楽しい一日になるはずだった。
親友の一人を隣に、ただなんの変哲もない休日。
しかしその日、俺は再び出会ってしまった。
あの日、あの時、あのきっかけになったアイツに。
「なんで・・・お前がここに」
「芽音くんやっほー。ねえねえ新しい学校でも暴力振るってるの?」
蘇るトラウマ。
そう、そいつはある意味、俺がかつて停学に追い込まれた原因を作ったヤツだ。
「なによー。久しぶりに地元の友達に会えたんだからもっと喜ぼうよ?・・・って隣のその子はなんなのかな?」
俺はあの日のことを思い出す。
思い出しくもないあの日のことを。
※
「めちゃくちゃ続きが気になる!!!」
休日。俺は部屋に閉じこもって漫画を読むという、盛んな高校生とは思えない日を過ごしていた。
部活でもやらないのか?と思うところであるが・・・あ、ちなみに花咲川に剣道部はある。
しかし共学1年目でしかも男子の人数は1クラスの半分程度。それに加え剣道をやっている奴なんて俺しかいない。
毎日放課後の部活まで外面よく、女子しかいない中で男一人竹刀を振るうのはゴメンと考えた俺は部活に属さず帰宅部と化していた。まあ、さすがに剣道自体をやめるのは勿体ないので、週2である剣道クラブには通っている。
さて、前置きが長くなった。要約すると俺は部活にも入らず、せっかくの休日に外出もせずひたすら漫画を読んでいたというわけだ。
そして俺が読み終わった漫画はまだまだ続編がある。しかし俺が手に取ったのは持っている中で最後に1冊であった。
「・・・・続きは?」
そう、実はこの漫画。花音イチオシということで花音に借りたわけだ。
あまりに面白いと熱弁するもんだから根負けし、
とりあえず・・・と思って長編30巻中10巻をドカッ借りたわけだがいやはやメチャクチャ面白い。
深夜から読み始めて徹夜で読み切ってしまった。
畜生、主人公の愛はヒロインに伝わるのだろうか・・・誰か・・・誰か教えてくれ・・・・!
・・・時間はまだ午前9時だな。徹夜のせいで正直眠気でトランス状態なのだが続きが気になってしょうがない・・・・!
「気になる・・・気になる・・・そうだ、花音に続きを・・・続きを借りよう・・・」
そう思った俺は、何も考えずにスマホを取り出し、気が付いたら花音の電話番号に向け発信ボタンを押していた。
『もしもし?芽音くん?』
『よう花音。今いいか?』
『電話してくるだなんて珍しいね。どうしたの?』
『(主人公の)愛(が伝わるのかどうか)を教えてくれ』
『ふぇ!?あ、愛・・・・?』
『ああ。この(先を知りたいという)俺の気持ち・・・もう抑えきれなんだ』
『えっあのっそのっ・・・・それってまさか・・・』
『もう我慢できないんだ。花音(イチオシの漫画)の魅力にやっと気づいたんだ・・・・』
『ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇ~~~~~////////』
・・・・この後正気に戻った俺はひたすら謝り倒し、とりあえずひと眠りしたら花音の家まで取りに行くという話でまとまったのであった。
※
ピンポーン
さて、仕切り直しだ。俺は今、花音の家のインターホンを押した。
しばらくするとドアが開き、見慣れた親友の姿がそこにあった。
「あ、芽音くん。えっと・・・こんにちは」
「あ、ああ」
うーむ。さっきのさっきで正直少し気まずい。心なしか花音は顔が赤いようだ。
「あ、漫画の続きだったね!今持ってくるから待って・・・・」
と言いかけたところで、花音の後ろに人の気配がした。
「花音?誰か来ているの?」
「お、お母さん」
「あら?あらあらあらあらあらあらあらあら!俗君、だったかしら?」
刹那、満面の笑みを浮かべこちらをみる花音ママが姿を現した。
1回しかあっていないはずなのに記憶力すげーな花音ママ。
「どうも、ご無沙汰しております」
「なーに花音?風邪ひいたときもお見舞いに来てくれたけどアンタそういう・・・・」
「ち、違うから!!!!もう、お母さんは家の中に行ってて!!」
「ふふっ。はいはい」
はえー・・・花音って結構デカい声出せるんだな。
「あ、芽音くんゴメンね!お母さんが変なこと言って・・・・」
「なーに構わんさ」
「じゃ、じゃあ漫画の続き持ってくるね!」
そう言った花音は、漫画を取りに行くべくぱたぱたと家の中に戻った。
「俗君」
「え?あ、ハイ」
それを見計らったかのように花音ママが再び現れた。
「ありがとうね。あの子の友達になってくれて」
「いえ、俺こそありがたいって思ってます」
「あの子、私に似ず引っ込み思案でしょ?そのせいか中学の時はあんまり友達もいなくて・・・でも高校に入ってからは白鷺さんやあなたの話をすごく嬉しそうにするのよ。あんな花音は初めて。だから・・・これからも花音のことよろしくね?」
その目は我が子をものすごく大切に思う、母親としての力強いものであった。
「安心してください。花音さんから離れていかない限り、俺や千聖から離れるなんてことはありませんから」
「ふふっ。なら安心ね。それにあの子から離れることもないでしょうしね」
美しい笑みを浮かべる花音ママ。うむ、やはり花音はお母さん似だな。笑顔にものすごく面影がある。
「お、お母さん!!」
すると響く大声。その声の主は漫画の詰まった手提げ袋を両手に持つ花音だ。
「もう、芽音くんに変なことしてないよね?」
「してないわよ。あ、そうだ俗くん」
「何でしょう?」
「なんなら私のこと、お義母さんって呼んでもいいのよ?」
「ファッ!?!?!?!?」
いきなりなんてこと言うんだこの美人さんは・・・・
俺と花音が結婚?付き合ってすらいねえってのに何を・・・・
「ふぇぇぇぇぇぇ!?お母さん!?!?!?!?」
「ふふっ。冗談よ冗談」
アレ?冗談を言ってる雰囲気じゃないんですがそれは・・・
「まあ、まだ若いしね。青春を謳歌しさい?」
「もう・・・・・」
うーむ。やはり大人は強い。勝てる気がしねえわ。
「あ、そうだ。もうお昼じゃない?花音、コレ」
「え?」
花音に手渡されたのは5千円札。
「これで俗くんとランチでもいってそのまま遊んできなさい。高校生が部屋に閉じこもってちゃ青春を逃すわよ?」
「ふぇ!?で、でも芽音くんの都合もあるし・・・・」
「んー別に構わんぞ。明日も休みだし漫画は帰ったらゆっくり読むさ。しかしいいんですか?俺まで」
「いいのよ。ほら花音、俗君もこう言ってるし観念しなさい」
「わ、わかったよぅ・・・芽音くん、よろしくね?」
「ああ」
「じゃあ、ちょっと着替えてくる。待っててね」
そう言って再び部屋に戻る花音。
そしてそのあとお母さんは一言、こう言い放った。
「ほんと、あんなに生き生きしてる花音を見るのは初めて。じゃあ
「ありがとうございます」
そう言って花音ママも家の中へ戻っていった。
「お待たせしました。あれ?お母さんは?」
「リビングに戻ったみたいだよ。さて、じゃあ行こうか」
「うんっ!」
その後まずは借りた漫画を俺の部屋に置き、食事をすべく歩き出した。
こうして俺と花音の想定外休日デートが幕を開けたのであった。
こんな遅い更新の作品にも関わらずたくさんの評価、お気に入りありがとうございます!
数が多く把握しきれていないのでお名前を出してのお礼ができませんが、大変感謝しております。
引き続きよろしくお願いいたします!