荒ぶる神な戦艦水鬼さん   作:ちゅーに菌

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 どうも、ちゅーに菌or病魔です。

 そういえばケイトさんが妊娠しているという話を時々感想で見掛け、純粋に疑問なのですが、それはどこの情報なんでしょうか? 現在進行形で2をしているのですが、私の知る限りでは、そのような話はどこにも見られないんですよねぇ。まあ、作者がただのアホでやっても見落としているという可能性が高いので、実際のところどうなんだろうと考えた訳であります。

 ちょっとネットの方を調べるとpixivとアニオタwikiのコメント欄のみでそのような記述が見られるのですが、何か他に設定資料か何かあったのかな?などと考えた次第です。




命の行方

 

 

 

 

 その手帳に書かれていた内容は一見すると大したものではなかった。

 

 40代過ぎの"流葉(ながれば)マユリ"という元ゴッドイーターの男性の手記である。

 

 読み進めると、上司への愚痴や、環境の不満等が書いてある一方、娘の"アヤメ"についてや、喜ばしいこと、思い付いたポエムなどが、数週・数ヶ月単位で間が空くこともありながら記載されているだけの自由帳のような中身だ。実際、プライベートなもので人に見せるものではなかったのだと思われる。

 

 幸いというべきか、そのために10年以上の時間がこの手記の中で流れており、全体像の把握は容易であった。

 

 まず、家族構成はマユリと娘のアヤメだけの父子家庭であり、アヤメの母親はゴッドイーター時代の自身の部下だったが、アヤメを産んだ後、退役寸前にアラガミに殺されたとのことである。ゴッドイーターになる前は研究職を志望していたが、簡易検査での神機の適合率が高かったため、半ば無理矢理フェンリルに連れてこられ、第一世代のゴッドイーターとなったこと。退役後は志望していた研究職となり、男手ひとつでアヤメを育てていたということが読んで取れた。

 

 手記でゴッドイーターを退役した次に環境が大きく一変したのは、研究職についてから10年程経った時期である。

 

 ゴッドイーターの経験から神機やオラクル細胞について研究し、極めて小さく細く強靭な人工筋肉を用いたゴッドイーター用のパワードスーツを開発しており、それなりの実績を上げていたこと。そして、その経緯からフェンリルのとある研究機関に引き抜かれ、娘共々とても厚待遇だったために承認したのであった。

 

 その研究機関は局長の顔面にペイジを突き刺したくなる時があること以外は設備も充実し、開発室長・副室長共に美人だったため、来てとても良かったと始めの頃にマユリは語っていた。

 

 そして、ここから手記の内容は一変する。

 

 研究機関で勤め始めてから暫く経ち、室長ともプライベートなことまで当たり前に話すようになった頃にマユリはあることに気づいた。

 

 研究用で搬入した有機物の量と処分した有機物の量が時々少しだけ合わないのだ。処分量の方が若干多いのである。尤も研究用で搬入される有機物はかなりの量なためハッキリ言って誤差の範囲なのだが、マユリは逆に誤差であることそのものを奇妙に感じた。

 

 "誤差を計算してみるとほぼ人間の子供ひとり分の換算になる"ということに。

 

 まさか、そんなことはないだろうと思いつつ疑問を抱きながら過ごしていると、"仲良さげな姉妹"に思えた室長と副室長の関係も違うものに思えて来た。

 

 まるで"室長が副室長を恐れながら、副室長に尽くし続けている"ように思えたのである。

 

 ある日、マユリは室長と研究室で二人きりになった時にそのことを切り出した。すると、室長は特に後者に対して酷く驚きそのまま研究室から出ていってしまったという。

 

 そして、その翌日マユリは――。

 

 子供を使い捨てた人体実験の首謀者という全く身に覚えのない罪を着せられ、告発されたのである。告発者は副室長であった。

 

 マユリはアヤメを連れ、かつて使っていた神機を持ち出し、研究機関の軍用車を奪って逃走した。幸いにも現在の研究機関の位置が極東支部に極めて近かったため、極東支部への車両が使用可能だったのだ。

 

 そして、かつて恩師であったフェンリル極東支部の"ペイラー・榊博士"にせめてアヤメを預けたいとの旨と、仮に極東支部に到達出来なかった場合を考え、極東支部へ向けて走行しながら研究機関でのことを手記に書き記し、手記をアヤメに持たせたという旨が書いてあった。

 

 

 

 そして、手記の最後のページにはこう書かれていた。

 

 

 

《もし、これを読んだ人間がいるのなら俺は道半ばで死んだのだろう。叶うならアヤメをどうかサカキ博士のところまで送り届けて欲しい。そして頼む、絶対に――》

 

 

 

《フェンリル極致化技術開発局、副開発室長――"ラケル・クラウディウス"にアヤメを渡さないでくれ。告発内容が実際にあったことならばアイツは血の通った人間じゃない》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ケイトはニライカナイから渡された手帳に一通り目を通したため、手帳を閉じた。

 

 ふと、ニライカナイの方を見ると、眠るアヤメに身体を向けながら目を瞑り、眉間に皺を寄せて頭を抱えている様子であった。ケイトもこの手帳を読んだため、そう感じる気持ちが痛いほど理解出来る。

 

ラケルテンテー(ラケルてんてー)……』

 

 ポツリと小さくニライカナイから何かの単語が呟かれたが、あまりに小さかったために聞き取れなかった。深刻な表情から、恐らくアヤメを思って自然に出た一人言だろうとケイトは解釈した。

 

「こんなことって……」

 

 ケイトはニライカナイが極東支部の周辺でアヤメを保護したということも聞いた。そして、部屋の隅に立て掛けられている第一世代の神機によって否応なしに事実だと認識させられる。

 

『コレガ私ノ知ル限リノ情報ダ……サッキノ拒絶ノ仕方ヲ考エルト、少ナクトモ父ヲ殺サレタトハ認識シテイルナ』

 

 手帳に最後に書かれた一番新しい日付を見ると、少なくとも3年は経過していた。つまりアヤメはフェンリルの人間を誰も信じることが出来ないどころか、全て父の仇だと思っていたため、身を隠し続け、アラガミの無法地帯とも言える極東をたったのひとりでそれだけの期間を生き抜いたのである。

 

 最早彼女はゴッドイーターチルドレンではなく、小さなゴッドイーターであろう。いや、生半可なゴッドイーターではまず不可能だと思われる。それほどまでに極東は魔境だ。

 

『ソレト、アヤメハ今14歳ダ』

 

「14歳!? どう見ても10歳かそれ以下にしか……」

 

『元々小サイ上ニ、栄養ガ足リナカッタノダロウ。精神的ニモアラユル意味デ極限状態ダッタカラナ。大キクナルト見ツカルト考エテ身体ガ自然ニ成長ヲ遅ラセタノカモナ』

 

 ケイトはアヤメが寝ているベッドの隣に置いてある台に、フェンリルのゴッドイーターが持つレーションが大量に置いてある理由に気づいた。

 

『勿論、全テ盗品ダ。30人グライノ神機使い(ゴッドイーター)ニ囲マレタ時ニ直接巻キ上ゲタ。 神機使い(ゴッドイーター)ハ、イツモイイモノヲ喰ッテイルンダカラコレグライ、別ニイイダロウ』

 

「………………」

 

 大海の一滴作戦で相手側がそもそもゴッドイーターを敵とすら認識しておらず、戦闘に紛れてレーションを盗むことに集中していたという心底ゴッドイーターを馬鹿にしたような真実を聞いたケイトであったが、理由が理由だけに返す言葉が無かった。

 

『ダカラ、アヤメニハ睡眠ト休息ト食事ガ必要ナンダ。考エテイル以上ニ、アヤメハ心身共ニボロボロダ』

 

 更にニライカナイは"心ノ問題ハ一朝一夕デ解決シナイ。ソウデナケレバ精神病院ガアルモノカ"と呟き、そっとアヤメに手を伸ばして頭を撫でた。

 

「でも根本的には……」

 

『ソレハ今考エテモ仕方ノナイコトダ。ドウ転ンデモアヤメノ為ニナラナイ』

 

 そう、ニライカナイは一喝する。

 

 ケイトは考えた。退役後は婚約者の真壁ハルオミと共に教師になりたいと考えていた己が、目の前の子供ひとり救えなくてなんとするのかと。

 

「決めたわ、私!」

 

 ケイトは腰に手を当て、ニライカナイに向けて宣言した。

 

「絶対にアヤメちゃんと仲良くなってみせるわ」

 

(話聞イテタノカ……?)

 

 それからケイトのまずアヤメに好かれようという作戦が始まった。

 

 ニライカナイはといえば、どうせ言っても聞かないと考えていたため、生返事で支持したという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アヤメちゃん! おはよう!」

 

「………………おはよう」

 

 ケイトは兎に角、まずは声を掛け続けた。始めの数日ぐらいはアヤメは完全に無視し続けていたのだが、何度無視されようともケイトが声を掛け続けていたため、アヤメが根負けしたのか返事を返し始めた。

 

 

 

「アヤメちゃーん! 今日も可愛いわね!」

 

「………………うるさい」

 

 十数日程経つと、軽口が追加された。その内容が容姿を褒めたり、他愛もない話だったりと様々である。本当に嫌な場合、アヤメはニライカナイの後ろまで逃げるため、逃げ場があることもよかったのだろう。

 

 

 

「うーん、アヤメちゃんはちっちゃくて可愛いねー」

 

「………………(ギリッ)」

 

 二十日を越えた辺りからセクハラ――スキンシップが増えた。その辺りを歩いているアヤメをケイトが抱えて膝に乗せて撫でるなどである。たまに触る手つきが怪しいことがあるが、まだ優しくお節介なお姉さんの範囲だろう。最初の方はそこそこ抵抗していたが、今は精々舌打ちや歯軋り程度まで落ち着いた。諦めたとも言える。ちなみに本気で嫌ならばアヤメは極東を生き抜いた身体能力を存分に使い、垂直のビルの壁をヒビを伝って登ってまで逃走するので心の底から嫌がっているわけではない。

 

 

 

「しゃー!」

 

「アヤメちゃん!?」

 

 まあ、たまに尻や胸を触ろうとして、アヤメから逆襲にもあったりはしたが、概ね関係は築けたと言えよう。全てはケイトのなんでも抱え込んで引っ張ってしまう性格と、ニライカナイが病期で言えば回復期前期程度までアヤメの精神を回復させていたからであろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ケイトさんが来てから1ヶ月と少し。ケイトさんは本当にアヤメちゃんのことだけに集中していた。自身がアラガミによって命を保たれている半死人なことなどまるで気にしていない様子である。

 

「~♪」

 

「………………」

 

 アヤメちゃんは鼻歌を歌うケイトさんの膝の上で借りてきた猫のようにじっとしており、たまに俺にたすけてと言わんばかりの目線を送ってくる。その表情に浮かぶのは侮蔑や恐怖ではなく、困惑や照れによる居心地の悪さに思えるので、そっとしておこう。

 

「フォウ姉ちゃんのひとでなし……」

 

『オ姉チャンハ、アラガミヨ』

 

 残念だったなアヤメちゃんよ。俺はアルダノーヴァで深海棲艦なんだ。

 

 真面目な話、ケイトさんに対してのアヤメちゃんのヘイトは、ケイトさんの性格からか、わりとすぐに無くなっていた。後に残ったものは苦手意識と人嫌いな性格だろうか。アヤメちゃんの性格に関しては後天的にねじ曲がったのかもしれないが、ここまで人間に対してマシになったのなら喜ばしいだろう。

 

 それにケイトさんのお陰でかなりアヤメちゃんが感情豊かになった気がするのだ。前までは煤けた笑顔で俺に依存しているような様子だったが、今はこの通り、俺を可愛らしい程度で恨みがましい目で見るぐらいには表情豊かになっている。

 

 まあ、正直なところだと、アヤメちゃんが捕まらないと俺がケイトさんに絡まれるからとても助かっている。ここでは娯楽は俺が大量に廃図書館から持ってきた本ぐらいで、他にやることがないため、自然と暇を持て余したケイトさんが絡んでくるのである。見てくれは目が醒めるような美女なんだが、下手すれば中身は酔っ払ったオッサンである。そういえばムービーでも酒みたいの飲んで――。

 

「カナちゃーん」

 

『アッハイ』

 

「何か失礼なこと考えなかった?」

 

『イエ、滅相モナイ』

 

 俺は背中の男性体と共に首を振った。

 

 エスパー能力か何か持っているのだろうかケイトさんは……? 今ならゴッドイーターの身体能力上昇は第六感にまで及んでいると言われても信じる自信がある。

 

 ちなみにカナちゃんとは俺のフェンリルでの呼称――ニライカナイをあだ名にしたそうな。戦艦棲姫の方はオボツカグラと呼ばれている。

 

 …………ちょっとカッコいいじゃないかと思ったのは内緒。

 

『ソレヨリ、イイ加減自分ノ身体ニ目ヲ向ケナサイナ』

 

「そうねぇ……」

 

 アヤメちゃんとの仲がよくなってきたため、切り出したが、ハッキリ言ってケイトさんの身体の状態はかなりよろしくない。というか、アラガミに生命維持装置の全てを管理されてようやく生きている状態というこの世界だと、とてつもなくぶっ飛んだ状況である。

 

 30秒も俺がケイトさんのオラクル細胞を支配下に置いていなければ即座にアラガミ化する程と言えばどれほど深刻化もわかるであろうか。

 

『コチラトシテモソロソロ治療ニ移リタイノダガ――』

 

「え……?」

 

 ケイトさんは何故か、鳩が豆鉄砲喰らったようにポカンとした顔になり、それが面白かったのか、膝のアヤメちゃんは顔を上げてケイトさんを覗いていた。

 

「治療出来るの……?」

 

 ケイトさんはありえないモノ見たり、狐に摘ままれたような様子で呟く。無論、俺は返答した。

 

『治療出来ナイノナラ初メカラ助ケタリハシナイ。私ハ、ソンナニ無責任ジャナイワ』

 

 そもそもケイトさんのアラガミ化の理由は、適合率が低いにも関わらず、無理矢理第二世代神機に転換し、それが元でゴッドイーターとして限界だった上、赤いカリギュラから腕輪に大ダメージを貰ってしまったせいだ。

 

 根本的に言ってしまえば、ケイトさんは体内のオラクル細胞が既に限界だったのだ。

 

「ええ……だからもう例え、フェンリルに帰れても手の施しようがないと考えていたわ」

 

『………………』

 

 なんだこの人は……自分がもう助からないと思いながらアヤメや俺にあのように明るく優しくお節介を焼いて接していたというのか……?

 

 アヤメもそのことを聞き、表情から不安と悲しみが溢れた。そして、小さく呟く。

 

「ケイト……死んじゃうの……?」

 

「んー? どうだろうね」

 

 ケイトさんはカラカラと笑い、その問いには答えず、アヤメを安心させるように撫でた。その様子は決して死を受け入れた人間のソレには見えない。

 

 誤算だな……ここまで強い人間だったとは考えていなかったぞハルオミさん。

 

 始めからその気だったが……やはり俺も全身全霊で彼女を救ってやらないとな。

 

 俺はアヤメにケイトさんを救う為の話を二人でしたいと耳打ちした。それを聞いたアヤメはケイトさんから降りると、1度俺の手を握ってから部屋から出て行った。

 

 根はとても優しい娘なんだ彼女も、ここには優しい人しかいないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ニライカナイはいつになく真剣な瞳でケイトを射抜く。

 

『私、考エタワ。ドウシタラアナタヲ救エルノカ。ソシテ、気ヅイタノ』

 

 ケイトは黙ってニライカナイの話を聞いた。また、真壁ハルオミに会えるかもしれないという光明が見えたからだ。ケイトにとってニライカナイは最早ただのアラガミではなく、頼れる隣人のような存在でもあった。

 

『新タニ制御可能ナ、オラクル細胞ヲ少シズツ注入シテ、アナタノ体内ニアル古イ、オラクル細胞ヲ全テ駆逐シテ塗リ替エテシマエバイイノヨ』

 

 ケイトは顔に出さず密かに落胆した。それがあまりにも机上の空論であったからだ。そのようなことが、フェンリルでも可能であったならばケイトはここには居ないだろう。

 

 そのように万能なオラクル細胞があれば、フェンリルが血を吐くような研究の果てにゴッドイーターを産み出したという事実は変わっていただろう。

 

 しかし、ケイトの内心を読み取ったのか、ニライカナイは笑みを強めると、背後にいる男性体の片腕が動き、親指を立てて女性体と男性体を指差した。

 

『イルデショウココニ? 既存ノ、オラクル細胞ナンカト比べ物ニナラナイグライ、飛ビキリ強靭デ強クテ、アリエナイグライ利口ナ、オラクル細胞ヲ持ッタ存在ガ』

 

「な……」

 

『私ハ、食欲ニ負ケタコトハ1度モナイワ。ソレニ感応能力デ、即席デ"不完全ナコア"ヲ形成スルコトモ出来ル。時間ヲ掛ケレバ完全ナモノヲ作レナクモナイワ。ソレヲアナタノ神機ニ組ミ込メバ、制御モ確実ニナルハズヨ。ソレデモ駄目ナラ――』

 

 すると、ニライカナイの女性体の胸部が不自然に蠢き、紅くルビーのような輝きを放つ人間の心臓よりやや大きい球が表面に現れる。見れば、その球体を囲むようにニライカナイが形成されている様子が見て取れる。

 

『"私ノコア"ヲ少シ使エバイイ。ソウスレバ、確実ニ成功スルワ』

 

 ケイトは絶句した。つまり、ニライカナイはケイトを救う為だけに己の心臓すら素材にしようというのである。お人好しもここまで来ると、よほどの馬鹿か、狂気的だろう。

「どうして私にそこまで……」

 

『アナタト同ジヨ』

 

 どんな時でも困っている人や泣いている人を放っておけない人間。そう言いたいのだろう。

 

『ソウネ、ソレ以外ニモ確証ガ欲シイナラ――』

 

 ニライカナイはコアを収納しながら窓の外を見たため、ケイトも釣られてそちらを見る。

 

 そこでは、丁度敷地内に入ろうとしたシユウにトマホークミサイルを当て、ダウンしたところに頭上からトマホークミサイルの雨を降らせて全身を爆散させ、飛び出て来たコアだけ捕食し、いそいそと持ち場に戻るテスカトリポカを見た。

 

『外ノ、テスカトリポカ達ハイツ見テモ、イイ仕事ネ』

 

「それがどうしたのかしら?」

 

 あのテスカトリポカ達はニライカナイがオラクル細胞を与えることでグレート・ブリテン島のクアドリガが進化した姿だということはニライカナイの口から聞いていた。それ故に今の話に関係のあることなのかとケイトは首を傾げる。

 

 するとニライカナイは少し困ったような表情で口を開いた。

 

『アレ、私今支配モ制御モシテイナイノヨ』

 

「はい……?」

 

 ケイトは呆けた声を上げた。完全に放置された状態で、あのテスカトリポカ達は寺院の周りを守護しているというのである。

 

「じゃあ、つまりあのテスカトリポカ達は――」

 

『喰ラウトイウ"アラガミノ意思"ヨリモ、己ノ意思ヲ優先ニ判断シテ、私ヲ寺院ゴト守ルトイウ選択ヲシテイルノネ』

 

「凄い……」

 

 短く内容のない称賛だったが、それ以上の驚きや賛辞が含まれている。

 

 そして、ケイトはアーク計画でアルダノーヴァを作製したシックザール前極東支部長は、とんでもない置き土産を残していったのではないかとも考えた。

 

『後ハ……アナタノ意思ダケ。ドチラニスルモ自由ダケド――』

 

 ニライカナイは少し言葉に詰まってからほんのりと顔を朱に染めて口を開いた。

 

『私ハ、アナタニ生キテ欲シイワ……』

 

 それだけのことを言い、行動と態度でも示し、数奇な友人ともいえる間柄であるアラガミ、ニライカナイ。

 

 そんな彼女に対し、ケイトは逃げ場を奪うような真似をして少しだけズルいと思いながらも、答えなど頭に決まっていた。

 

 

 

「わかったわ、ありがとう。私を――また"ハル"に会わせて?」

 

 

 

 ケイトはこの人間のようなアラガミに、自分の命と想いの全てを託した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ケイトさんの承認も得たので、治療を開始することにした。

 

 自身の歯で指を少し裂き、真っ赤な血に見えるオラクル細胞を滲ませる。そして、ケイトさんの腕輪の裂け目に近付けると、指を振るって1滴だけ俺のオラクル細胞を垂らした。

 

『ハイ、今日ハ終ワリ』

 

「え? そんだけ……?」

 

 とても身構えていた様子のケイトさんは拍子抜けしたようである。

 

『少シズツ行ウト言ッタデショウ? ソウネ、前後スルケレド"2年"グライ掛カルワ』

 

「に、2年かぁ……あはは、そうよね」

 

 そう上手い話もないんだなぁとでも言いたげな表情でそう呟いたケイトさん。

 

 本当は3倍ぐらいの速度で行っても全く問題ないのだが、無理にGOD EATER 2のストーリー前に引き合わせて、ストーリーを崩すリスクは一番避けるべきだと考えているからな。ケイトさんには悪いが、少し辛抱して貰おう。

 

『コレデアナタノ身体ノ情報ヲ何時デモ読ミ取レルヨウニナッタワ。体調管理モ任セテネ』

 

「本当に凄いわねカナちゃん……」

 

 カナちゃん言うな。これでケイトさんの血液データやホルモンバランスやオラクル細胞の状況等々あらゆるモノを何時でも読み取れるように――。

 

 

 

 ――待て……各種血液データが正常値から微妙にズレているぞ?

 

 生化学データも概ね正常値より高い、内分泌系も正常値からかなり変動が見られる――まさか。

 

「どうしたの難しい顔――」

 

『セクハラジャナイカラ、チャント言ッテ!』

 

 まさか、女性に対してこのような事を問い掛けなければいけない日が来るとは……あ、俺も今は女だからノーカンか……ちょっと泣けてきた。

 

『"生理"ハ最後ニイツ来タ?』

 

「え……? そういえば今月はまだ…………まさか」

 

 ケイトさんも気づいたようで下腹部に手を当てた。その間に俺は半ば確信しているが、オラクル細胞をより潜らせ、子宮内の情報を読み取り、事実の裏付けを取った。

 

 

 

『オメデトウ、"赤チャン"ヨ』

 

 

 

 それを聞いた言葉と表情をケイトさんは失った。揺すっても真顔のままケイトさんは固まっている。

 

 ヤバイな……GOD EATER 2のゲーム内で描写は無かったからこうなるなんて全く考えていなかった。いや……普通に考えたら男女の退役間近の婚約者が揃えば、そりゃあそうなるわな。

 

 計画の大幅な軌道修正が必要になったな……。

 

 十数秒後、顔に手を当てて真っ赤になりながら動き出したケイトさんの、歓喜とも悲鳴ともつくような叫び声を耳にしながら、俺は窓から極東支部と繋がっているであろう空を見上げた。

 

 

 

 

 

 







 前書きでああ言いましたけど、まあ、妊娠していた方が展開的に美味しかったのでどちらであろうが、そのまま使うんですけどね!(ホモは嘘つき)美女の妊婦とかいいよね(ノンケアピール)


 それにしてもこのホモ、マジで万能だなぁ……なんだこれは…… たまげたなあ(他人事)


 何故か限界なのに増えていく文章量。苦しいです評価してください(まだ行けそう)

 あ、それと私、頂いた感想はポリシーとして全て返信致しますので少々遅れたり、次話投稿後に返信することもありますので、どうかご了承ください。




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