荒ぶる神な戦艦水鬼さん   作:ちゅーに菌

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一方その頃、開発区画では!(デーデデ↓ードーン↑)







顔に似ぬ心

 

 

 

 

 

「今日もよくやってくれたな」

 

『…………………………』

 

 技術部の車両区画にあるドックに停車している異様な外観をした大型トラックのうち一台がある場所でその車体を磨きつつ、偵察班の男はふとそんな言葉を呟いた。

 

 誰に言うわけでもなく、何気なく呟かれた言葉であり、それに自己満足以上の意味はないが、彼の柔和な表情が言葉に意味を持たせていることだろう。

 

 彼はゴッドイーターではなく、それこそフェンリルではとりとめもなく、技術さえ学ばせる期間があれば幾らでも替えの効くような人材である。それ故に偵察班というポストに収まっており、ただでさえ数の多い極東地域でゴッドイーターたちで偵察を極力せずに円滑なクエストの受注と、討伐対象の選定が可能となる訳だ。要はフェンリルで語られない縁の下の力持ちである。

 

 そんな彼の最近の話を少しだけ掘り下げよう。

 

 彼はつい一年近く前までは、ゴッドイーターの輸送と回収を任務としているため、ほぼゴッドイーターと同等の危険を孕んでいる役職である輸送班にいた男である。また、最初にニライカナイを発見し、写真に納めた功労者でもあった。

 

 そんな彼なのだが、流石にゴッドイーター程は肝の据わっていない労働者である。そのため、ニライカナイの危険極まりない生態を目の当たりにした結果、精神的に落ち込んでしまった兼ね合いで上司からの勧めもあり、輸送班よりは死の危険の少ない偵察班に異動になっていたのだ。

 

 流石の誉れ高きフェンリル極東支部と言えども、ゴッドイーターですらない偵察班の人間を第1種接触禁忌種アラガミへ偵察に行かせるような人材を投げ捨てることはしない。精々、群れていない第2種接触禁忌種アラガミ程度のモノである。まあ、それでも他支部からすれば、本来なら死んでこいと言っていると同義な辺り、極東支部の感覚はかなり逸脱しているだろう。

 

 フェンリルの外で働く仕事の中で、神機使いに関与するが、神機使いではない一般人が出来る仕事の中で、搬送班の次に危険な仕事が偵察班である。偵察班とは名前の通り、神機使いが戦う対象のアラガミの居場所や正確な数などの情報を視察し、クエストの情報を確定するための役職だ。

 

 しかし、そんな偵察班でも当初は、サカキ博士が突拍子もなく開発したという3台の武装トラックは大変気味悪がられていた。それもその筈、見た目がまるでアラガミのテスカトリポカをそのままトラックにしたような攻め過ぎたデザインだったからである。

 

 しかし、その認識は直ぐに改まった。何せ、当たり前だが神機使いでない人間が乗れる。そして、中型アラガミ程度ならば容易に追い返せるオラクル武装と、重鈍ながら確かな走破性を有しており、余りに優秀であったからだ。

 

 博士は"常人にも神機の能力を限定的に使用可能になるまで大型化したアラガミ由来の機体"と、大変尤もらしいご高説を述べていたが、多くの偵察班にとってはどうでもよいことであろう。基本的にはフェンリルに貢献しつつ、五体満足で帰って来れればそれでいいのである。

 

「よしよし……綺麗になったぞ」

 

『…………………………』

 

 そして、現在は1日の仕事終わりに彼が乗り回していた大型トラック――テスカトリポカをそのままトラックに変形させたような頭の可笑しいデザインのそれの装甲を磨いていたのである。

 

 当然、大型トラックが生き物である筈もないため、声を掛けたところで意味などはまるでない。

 

 しかし、彼がこのようにアレな見た目のトラックに対して生き物か何かのようにご執心なのは無論理由がある。それはこのトラックに命を救われたことがあるからだ。

 

 あれは偵察班に移動して数ヶ月程経ち、仕事が板についてきた頃。仕事に精神的な余裕が出始め――フェンリルのフィールドワークでは一番死にやすい時期の話である。

 

 彼はこのトラックに乗りつつ、いつものように偵察任務を行っていると、とっくの昔に打ち捨てられた農園にそっと咲き誇る見事なダリアの花畑を見つけたのだ。人に管理されるわけでもなく、桃、赤、黄、白などの花々が謳歌しているばかりのに咲き乱れる光景は、写真撮影が趣味である彼にとっては心を動かすに足るものだったのだ。

 

 また、カメラはフェンリルに於いて外部居住区出身である彼のような者にとっては、余程の高級取りでなければ手の届かない娯楽であり、家庭を持っておらず、アナグラの外での仕事をしている彼故に買えた物と言える。そして、彼の趣味はこう言った外で稀に残るありのままの美しい自然を写真に残し、それを児童養護施設や病院へ寄贈することであった。

 

 そんな趣味を持つ彼は、ダリア園の近くにトラックを止め、カメラを手に取り降車して写真を撮影する。そして、暫くダリアをカメラに納めつつ、施設の子供や長期入院患者から時折送られてくる"きれいだった"や、"また次の写真を見るまで死ねない"と言ったなんということもない手紙の内容を思い出していた。

 

 崩れ掛けたサイロの陰に潜んでいたヴァジュラに襲われたのはそんな折りである。

 

 辛うじて直撃を免れた彼であったが、ヴァジュラの剛腕によって爆ぜるように四散した地面から飛んだ石礫が彼に当たり、それによって脳震盪を起こした。意識はあるが身体の自由は効かず、更にゆっくりと己へ迫るヴァジュラを目の当たりにしたことでこの場で死ぬことを理解し――。

 

 ヴァジュラの頭上に輪のようなものが出現すると共に、大量のトマホークミサイルが降り注ぐ光景を目にする。

 

 彼が驚く中、辛うじてヴァジュラはトマホークミサイルの雨から脱すると、何故かトラックのある方向へと跳ぶ。そして、トラックにヴァジュラが殺到した直後、トラックは垂直に数m跳んで攻撃を避けると共に、着地地点の真下に来たヴァジュラにのし掛かる。更にヴァジュラを踏み押さえているキャタピラがギュルギュルと回転を始め、もがくヴァジュラの身体を削り取る。彼は昔見た映画の拷問のワンシーンを思い出していた。

 

 すぐにヴァジュラは動かなくなり、削れた身体から剥き出しになったコアを食べるように摂取しているトラックの光景を最後に彼は意識を手放す。そして、次に目覚めたとき、何故か彼はトラックに乗り込んで極東支部から1kmという近場におり、カメラは助手席に置いてあったという。

 

 そのような事があり、彼はこの"1号機"とプレートの貼られているトラックに対して特にご執心なのであった。

 

 閑話休題。

 

「今週の特別補給だ」

 

 そう言って彼は隣にある台車に置かれているやたら機械的な見た目の蛸壺のようなものを見る。壺の中には握り拳と同じか一回りか二回りほど大小様々なガラス玉のような色合いをした物体が十数個ほど詰まっていた。さながら大きなドロップボックスのように見えなくもないであろう。

 

 そして、その中身の物体を彼はやたら無骨で物々しいトングのようなもので摘まみ上げ、大型トラックの給油口を開けると、その中に次々と投入していった。これはガラス玉などではなく歴としたアラガミのコアである。

 

 普通ならばこのようにコアを雑に使用されることはフェンリルでは有り得ない。しかし、どういうわけかこのトラックたちにコアを与えると、走行速度やトマホークミサイルの量や質が明らかに向上することがわかってしまった上、最近になり、ニライカナイにアラガミを処理させることでコアが余るという現象が起きているためだ。

 

 というのも偵察班でしかない彼は情報としてしか知るところではないが、どうにもニライカナイというアラガミは、倒したアラガミのコアを抜かずに放置するために戦闘現場の後には大量のコアを含むアラガミの死骸が放置されるらしい。コアさえ抜かなければアラガミはすぐには消え去らないため、フェンリル極東支部にとっては良い供給源となっている。

 

 そして、ニライカナイに誘導して倒させるアラガミは当然ながら接触禁忌種、亜種、感応種などの極めて質の高いコアを持つ個体となる。また、供給過多になってもいるため、保管スペースの確保のためにそこまで質の高くないコアがこうして払い下げられているのだ。

 

 しかし、平時では払い下げられたからと言って、偵察班に回される理由はないが、何せニライカナイにぶつけるアラガミを捜索するために偵察班が必要なため、円滑にトラックが動けばそれに越したことはない。そう言った事情により、3機のトラック全てに対して定期的なコア補給が行われているのであった。

 

「ん……?」

 

『……………………ッ!?』

 

 するとコア補給を終えた直後、突如としてトラックがガタガタと独りでに震え始めた。彼は地震でも起きたのではないかとまず考えたが、明らかに様子が可笑しいのはトラックのみである。

 

 その上、装甲の表面に亀裂が走り、金属が軋む異音を立てながらコンテナ内部を中心に異様な膨張を見せつつ、亀裂が走った装甲が徐々に砕けていくと共に、車体が芋虫が仰け反るようにへし曲がった。

 

「お、おい……どうした大丈――うわぁぁ!?」

 

『――――――――――』

 

 トラックの異様な様子を心配した瞬間、トラックは輝かしい閃光を放つと共に車体が爆発四散し、その中から飛び出した何らかの塊が彼にぶつかりそのまま後方に転倒する。

 

 そして、目を開けつつ自分に覆い被さったそこそこ重たい何かを払い除けようとし――女性の身体のように柔らかい何かに触れたことに気づく。

 

 その感触に驚き、それに目を凝らすと、そこには黒いビキニのような下着を纏い、非常に丈の短いレザージャケットを着て、長い白髪をツインテールに纏めた女性の姿がある。

 

『ン……』

 

 女性は彼がかつて目にしたニライカナイの女性体のように白い肌をしており、人と機械が混じったようなか細い女性の声と共に瞳が開かれる。彼と自然を交えたその瞳は淡く光る赤色を宿していた。また、その顔立ちは気の強さを感じさせ、蛇のように攻撃的だとさえ思えることであろう。

 

 彼の上に乗りながらパチパチと何度か瞬きをしている女性は、大きく目を見開いており、ふとした瞬間に視線を自分自身の身体に向ける。そして、少し身体を起こすと胴や足を見回してから、黒いアームと砲搭が一体化したような両手を何度か開閉していた。さながらそれは己の身体を確かめているように見える。

 

『ネェ……アナタ?』

 

「あ、ああ……?」

 

 身体から彼に視線を戻した彼女はポツリと彼を呼ぶ。そんな様子の彼女は少し悪戯っぽい柔和な笑みを浮かべており、彼にはまるで女神のようにさえ思えた。

 

『ワタシ……キレイ……?』

 

 そして、彼女から呟かれた言葉はその感情を見透かされたように思えて彼は口ごもる。しかし、彼女は彼の言葉を待っていたため、何とか一言だけ呟いた言葉は"綺麗だ"という酷く簡素で当たり障りのないものであった。

 

『ウフッ……ウフフ……ソウ……ソウナノネ』

 

 しかし、それにも関わらず、彼女の表情は安堵と喜びに染まり、まるで花が咲くように優しげで嬉しげに彼は思え、何故か愛しさすら覚える。

 

『……ジャア、写真撮ル?』

 

 彼女はそう言って彼に身を預けるようにもたれ掛かり、頬に軽くキスをする。そんな彼女を更に愛しく思った彼はそっと彼女を抱き締めてみるが、それに対して彼女は嬉しげに目を細め、より彼に全身で触れた。

 

 彼は彼女が何故このようなことをするのか考え――トラックの写真は一枚も撮っていなかったことに思い当たり、失敗と申し訳なさを感じると共に、それ以上の愛らしさを覚えるのであった。

 

 

 

 

 







1号機は南方棲鬼入りとなっております(メロンパン入り並みの感想)
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