荒ぶる神な戦艦水鬼さん   作:ちゅーに菌

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どうもちゅーに菌or病魔です。やっぱりちょっと毎日投稿間に合いませんでしたね。おのれおっきーめ……。




博士とキグルミ 前

 この世界のあらゆる地域と比べても類を見ない程の激戦区――アラガミの最前線と呼ばれるフェンリル極東支部。

 

 そこで活動するゴッドイーター、技術者、研究者が出入りする区画のエントランスにて、現在あるモノが好奇の視線を集めていた。

 

 

 

『………………』

 

 

 

 それは紫色と灰色をメインカラーとした、継ぎ接ぎだらけのパンキッシュなウサギの着ぐるみを着た何かである。

 

 ウサギの着ぐるみはエントランスからフェンリル内の各区画へと通じるエレベーターの前に立ち、首を傾げるように片方に頭を傾け、片手で口元を軽く押さえるような姿勢で佇んでいる。

 

 更に妙にデカいが、ゴッドイーターの赤い腕輪を右腕にしており、背中に大きなフェンリルの紋章が付いていることからも、奇っ怪な風貌ではあるが、ゴッドイーターだということも理解出来た。

 

 ひとつ目につく奇妙な点と言えば、左肩にしがみつくように"頭の代わりに木魚を2つ付けたさるぼぼのような30cm程の物体"が乗っていることだが、着ぐるみのインパクトに比べれば些細なものである。

 

 そして、ウサギの着ぐるみのつぶらな瞳はエレベーターの操作パネルに釘付けになっており、全体的に見れば"私、困っています"といった雰囲気がなんとなく見て取れる。

 

 この極東支部にて、雨宮リンドウの次に第一部隊隊長を勤め、最強のゴッドイーターは誰かと極東支部で問われれば真っ先に名前が上がるゴッドイーターがいる。そのゴッドイーターは他の職員が誰も着ていないフェンリル制服を好んで着ており、異世界の住人のような奇っ怪な服装や、攻め過ぎたサンタのような服装をしていることは多々あったが、ウサギの着ぐるみのデザインが更に奇妙なために同一視はされなかった。

 

 しかし、今のところ好きで声を掛けようという者がいなかったため、他の職員が気を使ってエレベーターが使えない時間が続いた。

 

「おー? 君どうしたのさー?」

 

 するとウサギの着ぐるみの背後に何者かが立ち、声を掛けた。それに気づいた着ぐるみは振り返る。

 

 そこには灰色のセミロングな髪をし、遮光性整備用ゴーグルを着け、ノースリーブのタンクトップに、工具を入れるポシェット付きのオーバーオールを着用した女性の姿があった。

 

 彼女の名は"(くすのき)リッカ"。主にゴッドイーターたちが使う神器の整備を担当している整備士である。

 

「なにそれ、面白い服装だね」

 

 そう言ってリッカはカラカラと笑う。その様子には嫌みなどはなく、不気味さすら漂うウサギの着ぐるみを単純に面白いから笑っているようであった。

 

 それを見てか、聞いてか、着ぐるみは動く。

 

 

『――――――!』

 

 

「えーと……どういうことかな?」

 

 ウサギの着ぐるみは両手を精一杯、腕を横に振り、何かの感情を露にしていた。しかし、表情等がないせいで、喜びとも、怒りとも、悲しみとも捉えることができ、着ぐるみ本体の絶妙な不気味さも合間って般若面のようにやや怖い印象を受けた。少なくとも子供は泣きそうなものである。

 

 

『………………』

 

 

 リッカのその反応を見てか、ジェスチャーを止めて少し首を傾げるウサギの着ぐるみ。

 

 

『――!』

 

 

 するとウサギの着ぐるみは手と手を鳴らし合わせた後、背中のチャックを少し下ろして何かを取り出した。

 

「おー?」

 

 それはサイン色紙と黒のボールペンであり、明らかにチャックの隙間から出るサイズでもなければ、その手でどうやって取り出したかも謎だが、リッカがその疑問を覚える前にウサギの着ぐるみが行動した。

 

 とてつもない速度でペンをサイン色紙に走らせ、絵を書き始めたのである。いったい、その平たい手で如何にして色紙を押さえながらペンを持っているというのだろうか。

 

 

『――――――!!』

 

 

「わぁ……すごい!」

 

 そして、時間にして1分も掛からずに書き上がったモノは、黒一色で書かれたとは思えない程の出来映えの現極東支部支部長代理"ペイラー・榊博士"の似顔絵であった。ご丁寧に初恋ジュースの缶まで似顔絵の隣に書いてある。

 

 エントランスにたまたま居合わせた人間は、その正確な早業と着ぐるみを着たままで行う大道芸人のような様子から拍手が起こるほどである。

 

 そして、ウサギの着ぐるみは色紙の博士とエレベーターのパネルを交互に手で指した。

 

「あー、なんだ。博士のところに行きたいんだね!」

 

 リッカがそういうとエントランス中の人間はすぐに納得し、ウサギの着ぐるみに向けられていた好奇の視線は無くなった。

 

 "なんだ、サカキ博士の知り合いか"と言った具合である。いや、"サカキ博士なら仕方ない"と思われているのかも知れない。どちらにせよ、ある意味信用されていると言うべきなのだろうか。

 

「それじゃあ、折角だから私が送ってあげるよ。この時間なら……んーと、研究室にいるね」

 

 

『――――――!!!』

 

 

「ふふっ、本当に面白いね君」

 

 その言葉にウサギの着ぐるみは、はち切れんばかりにジェスチャーを行い喜んで見せた。見ているだけでなんとなく笑えてしまうので、自然とリッカから笑い声が溢れる程だ。道化とは斯くあるべきだろう。

 

 

 

 

 

 その後、リッカはエレベーターで着ぐるみをラボラトリの区画に送り、戻ろうとしたところ引き止められた。

 

「んー? まだ何かある?」

 

 

『――――――!』

 

 

 すると今回は背中からサイン色紙と、何色かのボールペンを取り出す。そして、再び踊るようにサイン色紙にボールペンを走らせると、やはり1分も経たない内にそれは書き上がった。

 

「わ、わ……私!?」

 

 それは自然な笑顔で笑う楠リッカの似顔絵であった。色がつくことにより、写真のように色彩豊かでありながら、ボールペンらしい味のある絵に仕上がっており、売ればそこそこの値段で売れそうなものである。

 

 

『――!』

 

 

「え? くれるの!?」

 

 そして、ウサギの着ぐるみは案内してくれたお礼とばかりにリッカにその似顔絵を渡した。リッカは貰えるとは思っていなかったようで驚きに目を見開く。

 

「えへへ、ありがとう……でも私、こんなに可愛くないよ」

 

 

『――――――!!!!!』

 

 

 似顔絵を受け取りながらそう返すと、ウサギの着ぐるみはこれまでで一番激しいジェスチャーで否定をしようと動く。手話を使ってまで伝えそうな勢いであるが、流石にその手では無理なようだ。

 

「ありがとー!」

 

 

『――――――!』

 

 

 その後、ウサギの着ぐるみはリッカがエレベーターに乗り、見えなくなるまで足も動作に入れつつ両手を大きく振って見送った。

 

 

『………………』

 

 

 そして、ウサギの着ぐるみはラボラトリ区画の廊下に人が誰もいないことを確認し、本当に小さな声でポツリと呟いた。

 

 

 

『生リッカノ破壊力半端無イワ……』

 

 

 

 その呟きの後、ウサギの着ぐるみはペイラー・榊博士の研究室の扉の前に立ち、ノックの後に扉を開けて入室した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……?」

 

 現極東支部長代理兼アラガミ技術開発統括責任者、ペイラー・榊博士はこの支部では珍しいドアノックによる入室にモニターから顔を上げた。

 

 

『………………』

 

 

 そして、開かれた扉から研究室に入ってきた者は、紫色と灰色をメインカラーとした、継ぎ接ぎだらけのパンキッシュなウサギの着ぐるみである。その肩には双頭の黒い木魚のような頭が付き、さるぼぼに似た白い身体の30cm程のぬいぐるみらしきものが乗っている。

 

 様々なモノを目にし、体験してきたサカキ博士であったが、こういった素直過ぎる妙なモノはそこまで経験がなかった。

 

 そして、何かの催し物や、着ぐるみに関する記念日でもあったかと考えつつ、なんと声を掛けたものかと考えていると、着ぐるみから声が聞こえた。

 

 

『コンニチハ、サカキ博士』

 

 

 その声は機械と人間の中間のような声質であり、ボイスチェンジャーなどを使っているにしては人間の音声が残り過ぎているため、サカキ博士は疑問を覚える。

 

 そして、ウサギの着ぐるみは自身の被り物に手を掛けながら言葉を吐く。

 

 

『私ノコトハ、知ッテイルノデハナイカシラ――』

 

 

 ウサギの着ぐるみは頭部を外し、被り物を床に落とす。そして、その顔を目の当たりにしたサカキ博士は口を大きく開け、目を見開き、唖然とした様子になった。

 

 

 

『アナタ方ガ"ニライカナイ"ト呼ンデイル、コワイコワイ"アラガミ"ヨ』

 

 

 

 ウサギの着ぐるみの中身は紛れもなく、アーク計画でヨハネス・フォン・シックザール前支部長が、ノヴァの剣と盾と呼び、ゴッドイーター達と対峙したアルダノーヴァのプロトタイプⅣ号機。

 

 アルダノーヴァ神属感応種にして、第一種接触禁忌種アラガミ。

 

 

 "ニライカナイ"の女性体がそこにいたのである。

 

 

「な……」

 

 これにはどちらかといえばかなりお喋りな部類に入るサカキ博士も絶句した。

 

 極東支部及び世界各国のフェンリル支部の記録によれば、エイジス島で発生し、極東に暫く留まった後、南下ルートで海上を航海しながらグレート・ブリテン島に暫く留まり、突如として陸路でユーラシア大陸を横断するという、全く動機が不明ながら大移動をする奇妙なアラガミであったが、まさか既に極東に戻っており、極東支部に直接乗り込んで来るとは、流石のペイラー・榊博士でも思いもしなかったのである。

 

 いったい、どうやってアナグラに侵入したのか、警備やゴッドイーターの目をどう掻い潜ったのか、そもそもそのコスチュームは何なのか、色々な疑問は浮かんだが、真っ先にサカキ博士の頭で像を結んだことは、シックザール前支部長が操ったアルダノーヴァの神の如き、戦闘能力である。

 

 女性体のみとはいえ、あんなものがラボラトリ区画で暴れられれば只ではすまない。サカキ博士は自身の命よりも、極東支部を内側から破壊されることを何より危惧したのだ。

 

 しかし、サカキ博士は同時に、このニライカナイというアラガミから一筋の光明を見出だしてもいた。

 

 それはニライカナイが言語を使用するアラガミだからというだけではなく、ゴッドイーターとの交戦記録及びフェンリル支部での戦闘記録から、サカキ博士が考えるに、1度しかゴッドイーターを殺傷したことがないアラガミだからだ。

 

 他のフェンリル支部は奇跡や不幸中の幸いと考えているが、エイジス島の真実を知るサカキ博士は違った。

 

 エイジス島で回収されたアルダノーヴァ及び破棄したプロトタイプに関する資料では、エイジス島のアラガミ装甲を破壊する程のスペックは無い。そもそもそれほどの破壊力を持たせては本末転倒だからだ。しかし、エイジス島の調査で発見されなかったⅣ号機のニライカナイはエイジス島のアラガミ装甲をいとも容易く破壊している。

 

 これはニライカナイが破壊力を持ち過ぎたためにプロトタイプのまま陽の目を見る事がなかったのか、放置された期間にオラクル細胞が突然変異を起こしたのかは不明であるが、既にニライカナイがアルダノーヴァの範疇には収まらないことを意味していた。

 

 本来、ニライカナイがその気になればこの極東支部すら火の海にしてしまうことすら可能な筈なのである。にも関わらず、ニライカナイは如何なるフェンリル支部にも砲撃を加えたという報告が1度もない。

 

 更に唯一、殺傷したと記録上ではなっているグラスゴー支部のゴッドイーターは、報告によればニライカナイが現れた時点で既にアラガミ化の兆候が現れており、どちらにしても助かることは不可能な状況であったとなっている。

 

 そして、サカキ博士はこう考えた。

 

 

 "ニライカナイは何らかの理由でゴッドイーターを殺すことを避けているのではないか"と。

 

 

 そして、ここから先のことは完全に憶測であるが、こう空想する。

 

 

 "ニライカナイは人間寄りのアラガミなのではないか"と。

 

 

 "前例があった"ことを差し引いても、それはあまりに現実離れした甘美な空想でしかなかった。しかし、サカキ博士はニライカナイの危険性とほぼ同等にそれを信じていた。

 

 何故なら彼は紛れもなく、"ロマンチスト"なのだ。

 

『…………!?』

 

 すると、何故か目の前のニライカナイが、人間の立ち眩みのように少しよろめく。その動作が余りに人間らしく、思わずサカキ博士は声を掛けた。

 

「大丈夫かい……?」

 

『エエ、悪イワネ……最近タマニ目眩ガアルノヨ』

 

 ニライカナイは余りに普通に声掛けに対応し、サカキ博士に軽く会釈まで返した。それに博士は目を丸くしつつ、自身の考えが間違ってはいなかったのではないかと内心感情を昂らせた。

 

 ニライカナイは研究室内を見回し、折り畳み式のパイプ椅子を見つけて口を開く。

 

『悪イケド、座ッテモイイカシラ?』

 

「あ、ああ……勿論だとも」

 

 ニライカナイにそうは返したが、サカキ博士はこれまで生きてきた中でも1位、2位を争う程に緊張をしていた。

 

 というのも、余りにニライカナイが人間的過ぎたのである。かつてこのラボにいた特異点の少女のように幼げで純粋というわけでもなく、明らかに成熟しきった女性程の知性を既にニライカナイが宿していることは明白であった。

 

 故にサカキ博士の一挙一動で、180度ニライカナイの心象や行動が変わる可能性が十分に有り得る状態なのである。

 

(弱ったな……胃に穴が空きそうだ……)

 

 狐のような細目の裏で、まさかこのように考えていたなど極東支部の人間が聞けば何かの間違いだと考えたことだろう。

 

 しかし、同時に嬉しさからかサカキ博士の表情には自然と笑みが溢れていた。

 

『コレ、脱グワネ』

 

 ニライカナイはパイプ椅子を広げてから、着ていたウサギの着ぐるみの背中のチャックを下げて少しづつ着ぐるみを脱いだ。

 

 そして、徐々にニライカナイの黒いドレスのような衣装に包まれた全身が露になっていき――。

 

「君……それは……?」

 

 ニライカナイの下腹部が"妊婦"のように丸みを帯びており、サカキ博士はそれに目が釘付けになった。また、妊娠期間では7ヶ月程ではないかと推測する。

 

 着ぐるみを完全に脱ぎ、部屋の隅に座らせて立て掛けた後、着ぐるみの肩に乗っていたぬいぐるみのようなものをまた自身の肩に乗せてから、ニライカナイはパイプ椅子にそっと腰掛けた。

 

『ン……』

 

 するとニライカナイが小さく声を漏らす。そして、自身の手を大きく丸みを帯びた下腹部に当ててそっと撫でた。その時のニライカナイの表情は優しげであり、ヤンチャな子供を暖かく眺めるような何とも言えない顔付きをしていた。

 

『今7ヶ月目ダカラ、一番活発ナ時期ナノヨ。ゴメンナサイネ、マダ蹴ラレルノモ慣レナイワ』

 

「君は……」

 

『エエ、私色々アッテ――』

 

 ニライカナイは少し恥ずかしそうに少し頬を朱に染め、サカキ博士とはあまり目を合わせず、両手の人差し指同士をくっ付けて離す動作を繰り返しつつ呟いた。

 

 

 

『"人間ノ子ヲ妊娠"シテルノ……相談シテイイ?』

 

 

 

 流石の空想家も、エイジス島を旅立ったニライカナイが、ここまでぶっ飛んだことになり、極東に帰って来た上に己の研究室に相談に来るとは思わず、十数秒後にサカキ博士が返した言葉は"それは大変だったね"という当たり障りの無いものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ちなみにカナちゃんの肩に乗っているぬいぐるみっぽい奴のデザインは"三越戦艦棲姫 梅酒"等と検索すれば出てくる戦艦棲姫さんの肩に乗っている艤装と似たようなデザインや配色です。


あ、それと。

  ニコニコでガチホモタグの6割以上をひとりの投稿動画で占めている究極のノンケ目指したりしてる人程ではありませんが、作者はノンケなんで(迫真)
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