まれたメインステージにて、高垣楓は相対した乱入者を包む静寂を見詰めながら、逸る心臓を落ち着けた。

 ――反響する銃声は鳴り止まない。

 敗北に沈んだ自身のアイドルを、再戦の大舞台に導いた男。高峯のあの担当プロデューサー・来栖涼児(くるすりょうじ)は、演出を成功させたライブスタッフと共に彼女が再び脚光を浴びるその瞬間を待った。

 

「私は――貴女を超えていく」

 

 響き渡る声。鳴り止む反響音。

 直後、暗闇に慣れた人々の目を焼く眩い照明が再点灯し。待ってましたとばかりに乱舞するのは幾条もの極彩色のレーザービーム。

 そして、ステージを激しく打ち鳴らし燃え上がるような前奏が、漆黒のヴェールに包まれた舞台を焼き払い露わにする。

 複数の照明を束ねて映し出される美しい肢体。無垢なる白色と蒼穹の青が織り成す清廉なコントラストを身に纏い、金のヘアアクセを銀糸の髪に輝かせ、蒼銀のマイクを手にしたのあを迎えるのは、ギリギリまで抑え込まれた観客達の爆発的な歓声の嵐!

 

「満ちる歓声の共鳴が、私をまだ見ぬ世界へ導いてくれる」

 

 ゆらり。

 眼前のメインステージに佇む歌姫へ向けて、一瞬にして高垣楓のライブステージを己のパフォーマンスと演出により呑み込み、自身のモノとした高峯のあはその手を突きつけた。

 

「魅せてあげる・・・・・・! これこそがアナタを乗り越え、今までの自分を超えるために得た、私だけの輝き。贈ってあげる、私の弾丸(うた)を!」

 

 今まで誰も見た事のない高峯のあが、そこに居た。

 機械的な、時としてサイボーグなどと揶揄されていたその感情が欠落した表情は見る影もなく、明確な意思を高らかに叫ぶその瞳は、どうしようもないほどに強く闘志に燃えて――どうしようもなく人々を惹きつける。

 

「ええ、ええ! 始めましょう。私たちのライブバトル! 貴女と私で紡ぐ、私たちの輝き(うた)を!」

 

 対する楓もまた会場を包む灼熱の歓声を全身で受け止めながら、しかしのあが作り出したと言うのに決して疎外感を感じさせない、むしろ強烈な一体感を魅せるサイリウムの光と歓喜の声に満面の笑顔で応えると、手にしたマイクを強く強く握り締めた。

 

 二人の舞台(ライブバトル)が、幕を開く。果たして、その勝敗は――!

 

 

 

 

「また敗けたわ凉児。やはり高垣楓は強敵ね」

「そうだね、今回も接戦だった。けれど、のあさんの歌唱力は高垣さんと並び立っても一切霞んでいないよ」

「ありがとう凉児、貴方の賞賛の声は何よりも嬉しいわ。・・・・・・とはいえ次こそ勝利する。例えこの枯れかけた私の感情を吐き出し尽くそうと、絶対にリベンジは成してみせるわ。だから――進化する私を見ていて、凉児」

「当然。しかし、事務所の隅で膝抱えてしょぼくれながら言うセリフではないよ、のあさん」

「必勝を確信した先に待つ敗北の味は、何よりも辛く苦いモノ。だから、情けないけれどもう少しだけ待って欲しい」

「・・・・・・のあさん」

「それはそれとして、部屋の隅っこは落ち着くわね凉児」

「のあさん・・・・・・」

 

 ――ライブバトル。

 煌めく星々たるアイドルが鍛錬を重ねた成果。歌唱力やダンス、ビジュアルの全てを出し合いぶつかり合う、この世界で人気の興行の一つである。

 事前に告知して行うものが殆どであるが、時に乱入という形で突発的に行われるものもあり、良くも悪くも印象に残りやすいライブスタイルとされ、新人アイドルの顔見せや、業界に慣れ始めたアイドルへと更なる躍進を願い発破をかける意味でも使われる。

 346プロで頻繁に行われるこのライブバトルだが、時として他の事務所に所属するアイドルも参加することがあり、それを楽しみにライブ会場に赴く者すら居るという。

 直近では765プロ所属の「如月千早」が346プロの「渋谷凛」のライブに殴り込み。また別の日には、同じく346プロの「神崎蘭子」のライブへ315プロの「アスラン=BBⅡ世」が強襲。男性アイドルと女性アイドルという職種は同じでありながら方向性が違う、異種格闘技戦にも似たライブが発生した。

 しかし、双方何か通じ合うモノががあったのか、終始和やかな雰囲気で幕を閉じた。・・・・・・その難解にして珍妙極まる言動の応酬で客席は混迷の渦に落とし込まれたのだが。

 

「・・・・・・古くは伝説のアイドル「日高舞(ひだかまい)」がアイドル活動絶頂期に行っていた、他事務所のライブ興行に対してゲリラ的な乱入を繰り返す行為を批判させない為に作られたアイドル活動の一形態とされているが、その真偽は定かではない、と。・・・・・・なるほど?」

 

 事務所の隅で展開される奇妙な光景を後目に、幾つもの資料がファイリングされたそれに目を通していた珠美は、シャーロック・ホームズよろしく顎に指を添えて「ふむふむ」と頷いた。

 差し込む陽光が茜色に染まる時分。クールPのルーム内は、相も変わらず少しの胡乱な空気と平和の匂いで満たされていた。

 

「ほほー。ライラさん、また一つ賢くなりました」

 

 ソファーに座る珠美の隣に、ちょこんと行儀よく座ったライラが珠美の真似をするように「ふむふむ」と感慨深そうに首肯した。

 

「つまり対バンライブでございますです?」

「対バ・・・・・・あ、いや。珠美たちのするライブバトルには明確な勝敗があるので、そちらとは少々赴きが違うかと」

「むむ、違いましたか」

 

 まあ、入れ替わり立ち代りパフォーマンスを重ねてファンに己を魅せていく、という意味では変わりはない。「しかし、似たようなモノですし、そのような認識で良いかと」ファンの皆様と全力で楽しめたのなら勝敗なんて二の次ですし。そう付け足して語る珠美に、ライラは合点がいったと言うふうに頷くと、テーブルに置いてあるお茶菓子に手を伸ばした。

 陽の光に照らされて黄金色に輝くそれは、クールPが帰りがけに買ってきたカステラである。

 丁寧に包装を解くと、一口。とろけるような歯触りと、上品な甘さがたちまちライラの口元を緩めさせた。

 

「しかし、のあ殿は残念でしたね」

 

 同じようにカステラを口にし、ライラの分も置いてある牛乳で喉を潤すと、珠美は部屋の隅で丸くなるのあを一瞥しながら告げた。

 

「これで楓殿に敗北したのは何度目でしょう。一度目は全力の歌唱を終えたライブ終盤に乱入されて敗れ、二度目は、正式に申し込んだライブバトルイベントで。少しの時を置いて開催された大規模ライブイベントでは勝利し、以降はイタチごっこ。最近は楓殿に負け越しており」

「――ついさっきも、挑まれて敗けてしまいましたですね」

 

 互いにモフモフと洋菓子を頬張り、牛乳を一口。甘い至福の時に幸福な吐息をひとつ落とすと、無表情で(分かりにくく)落ち込むのあに声を掛けるクールPを視界に収めながら、今度はライラが口を開いた。

 

「でも、見ていて凄く楽しかったでございますです」

「ええ、それは珠美も思いました。お二人共、負けず劣らずの歌唱力と表現力をお持ちで。交わる度に互いの実力を高め合っているのが如実に現れておりますな」

「カエデ殿の透き通る歌声も、ノアの凛とした歌声も、甲乙つけがたいですねー」

「ですな。それだけにこうも負け戦が続くと悔しさが募るのでしょう」

「むぅ、ライラさんは悔しいより楽しいを増やしたいです」

「珠美もそう思いますが」

 

 思い通りにはいかないものです。告げる珠美の視線の先では、もう立ち直ったのか次なるリベンジマッチに向けて作戦を練る二人の姿。

 

(・・・・・・はて、しかし)

 

 牛乳を一口含みながら、珠美はもう幾度と感じた違和感に首を傾げた。アーデモナイコウデモナイと議論する二人は打倒346の歌姫に燃えているが、そもそも何故のあと楓のライバル関係が生まれたのだったか。

 

(楓殿と、のあ殿に特別な接点はなかったはず)

 

 同じ事務所の同じ部門に所属し、ライブバトルにおいては無敗を誇る。のあと楓の共通点といえば、その位のものであった。

 では、唐突にのあのライブへ乱入してきた意味は何だったのか。薄ぼんやりとした蜃気楼のように朧気な記憶ではあるが、珠美はその切っ掛けを探るために諸々の事柄を思い出してみた。

 寡黙の女王、高峯のあは孤高である。

 アイドルの本分とも言えるライブにおいて、誰かと共にステージへ上がることはライラを除けば滅多に無く、ソロ活動が主であった。

 ライブでの方向性は歌唱力を前面に押し出した物。

 アイドルらしくステージ上で舞う姿も然る事ながら、しかし何よりも歌という力で人々を惹き付けるスタイルだ。

 近い存在は765プロの如月千早だろうか。或いは、のあが彼女に近いスタイルで活動していると言ってもいいのかもしれない。

 そんな彼女は、こと鍛錬に関しては只管(ひたすら)にストイックであった。

 何事も理解さえしてしまえば直ぐにモノにできる天才肌の彼女だったが、周囲に自身にない愛嬌だったり感情豊かな表現力を持った者だったりが溢れ、それらを見て触れた末に燻っていた対抗心に火が着き、努力を怠らない「努力する天才」となった。

 その結果、デビューから今日に至るまで、あらゆる障害を実力で突破し、躓こうとも自己研鑽の果てにこれを凌駕する存在へ――それこそ、挑まれたライブバトルは、例え僅かな不調がある日でも勝利を収めてきた。

 その勝利を得た瞬間すらも黙して語らず。全てを終えた後にただ一言「次に会うのを楽しみにしている」

 敗北を知らない冷徹な勝者は、常にステージの上で表情を崩さず君臨していた。

 とある週刊誌がその姿を〝寡黙の女王〟などと称したのが、そのまま定着したのが現在の高峯のあであった。

 

(まあ、本人はその記事を見て目を白黒させていたワケですが)

 

 当惑するのあが、その称号によって他のアイドルに恐れられ、友好の輪が狭まったらどうしようとクールPに相談していたのが随分と遠く感じる。結果として、ライラと珠美が彼女の人となりを、それとなく話していた――ライラに関してはただ話題に出た時に答えただけだったのだが――ので事なきを得た。今となっては、この称号を自身の努力が実った結果なのだとして、受け入れている。

 そも、ライブ以外のアイドル活動で彼女の動きを見ていれば「怖い人」で評価が終わるような人物でないことは、早々に周囲に知れ渡っていったので何も問題なかったのだが。

 

(そんな無敗を誇るのあ殿と肩を並べる、同じく無敗の歌姫――)

 

『決めたわ。今度はライブ前のパフォーマンスで場の空気を全て持っていく』

『なるほど。ならタイミングは意趣返しも兼ねて、高垣さんのライブにゲリラ戦を仕掛けよう。思えば、初戦はこれでウチが負けたんだ。その分もきっちり取り戻してやろうか』

『つまり――江戸の仇を長崎で討つ。という事ね?』

『・・・・・・なんかイヤだなそれ』

 

「――高垣楓殿」

「おお、ノアが燃えていますです。カエデ殿、やはり強敵でございますね」

「まあ、346が誇る歌姫ですからなあ」

 

 その歌声、天上の調べが如く。

 のあの歌が心を射抜く弾丸だとするならば、彼女のそれは包み込む羽衣だ。透き通る旋律は誰しもが逸る足を止め、思わず耳を傾ける。

 纏う雰囲気も反するもので、楓の神秘的でありながら何処か柔らかな雰囲気と、ミステリアスで良い意味で人間味の無い近付き難い雰囲気を纏ったのあ。

 双璧。デビューからライブバトルで邂逅を果たすまで、必要最低限しか接触のなかった無敗の女王たちを、346プロの人間を含めた人々はそう呼んでいた。

 果たして、そのような二人の激突と、のあの敗北は業界を揺るがし、間を置かず果たされたリベンジマッチでの楓の敗北はもはや驚天動地の出来事だった。

 しかし、

 

「・・・・・・いや本当にどうして楓殿は、のあ殿に急襲したのか」

 

 それだけは、この激動のライブバトルで未だに真相が明かされない謎であった。

 特に前述の通り、のあと楓は立ち位置こそ似ているが廊下ですれ違ったら軽く会釈する程度の接触しかなく、かと言って、双方がその在り方に対抗心を燃やしていたという話もまるで出ていない。そも、お互いに自分の道を邁進するのに集中しており、他人の道にわざわざ入り込むような、器用な真似が出来る人間では無いのだ。

 その謎を解明しようと彼女たちへ取材を行い、受け流されはぐらかされ黙殺され、撃沈していった者は数しれず。

 果たして、歌姫が寡黙の女王に挑んだ理由は未だ闇の中。それがまたファンたちに想像の余地を与え、二人の関係に注目が集まっていた。

 

『凉児、照明を撃ち抜いて暗転している間に衣装替えしましょう。暗闇は人の視界も進む道も奪うけれど、故にこそ月光と星の光が心に深く刻まれる』

『照明を撃ち抜くね・・・・・・。なら、最近やった謎のガンマン役のオマージュでもしようか。〝銀弾の射手(あののあさん)〟なら照明(太陽)を撃ち落とし、高垣さん(標的)を狙うのに最適だ』

『――! 流石ね、凉児。貴方が示す未来、必ず勝利という結果を添えて実現させるわ』

『ああ、そのための手助けは何だってしよう。だからのあさん』

『凉児・・・・・・!』

『そろそろ、すみっコぐらしはやめるんだ』

『・・・・・・落ち着く』

『おら出てこいクール詐欺ポンコツアンドロイド』

『やめなさい、貴方にアンドロイド呼びされると胸が痛――腕を引っ張らないで・・・・・・! 体が物理的に痛くなる・・・・・・!』

『なら早く立ち上がりなさいよ!』

『私に優しく。敗けてしょんぼりしてる私にもっと優しくしなさい。心が砕けてしまうわ』

『そんな繊細な時期はとっくに過ぎただろ・・・・・・!』

 

 そんな双璧のうち、ミステリアスで近寄り難い雰囲気の方は、現在こんな感じである。

 クールPの真剣な眼差しは、徐々に胡乱気なそれへとシフトしていった。

 

「おお? ノアと凉児殿、遊んでます。あれは完全に遊んでますね。これはライラさんも参加せねば!」

「いやあの、プロデューサー殿が困るので参加は控えた方が」

「行ってきますです! 凉児殿、ライラさんもいーれーてー」

 

 良いのでは。言い切る前に無意味な攻防を繰り広げる二人の中に入っていったライラを見送った。

 

「・・・・・・案外、のあ殿と仲良くなりたかっただけなのかも知れませんな」

 

 突然現れたライラにヒーヒー言っているクールPを見て脱力した珠美は、なんだか考えるのに疲れたので、ありそうで無さそうな結論で強引に思考を閉じ、ソファーに深く座り直した。

 これが高垣楓のライブイベントに乱入し、見事な立ち回りと重ねた研鑽によって勝利を手にする――冒頭の話に至る数ヶ月前の出来事であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蛇足的SS

のあさんと楓さん〜邂逅篇〜

 

 

楓(高峯のあさん、廊下ですれ違ったけれど、どうするか迷ってた私と違って、ぺこっと挨拶してくれて、綺麗で格好良い人だわ・・・・・・)

 

楓(ライラちゃんと良く一緒に居るし、飛鳥ちゃんたち若い世代の子にも慕われてて、寡黙の女王なんて呼ばれてるけれど、もしかして怖い人ではないのかしら・・・・・・?)

 

楓(歌もダンスも上手で、この前のゲームで遊ぶバラエティ番組も面白かった)

 

楓(あと居酒屋でも見かけたわ。・・・・・・お酒、好きなのかしら)

 

楓(・・・・・・そういえば、日本酒を飲んでいたわ。顔色を変えず幾つも)

 

楓(やっぱりお酒好きなのかな・・・・・・仲良くなりたい。仲良くなって、お酒飲みながらお互いのアイドルとしての立ち位置とか、どうすれば知らない人と仲良くなれるのかとか、スタイル維持の秘訣とか、語彙力の上げ方とか、たくさん聞きたい。でもどうすれば・・・・・・ああ、自分の人見知りっぷりが恨めしい)ハァ・・・

 

楓P(楓さんが窓際で黄昏てる。絵になるなあ)

 

楓「――高峯のあさん、か・・・・・・」フゥ・・・

 

楓P(・・・・・・!? 楓さんが悩ましげに〝寡黙の女王〟の事を考えている!? ――なるほど、とうとう()()()が来たのですね!)ティン!

 

楓P「楓さん!」シュバ!

 

楓「ヒッ、急になんですかプロデューサーさん」ビクッ

 

楓P「高峯のあに、会いに行きましょう!(ライブバトルで)」

 

楓「えっ、会わせてくださるんですか!?」パアァァ

 

楓P「ええ、セッティングは任せて下さい。必ずお二人の(ライバル)関係を良いものにしてみせます!」

 

楓「ですけど私、高峯さんとは廊下ですれ違う程度の顔合わせしかしていなくて、上手に(お話を)できるかしら」

 

楓P「そちらも任せてください。お二人の(ライバル)関係が明瞭になるまで、俺がアシストしますから!」

 

楓「ああ――プロデューサーさん、あなたが私のプロデューサーで良かった・・・・・・! どうかよろしく、お願いします!」

 

楓P「任せてください! 絶対に、楓さんの望む未来(互いを高め合う良きライバル関係)へ導いて見せます!」ギラギラ

 

楓「私の望む未来!(のあさんと仲良し)」キラキラ

 

楓(ああ、きっとこの人は私の情けない呟きを聞いて、その意味を察してくれたのね。思えば川島さんと仲良くなれたのも、プロデューサーさんに飲みニケーションを勧められたからだった。・・・・・・本当に、この人がプロデューサーで良かった)

 

楓P(川島さんからトークの秘訣を探り出したいと、言外に告げられたあの日から、楓さんの真意を探る思考を鍛えていて良かった・・・・・・。これでまた楓さんの魅力が更に広まる!)

 

 

 後日、とあるライブ会場にて。

 

 

楓「突然の訪問、ごめんなさい――これが、私なりの挨拶です。どうかこれから、仲良くして下さいね」

※ちゃんとした挨拶もなくごめんなさい。貴女と仲良くなるために来ました!

 

のあ「そう、そうなのね――この敗北、胸に刻む。次は負けない」

 

楓「ええ、その時を楽しみに待っています、高峯さん。わたしの歌とあなたの歌、共に響かせてもっともっとファンの皆様を楽しませましょう。そしてその先で――」

※一緒に歌う私たちの歌で、ファンの皆さんとたくさん楽しんで、盛り上がりましょう!

 

のあ「――?」

 

楓「いつか、互いの勝利を称え、(さかずき)を交わしましょう」

※お互いの健闘を祝いながら、一緒にお酒飲みましょうね!

 

のあ「・・・・・・ならば凌駕する。貴女の意思に応えるために」

 

楓(――何かを間違えている気が・・・・・・? いえ、プロデューサーが示した道と、蘭子ちゃんの教えてくれた〝のあさんと仲良くなれる喋り方〟を信じるの、高垣楓。それに友達作りの参考と、若い子たちとお喋りした時の話題作りで読み続けてる漫画雑誌にも、似たような展開の先で親友になっているのを見たわ。だから大丈夫)

 

楓P「ヨシ!」グッ!

 

 

 高垣楓が人見知りするという事を知っている人間は、意外と少ない。








 こちら、ゾンビみたいに復活しては、また埋まっていく小梅ちゃんも助走をつけて袖で鞭打(威力:禁鞭)するレベルのSSです。ご査収ください。

 ※楓さんがお空に打ち上がったことと、今作ができた事には何の因果関係もございません。

 ※楓Pがポンコツに見えるのも気の所為です。彼は常に楓さんのことを考え、常に全力でプロデュースしており、時折それが変な方向へ空回っちゃうだけなんです。

 ※その結果、楓さんは世紀末歌姫の二つ名を得ることになった。

 ※大丈夫、楓さんはボッチじゃないよ。ちゃんと同年代にも年下にも年上にも友達いるよ。ライブバトルになると容赦なくぶっ倒すけど。

 ※相対的にのあさんの実力が凄いことになっちゃった。そんなのと組んでるライラさんも凄いって事になっちゃった。

 ※あれ、珠美・・・・・・?

 ※アイドルランクの設定をそっと手放す音。


 そんなことより楓さんの美しさの話をしよう。


 とにかく美人。それに着きます。
 スタイル良し、顔良し、歌良し、トークセンス良し。りあむが憤死するレヴェルの最強アイドルです。
 ※プロデューサー目線だと一番のアイドルは担当アイドルなので、ここで言う「最強」はファン目線のモノです。ご了承ください。

 完璧アイドル超人かと思いきや、程々に抜けてる所が見え隠れ。お酒大好き、オヤジギャグ好き、仲良くなると甘えてくる、色気もある、そんな25歳児。
 ズルい。可愛いのズルい。でも決める時はバシッと決める大人だからカッコイイ。もうホントにズルい。もちろん良い意味で。
 身長高いのも個人的な高ポイント。担当に出会う前に会ってたら危なかった。嘘です好きです。既に致命傷です。背が高くて可愛くて綺麗でちょっぴりダメな感じするけど実は魅力しかないお姉さんすき。

「こいかぜ」すごい。なんかもうすごい。かてない。むり。とうとい。すごい。やむ。うつくしすぎてむり。うたごえがきれい。

 そんな楓さんには美優さんの「Last Kiss」でも見せてもらいましょうかね。憂いを帯びた表情に泣き黒子が映えて実に綺麗です。背中でハート作る所で毎回変な声あげるのやめなよ。気持ち悪いよ私。
「Pretty Liar」を美優さん、のあさんと組ませてMV周回するのをやめろ。妖しい美しさが画面いっぱいで幸せなのは分かるし、ポジション変えると美人→可憐にシフトするのが良すぎるのも分かったから、一々悲鳴を上げるな気持ち悪いぞ私。
「HotelMoonside」は心臓が持たない。たすけて。

仁奈「ママこうほでごぜーます」
美優「プロデューサーさん、ちょっと話が」



 ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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