仮面と海月と白鷺と   作:光の甘酒

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第7話 本番偽装デートとお揃いのストラップ

「目が覚めて本当に良かったよ」

「心配をかけたわね」

 

 

俺は目を覚ましたその子がハキハキ喋っているのをみて安堵する。

 

 

「でもよかった。ずっと目を覚ますのを待ってたんだよ?」

「本当にごめんなさい。それにお医者様から聞いたわ」

「うん?」

「あなたが助けてくれたってことを。改めてありがとう」

「気にすんな。俺は俺のやれることをやっただけだ」

 

 

会話に参加する人数は3人。

そして平和な雰囲気、安堵する雰囲気、楽しい雰囲気。その部屋はソレに包まれていた。

 

 

Pipipipipipipipipipipi・・・・

 

 

それを遮るかのようにけたたましくなるアラーム。

ああなるほど。これも夢だったんだ。

そんなことを考え、遠のく世界を感じながら、俺は覚醒した。

 

 

 

 

「まーた変な夢を見ちまった」

 

 

しかし相も変わらずすぐに記憶から消失する。まったく厄介だな。

時間は―うん、今日はスヌーズじゃない。寝坊はしていないようだ。

今日は千聖と出かける日だ。寝坊なんてしようものならどんな目に遭わされるかわかったもんじゃない。

・・・こんなこと千聖にいったら「あなたは私をどういう目でみているのかしら?」と違う怒りを買いそうだ。

 

 

「さて、いきますかね」

 

 

俺はすぐに準備を始め、千聖が待つであろう集合場所に向かった。

 

 

 

 

時間は20分前。少し早めについてしまったようであるがその先はすでに千聖が待っていた。

 

 

「悪い千聖、待たせちゃった」

「ううん、いいの!あたしも今来たところだから!こうやってキミを待つ時間もすっごくドキドキして楽しかったからだいじょーぶ!!」

「ファッ!?」

 

 

誰 だ お 前 

 

 

れれれれ冷静になれ!

よし、ちょっと考えよう。考えて考えをまとめて考えよう(錯乱)

まず俺は誰だ?

―うん、紛れもなく俗 芽音。そして今日の目的はなんだ?

―解。白鷺千聖と遊びに行くために来た。

では目の前にいるのは?

―この姿かたち、間違いなく千聖だ。寄生獣が脳みそを支配していたりワームが擬態してなければ間違いない。

そして―

 

 

「どうしたんだよ千聖・・・・」

「えー?いつもみたいにちーちゃんって呼んでよ!それにさっきから何考えてるの?あたしも教えて教えてー!」

 

 

だ か ら 誰 だ お 前

 

 

「頭痛くなってきた・・・」

「え!?大丈夫!?どうしちゃったの急に!?」

 

 

あんたのせいだよあんたの・・・・

ふとここで考えよう。なぜ千聖はこんな風になったのか?

頭でも打ったか?いや、そんなことでこんなにおかしくはならないだろう。

ではなぜ・・・・いや、まてよ。千聖、さっきから”なんの雰囲気も感じない”

まるで演技していているときみたいだ。

ん・・・・?今日の目的ってそういえば・・・・

 

 

「あ、そっかぁ!」

「どうしたの?」

「いや、色々理解しただけだよ。じゃあ行こうか、ちーちゃん」

「・・・!あ、うん!!」

「・・・・・」

「・・・・・」

 

 

うん、気まずい雰囲気が出てきたぞ。

まあ気持ちはわかる。大方、あの性格も演じる役のものをそのままやっているんだろう。

しかし相手は俺だし、かなり無理をしてるのが分かってきたのだ。

 

 

「あーもう無理!芽音相手こんなことするの無理!!!」

「あ、うん。そんな気はしてた」

 

 

陥 落

 

 

っていうか自爆か。千聖はあっさりキャラを崩し、いつも通りになった。

ものすごく羞恥に満ちた表情でモジモジしている。

 

 

「いつも通りいくか」

「・・・・そうね、いつも通りで」

「んでちーちゃん、最初はどこに行くんだ?」

「もうやめてええええええええ!」

 

 

そんなこんなで顔を真っ赤にし悶える千聖の大声は待ち合わせ場所に響き渡るのであった。

 

 

 

 

映画館に入る。チケットはすでに千聖がネットで購入してあったようだ。

普通なら一緒に窓口に行ってチケットを買うところだが、おそらくこれも台本通りの行動なんだろう。

俺はチケット代をわたし、2枚のうち1枚を受け取る。

映画の内容はなんてことない、話題になっている恋愛映画だ。しかし話題になっているだけあってこれはなかなか面白い。

ただ単にラブコメをやるだけでなく程よいシリアス、緊張感のある駆け引き、思わず手を握ってしまう展開のしばしばある。

映画なんてこういう機会でもなきゃ観にこないが、今後は面白そうな映画を見る趣味を始めてもいいかもしれないな。

 

 

「・・・・?」

 

 

そんなことを考えていると手に何か違和感が。これは温度・・・・?

ふと横を見ると、そこには俺の手を握り、恥ずかしそうにしている千聖の姿があった。

 

 

「これも台本通りなのか?」

「・・・・」

 

 

そんなことを訊いてみるが映画の音が大きくて俺の声が届いていないのか、千聖の反応はない。

その後、千聖の手は映画が終わるまで俺の手から離れることはなかった。

 

 

 

 

「いい映画だったわ」

 

 

上映が終わり、エンディングが流れると劇場内の照明が点灯され始める。

感想を口にしながら席を立つ人、一人で見に来たのか静かに席を立つ人。そして千聖のように座ったままにまずは一言感想を言う人。

劇場内では映画鑑賞後の独特の雰囲気がその空間を支配していた。

 

 

「ああ、確かにかなり当たりだったもしれない。観る前は所詮恋愛映画とナメてかかっていたが、なかなかなどうして出来がいいじゃないか。しかし・・・」

 

 

映画自体はかなり面白かったといえるだろう。

だがそれはまた後でカフェにでも入って感想を言い合えばいい。

それよりも気になるのは俺の手に未だの残る感触だ。

 

 

「それで千聖、これも台本通りなのか?」

「なんのことかしら?」

「ん?手、あなたの手、Your hand.」

「なんで急に英語に・・・・あっ////」

「忘れてたのか・・・・」

「・・・なんてね、ここまで台本通りよ」

 

 

顔を赤くしたと思ったら瞬時に表情を戻し、そう言い放つ千聖。

すげえ、これが役者魂・・・!

 

 

「全然わかんなかった。さすがだな」

「でなきゃここに来た意味がないわ。・・・・よかった、バレてないみたいね・・・

「ん?」

「なんでもないわ。出ましょう」

「ああ」

 

 

何かをつぶやいていた千聖であったがまあいい。

俺は席を立つと軽く伸びをし、劇場内の段差を下っていく千聖の後を追ったのであった。

 

 

 

 

「これなんか花音好きそうじゃないか?」

「そうね、結構いいと思うわ」

 

 

映画が終わり、昼食をとった後にショッピングを楽しむ俺たち。

楽しい時間はあっという間とはよく言ったものだ、気が付くと外はいい感じに暗くなっており、そろそろデート(仮)もお開きになる時間だろう。

とりあえず花音に土産でも買おうという話になり、最後に雑貨屋による俺たちはアレコレ見て回り、花音の土産と各々好きなものを買っていた。

 

 

「じゃあ花音はこれでいきましょう」

「ああ。他に買うものはいいか?」

「そうね・・・せっかく来たことだしあっちにほうも見てこようかしら」

「了解、俺も適当にみているよ」

 

 

花音への土産を決め、千聖といったん別れると俺もブラブラと店の中を見て回る。

 

 

「ん?」

 

 

すると発見したのはあるストラップ。ふむ、結構千聖の好きそうな色合いとデザインだ。

 

 

「せっかくだしなあ」

 

 

俺はそれを手に取ると、買い物かごの中に投入したのであった、

 

 

 

 

「結構いい時間になってきたな」

「そうね」

 

 

店を出て、薄暗くなった道を二人で歩く俺たち。なんとなく名残惜しい気もするが、そろそろ終わりの時間だ。今日一日、本当に楽しかった。

仮とはいえはじめて千聖とデートできて本当に良かったと思う。

 

 

「んじゃそろそろ」

「そうね。今日は一日ありがとう、芽音」

「いいって。それよりも役の雰囲気は掴めたか?」

「・・・・あ、そうね。うん、おかげさまで」

「それはよかった」

 

 

一瞬固まった気がするがおそらく気のせいだろう。

 

 

「あ、そうだ。コレを渡しておこうと思ってな」

「・・・・?なにかしら」

 

 

俺はさっき雑貨屋で買ったストラップを袋から取り出し、千聖に手渡す。

 

 

「一応、今日のお礼だ」

「お礼を言うのはこっちの方よ?せっかくの休日に付き合ってもらったんだし」

「いんや、まあそうなんだけどさ。きっかけはそうだったとしてもこうやって楽しい時間を貰ったわけだし、なにより千聖と二人で出かけたの初めてじゃん?だからなんていうか記念・・・みたいな」

 

 

うーむ、なんか少し恥ずかしいぞ。考えてみりゃこのいい方ってちょっと誤解を招く言い方なのでは?

 

 

「そう、ありがとう。受け取っておくわ」

 

 

なんて心配をしていたが千聖は特に違和感なく受け取ったようだ。

 

 

「あら?もう一つ入っているわよ?」

「あ、そうだった」

 

 

千聖があることに気付く。あのストラップはペアストラップ。あのデザインのものを買うには対になるもう一つのものもセットで買わなといけなかったのである。

ならば他のモノを・・・と思ったがアレよりいいデザインのものが見当たらなかったわけだこれが。

 

 

「そっちも貰っておいてくれよ。ペア品でばら売りしてなかったんだ」

「・・・・それなら」

 

 

そういいながら片割れを差し出す千聖。

 

 

「二人ででかけた記念の意があるのなら、もう一つは芽音が持っていてもいいんじゃない?」

 

 

 

ふむ。確かにその理論はもっともだ。せっかくのペア品出しタイミングもいい。

俺としたことが気が付かなかった。

 

 

「そうだな。ありがたく貰っておく」

「あなたが買ったものなのに変なの」

 

 

クスリと笑う千聖は思わずドキッとしてしまいそうな綺麗さだ。

俺は煩悩を振り切り、ストラップを受け取った。

 

 

「あれ?芽音くん?千聖ちゃん?」

 

 

するととても覚えのある声が俺たちの名前を呼ぶ。

 

 

「あら、花音?」

「うん!えへへ、バイト終わって帰ろうと思ったら二人をみつけて思わずね」

 

 

思いがけないところで会えたがのが嬉しかったのか花音は満面の笑みで語り掛ける。

 

 

「帰ろうと思っていたが・・・なあ千聖、せっかくだから3人で飯でも食っていくか?」

「いいわね」

「うん、私もそうしたいなっ」

「決まりだな」

 

 

俺たち3人は歩き出す。

 

 

「そういえば花音にお土産があるの」

「わぁ、なにかなー?」

 

 

楽しそうに話しながらあるく二人の友達(しんゆうたち)の背を見ながら俺は考えていた。

 

 

 

「芽音、早くいくわよ」

「ああ」

 

 

こんな時間がずっと続けばいいのに。

そう、考えていた。

 




仕事忙しかったりぶっ倒れたりでかなり遅れてしまい申し訳ありません。

次回は花音回の予定です。

引き続きよろしくお願いいたします!

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