活動報告にもある通り、一番大切な場面だったので、土日で7~8回書き直した16話(7000字ぐらい)が昨日の22時ぐらいに全消滅しやがりましたので、モチベーションが死んでいましたが、ハルさんのテーマを聞いていたら復活したので、気合いで4000字ぐらい記憶を頼りに改善しつつ書き起こしたので投稿しました。
投稿は暫くしないとか言っていましたが、まあ、ホモは嘘つきだからね、仕方ないね。
短めですが、残りの3000字ぐらいはギャグパートでしたから、真面目な場面ですし、これでよかった気もします。
というかこの作品はこの場面をやりたいがために書いたに等しい作品なので、作者的にはもう完結したような気分だったりしますが、まだカルビちゃんと、ラケルてんてー(最難関)が残っているので頑張ります。
「随分久しぶりだな……」
フェンリル極東支部のラウンジの片隅の席でポツリと呟く男性が居た。彼がしている赤い腕輪からゴッドイーターである事が見て取れる。
彼の名は"真壁ハルオミ"。かつてはこの極東支部のゴッドイーターであったが、グラスゴー支部に転属し、それから他の支部を転々とした後にまたこの極東支部に戻って来たゴッドイーターである。
彼は"
本来もう少し後に極東支部に転属される予定であったが、ニライカナイの足取りが最後に確認され、それから数ヶ月以上出現報告がないため、予定を早めて転属となったのである。
赤いカリギュラは良くも悪くもただのアラガミだ。しかし、ニライカナイは言葉を用いる。そして、ギルバートが言うように残虐な皮肉屋ならば、ケイトの最期について何か聞き出せるのではないかと考えていた。
(ケイト、俺は今アラガミの尻を追っているよ)
そう考えながら内心で自嘲を浮かべる。何の意味もない行動だという事は解り切っている。しかし、人間そんなに簡単には割り切れるものではない。真壁ハルオミもまたそんな人間であった。
すると彼の隣に何か大きめのシルエットが座った事で意識がそちらに向く。
『………………』
それは紫色と灰色をメインカラーとした、継ぎ接ぎだらけのパンキッシュなウサギの着ぐるみを着た何かであった。
(着ぐるみ……)
どこからどう見ても奇妙な着ぐるみである。確りと腕に着ぐるみ用の腕輪が付けられ、フェンリルの紋章が着ぐるみにあるため、ゴッドイーターだという事が見受けられる。
(そういえば配属された第四部隊の隊長の名前がキグルミだったな)
ハルオミはオペレーター兼受付嬢の竹田ヒバリからナンパのついでに聞き出した情報と、ターミナルで情報が無い事が情報というとんでもない情報とで照らし合わせながらコレがそうなのではないかと考えた。
キグルミを着た何かは当たり前のようにストローが刺さったグラスで、口の穴が空いていない着ぐるみの口で飲み物を飲んでおり、見ているだけで常識が何処かに飛んで行きそうである。
「少しいいか?」
『――――――!』
ハルオミが問い掛けると、着ぐるみを着た何かは嬉しそうに腕を縦にブンブン振っていた。
それだけであり、一言も言葉を発しない姿に彼は顔には出さないが、少しだけ面食らう。
「えーと……お前がキグルミでいいんだな?」
『――――――!!』
腕の振りが強まった。その様子からハルオミは肯定と判断する。
「そうか、俺は"真壁ハルオミ"。本日付けで第四部隊に配属になった。まあ、よろしく頼むよ」
ゴッドイーターは年齢や地位よりもベテランである事が重要なため、挨拶としては非常に当たり障りの無いものであった。
(まあ、極東支部だしな)
また、ハルオミはこの奇っ怪なナマモノを極東支部なので仕方ないと結論付け、寧ろそれを着たままゴッドイーター活動が出来る事を感心すらしていた。とてつもない適応力である。
ちなみに彼のナンパという名の聞き込みによると、キグルミの極東支部での評価はかなり高い。その姿で喋らないにも関わらず、確かな戦闘力と、部隊に対する熟練された状況判断及び指示能力や、見た目に全くそぐわない事務処理能力の高さによるものである。
数ヶ月の間で既に"影の実力者"等と密かに慕われていたりもしていた。
だが、彼が興味を示したところはそこではなかった。そして、何故か自然に口が開く。
「お前、"ロングブレード・アサルト・バックラー"の神機使いらしいな。いや……だからなんだってわけでもないが……」
ハルオミは徐々に言葉が尻すぼみになり、途中で止めたような形になった。
初対面でキグルミに対してそのように言ったのかはわからない。それこそ同じ構成のゴッドイーターなど掃いて捨てる程いる。無論、同じものを見掛けようとも彼がこのような事を言うことはこれまで一度も無かった。
しかし、何故かキグルミには言っておかなければならないような気がしたのである。
"無茶だけはするな"と。
『………………』
それを聞いたキグルミは腕の振りを止め、じっとハルオミを凝視していた。
それは彼の発言に戸惑うようにも見え、心なしかキグルミの身体が震えているように見える。
「お、どうした?」
『………………!』
するとキグルミはハルオミの手を握り締め、立つように促した。どうやら何処かへ連れて行きたいらしい。
ハルオミはそんな様子のキグルミに黙って従い、ラウンジを後にするとエントランスにあるエレベーターに乗り、何処かの階層を目指した。
『………………』
「………………」
エレベーター内で階層のボタンの前に立つキグルミの背中をハルオミは見つめている。
ぐったりと片方に首を傾けたような何とも言えない姿勢。しかし、彼はそんなキグルミの見た目ではなく、纏う"雰囲気"自体に、何か既視感のようなもの……というよりも安心感に近い感覚があった。
(いや、まさかな……)
ハルオミは考えを振り払った。考えるだけ無駄な事。とっくの昔に彼自身が受け入れた事なのだろう。
"神は居ようと死者は帰ってこない"それがこの狂った世界の現実なのだから。
◆◇◆◇◆◇
「ここは……」
ラボラトリ区画でエレベーターから出た突き当たりの部屋。そこはサカキ博士の研究室であり、ハルオミが過去に来た時とほとんど変わらない光景が広がっていた。どうやら今サカキ博士は留守のようである。
感傷に浸っているとキグルミは研究室の入り口の扉をロックする。そして、研究室内にある戸棚まで行くと、その中の物を取り出す。
「他人の部屋で逢い引きとは大胆――」
軽口を叩こうとしたところでハルオミの言葉は自然に止まり、キグルミが手に持つ物に釘付けになった。
『………………』
キグルミはそれを持ってハルオミの目の前まで近付くと、彼にそれを手渡す。
傷だらけで所々外装の剥げ、最も大切な神機との接合部が無惨にも折れ、修理するよりも作り直した方が早いと思われる程に破損したハート型のバックラー。
それは紛れもなく、真壁ハルオミの婚約者――"ケイト・ロウリー"が使用していた"バートリストル"であった。
「何故これが……」
ケイトの神機は今も赤いカリギュラの肩に突き刺さったままだが、その中でこのバックラーだけは赤いカリギュラの攻撃によって外れたため、何処かに落ちている筈であった。
だが、何故かバックラーは何処にも見当たらず、形見には出来なかったのである。
それこそ可能性としては、アラガミ化するケイトを連れ去ったニライカナイが拾っていたと考えるのが妥当なところであろう。しかし、理由は一切不明である。神機ごとなら未だしも、喰えもしないアラガミ装甲を好きで持って帰るアラガミなどいるわけもない。
ハルオミは受け取ったバックラーを見つめながら呆然とした様子になる。そして、身長差から彼をやや見上げているキグルミを見て、空っぽの心からそれは呟かれた。
「お前……まさか――」
恐らくそれは、一番突拍子もない考えで、最も現実から遠く、とっくに諦めた答えで――。
「"ケイト"か……?」
――何よりも彼が信じたかった事であった。
『………………』
それを聞いたキグルミは少しハルオミを見上げた後、研究室の中央にゆっくりと歩いて移動し、彼に背を向ける形で足を止める。
そして、己の被り物に手を掛け、ここに来て初めて口を開いた。
「どうして……わかっちゃうかな……」
着ぐるみの頭部が床に落とされ、代わりにハルオミが何度も焦がれた亜麻色の長い髪が露になる。
そして、その声は記録媒体と彼の思い出の中でいつまでも色褪せずに残り続ける筈であった。
「いつまでも死んだ女の尻追い掛けて…………忘れたって……怒らないのに……ッ!」
彼女は残りの着ぐるみを脱ぎ捨てる。その姿は肩の出る白いセーターを黒いコルセット状のもので止め、赤いベルトを締めたジーパンを履いた女性である。
(ああ……夢かこれは……でももし夢ならどうか……醒めないでくれ)
それは紛れもなくハルオミにとって極めて近く、限り無く遠い世界にいた存在であった。
そして、彼女は目を伏せてハルオミの前まで移動すると、ポツリと呟く。
「馬鹿……大好き……!」
そう言いながら彼女はハルオミに抱き着き、その顔を向き合わせる。
真壁ハルオミに貰ったペンダントを身につけ、赤いフレームのメガネの奥にさめざめと涙を浮かべながら笑っている女性――"ケイト・ロウリー"がそこにいた。
◆◇◆◇◆◇
「ねえハル? 色々聞きたいことはあると思うけれど、真っ先にあなたに紹介したい女友達がいるの」
暫く言葉もなくただ抱き合っていた二人は、ケイトがハルオミに問い掛けた事で一先ず終わりを告げる。
「女友達?」
「ええ、きっとハルも知っている人よ」
それだけ言うと、ケイトは一旦ハルオミから離れ、奥の研究室に向かう。
そして、直ぐに研究室から一人の女性を連れて、ケイトは戻って来る。見ればシルエットから女性が臨月が近い程の妊婦であるという事が理解できた。
また、妊婦の女性は借りてきた猫のように縮こまっており、ケイトは後ろから妊婦の女性の両肩に手を置きつつ背中を押す形で連れて来ていた。
「は……?」
思わず、ハルオミから呆けた声が漏れる。
それはしっとりとした烏の濡れ羽色の髪に、暗い血のように輝く宝石にも似た紅い瞳、死人よりも真っ白の肌。それらを黒のドレスで纏め、その上に白衣を羽織り、眼鏡を掛けたアラガミの女性――。
「"ニライカナイ"の"カナちゃん"よ」
ケイトはとても親しげに、何故か妊娠している自身を連れ去ったアラガミをハルオミに紹介する。
ニライカナイはばつがわるそうに目を泳がせ、ケイトに助けを求めるような視線を送っていた。しかし、ケイトは確りとニライカナイを押さえており、彼女に逃げ場はない。
『ヤッパリ言ワナキャダメ……?』
「ダーメ、私が初めてで言えなかったからカナちゃんが言うの」
『ムウ……』
ケイトとニライカナイはそんな事を話している。友達関係だという事は見て取れた。また、ニライカナイはほんのりと羞恥心に頬を染めているようにも見える。
『ア、ア……アッ……』
そして、ケイトに肩を抱かれながらニライカナイはハルオミへと手を広げ、何度も言葉に詰まりながら何かを言おうとする。
そして、意を決したのか顔を真っ赤にしながら目を強く瞑り、広げた両手を自身の大きなお腹に当て、その言葉を言い放った。
『アナタノ子ヨ……ッ!』
真壁ハルオミは生きてこの方、ケイトが死んだと理解した次に大きな衝撃と共に、何とも言えぬ心地好い背徳感を感じたという。
イイハナシダッタノニナー(BGM:煉獄の地下街3)