荒ぶる神な戦艦水鬼さん   作:ちゅーに菌

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どうもちゅーに菌or病魔です。


ダブルダイソン

 

 

 戦艦水鬼にしか見えないアラガミちゃんの生活十数日目。

 

 現在、俺は極東支部周辺を離れ、小笠原諸島を抜けつつ太平洋に出てから、フィリピン、インドネシアと抜けていき、インド洋に入り、アラビア海と紅海を越えるついでにエジプトで当たり前のようにまだ残っていたピラミッドを眺め、現在は地中海の海上を航行していた。

 

 ここまで一切補給も何も無しに行けたのは深海棲艦とアラガミクオリティの成せる技と言えるだろう。こんなん人類ぶっ潰れるわな。

 

 たまに沿岸部を過ぎ去るときに、他支部のゴッドイーターがOアンプルしゃぶりながらスナイパーなどで砲撃をしてくることもあったが、その度に隣の岩盤とか、近くの岩山に威嚇砲撃をして粉砕してやると撤退していた。まあ、あんなん当たりたくないな。

 

 ちなみに深海棲艦なためなのか、自分が今どちらの方角を向いているか常に理解できたり、目測で対象とのおよその距離を割り出したりと、海で使えそうな船の技能というか設備のようなものが、なんとなく出来るという感覚で可能なため、全くここまで来ることには困らなかったな。深海棲艦様々である。

 

 それからアヤメちゃんはというと――。

 

『辺リニ何モイナイカラ休憩ニシマショウカ。出テイイワヨ』

 

 そういうと俺の艤装の背中に何故か付いているハッチが開く。

 

「"フォウ"姉ちゃん!」

 

 中から笑顔の幼女ことアヤメちゃんが現れ、ひょいひょいと艤装を移動すると俺の胸に飛び込んできたので受け止めた。 流石は生まれついてのゴッドイーターの卵である。

 

 ちなみにアヤメちゃんの服はその辺りから素材をかき集めてもう少しマシなものを何着か作って着せた。やはり裁縫スキルは持っておいて損はないな。

 

 また、アヤメちゃんの声は数日話しているとこのように戻ったようである。元気になったようで何よりだな。

 

『ハイハイ、危ナイカラ艤装ニ乗ッテテネ』

 

「はーい!」

 

 そうは言うが、全く腕の中から離れる気配がない。まあ、今更なのでそのまま海上で休んでいる。子供からしたら俺は背がモデルの女性程度には高いので面白いのかも知れないな。だいたい175cmぐらいはあると思われる。

 

 ちなみに俺なのだが、どうやらアルダノーヴァ系のアラガミのようである。

 

 というのも単純に艤装――だと考えていた男性体部分にハッチが付いており、中に操縦席があること。目を覚ました場所がエイジス島の研究室。それと首に付いたⅣと製造番号が刻まれたネームプレート。

 

 これだけ色々と判断材料があり、違うと思う方が難しいだろう。

 

 それと、アヤメちゃんに呼ばれているフォウという名はネームプレートの数字をそのまま名前にしたからである。まあ、ゴッドイーターたちの識別名なんて知らないし、単純に戦艦水鬼では味気ないので仕方なかろう。

 

 "瑞木(みずき)フォウ"。それが即興で拵えたアヤメちゃんにとっての俺という存在の名である。我ながら捻りもなにもないな。

 

 暫くしてから休憩を止めて進むことにしたため、アヤメちゃんに戻るように促すと、ちょっと名残惜しそうに俺の腕から離れて男性体によじ登り、背中のハッチを開けて中に入っていった。

 

 シックザール支部長もまさか、アルダノーヴァの搭乗席が幼子の避難場所になっているなどとは思いもしなかっただろう。GOD EATER無印後のソーマくんが聞いたら爆笑するかもしれないな。

 

『ンー……』

 

 そういえばアヤメちゃんの食べ物が少し減ってきたということを思い出す。この世界では想像以上に人間の食糧が貴重なので補給する方法は限られるんだよな。

 

『ソロソロ増ヤシテオコウカシラ?』

 

 思い立ったら吉日。俺はアヤメちゃんに伝えてからここに男性体を停泊させておき、陸地に向かうことにした。

 

 後、もうひとつ気づいたことがあるのだが――。

 

 

 

 どうやら俺は"感応種"らしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アルダノーヴァの亜種にして、第一種接触禁忌種 、"ニライカナイ"。

 

 現在、世界中のフェンリル支部で持ちきりとなっているアラガミである。

 

 何せ、ニライカナイは現在、理由は不明だが、極東を離れ、地中海を航行している。つまり、ニライカナイに行くことの出来ない人間が住まう場所は存在しないということを意味していた。

 

 フェンリルが保有する大型水上挺より遥かに速い水上移動能力と、エイジス島のアラガミ装甲を粉砕する超弩級の砲撃能力。

 

 その二つにより事実上、エイジス計画のアーコロジー思想を完全に崩壊させ、机上の空論に戻した存在と言っても過言ではない。悪夢のような危険性を持つアラガミなのだ。エイジス島から発生したアルダノーヴァの亜種に止めを刺されるとはなんとも皮肉なものだ。

 

 不幸中の幸いといえることは、今のところニライカナイと交戦したゴッドイーターで殉職者はひとりも出ていないことだろう。まあ、沿岸部からニライカナイを攻撃し、反撃されて逃げ帰るばかりで、実際に陸地にいるニライカナイと戦闘をしたゴッドイーターはほとんど存在しないのだが。

 

 故に自然な流れだろう。陸地にいるニライカナイに挑もうなどという支部が現れたのは。

 

 ニライカナイの二つの能力はあくまでも海上で距離を取っている状態でこそ真価を発揮する。ならば陸地で殺し切ってしまえばいい。今のところの情報ではそれが最善だと考えられたのだ。

 

 ニライカナイは確かに悪魔のようなアラガミであるが、エイジス島のアラガミ装甲を一撃で破壊するような存在のコアを入手出来ればその価値は計り知れないだろう。様々な思惑はあるであろうが、最終的に人類のためにと帰結され、それは行われた。

 

 

 

 作戦名:大海の一滴

 

 

 

 アフリカ、ヨーロッパ、中東から集められた第一種接触禁忌種か、第二種接触禁忌種との戦闘経験のある指折りのゴッドイーター総勢30名の第二世代神機を動員した一大作戦である。

 

 作戦は実にシンプル。30名のゴッドイーターをニライカナイが頻繁に停泊するヨーロッパ側の沿岸部で、大まかな位置をレーダーで確認しながらヘリコプターで追い、陸地に入り、遮蔽物のある場所に移動した瞬間に奇襲を掛けるというものである。

 

 まあ、はっきり言って作戦と言えるか怪しい作戦だが、ニライカナイは海戦ではまず勝ち目がなく、主戦場が海上のため、この作戦もやむ無しといったところだろう。また、アラガミ故に必ず、陸地の資源を捕食しに来ることを勘定に入れていると考えれば、そう悪い作戦でもない。

 

 

 

 そして、好機はすぐに訪れた。

 

 

 

 理由は不明だが、ニライカナイが男性体を海上に停泊させたまま、女性体のみで港町の廃村に入ったのである。これほどの好条件は他にないであろう。

 

 ゴッドイーターらが投入され、港町を包囲するように展開された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『~♪』

 

 ニライカナイはそんなことは露知らずな様子で、鼻歌のような音を出しながら、辺りの建物に入るなどを繰り返して何かを探しているように見えた。

 

 こちらからしたらニライカナイへの心境とは裏腹に気楽な様子のニライカナイにゴッドイーターらは眉を顰める。

 

 しかし、男性体を抜きにしたニライカナイは、肌が雪のように白く、左の額に角が生えただけの人間に見えるため、ニライカナイを見たゴッドイーターの数人が少しだけ攻撃を躊躇うような素振りをしていたが、神機は向けられているため、作戦に支障はなかった。

 

 そして、ニライカナイが港町の丁度中央に来た時――。

 

 

 

《皆さん、本部からの指令が下りました。作戦行動を開始してください》

 

 

 

 オペレーターの指示を受けたゴッドイーターにより、全方位から一斉に様々なバレットが降り注いだ。

 

 破砕と貫通及び炎・氷・雷・神の属性による過剰なまでのバレットの雨。そして、ブラストのロケット弾とモルター弾の爆炎により、ニライカナイは一時的に見えなくなる。

 

 流石にこれで仕留められたとは作戦に参加したゴッドイーターは誰も考えなかったが、爆炎が晴れると、ゴッドイーターらは驚愕に顔を歪めた。

 

 

 

『アラアラ、痛イジャナイノ』

 

 

 

 まるで効いていなかったからだ。ニライカナイが身に纏う黒く薄いドレスのようなものにすら綻びひとつ確認出来ない。そして、何よりも言葉を発していることがゴッドイーターらを困惑させた。

 

 笑い声のようなものを上げるアラガミは存在したが、明確に言語を用いるアラガミに遭遇したゴッドイーターなどいるわけもなかったのである。

 

 

 

『デモ手間ガ省ケタワ』

 

 

 

 ニライカナイが手をかざすと赤黒いオーラのような球体が掌に出現し、それが小さく破裂した次の瞬間――。

 

《きょ、強力な偏食場パルスが確認されました!? ニライカナイは"感応種"です!》

 

 オペレーターの叫ぶような声にゴッドイーターらは、自らの神機を確認すると機能を停止しており、ただの鉄の塊と化していた。

 

 ゴッドイーターらが唖然とする中、ニライカナイの両隣の地面に変化が起きる。両隣に2体のアラガミが形成されたのだ。

 

 それはニライカナイとよく似たデザインのアラガミであり、女性体部分はニライカナイと同様に瞳は真紅。そして、額には鬼のように一対の角が生えており、非常に長い黒髪と肩紐を首の後ろで縛ったネグリジェのような黒いワンピースを身に着けている。男性体部分は猛獣さながらであり、ニライカナイの男性体と比べて頭がひとつなことが大きな違いであった。

 

 ただ、そんなことは些細なことであり、その場にいるゴッドイーターらにとっては、万全のニライカナイが2体追加されたようにしか見ることも、思うことも叶わず、現実を捉え切れずに放心しているゴッドイーターも見受けられた。

 

《に、ニライカナイ……アラガミを形成しました! それにこれは……さ、更に周囲のクアドリガがここを目指して集結して来ています!?》

 

 最早悲鳴のようなオペレーターの声にゴッドイーターらは絶望的な状況を認識する。

 

《本部から通達! 作戦は即刻中止! 総員退避してください!》

 

 オペレーターはそう言ったが、現場のゴッドイーターらはニライカナイに向き合ったまま、到底動ける状況ではなかった。何せ、あの砲門は一撃で何もかもを灰塵に還す破壊力を秘めている。それに背を向ける方が正気ではないだろう。

 

 ニライカナイは口から舌先を出して下唇をなめると、片手で己の頬を撫でながら嘲笑とも思える笑みを浮かべた。その全ての動作が妖艶である。

 

 

 

《ジャア、鬼ゴッコヲ始メマショウ? 私ガ鬼ヨ?》

 

 

 

 ゴッドイーターらはどちらが狩られる側にいるのか理解した。そして、言葉は発すれど決して話が通じる相手ではないということも。

 

 それを聞いた一人のゴッドイーターが恐怖に耐えきれず、逃げ出したことを皮切りに、ゴッドイーターらは蜘蛛の子を散らすように一目散に逃げる。

 

 ニライカナイと取り巻きのアラガミの女性体はそれをある程度見届けてから、ゆっくりと一歩を踏み出し、到底人間には不可能な瞬発力で地面を蹴り、ゴッドイーターらを追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 半刻後、ゴッドイーターらはどうにか全員が撤退に成功しており、殉職者がいないという奇跡的な結果となっていた。ニライカナイと取り巻きのアラガミに掴まれ、投げ捨てられたために軽傷を負うようなことがあったがその程度である。

 

 その事に安堵しつつ生を噛み締めていたゴッドイーターたちは持ち込んでいたOアンプルが全て消えていたことに気がついた。

 

 どうやらニライカナイはオラクル細胞を直接摂取するOアンプルに興味を示し、あの悪夢そのものであった敗走の中で所持品から奪い去っていたようである。それは今後、ニライカナイを引き寄せる上で使える情報になるかもしれないため、安いものだろう。

 

 今回の作戦を通して最大の功績はニライカナイの能力を引き出し、生態の調査に成功したことだろう。彼らの決死の功績からニライカナイ、そして新たに出現して名付けられた"オボツカグラ"のデータが完成した。

 

 

 

ニライカナイ

 アルダノーヴァ神属感応種とでも言うべき、第一種接触禁忌種アラガミ。

 筋骨隆々の四肢をもつ双頭の魔獣のような男性体を従えた、黒いドレスの妖しい美女という容姿をしている。

 アラガミ感応種の能力としては、ニライカナイと酷似したオボツカグラを発生させる能力と周辺の機械系アラガミを支配下に置く能力を持つ。また、男性体はクアドリガのように兵器の砲身を持ち、超遠距離からのビルを一撃で粉砕するほどの超弩級砲撃に注意すること。また、とてつもなく頑丈な身体を持ち、並の攻撃では傷ひとつ負わない。

 第一種接触禁忌種に認定されているが、実際はそれ以上の何かであり、現在指定の新規作成及び格上げを本部に申請中。

攻撃属性:[火][神]

弱点属性:なし

 

オボツカグラ

 ニライカナイの感応能力により、オラクル細胞を瞬時に集束させ、1度に複数体が形成される第一種接触禁忌種アラガミ。性能はニライカナイほどではないが、それでも第一種接触禁忌種に認定されるところから推して図るべし。

 ニライカナイの能力により生成される不完全なコアで身体を保っているため、機能を停止すると瞬時に霧散してしまうが、逆に言えばニライカナイが存在する限り無尽蔵に沸く。そのため、ニライカナイと交戦する場合、無視して戦闘することが推奨される。

攻撃属性:[火][神]

弱点属性:なし

 

 

 

 

 

 余談だが、ゴッドイーター各員が持ち込んでいたレーションと水筒も何故か全て姿を消していたらしい。しかし、そのことを特に疑問に思わなかったゴッドイーターが多かったこと、全員が全員レーションや水筒を持ち込んでいたわけではなかったため、報告が疎らであり、関連性は無いとされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『アヤメ、アーン』

 

「あーん」

 

 真実は全て暁の水平線上の彼方である。

 

 

 

 




ニライカナイ
戦艦水鬼。スーパーダイソン。

オボツカグラ
戦艦棲姫。ダイソン。



ちなみに瑞木さんが感応種なのはちょっと理由がありますので、そのうちに、いやすぐに作中でわかると思います。


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