荒ぶる神な戦艦水鬼さん   作:ちゅーに菌

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なんか更新早いですね(感覚麻痺) 感想は作者の燃料なので順次返信させていただきます。


タイトル:ニライカナイの生態と利用方法

 

 

 

 

《フェンリル本部の皆様こんにちは。私は極東支部支部長代理のペイラー・榊だよ》

 

 

 映像は研究室にある独特な席に座る笑みを浮かべた男性を映して始まった。

 

《さて、ひとまずこの記録を送るに至った経緯を先に説明しよう。何せ君らはニライカナイがよほどに怖いらしい。まあ、当然の帰結とも言える》

 

 男性――フェンリル創設者の一人であるサカキ博士は、眉を顰めながらそう言う。その表情には悲しみを含んでいるように思え、共感しているように映ることだろう。

 

《この世で最も強固なエイジス島のアラガミ装甲を粉砕する超弩級の砲撃能力を備えた第一種接触禁忌種アラガミ。うん、確かにそれだけでも驚異的だ。その上、ニライカナイ――失礼、便宜上()()と呼ぼう。彼女は、極東から海路も陸路も駆使して数ヶ月で欧州にやって来て戻ってくるという異様な水陸両用の移動能力を持ち、特に海上航行能力に関しては、完全に人類はお手上げだからね。トドメに感応種だ》

 

 白い手袋をした両手をカメラに映る高さまで掲げ、やや大袈裟に肩を竦めながら小さく溜め息を吐くサカキ博士。眼鏡を直すと彼は更に言葉を続けた。

 

《君たちが気が気じゃないというのは私もよく分かる。だから、最近極東支部に彼女の現在地について問い合わせが殺到しているわけだしね。仮に立場が違えば、私もそうしたかも知れない》

 

 サカキ博士は切り替えるように一度だけ手を叩いて鳴らす。そして、笑みをより一層強める。

 

《さて、という訳で現在、彼女がこの極東で何をしているのか、同時にどのような対処を極東支部が――と言うよりも彼女を有効的に利用しているかについての一部始終を映像に収めた。是非とも資料映像にしてくれて構わないよ。じゃあ、今から流すね――》

 

 

 

 パチンとサカキ博士が指を鳴らすと同時に、映像は中央部に構想物のある平原に切り替わる。

 

 

 

 極東支部でそこは、"嘆きの平原"と呼ばれる戦闘区域であり、中央部はアラガミのみが通れる道が存在し、東西南北それぞれ一カ所出入り口があり、大型のアラガミを誘い込んで戦闘を行うときに使われるほど広い場所だと、予備知識があれば即座にわかることであろう。

 

 また、僅かな駆動音と映像の撮影した角度から、空中からドローンなどで撮られていることにも気づく筈だ。

 

 そして、嘆きの平原の南部にある瓦礫にそっと腰を掛けているそれに視聴者は目を釘付けにすることであろう。

 

 

 

『――――――♪』

 

 

 

 そこにいたのは件のアラガミ――ニライカナイであり、何故か彼女はその手に古ぼけた讃美歌集を持ちながら、"いつくしみ深き"という歌い出しから始まる『讃美歌312番』を歌唱していたのである。

 

 アラガミがかつて滅ぼした過去の神を讚美する歌を歌う姿はあまりに冒涜的であり、意識して行っているのならば、性根がねじ曲がっているどころではないであろう。

 

 また、女性体は高らかに歌うが、背後に一切不動で佇む男性体によって彼女はアラガミという人外のそれでしかないことが理解できる。

 

 何故か女性体が腰掛けている瓦礫には、薄汚れた"ペイジ"の旧式型神機が立て掛けられているが、偶々拾った遺されていた神機を気に入ったのかも知れない。

 

 

『……………………』

 

 

 歌うのに夢中なのか、全くドローンに意識を向けない彼女は、讃美歌のページを捲る。魔性の美貌とても言うべき、人外の美女である彼女の動作や視線は、それだけでも酷く艶めかしくまるで絵画のようであった。

 

 そして、捲る手を止めた彼女は目を瞑り、息を細く吸い込む。

 

 

Angel we have heard on high,(荒野の果てに)

Sweetly singing o'er the plains(夕日は落ちて)

 

 

 それは"あら野のはてに"から歌い出す『讃美歌106番』であり、機械と人間が混じったようなその不思議な歌声は、奇妙ながら染み入るような音であり、決して人間には出せない天上の歌声と言っても過言ではない。

 

 

And the mountains in reply(妙なる調べ)

Echoing their joyous strains.(天より響く)

 

 

 そっと囁くように瞳を閉じて歌い、想いを馳せるように柔らかな表情を浮かべる。その様はアラガミである以上に、まるで本物の女神のようであった。

 

 

Glo --------- ria, In Excelsis Deo(グロ―――リア、イン エクセルシス デオ)

Glo --------- ria, In Excelsis De---o(グロ―――リア、イン エクセルシス デ―オ)

 

 

 たっぷり余韻を残して1番だけを歌い切ったところで、彼女は歌唱を止めると目を開いた。そして、讃美歌を閉じて小さく溜め息を吐く。

 

Gloria in excelsis Deo(グロリア・イン・エクセルシス・デオ)ハ……"天のいと高きところには神に栄光あれ(天ノイト高キトコロニハ神ニ栄光アレ)"ッテイウ意味の教会ラテン語成句ヨ。結局、栄光ハ届イタノカシラネ?』

 

 そう言うニライカナイの視線先には、いつの間にか彼女を30mほど距離を開けて弧の字状に包囲している極東支部のゴッドイーター――キグルミ、真壁ハルオミ、ギルバート・マクレイン、ソーマ・シックザール、藤木コウタ、シスター・サラの6名がいた。

 

 その中で白く無骨なバスターの神機を持つソーマが一歩前に出ると、少し口ごもってから呟く。

 

 

《"遊ぶ"ぞ……ニライカナイ》

 

 

 その声色は、よく聞くとややぶっきらぼうで棒読みに思えなくもないが、既存のアラガミとは明らかに一線を画す

艶めかしくも神々しく暴力的な雰囲気を纏うニライカナイという存在に釘付けな視聴者は気にすることはないであろう。むしろ、彼女を前にした緊張を表すのに一役買うかも知れない。

 

 突拍子もないことを言われたにも関わらず、彼女は人を喰ったような笑みを浮かべて、椅子代わりにしている瓦礫からそっと立ち上がる。

 

『イイワヨ……イイワヨ! 最近、動イテイナカッタシ――遊ビマショウ……?』

 

 そう言いつつ、彼女は右腕を掲げた。

 

 その瞬間、ニライカナイの右手が樹木のように枝分かれして生え伸びる。そして、それはまるでドス黒く金属的でありながらも生物的な外見をした"大鎌(ヴァリアントサイズ)"のような形を取る。

 

 そして、それをもう片方の手を添えて持ち、腰を少し落として見せる。その様はどう見ても目の前の者たち(ゴッドイーター)と同じであった。

 

()()()か……》

 

『タダノアナタタチノ真似ヨ』

 

 自身らに対する皮肉か、余りにも異様な光景を目にしたためか、ニライカナイ以外の同系列の存在を見たからなのかそう呟くソーマは眉を潜めつつ何とも言えない顔をしている。

 

 

『■■■■■■■■■■■■■――――!!!!』

 

 

 そして、戦闘開始の合図は、背後の男性体が仄暗い海底から沸き上がるような大咆哮が響き渡ったことが代わりとなる。

 

 心臓を鷲掴みにされるような嘆きにも似た異様な声は、映像記録であっても竦み上がるようなものだが、極東支部のゴッドイーター達は顔色ひとつ変えずにニライカナイへと殺到した。

 

 その様は化け物とまで呼ばれるほど超一流のゴッドイーターが集まる極東支部と言わんばかりであろう。彼らは即座に男性体へ3人――ソーマ・シックザール、藤木コウタ、シスター・サラを当て、女性体へ残りの3人――キグルミ、真壁ハルオミ、ギルバート・マクレインが対応する。

 

『■■■■……!』

 

《ぐぅッ!?》

 

 まず、大地を踏み潰さんばかりに力強く化け物のそれでしかない男性体が、一直線にソーマへ殴り掛かる。彼は白い旧型近距離式神機のタワーシールド――リジェクターで受け止めたが、容易にその衝撃だけで地を抉りながら30m以上押し飛ばす。

 

 すぐにソーマに対して更なる追撃を加えようと、男性体は四つ這いになりながら双頭は舌舐めずりをするが、そこに銃撃が加えられ、硬い金属音が木霊する。

 

 男性体が意識を向けた方向には、アサルトの藤木コウタとスナイパーのシスター・サラが掃射を掛けており、装甲のような体表面から硬い音が響き渡ると共にバレットが弾かれていた。

 

『■■……』

 

 すると男性体は追撃を中断し、おもむろに地面から生える赤い何かの一部に手を掛ける。そして、軽々と引き抜かれて肩に担いだそれは、十数mはあろうかというビルの太い鉄骨であった。

 

 嘆きの平原の回りには、幾つもの廃ビルが立ち並んでいるため、この平野の下に倒壊した廃ビルの鉄骨が折り重なっていても不思議はないであろう。

 

《うぉぉぉ!? それはヤバいって!?》

 

《………………》

 

 そして、男性体は二人に向かって、回転を加えながら山なりに投擲した。その迫力たるや想像を絶する。

 

 それに対して、叫びつつ回避行動を取り始めるコウタと、見据えたまま神機を握る力を強めるサラが対象的だった。

 

《――――!》

 

 サラは地を蹴って空へと跳び鉄骨へと向かう。そして、その旧式スナイパー神機の銃身で半ばを殴り付ける。

 

 次の瞬間、鉄骨は半ばから粉砕し、二つに割れてほぼ無傷の銃身が現になる。それもそのはず、ただの建材の鉄骨が神機の材質に叶う筈もなかったからだ。もっともだからと言ってそれを実行に移せる辺りが、極東支部のゴッドイーターたる所以なのだろう。

 

《――――――!!》

 

『■■■――ッ!』

 

 そして、サラは鉄骨を破壊した勢いのまま身体ごと神機を縦に激しく回転させ、男性体の脳天の片割れ目掛けて銃身を叩き付ける。

 

 それに対して男性体は片腕を振り上げてガードし、もう片腕で彼女を殴り付けようと振り上げたが、彼女はいつの間にかピンを抜いていたスタングレネードを男性体の顔目掛けて放り投げた。

 

『■■■――!?』

 

 何も効かぬ怪物というわけでもないらしく、男性体は光と音によって少し怯む。その僅かな時間でサラは銃身を男性体の腕を中心に無理矢理スライドさせ、双頭に銃口を向けた。更にオラクルの収束と共にスナイパーから2発のバレットが放たれ、それは何故か男性体の2つの頭部にそれぞれぴったりと張り付く。

 

 サラが男性体から飛び退いた直後に、男性体の拳が元いた場所を通り過ぎ、それに続くように張り付いた神属性の淡い紫色をしたバレットは激しく数度爆ぜる。

 

 そして、高い威力のために巻き上げられた土煙の中から全く変わらない姿で佇み、感覚を確かめるために首を鳴らしているように見える男性体の姿がそこにあった。

 

《うわ……サラの"内臓破壊弾(ないぞうはかいだん)"が効果ないし……》

 

《――――――》

 

 小さく溜め息を溢しながら、肩を竦める動作をしているサラの姿が妙に印象的であろう。

 

 そんな彼女に狙いを定めた男性体は――背後から斬り掛かってきたソーマの白いバスターブレードを、拳で受け止めた。

 

《その図体でどんな反応速度と感覚してやがる……!》

 

『■■……』

 

 

 

 鼻を鳴らすように唸る男性体に対し、復帰したソーマを中心にコウタとサラが対応する場面を暫く映しつつ、映像は切り替わる。

 

 

 

 そこにはまるで3人の神機使いが、1人の神機使いを囲んでいるような異様な光景が映された。

 

 それはキグルミ、真壁ハルオミ、ギルバート・マクレインの3人が、ニライカナイの女性体を囲んでいるのだが、女性体は生えるように異形化した鎌の片腕を振るうことでその全てに対応しているのだ。

 

『イヒヒヒ……!』

 

《――――!!!!》

 

 キグルミがロングブレードによる剣舞のような連撃を仕掛けようとも、女性体は鎌の弧を描く部分で受け流すことで逸らし続ける。

 

《随分、ダンスが上手じゃないか!》

 

『鬼サンコチラ……!』

 

 更にハルオミのバスターブレードによる攻撃には、体捌きのような足運びと、異様な身体能力による瞬間的かつ爆発的な移動速度のステップを駆使し、紙一重で避け続けるためにまるで当たる様子がない。

 

 その様は、彼が形容するように踊っているようにすら思えた事であろう。意図して掠りすらしないということは、途方もない動体視力や身体の出来だけでなく、卓越した戦闘センスまでも持っているように錯覚してしまうだろう。

 

《付け焼き刃でここまでだと……!?》

 

『踏ミ込ミガ足リン!』

 

 そして、果てはギルバートのチャージスピアの点攻撃に対して、身体に命中する軌道だけを鎌による切り払いでもって叩き返し続けている。

 

 受け流し、回避、切り払い。この三つをそれぞれの相手の獲物に合わせて行使することで、アラガミの異質かつ暴力的なまでの身体能力と合わせつつ無理矢理対処していたのだ。

 

 ニライカナイの女性体の人間の技術とアラガミの力を合わせたような歪で冒涜的ですらある戦法は、既存のあらゆるアラガミから一線を画すであろう。

 

『……レベルヲ上ゲルワ。攻略シテミナサイ? アハハハッ――!』

 

《くっ!?》

 

 すると女性体は、3人から一度の跳躍で数十mの距離を取ると、鎌の先端に数mはあろうかというオラクル刃を形成する。そして、赤黒く淡い光を帯びたようなそれを3度振るい、更に3回繰り返すことでそれぞれのゴッドイーターへと振るう。

 

 それは計9つのオラクルの質量を持つ斬撃波となって射出され、見るからにあらゆるものを削り取るような外観をしたそれによって、否が応でも3人は回避を強いられつつも女性体へと迫る。

 

『ハハハハッ――!』

 

《マズい!?》

 

 しかし、その瞬間の隙を突き、女性体は鎌を背中まで振りかぶりながら再び赤黒いオラクル刃を形成したが、今度は30~40mはあろうかというほど巨大なものであり、それを全身の回転と共に横一文字に凪ぎ払う。

 

 

 

『アットウテキナチカラ!!』

 

 

 

 その瞬間、放たれたオラクル刃の斬撃波は、明らかに形成されたオラクル刃の長さを無視して半径200~300mはあろうかという程の範囲を薙ぎ払った。

 

 辛うじて空に跳びつつ避けることでそれを躱した3名のゴッドイーターらであったが、女性体の背後にある嘆きの平原の外周にあった廃ビルを外側の地形ごと両断していることから想像を絶する威力だったことは明白であろう。

 

《――――――!?》

 

 すると着地した何故かキグルミが女性体に対してジェスチャーをする。何故なら女性体の背後でオラクル刃が通り過ぎた廃ビルが静かにずり落ちるように倒壊し始めていたからであろう。

 

 その丁度、真下にいるのは当然、ニライカナイの女性体である。恐らくコチラに女性体の意識を向けさせて、瓦礫の下敷きにする作戦だ。

 

『フゥン……』

 

 しかし、女性体は背後を見ずに鎌にしていた片腕をゴッドイーターの捕食形態のような形に変形させると、それを空に向ける。

 

 次の瞬間、まるで食虫植物のように急激に開いたそれは、即座に数十倍の大きさへと膨張し、ゴッドイーターならば見慣れた捕食行為を降ってきていた廃ビルの上部に向けて放った。

 

 そして、まるでスコーンでも食べるかのように巨大な瓦礫を喰い千切り、コンクリートや鉄骨やガラスなどが咀嚼される異音と、口に入りきらずに溢れた物体が地面に打ち付けられる音が響き渡る。

 

 暫くゴッドイーターらがその光景を眺めていると、咀嚼を終えたのか風船から空気が抜けるように女性体の捕食形態の片腕が萎み、通常の人間に似た腕に戻すとポツリと呟く。

 

『マア、ソコソコ楽シメタワ。ソレデ? 今日ハ何ヲ殺セバイイノ?』

 

《ニライカナイ! 戦闘体勢を解きました! 誘導班の皆さん! 引き付けていたアラガミをニライカナイへ誘導してください!》

 

 その瞬間、オペレーターからの一斉通信が入ると共に、嘆きの平原の南部を除く三方向の外周と中央から続々と様々なアラガミを引き連れたゴッドイーターらが侵入と離脱を繰り返していく。

 

 そんな中、ニライカナイは男性体と合流すると南部へと歩いて行き、彼女と交戦していたゴッドイーターらは彼女を追い越して南部から撤退して行く。それに対して彼女が追撃を加える様子はない。

 

 そして、嘆きの平原の内部とその一帯はみるみる内にアラガミで満たされる。そんなアラガミたちは特に堕天種、接触禁忌種、感応種などの個体が極めて多く、一帯にいるその総数は既に70~80体は確認できるであろう。

 

『ヨクモマア、コレダケ集メタワネ』

 

 そして、ニライカナイは南部で腰掛けていた瓦礫のところまで来ると、おもむろに立て掛けられている古びたペイジを掴み上げて肩に担いだ。

 

『力ヲ貸シテ……―――サン』

 

 ポツリと彼女が何かを呟いたが、それは余りに小さかった為に音声として拾い切れていなかった。そんな中、彼女に対して青い体色をしたカリギュラと、白紫色をしたウロヴォロス堕天が二方向から突撃してくる。

 

 アラガミの中でも生存競争があるため、ニライカナイに攻撃を仕掛けるのは可笑しくはないが、これだけの数を前に笑みを浮かべている姿はやはり人間とは異なる存在なのであろう。

 

 そして、先に速度のあるカリギュラがニライカナイへ接近し、そのブレードで女性体を斬り裂くように薙ぎ、その余波だけで彼女がペイジを立て掛けていた瓦礫は粉微塵に消え去る。

 

『コッチヨ、オ馬鹿サン』

 

『―――――!』

 

 しかし、女性体は振り抜いたカリギュラのブレード部分に立っており、カリギュラは咆哮と共に逆の腕のブレードを振るうが、既にそこに女性体はおらず、カリギュラの頭部に乗ってペイジを突き立てている。

 

『――――――!?』

 

『マズハ1匹……』

 

 そして、突き刺したペイジの柄に拳を叩き付ける。その威力と衝撃はカリギュラを前のめりに縫い付けて転倒させた上に、頭蓋骨を下顎まで貫通させた。当然、生物としての限界は超えていないカリギュラは二度と動くことは無くなる。

 

『…………二匹ネ』

 

 女性体がペイジを引き抜いてウロヴォロス堕天の方を見ると、頭部に取り付いた男性体が、ウロヴォロス堕天の頭部を背骨ごと強引に引き抜いているところであった。

 

 ニライカナイの様はあまりに凄惨かつ遊びがなく、これまでゴッドイーターらと遊ぶように戦っていた様とは明らかに異なっている。それは本当に命のやり取りではなく人間と遊んでいた事を思わせるだろう。

 

『サア、私ヲ殺セル者ハイナクテ?』

 

 瞬時に2体の大型アラガミがゴミのように葬られたため、後続のアラガミたちはニライカナイからやや距離を取って囲んだまま威嚇している。

 

 それを彼女は涼しげな様子で流しているが、喰らう本能を持つアラガミが再び雪崩れ込むのは時間の問題であろう。女性体はペイジを引き絞り、男性体は腕を鳴らして構え――。

 

『アラ……?』

 

 そんな束の間の膠着状態の中、中央のアラガミの通り道から1体が飛び出して来る。そのアラガミは極東周辺で発生したと報告されている異質な存在――ディアウス・ピターの更なる上位種の"アリウスノーヴァ"であった。

 

 それを眺めるニライカナイは憐憫と哀悼が混ざったような何とも言えない表情をしている。

 

『一歩間違エバ……ネェ……』

 

『□□□□□□□□――ッ!!』

 

 そして、アリウスノーヴァが咆哮を上げたのを皮切りに、次々とアラガミの大群は殺到し、嬉々とした表情でそれらとニライカナイは激突した。

 

 その様は蟷螂に群がる蟻のようであったが、ニライカナイの男性体はまるで怯むことも臆することもなく獣のようにアラガミを擂り潰し、女性体はゴッドイーターのようにアラガミとアラガミとの間を舞ながら貫き穿つ。

 

 柔と剛、砕と貫、男と女、人と荒神。それらが表裏一体となったニライカナイは既に既存のあらゆるアラガミやゴッドイーターを超越しており、映像として見ているだけでも見惚れてしまうほどであった。

 

『モット……私ヲ楽シマセナサイ!』

 

 アラガミを倒し続けるニライカナイが叫びつつ感応波を放つ。

 

 その直後、獅子のような下半身と人間女性の上半身に、巨大な一つの目となった頭部を持つ白銀の機械のような異形の第1種接触禁忌種アラガミ――エクスマキナが嘆きの平原へ飛び込むように侵入し、ニライカナイの近くまで来ると手近なアラガミとその大槍で戦闘を開始した。

 

『イヒヒヒヒヒ……!』

 

 更にニライカナイと同系統と思われるアマテラスがベースの第1種接触禁忌種アラガミ――オトタチバナが他方から現れ、周囲のアラガミを重機か何かのように薙ぎ倒し、絡め喰らって行く。

 

 そのまま、ニライカナイと2体のアラガミは、遂に100に届こうかと言うほど周囲一帯に集まり始めたアラガミと正面から激突し合う光景が暫く映る。

 

 

 

 そして、戦局が次第にニライカナイへと傾いて行き、彼女の砲撃を至近距離から受けたアリウスノーヴァの頭部が完全に消滅したところで映像は切り替わった。

 

 

 

 映像は再びサカキ博士の研究室に戻り、そこには笑みを浮かべる博士が撮されている。

 

《――さて、以上の映像を見て貰ったところで、もう一度言おう。彼女のことは我々、極東支部に任せてくれたまえ。きっと悪いようにはしないさ》

 

 そして、一呼吸置いてからサカキ博士は更に言葉を続けた。

 

ニライカナイ(彼女)をてなずける。それが私と極東支部の決定だ。まずはゴッドイーターとしての習慣付けを行い、慣れたところで人間として徐々に慣らしていく。そうして、彼女を極東支部に溶け込ませる》

 

 語り始めたサカキ博士の表情や様子から本気でそう言っていることが伺えるであろう。前代未聞などという生温い話ではない。

 

《突拍子もない話だと思うだろう? 有り得ないとも思われる筈だね。けれど、彼女はレトロオラクル細胞を持つアラガミのように純粋無垢でもある。だからこそ彼女にとってどれだけ人類が有用なのか示すことこそが最大の対抗手段となりうるんだ》

 

 サカキ博士は机で両手を組んで合わせ、細く息を吐き出す。

 

《まあ、他に方法もないしね。はっきり言ってお手上げだよ。彼女は最硬の身体と、最悪の砲撃能力を持つアラガミだ。トドメに感応種と来ている。ひとつたりとも現在のフェンリル……引いては人類が攻略を成し得ていないものさ。だからここは……ひとまず我々、極東支部に任せてくれたまえ。最善を尽くした結果を報告出来ると保証しよう。今回の報告はこれで終わりだ。御視聴痛み入るよ》

 

 最後にサカキ博士がそれだけ述べたところで映像は停止した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、カナくんもうその……カメラ? カメラ止めていいよ」

 

『アイ』

 

 撮影が終了し、カメラ……を口の中に取り付けた護衛要塞を構えていた私は撮影を停止して電源を落とした。我ながら一切手振れのない中々良い絵が撮れたと思う。

 

 ふっふっふ……ハナちゃんの深海熊猫艦戦(タコ焼き)を羨むだけの私はもう居ない。何故なら私も別の護衛要塞(タコ焼き)を浮かべられることに気づいてしまったからだ。

 

 ちなみに今回撮った映像の空中撮影をしていたのも私の護衛要塞である。自演乙。

 

「しかし、突然の事だったのにアリサくんも中々乗り気だったね。現在(コピー)のアリウスノーヴァまで引っ張って来てくれるとは思わなかったよ」

 

 そう博士が呟くと室内撮影中はレフ板を掲げていた横乳(ヨコチチ)……もといアリサちゃんは青筋を浮かべる。美人の笑ったままの怒りほど恐ろしいものはないと思うが、博士は相変わらずどこ吹く風だ。

 

「私が怒ったのは、博士が人型アラガミ(カナさんたち)を匿っていたからではなく、除け者にされていたからです!」

 

「それは最近、アリサくんはクレイドルの方でとても頑張っているそうだから、声を掛けるのはまだ後にしておこうと思ってね。君の働き過ぎは私も知るところさ」

 

「ぐぅ……微妙に的を射たことを……」

 

 絶対に反応を楽しみにしていただけな気もするが、気遣いと言われてしまうと人間弱いものである。私だって弱い。

 

「しかし、最近はアヤメさんがその……私が根を詰めないよう気を掛けてくれたり、手伝ってもくれるので良くはなったんですよ?」

 

「おや、アヤメくんがねぇ。それはよかった」

 

 どうやらアヤメちゃんは順調にフェンリル極東支部に適応しているらしい。とても良い傾向と言えるだろう。

 

 ん……? あれ、でもその下りってGOD EATER2の主人公とのキャラエピソードだったような……。まあ、先に別の子が少しやったからといってそこまでの違いは無かろう。最悪、ラケルてんてーは私が命に変えてでも止めるので問題はない。砲撃能力を丸々爆弾に変えてコアを臨界させれば、フライヤを樹リウスごと跡形もなく吹き飛ばすぐらいは出来ると踏んでいる。

 

 まあ、それは私がこの世界に最低でもしなければならない奉仕であって、サカキ博士の"人間とアラガミの共存"という結局、未だ個人単位でしか成功していない途方もない夢を実現させたいとも思うからな。

 

「それにしてもこんな捏造しかない内容をフェンリル本部を含むフェンリル全てに報告してよかったのですか? それに……そもそもカナさんはもっと話のわかるちゃんとした方じゃないですか」

 

「うーん、それは止めた方がいいねぇ」

 

『人間ソンナニ愚直デモ利口デモナイワヨ。トイウカ――』

 

 アリサちゃんの言うことは尤もであり、そう言われて嬉しくない事はないのだが、ニライカナイ()の近況報告をありのまま伝えてしまうのは流石に問題が有り過ぎてしまう。

 

 まず、私の成り立ちには上層部が他の人間を捨てた事実のあるアーク計画が絡み過ぎている。極東支部では公然の秘密のようなものだが、他はそうではない。その情報を全世界にばら蒔くのは多大なフェンリル自体の失墜を招き、要らぬ軋轢を生むことだろう。その時点で私の真実を広める理由はどこにもないのだ。

 

 第二にそもそも私がこれまで生きて来た内容が歯の浮くような話過ぎて信憑性に極めて欠ける。確かにアヤメちゃんやケイトなど証拠になりうる人物はおり、彼女らも喜んで証言をしてくれるとは思うが、だからと言って現状では本能のままに喰らい続けるだけの化け物が急に聖人染みた行動に走るのは、眉唾物などというレベルではない。証言者の正気を疑う方が先であろう。

 

 第三にアラガミは人間よりも馬鹿でなければならないということだ。要するにアラガミに対して、無意識に人類が誇っている優位性として最大の特徴はその知性なのである。最後の砦をアラガミに脅かされれば、フェンリルは枕を高くして眠ることも出来ないというもの。ただでさえ、感応種の出現や赤い雨の発生により、窮地に立たされつつある中で、このような爆弾まで放り込むのは得策ではない。

 

 第四にそもそも他のフェンリルが極東支部に開示を求めているのは、ニライカナイ()の現在地と現状と極東支部の被害などであり、それ以上のことではない。現状維持が出来ているのならばそれに越したことはないのだ。誰だって己の属するフェンリルに新たな問題を持ち込まれたくはないからな。

 

 第五にサカキ博士は他のフェンリルに"頭の可笑しいアラガミ博士"と認識されているため、会話になるアラガミを懐柔するぐらい言っても全く違和感なく浸透するということだ。ならば私は子供のように純真で残酷なアラガミを演じればそれでいいのだ。

 

「頭の可笑しいアラガミ博士って……」

 

「そんなに褒めても初恋ジュースしか出ないよ?」

 

『チョウダイ』

 

「はい、どうぞ」

 

『ワーイ!』

 

「ええ……」

 

 何故かアリサちゃんがあり得ないモノをみるような目で見ている気がするが、そんなことよりも初恋ジュースのプルタブを開けて中身に口をつけた。うん、美味しい!

 

 本当になんで他の皆は飲まないのだろうか? 博士と私とカグラちゃんとハナちゃんには大好評なのに。

 

「なんだか……カナさんはシオちゃんとは違うタイプの人型アラガミ過ぎて調子が狂います……」

 

『偏屈デドチラカト言エバ利他的ナダケヨ。アナタノ方ガズット利口デ可愛ラシイワ』

 

「そういうところです」

 

 そういうところらしい。まあ、私にも純粋で天神乱漫おほん……天真爛漫な時代もあったかもしれないが、それは世界線を超えるほど遠い遠い昔のお話だ。記憶と知性でもブッ飛ばされない限りはまずシオちゃんのように可愛くはなれないであろう。

 

 まあ、何はともあれ当面の間の問題はこれで片付いた。これからは暫くラケルてんてーの対策を練ったり、アイーシャ・ゴーシュ博士としての私を取り戻したことから、アラガミの研究者の側面を突き詰めて行きたいと考え――。

 

「フォウ姉ちゃん! 大変だよ!?」

 

 そんな会話と思考をしていると、血相を変えた様子のアヤメちゃんが駆け込んできた。とりあえず、落ち着かせるために飲み掛けだけれど、この初恋ジュースを飲――。

 

「いらないよそんなの!?」

 

『ソンナモノ……!?』

 

「それよりも大変なの!」

 

『ア……ウン……ドウシタノ?』

 

 アヤメちゃんに反抗期が来たのかと思いつつ、愕然としていたが、彼女の様子は私に構ってくれることも出来ない状態なだけだと思い当たり、とりあえず話を聞くことにする。好き嫌いは良くないので、今度アヤメちゃんに初恋ジュースを飲ませ――。

 

 

 

 

 

「テスカトリポカさん達が、急にフォウ姉ちゃんたちみたいな女性アラガミになって技術部と偵察班が大変なことになってるの!!!?」

 

 

 

 

 

……………………………………んぐんぐ。

………………………………。

…………………………。

……………………ぷはー。

………………。

…………。

……ふう。

 

 

 飲んどる場合かーッ!

 

 

 私は空になった初恋ジュースの缶を投げ捨てて頭を抱えた。

 

 

 






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