仮面と海月と白鷺と   作:光の甘酒

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第6話 偽装デートと真面目なあの子との再会

―この感覚。

 

そう、これは夢だ。

夢を見ていることを夢の中で自覚する、いわゆる明晰夢というものだろうか?

しかし夢を好きなように操作できているとは思えない。

 

 

「芽音くん」

「・・・・よう」

 

 

ここは―

 

 

どこだ?

 

 

そう考えているところに現れたのは女の子だ。

俺はこの子を知っている・・・というかいつも一緒にいたじゃないか。

だが誰だ・・・?思い出せない。

 

 

「様子はどうかな・・・?」

「いつも通りだ。よく眠っている」

 

 

そう返すのは俺自身。会話する俺たちの前には、見覚えのある人間が眠っているように見える。

 

 

「なあ、今日もいい天気だぞ」

 

 

返事が来ないのがわかりつつもそう問いかける俺。

 

 

―そして案の定返事は返ってこない。

 

 

俺は一体誰に問いかけている・・・・?

俺はその眠る人物の顔を確認しようとする。

 

 

Piiiiiiiiii

 

 

その刹那―

けたたましく鳴り響く音。

俺の意識はその音に吸い寄せられ、気が付くと現実世界に帰ってきていた。

 

 

 

 

「・・・・なんだったんだ?今の夢。・・・夢?どんな夢を見ていたんだったか?」

 

 

なんだか夢を見ていたような気がする。

よくあるんだよね、夢が思い出せないこと。起きた直後は覚えていても少ししたら忘れてしまう。

まあ思い出せない夢のことを考えても仕方ないだろう、学校に行く準備をしますかね。

 

 

「・・・・・んんん?」

 

 

時計を手に取る俺。そして気が付く。さっきのアラーム音はスヌーズ機能により、本来俺を目覚めさせる刻より・・・予定より遅くなったものであるということを。

 

 

 

「寝坊じゃねえかあああああああ!」

 

 

なんてシリアスぶって言った見たが単なる寝坊だ。

すべての考えを捨てた俺は速攻で準備を行い、走る。

走って走ってとにかく走る。しかし時間は無情にも過ぎてゆき、校門に到着するころには生活指導教員が立ちふさがっていた。

 

 

「はいキミ遅刻ね」

 

 

時刻は8時26分。

この学校は8時25分までに校門をくぐり、8時35分に始まるHRに間に合わなければならない。

 

 

「先生、1分ちょいくらいカンベンしてもらえませんかね?」

「ダメダメー。はいキミ、名前とクラスは?」

 

 

どうやらダメみたいであるのを確認し、俺はおとなしくクラスと名前をいう。

 

 

「はい、俗くんね。放課後に風紀委員会室へ来てね。決まりだから」

「はい・・・」

 

 

この学校では遅刻をしたものは理由を問わずまずは風紀委員会による遅刻者登録を受けるシステムらしい。それで生徒の遅刻者数の管理を明確化し、さらにそういうめんどくさいことを放課後の時間を使ってやらせることで、遅刻者を減らす狙いだとか。

 

 

「おっとキミは・・・白鷺さんか」

「申し訳ありません先生、朝の仕事が少し押してしまって」

「いいよいいよー。ただ悪いんだけど、いつも通り登録だけはよろしくねー」

「はい」

 

 

俺の後に現れたのは千聖だ。

どうやら早朝の仕事が押してギリギリ遅刻してしまったようだ。

 

 

「あら?芽音じゃない。遅刻だなんて珍しいわね。夜通しゲームでもやってたのかしら?」

「いんや、なんか今日は寝覚めが悪くてフツーに遅刻だ。千聖も朝からお疲れさん」

「ありがとう。さて、HRまで時間もないし、とりあえず教室にいきましょうか」

「ああ」

 

 

教室前で千聖、俺は別々で入りいつも通り自分の席へ向かう。

 

 

 

「俗、おはよう!さっき走っているのが見えたよ。遅刻だなんて珍しいね」

「ああ、おはよう。いやーまいったまいった!寝坊しちゃうなんてね」

 

 

いつものクラスメイトと挨拶を交わし席に着く。

 

 

「ふぁ~」

 

 

しかし今日は眠い。変な夢(とはいっても覚えていないが)を見たせいだろうか?

 

 

ピロン

 

 

「ん?」

 

 

スマホが音を出す。ていうかマナーモードにするの忘れてた。

俺はマナーモードのスイッチを入れ、通知を確認する。

・・・千聖か。離れた席からこちらをうかがう様子が見える。

 

 

白鷺千聖:今日の放課後、時間を貰っていいかしら?

Sakinari:構わんがなんかあったか?

白鷺千聖:昼休みに話すわ

Sakinari:OK(スタンプ)

 

 

ふむ、どうやら千聖はなにやら用事があるようだ。

まあバイトもクビになっちゃったし時間はあるし問題はないだろう。

そう考えながらも俺は授業にいどんだが、どうにも眠気がとれず一日上の空で過ごしたのであった。

 

 

 

 

「芽音、私の彼氏になってくれないかしら?」

 

 

 

時は昼休み。

予定通りいつもの場所で昼飯を食おうと花音、千聖と合流したはいい。

うん、そこまではいいんだ。しかし白昼堂々、この女(しんゆう)は俺に言い放った。

 

あろうことかそれは・・・愛の告白であった。

 

 

「ふぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?」

 

 

俺が声を上げるより先に顔を真っ赤にして叫ぶ花音。

うん、わかるよ。楽しいランチタイムに来たらコレだもん。

千聖の顔を見るとその顔は至って真剣だ。

しかし・・・・

 

 

「真剣すぎるな」

 

 

そう、それこそが違和感の正体。

特に照れている様子も、動揺する様子も見受けられない。

それにさっきの千聖の雰囲気。そう、まったくわからなかったのだ。

千聖は親友となってからも雰囲気を消すことはあるが、その細かな変化を見抜くことができるようになったのか、あるいは慣れたのか。俺はある程度察することができるようになっていた。

しかし今回はそれが全くない。これは初めて会った時の雰囲気を消した千聖と同じだ。そう考えた俺は、ここで俺は一つの結論に達することとなる。

 

 

ああ、なるほど。これは―

 

 

演技をしてやがるな・・・と。

 

 

「あらかた彼氏の”役”をやってくれということじゃないか?」

「さすが芽音ね、恐れ入ったわ」

「役者魂が垣間見えたぞ?」

「え?え?役?どういうこと?」

 

 

アイコンタクトで意思疎通を果たした俺と千聖に対して、花音はわかっていない様子で困惑を続ける。

 

 

「実は、名前付きの役を貰えたの」

「すごいっ!千聖ちゃんおめでとう!」

「とはいっても深夜枠ドラマで脇役なんだけど。その役というのが主人公と1回だけデートをする女の子の役で、最後は主人公の子にとられちゃうんだけどね」

「つまり噛ませ犬ってことか」

「ハッキリ言うわね・・・でもそうね、そういうこと。でも私は、たとえ1回限りの脇役でも全力で演じるだけよ」

 

 

力強い目を輝かせ、千聖は言い放つ。

正直、千聖のこういうところは素直に尊敬できる。

やるべきことがどんな小さなことでも全力で取り組み、未来への糧にする。

その場しのぎの行き当たりばったりで過ごしてきた俺には到底真似できないだろう。

 

 

「あ、それで・・・」

「ええ。でも恥ずかしながら・・・男性とデートなんてしたことなくて。そこで芽音」

「唯一の男友達の俺に白羽の矢が立った、ってことか」

「その通りよ。お願いできるかしら?あなたも将来彼女ができたときの参考になるわよ?」

 

 

俺に彼女ができるかどうかは別としてソウダナー・・・・

 

 

「ま、いっか。受けるよ、それ」

 

 

”なんていうか純粋に楽しそうだ”

そう思えたのだ。俺は内心、どんな千聖が見られるのか少しワクワクしていた。

 

 

「あ、じゃあ明日のお休みは二人でお出かけだね。私はバイトだし、楽しんできてねっ」

 

 

その花音の言葉で昼休みは締めくくられた。

さて、午後の授業も頑張りますか。

 

 

 

 

「あら?芽音、どこにいくのかしら?」

 

 

帰ろうとして廊下に出たところ、千聖に声をかけられる。

一体何の用だってんだ?

 

 

「あなた、今朝遅刻したじゃない。風紀委員会室にいかないとだめよ?」

「あ、忘れてた・・・・」

 

 

しまったぁ・・・完全に失念していた。

そうか、俺は遅刻者登録を受けなきゃいけないんだっけ・・・

かったるいねえ。まあ俺が悪いんだけど。

 

 

「わかったらいくわよ」

「あいわかった」

 

 

ガラガラガラガラガラ

 

 

「失礼します」

「あら白鷺さん、今日もですか?」

「ええ。氷川さん、いつもごめんなさいね」

「いえ、仕事ですから。はそちらの方も遅刻ですか?申し訳ありません、他の人は今、出払っておりまして。順番に処理するのでお待ちください」

「あ、はい。大丈夫で・・・・・す?」

「では白鷺さん、学生証を出して・・・・ください・・・・?」

 

 

風紀委員の女の子、そして俺。俺たちは互いを認識し、会話をしようとするがそこで途切れる。

 

 

「あ、あなたは!」

「おやまあ、まさかこんなところで会うとはね」

「知り合いなの?」

「うん」

 

 

それはそう、以前ショッピングモールで花音と入れ替わった、あの女の子であった。

 

 

「その節はお世話になりました」

「いやいや、あの後妹さんとはちゃんと合流できた?」

「ええ、おかげさまで。しかしあなたが花咲川の生徒だったとは・・・」

「こちらも驚きだよ」

「氷川紗夜。1年生です」

俗 芽音(ならわし さきなり)。よろしくね」

 

 

思わぬ再会を果たした俺たちは和やかな雰囲気で雑談する。

結構話が弾むもんだな。やはり仲よくなれば気が合うという俺の目測は当たったようだ。

まあさすがに仮面は被っているけどね。

 

 

「・・・そろそろ話に入っていいかしら?」

「あ、白鷺さん!申し訳ありません、私としたことが」

 

 

しばらくすると千聖が口を開く。

・・・・アカン、千聖のこと完全に頭から抜けてた・・・・

 

 

「氷川さんはいいのよ。ねえ、芽音?」

 

 

ビクゥ!!!!!

 

 

アエイエエエエエエ!!?

ナンデ!?チサトナンデ!?!?!?

 

 

一瞬放たれる禍々しい雰囲気。

なんで千聖さん怒ってる(?)んですかね・・・?

いままあ俺の放置プレイが原因なんだろうけどさ。

 

 

「芽音、説明なさい」

「ハ、ハイイイ!」

 

 

金髪の吸血鬼に”歩道に車で突っ込め”と言われた議員のように勢いよく返事をする俺、そして当時の出来事を説明する。

それを聞いて納得したのか、千聖の禍々しさは薄れていくのを感じる。

 

 

「なるほどね」

「わかってもらえた?」

「ええ。納得したわ。氷川さん、私からもお礼を言われてもらうわ」

「いえ、お世話になったのはコチラもです。しかし・・・白鷺さんと俗さんは仲が良いのですね。一緒にお出かけだなんて」

 

 

考えてみりゃ俺と千聖が親友なのは面倒を避けるためにあまり公開していないことだ。

しかし、氷川さんなら大丈夫な気がする。なんとなく、そう思えた。

と、いうわけで俺たちが仲が良いこと、そしてそれを隠していることを氷川さんに話す。

 

 

「なるほどそういう事情でしたか。安心してください、誰にもいいませんよ」

「氷川さんならそう言ってくれると思っていたよ!」

 

 

その後、俺たちはしばし歓談をし、風紀委員会室を後にしたのであった。

 

 

「氷川さん、いい子だね」

「そうね」

 

 

話している最中は普通だったはず。

しかし、二人きりになった途端、千聖はまたしても雰囲気をシャットアウトしてしまう。

だがそれも一瞬。すぐにいつもの和やかな雰囲気に戻った。

一体何だったんだろう?うーむ、心当たりがない。さっき放置プレイした件を根に持つ・・・・ような性格じゃないしな、よくわからん・・・・

 

 

「芽音」

「うん?」

「明日、朝の10時に待ち合わせでいいかしら?」

「ああ。デートコースはどうすんだ?」

「それなんだけど、私に任せてくれるかしら?ドラマとできるだけ同じコースを回りたいの」

 

 

ああ、なるほどな。そういうことか。

 

 

「あ・・・・・」

「どうした?千聖?」

「・・・ドラマの撮影これからだから・・・私の役が振られるってことはオフレコでお願ね?」

 

 

そういってペロッと舌を出す千聖。

 

 

「うん、可愛い」

「バカなこと言ってないで帰るわよ」

 

 

 

明日は千聖と(疑似)デートだ。

俺はやっぱり期待してしまい、胸を弾ませながら帰路についたのであった。

 

 

 

 




と、いうわけでバリバリの伏線回でした。
次回、ちゃんとデートさせます。果たして千聖さんをデレさせることができるんでしょうか。
だいぶラストの構想が浮かび上がってきたので、そこにたどり着けるよう頑張ります。
引き続きよろしくお願いいたします!


★9 ルナ@マテリアルズ大好きさん


ありがとうございます!

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