「あなたは入社後、弊社の業務にどのように貢献できますか?」
「えっと、御社の魔力を用いた新素材の開発業務に貢献したいと考えております。私は大学で四年間、効率的な魔力運用や術式開発などについて研究しておるゅ、おり、ましたので、新素材の開発には不可欠な術式の構築の面で、私のスキルを活かし貢献したいと思います」
「そうですか。弊社の開発部の方に興味があると」
「はい!」
「実は開発部を希望される方には、簡単な魔法の実演をお願いしているのですが、可能ですか?」
「ふぇっ?」
面接会場に沈黙が満ちた。頭の中は真っ白だ。机を挟んで座る面接官が目を細めた。私の全身から冷や汗が噴き出る。
「出来ませんか?」
「……つ、杖、無しでは厳しいです。申し訳ございません」
「ああ、いえいえ。わかりました。杖なしでは厳しい、と。フッ……」
鼻で笑いながら手元の書類に何かを書き込む面接官。私は屈辱と混乱で詰め込んだ面接対策の知識が吹っ飛ぶのを感じていた。
その後、一次選考の面接は極めて事務的に進んだ。
面接官にお礼を言って、立派なオフィスビルを出た私の肩は自然に丸まった。手鏡を見なくても表情に死相が出ているのが分かる。だって今真剣に死ぬ方法を考えているから。
就職活動を初めて六社目の面接。おそらくこれの結果もお祈りメールだろう。面接の直後にそう確信した瞬間、私はいつも死にたくなるんだ。
自己分析、企業研究、履歴書の添削、面接対策――徹底的な準備のすべてが水の泡になった徒労感。
それだけ準備していても本番でうまくやれず、どこにも必要とされない自分の無価値。あれれ、鼻先が痛い。視界がにじんできた。きっと夏の日差しで湧き出た汗が、目に入ったんだろう。
何のために生まれてきたのか、どうして誰も私を必要としてくれないのか。誰にも必要とされない人生なら、いっそ死んだ方が楽なんじゃないか。
面接後に特有の暗い感情を誤魔化しながら、私は駅へ足を向ける。帰ろう。
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高校時代から私は魔法にハマった。
国語、数学、英語と並んで必修の魔法。特に何か面白いと思ったわけではない。なんとなく勉強したら、座学でも実技でも学年一位をとって周囲に褒められたことが、魔法にハマった一番の理由だと思う。周りの声に従って、魔法を研究できる大学に進学し研究に没頭した。でも人間関係で失敗して地元にはいられなくなり、バイト代をはたいて大阪に出てきたんだ。
在学中は研究のことしか考えてなくて、就職活動はしなかった。だから大阪についてすぐに就活を始めたのだけど――内定が遠い。
自己分析でわかった自分の強み。魔法研究への熱意。魔法の実技の腕前。アピールの材料になると思っていた要素のことごとくが、何の役にも立たない。
私より魔法が上手い人はいくらでもいる。魔法が好きな人だって掃いて捨てるほどいる。さっきの面接でも分かったけど、魔法を使う補助具の杖無しで魔法が使えるレベルを企業は求めている。魔法産業に携わるならそのレベルが最低条件なのかも。
そんなの無理に決まってるじゃん。私は研究しかしてないって履歴書にも職務経歴書にも書いてるじゃん。研究者がなんで実技も得意なのさ! 日本文学の研究者はみんな小説家じゃないでしょーが!
なんて、言い訳と文句ばかり考えるから内定がもらえないんだ。できるヤツはどんな質問が来たってウィットに富んだ鋭い返しをするだろう。私はできないヤツだ。
「はぁ……」
真夏の太陽を見上げた。このまま暑さでどろりと溶けてしまえばどんなに楽だろう。真横の幹線道路に飛び出してみるのもいいかもしれない。駅に着いたら白線の一歩先へ踏み出してやろうか。いや、電車が止まるとみんな迷惑だからやめておこう。あーあ、どこかに拳銃でも落ちてないかな。
結局、全部を終わらせる根性なんてない。そんなものがあればとっくに内定がもらえてるんだろうな。
益体のない愚痴と自虐を繰り返しながら、私はとぼとぼと足を動かした。
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駅から徒歩五分のアパート。四畳半の狭い空間が私の城だ。敷金礼金なしで月一万五千円という好条件。入居のとき大家さんが同情するような目をしてたし、夜中に押入れの中から異音がするし、多分瑕疵物件だと思う。
上等だ。
こちとら生きるのに忙しいんだ。毎日本気で死にたくなるのは本気で生きてるからだ。生きてるから苦しいんだ。構ってほしけりゃ生き返って出直してこいや。
と、毎日強く念じていたらポルターガイストはなくなった。今では駅チカ、格安家賃の優良物件だ。
「なんかもう、なんでもいいから仕事ちょうだい……水商売以外で」
暑さと無気力でだらけながらパソコンをいじっている。女にあるまじき呆けた姿だが、それでも水商売だけは嫌だった。なまじ見た目がいいせいか、就活を始めてからその手の連中にスカウトされたことが何度かあるのだ。知らない男相手に誰が股を開くか。
求人サイトのページをどれだけスクロールしたって、いい仕事はもうない。ここから通える範囲の企業はさっきの面接で最後だった。後は電車とバスで二時間、三時間かかる勤務地ばかりだ。
潮時か。
なんとなく魔法産業の企業に入りたいと思っていたけど、ないものは仕方ない。というか散々その業界の面接で心をシバかれたせいでもう嫌だ。求人の検索条件を変えよう。
求人の検索キーワードから「魔法」を削除し、勤務地のエリアを大阪府全域から大阪市に狭める。
「お、おお!」
求人件数は三百以上。勤務地もよりどりみどりだ。今までは漠然と魔法産業にこだわってたからいけなかったんだ。さっそくスクロールしてよさげな求人を吟味していく。
業種、職種、勤務地、給与、福利厚生、採用担当者からのコメント。「当社は人物重視の選考を」「弊社はコミュニケーション能力を」「人物重視」「コミュ力」「人柄」
「やかましいわ! わかってるわ!」
イライラのあまりツッコミを入れてしまった。相当精神が参っているみたい。
なんでこう、どこの採用担当者さんも同じことしか言わないんだろう。人物重視とかコミュニケーション能力とか、そんなの言われなくても分かるじゃん。それを見るために面接やるんだからさ。もっと面白いこと言ってよ。
やっぱりどの求人も似たり寄ったり。細かいところは違うけど、みんな言ってることは同じだ。既卒未経験でもご応募していただけますよ、ただしその場合はとっても有能な人じゃないと内定は出せませんよ。
そうじゃないんだ。こう、既卒未経験でコミュ障で無能な、二十二歳の女を一生雇ってくれるようなところがいいんだ。
「さすがに人生なめすぎかー。ん?」
半ば諦念とともにスクロールしていると、一つの求人が目にとまる。黄金の枠に縁どられたそれは「急募」――つまり人手不足で今すぐにでも人員がほしい特別な求人だった。
でも私が気になったのは急募だからじゃない。
「既卒未経験歓迎、正社員待遇、年収500万、管理系事務職――冒険者?」
冒険者業務、という訳の分からない業務内容が目について離れない。この先進国日本で冒険して意味あるの? というか冒険する場所とかなくない? 海外出張がメイン?
湧き出た疑問を解消するため、私はその求人の「詳細」リンクをクリックした。
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《急募》
「大学は出たけど仕事がない…」
「未経験だから自信がない…」
「やりたい仕事のイメージがわかない…」
そんな方でも大丈夫! 当社で冒険者として働きましょう!
■冒険者って?
簡単に言うと、モンスターの数を管理する事務職です。
モンスターは増えすぎても減りすぎてもダメ、適正な数を保たなければ色々な悪影響が出ます。
冒険者はそんなモンスターの数や出現地域を管理することで、世界の平和を保つとっても重要なお仕事なんです!
■安全、安心の研修制度!
冒険者は増えすぎたモンスターを駆除します。当然戦いに発展することもありますが、大丈夫!
新人の皆さまにはまず簡単な数の管理と、下級のモンスターをお任せします。簡単といっても、大ベテランの先輩がマンツーマンで研修しますから安心ですよ。
その証拠に当社では過去一年間の事故件数ゼロ! 定着率は驚きの97パーセント! 新人の方も安心して取り組める環境が整っています!
■最高のワークライフバランス!
土日祝休み、残業月平均5時間以下、年間休日130日、転勤なしなど、プライベートも充実できます! ある冒険者さんは9連休をとって海外旅行に出かけたこともあります。あなたのライフスタイルに合わせ、あなただけの働き方を見つけましょう!
■まずはご連絡を!
履歴書の準備? 業界研究? 志望動機? そんなものはいりません! 新人の方が何も知らないのは当たり前です! 志望動機なんて「仕事がほしいから」で結構! あなたの強みは働きながら見つけましょう。業務にどう貢献するのかなんて、やっていくうちに自然と分かるものです。
ですからまずはご連絡を! 当社は落とすための面接ではなく、あなたのいいところを一緒に探すためのものです! ありのままのあなたを見せてくださいね!
募集職種:管理系事務職
仕事内容:モンスターの数の管理、それに伴う書類作成など
求める人材:既卒・第二新卒・フリーター歓迎、学歴不問!業界・職種未経験、ブランクがある方も歓迎です♪
勤務地:関西圏 ※お住まいの地域や希望を考慮して決定します
勤務時間:9:00~18:00 ※案件により異なります
休日、休暇、福利厚生、給与etc...
未経験入社の先輩の声
Cさん:事務職に興味があって応募しました。パソコンのスキルには不安があったのですが、優しい先輩が親身になって教えてくれたのですぐに覚えられました。モンスターの数の管理も最初は分からないことだらけで、でもいつの間にか最初から最後まで一人でできるようになっていました。他社よりも圧倒的に優れた研修制度があったからだと思います。