感想などありがとうございます。全て楽しみに目を通しております。
後、へんなものを食べてこの小説を更新するモチベーションがマシマシなので初投稿です。
『………………』
『………………』
『………………』
アリサちゃんと共に、私は開発部が置かれた区画まで来ていた。件の3体のテスカトリポカ――いや、テスカトリポカだった彼女らはどうやらそこで大人しくしているらしい。
ちなみに私は"さるぼぼ"のぬいぐるみのように小さく軽く柔らかい男性体をアリサちゃんの肩に乗せて来ているため、普通に視界はある上、耳打ちして会話も出来る。いつもの女性体の方はお部屋でお留守番だ。無論、どちらも私で同時に操作しているため、我ながら無駄に便利な身体になったものである。
「うわぁ……何ですかあれ……。こんなのどうやって隠蔽すれば……」
アリサちゃんが目眩を覚えたような様子になりつつもまず目を向けたのは、"1号機"と書かれた貼り紙の前におり、黒いビキニのような下着を纏い、非常に丈の短いレザージャケットを着て、長い白髪をツインテールに纏めた深海棲艦――"南方棲鬼"。アーケードだとオラオラしている攻撃が印象的である。
続いて隣に目を向けると、"2号機"と書かれた貼り紙の前におり、非常に長い白髪をしてウサミミのような黒いカチューシャを着け、肩が出てスカートと一体化したボディスーツのようなものを着た深海棲艦――"泊地棲鬼"。アーケードだとやたらデカいことが印象的である。
そして、最後にその更なる隣で"3号機"と書かれた貼り紙の前におり、白髪をポニーテールに纏めて、ノースリーブで丈が短く黒いセーラー服を着た深海棲艦――"装甲空母鬼"。アーケードだとまだ影が濃いことが印象的である。
そんなドイツもコイツもやたらに扇情的だったり、布の面積が偉く少ない彼女らは、どういうわけかちょこんと床に並んで座り込んでおり、正座のまま静かにしていた。
また、何故か艤装は装備していないようで、一見したところではただの女性アラガミにしか見えない。
『――――ッ!』
『――――ッ!』
『――――ッ!』
「うわぁ!?」
『中身変ワッテナイワネ……』
すると3体……いや、3人はアリサちゃん肩にいる私を視認した瞬間、正座したままの姿勢で綺麗に揃った敬礼をして来る。どうやら中身はテスカトリポカの頃と大差ないらしいことは一安心であろう。
しかし、既に開発部や偵察班からかなりの人間の野次馬に遠巻きで囲まれており、はっきり言って隠蔽は既に不可能なことは明白と言える。
「あっ! 博士からの使いかな!」
すると明るい声が掛けられ、アリサちゃんがそちらに向いたため私の視界も彼女を映す。
それは黒緑の作業ズボンに白のノースリーブのタンクトップという、相変わらず女っ気の欠片もないにも関わらず、大きなお友達には大人気の女性神機技術者――楠リッカちゃんであった。
「リ、リッカさん……これはその……」
「そうだ! ホントこの子達凄いんだよっ! 君たちまたあれやってよー!」
そうリッカちゃんが言うと、元テスカトリポカ達は顔を見合わせた。そして、正座の姿勢から立ちがると、それぞれが少し距離を取る。
その直後、開発部の別区画から捕食形態の神機と青い白い手足と黒い鋼を合わせた
そして、彼女らはその場で跳躍すると上から一直線にそれぞれの艤装に下半身を埋めて乗り込んで……。
――ブッピガン!――
なんだか今なんか絶対に妙な音がした気がするが、兎も角アーケードで見慣れた南方棲戦鬼、泊地棲鬼、装甲空母鬼の姿と化した3人がそこにいた。よく見ればキチンと、1~3号機とそれぞれ書かれた紙を持っている。
「いやー、あれで神機なんだから本当にスゴいよ!」
するとリッカちゃんは3人の中でも一際大きな艤装を持ち、巨大なカノン砲を備える泊地棲鬼に近寄り、その艤装を撫でていた。撫でられている方は触れられた瞬間、少しだけぷるっと身を震わせたが、その後は大人しくしている。どうやら私と同じく感覚も共有しているようだ。
「神機……?」
「うん、何せ下半身のあれは丸々全部ほぼ神機だからね。やっぱり博士はスゴいよ」
「は……?」
「えっ、だってどうせ博士の思い付きじゃないの?」
そういうリッカちゃんの表情は一切の余念の無い様子であり、小首を傾げる様にはどこにもアラガミのような姿への驚きや畏怖はない。
まあ、彼女に関しては元々そういう気質だった気もするが、周囲に集まる他の人々には少なからず、そのような表情が見え隠れしているため、それだけで押し通すのは流石に限度が――。
「そこからは私が説明しよう」
するといつものように笑みを浮かべたサカキ博士がこの場に現れ、周囲のざわつきが一斉に止んだ。見ればやや疲れた顔をしたアヤメちゃんが後方に控えており、短時間で博士が何か仕込んだに違いないと確信する。
「すまないね皆。少し名前を考えるのに時間が掛かってしまってね」
そう言いつつサカキ博士はテスカトリポカ1号機こと南方棲棲鬼の目前に近寄り、その掌を向けて示す。
「まず君は"ユピテル"」
それからテスカトリポカ2号機こと泊地棲鬼まで移動するとまた手で指し示す。
「お次の君は"ユーノー"」
最後に残った装甲空母鬼の前まで来ると、やはり手で指し示しながらサカキ博士は口を開く。
「最後に"ミネルヴァ"。どうだい? 中々悪くないと思うんだけれど。カピトリヌスの三神は、ローマ市のカピトーリウムの丘上のユピテル神殿に祀られた三柱一組の国家神だね。それらのように今や国に等しいこのフェンリル極東支部を護って欲しいという願いを込めてみた」
周りの人間は博士の奇行と言葉に着いていけていない様子である。そう言う私も察しはしたが、まさか私がなんの提案や素振りをせずともそのような行動に走ったことに面を食らっていた。
「さて、フェンリル極致化技術開発局ことフライヤで研究開発されている対アラガミ用無人兵器の存在は、あちらの宣伝もあり、君らも知るところだろう。私からしても大変興味深い研究だ。そして、畑は違えど研究者としてフライヤが、神機兵の無人制御システムの完成が難航していることは知っているかね?」
余りに自信と当然に満ちた様子で、周囲の人々に語り掛ける博士の姿は研究者というよりも煽動者のそれに私には見え、何とも言えない気分になる。
「そのため、私なりに人間を伴わない答えを用意してみたんだ。何せ幸いにもこの極東支部には神機を造る過程で生まれた様々な大型試作神機や、シックザール前支部長の研究の数々、そして……ニライカナイがある」
その言葉に集まっている人々がざわめき始める。また、ちらほらと"また思い付きか"やら、"博士ならやりそう"と言った意見が交わされているのが耳に入った。
「つまり、彼女らは最近入手したニライカナイが形成する不完全なコアを試作神機を組み合わせてあのトラックを形成し、繭の役割をしたそれを成長……すなわち羽化させることで今の姿になったんだ。つまり彼女らは私考案でニライカナイがベースの神機兵だね。まあ、ちょっと人間っぽかったり喋ったりするようだけれどそこはご愛敬さ。皆、私の研究にご協力感謝するよ」
そして、全く悪びれる素振りすらなくサカキ博士はそう言い切った。その清々しいまでの開き直り方に偵察班や開発部の方々は目を点にする。
こ、この人……ゴリ押す気だ……。真っ正面から問題を己の他者認識のみで撥ね飛ばす気でいやがる……!? そこにシビれる! あこがれるゥ!
「ああ、彼女らの処遇だけれど、扱いとしては私の研究室預りの偵察班、及び開発部の職員兼移動手段として今は当てて置くから、これまで通りの偵察任務に当てて貰っても構わないからね?」
そんなことを博士は言うが、流石に今の彼女らを偵察任務のトラック代わりにしたいと名乗り出る人間は居ないようで、"また、博士のいつもの奴か"等と言われつつ部署の人間は仕事に戻るため徐々に解散して行った。
納得はあまりしていない様子ではあるが、事態はほぼ収まったと言っても過言ではないだろう。いや、一種の諦めに近いのかもしれない。まあ、実際どれだけオーパーツなモノが造られても、サカキ博士がやったというだけで仕方ないと思えてしまうのは私から見ても否めないかも知れない。
「とりあえず、1人は研究用……もとい検査をしたいから私と一緒にミネルヴァくんは来て貰えないかい?」
『――――――――!』
博士に呼ばれた
後に残されたのは、嵐が過ぎ去った後の清々しいまでの陽気のように何もかもがどうでもよくなる感覚であろう。事実として、この頃には既に集まっていた者は粗方解散し切っている。
「収拾してしまいました……」
『スゲー』
「まあ、博士が突拍子もないことしてるのはいつもの事だからねー。最近は何故かあんまり開発部に来ないから振り回される事も減ったけれど、
何してんだよサカキ博士……。いや、確かに初恋ジュースでゴッドイーターを振り回した件が氷山の一角だというのならば、研究区画や開発部の方はもっと凄まじいことになっているんだろうな……。
「で? それでなんだけどさー」
「あっ」
すると何故か隣にいたリッカちゃんはさるぼぼ化している私を抱き上げた。背中に氷を入れられた気分である。
「うーん、やっぱり君見覚えがあるね。確か……前はキグルミさんの肩に乗ってなかったっけ? 最近のゴッドイーターの間ではこういうのが流行りなの?」
「あっ……ああっ!? ちょっとリッカさん! そんなに振り回さないでください!?」
「うりうりー!」
『――――――――』
わしゃわしゃと私を少し雑に撫で、くるくるとその場で回りつつ、可愛らしい笑みと興味に溢れた表情のリッカちゃんを眺め、石のように固まった私は冷や汗を流しつつ脳裏に"魔女の宅急便のジジはこんな気持ちだったのか……"と下らないことを考えていた。
ふと回転する景色に
「まあ、いいや。博士が何か隠してるなんていつもの事だしねー。ひょっとして君も博士の発明か何かだったりするの?」
ごめんなさい……ほぼ元凶なんです……。という言葉を私は飲み込み、アリサちゃんに返却されるまでぬいぐるみプレイに全力を注いでいた。
「よーし! えーと……ユピテルは取り込み中みたいだから……ユーノーだったね! 君の神機を解析したいから一緒に来てくれない!?」
『………………エエ』
少しだけ考えた様子のユーノーちゃんであったが、スパナ片手のリッカちゃんのキラキラした目とふんすっ!と擬音の付きそうな表情には勝てなかった様で、それだけ呟いて彼女と共に艤装ごとノシノシとした足取りで何処かへと去っていく。きっと私だってそうする。
『アラ? ワタシヲヒキトルツモリ? モノアツカイジャナイ? マア、ウレシイ……ウフフ』
そして、最後に残ったユピテルちゃんはどうするか目を向けると、いつの間にか艤装から離脱しており、さっき話していた男性に連れられて何処かへ去っていくところであった。また、艤装は独りでに動いて元々、トラックとしてあった位置に向かって行っているようだ。
なんだか、子供が独り立ちして行ってしまったような複雑な感情と後ろ髪を引かれるような感覚を覚えるのは一体なんなのであろうか。
「帰りますかカナさん……」
『ウン……』
何もしていないにも関わらず、なんだか凄まじく疲れた気がすると思っていると、アリサちゃんもとてつもなく疲れたような表情をしていた。どうやら私の心労が気のせいではなかった事と、共感できる相手が居ただけでも良しとしよう。
◇◆◇◆◇◆
「聞いてくださいよカナさーん……! ――――がですねー!」
『ソウナノ、アナタモ大変ネェ……』
「あぅ?」
テスカトリポカ騒動から約1週間後。何故か私は忙しい合間を縫って会いに来たアリサちゃんから、彼女がお熱な前作主人公の愚痴を山ほど聞いている。酒でも飲んでいるのではないかと疑問に思うほどのダル絡みであった。
どうやらやはりいるらしいのだが、元々クレイドルに所属していたり、遠征任務や他支部への一時的な派遣等で中々戻って来ず、帰って来ても反応が淡白なのがお気に召さないらしい。いや、淡白というよりも誰にでも優しいのであり、それは美徳ではあるが、誰にでもというところが気に入らず、自身をもっと見て貰いたいと思う一方で、そんな自分を嫌いになりそうにもなるという。ここ5分間の話の内容をまとめただけでもこれである。
恋する乙女は強いなぁ……。こっちはもう胸焼けしそうなほど砂糖でお腹いっぱいなんだが……。チョビちゃんもそうだよねー、そんな腕の中で可愛くしちゃってもう……。
ちなみにテスカトリポカたちの今の話をすると、南方棲戦鬼ことユピテルちゃんはとある一般人男性のフェンリル内居住区に転がり込んでいるらしく、彼をバイクで二人乗りするように自身と艤装の間に乗せて偵察任務に行っているらしい。そして、泊地棲鬼ことユーノーちゃんはリッカちゃんに色々まさぐられた後、彼女の助手として技術者見習いとしても働いているとのことである。最後に装甲空母鬼ことミネルヴァちゃんなのだが、彼女はカグラちゃんと同様に博士の助手をしている。三者ともそれぞれ違う道を歩み出したようだが、健在なようで何よりであろう。
『ソレニシテモナンデ私ナンカヲ相談相手ニシテイルノカシラ?』
「なんかじゃないですよ。カナさんはなんというかその……こんなこと言ったら失礼かも知れませんが、お姉さんというか……"母親"ですかね? 兎に角そんな感じで何でも話せちゃうんです」
アリサちゃんは"カナさんなら口も硬いので誰にも広まる事もありませんし"とも付け足したが、彼女に母親のようと言われてしまえば私も弱い。特に両親の死のトラウマのあった彼女に母親のように話せてしまうなどと言われてしまえば、止めて欲しいと一瞬でも考えた己を恥じるというものだ。
するとドアをノックする音が聞こえたため、アリサちゃんは会話を止めてしゃんとし、私も居住まいを正す。するとサカキ博士が入って来た。
「失礼するよカナくん。実は君宛に他の研究機関から小包が届いていてね」
『私宛ニ?』
「え……それってあり得ないですよね……?」
アリサちゃんの言うことはもっともだ。極東支部に来るまで、私はいつ他のゴッドイーターに殺されても後腐れしないように傲慢で残酷なアラガミのニライカナイを演じてきた。
そのため、私を知る人間など極東支部に現在いる人間を除けば誰1人として居ないはずであり、他のフェンリルに送ったあのような資料映像を見たからと言って、贈り物をするような世紀末的阿呆など――。
『……………………ア゛ァー』
「えっ……思い当たる節があるんですか――って何ですかそのものスッゴく嫌そうな顔!?」
居たなぁ……というか直接的な面識はないが、既に私のことを勝手に知っていそうな"人間のようなもの"に心当たりが多分にある。むしろ、外れていて欲しいのだが、博士の何とも言えない表情を見る限り、恐らく予想は的中していると思われる。
「私の研究室倉庫に運び込んで置いたから……ちょっと見てくれないかい?」
『ワカッタワ……。ゴメンネ、アリサチャン。コノ案件ハ一旦博士ト私デ預カルワ。チョビチャント待ッテテクレナイカシラ?』
「はい……わかりました。いつか話してくれますか?」
『エエ、遠クナイ内ニ話ス事ニナルト思ウワ』
アリサちゃんにチョビちゃんを預けた後、とてつもなく気が進まないが、サカキ博士の言うとおり倉庫へと向かった。
◇◇◇
そこには小包というにはあまりにも巨大で縦に細長い形の何かに黒い布が掛けられているものが鎮座していた。明らかに異質過ぎる物体であることは間違いない。
そして、その覆いを取り去ると――そこには黒い柄に銀の刀身を持ち、黄色いラインの入った"神機兵用の長刀"のようなものであった。よく見ると神機兵のそれよりも一回りか二回り巨大で、柄の部分がより長くなっているため、私の男性体に持たせる為の小癪な配慮まで感じられる。
『一応、聞キタインダケレド送ラレテ来タ場所ハ?』
「フェンリル極致化技術開発局、開発室だね。ふむ……君が異様なまでに
そう言って博士は眼鏡を直しつつ、懐から一枚の手紙を取り出す。それは宛名が博士になっているため、既に封は開いているが、それ以上に真っ白な洋封筒に少し可愛らしいシールで止めてあるだけという簡素ながら少女が選んだような見た目が目を引く。
そして、私は手紙を取り出して目を落とした。
ニライカナイ様へ
今晩はまだ寒さが残っておりますが、お元気でお過ごしのことと存じます。
まずは無礼のほどをお許しください。先日の資料映像を拝見し、感極まったため手紙にてお礼を申し上げることにいたしました。映像はとても良い内容で、沢山のアラガミを薙ぎ倒す姿に恥ずかしながら興奮を覚えてしまいました。
素晴らしい映像を拝見させていただき、感謝の限りでございます。書面でのお礼だけでは足りないと思い、開発中の神機兵用武装を貴女に馴染むようにして同封いたしました。僭越ながらもしよろしければお使いください。
P.S. プライベートなことなのでこちらに載せましたが、ご出産おめでとうございます。それと顔合わせも兼ねて、いつか二人っきりでお茶会などをいたしませんか? お返事を心待ちにしていますわ。
フェンリル極致化技術開発局 副開発室長
"ラケル・クラウディウス"
……………………………………なにこれ怖い……。
『
「私、自分自身のことを正気や正常な人間だと当て嵌めたことはあまりなかったが、彼女に比べると私なんてまだまだ人間なようだね」
これあれか……ヤクザが封筒にドスを入れて送り付けるラケルてんてー版かな? その上、二人っきりのお茶会のお誘いまで取り付けようとしてるねー! アハハハハ!
『博士ボスケテ……』
「やれるだけはやるけれど、あまり期待はしない方がいいかもしれないね。少なくとも彼女の情報収集能力……あるいは目や耳は人智を超えているらしい」
私はまだシナリオ上はゴッドイーター2の欠片も始まっていない状態で、早速お人形遊び大好きラケルてんてーに最低でも出産以前から目を付けられていたことに頭を抱えた。
え? 私、こんな明らかにヤバい奴を救う気なの? デジマ?
ユピテル→南方棲戦鬼
ユーノー→泊地棲鬼
ミネルヴァ→装甲空母鬼
ラケル・クラウディウス→鬼子母神
よし、全部鬼娘だからタイトル回収だな!(迫真)