俗芽音がなぜ地元を後にしたのか?って感じでして。
1回で書ききりかったので書いたら2話分の文量に・・・
あ、ちょっとダークです。よろしくお願いします。
ここからの話を進めるにはまずは俺の過去を話しておかないといけないだろう。
なぜ俺が停学にまで追い込まれ、地元を離れるハメになったのか。
時は遡り1年前。
当時中学3年生であった俺は全中剣道大会(剣道の全国大会)で準優勝という土産を引っ提げ、すでにスポーツ推薦で剣道の名門高校に進学が決まっており、あとは中学生活を円満に終えるだけという状態であった。
まあ周りは受験モードの奴もいたし、暇なのでトップとまではいかなくてもそこそこの進学校でA判定がとれるくらいには勉強は続けていたわけではあるが、今は関係ない。
「芽音、学校いこうぜ」
「ああ、待たせたなカケル」
朝、俺の家に迎えに来たこのサワヤカ野郎。こいつは好本翔(よしもとかける)
俺の幼稚園からの幼馴染で、所謂親友と呼べる存在である。
「なんか嬉しそうじゃん?」
「お、わかっちゃう?」
カケルはその体から漏れ出す喜びの雰囲気を隠すことなく俺に話を始めた。
「実はさ、昨日彼女ができたんだよ」
「マジ!?そっかーお前にも春が来たかー・・・相手は?」
「同じクラスの清田美緒」
「大人気どころじゃん。やるなーお前」
清田美緒。クラスの女子ではまさに中心人物と呼べる人物で人当たりの良さ、見た目の可愛さなどをとっても大人気のクラスメイトである。
「すげーな。カケルから告ったのか?」
「いや、向こうからだよ」
「ほんとすげえなお前。まあお前もテニス部のエースで女からはかなりモテるし不思議でもないか」
「おいおいやめろって。それにモテるのはお前もじゃん。それに剣道で全中準優勝って普通じゃねーよ。でもなー・・・ホントは恥ずかしいからクラスの誰にも秘密って言われてるんだけど芽音ならいいかなって思って。あ、お前も秘密にしてくれよ?」
「わかってるよ」
ありきたりな朝。いつもと違うところは親友に彼女ができたことくらいだ。
大変微笑ましい。カケルはいい奴だしな。
しかしこれがすべての始まりだった。この日のカケルの報告が、今に至るまでの俺の道筋を決めたのであった。
※
とある休日。俺はブラブラと数駅向こうの繁華街に出ていたのであるが、そこであるものを見てしまった。
「・・・・?あれは清田と・・・」
町を歩くカップル。その片方はクラスメイトの清田美緒。カケルの彼女だった。
「隣を歩くのは・・・アレ?」
しかし隣を歩くのはカケルではない。同じグループに属するクラスメイトの男子生徒でだ。まあモブだしA、とでも称しておくか。
「・・・まさかな」
俺は気づかれないように二人の後を追った。二人がカフェに入るのを見届け、少し時間をおいて入店すると話は聞こえるが向こうからは見えない配置の席についた。
悪趣味だとは思うが俺の勘違いならそれでいい。違うという確証が持てたらすぐに帰ろう・・・そう思っていた。
だがそんな期待は瞬時に打ち砕かれた。見てはいけないものを見てしまった気がした。清田とAの会話から察するに、明らかに二人は付き合っておりかなり生々しい話までしているのを聞いてしまったのだ。
「そろそろいこっか」
話を終え、カフェを出る二人の後ろ姿を見ながら俺もそれに倣って出る。どこまでも悪趣味だし不安しかなかったが・・・体が動いてしまったのだ。
その後二人はネカフェの個室に入っていった。俺はその隣に気付かれないように入りじっと耳を澄ませた。
「んん・・・・」
艶やかな声に布が擦れる音。それを聞いた瞬間、俺は目の前が真っ暗になった気がした。この薄い壁を隔てて、二人は確実にヤっている。
カケルにいうべきか?乱入して止めるべきか?そんな思考がグルグルと頭を巡ったまま動けなくなり、気が付けば二人は行為を終えて個室を後にしていた。
そんな無音になった空間の隣で、俺は未だ考えがまとまらず茫然と座っていたのであった。
※
「俗君、話って何?もしかして告白かなー?ごめんね~あたし、もう彼氏いるからさぁ~」
翌日、俺は昨日の件を聞くために清田美緒を人気のないところに呼び出した。
現れた清田美緒が纏うのはいわゆるゆるふわな雰囲気、というのであろうか。
悪意のないオーラを放ちながら、俺の呼び出しにノコノコ来たヤツはあっけからんという。
「それはカケルか?それとも昨日一緒に出掛けてたアイツか?」
「・・・・どこまで知ってんのよ」
「!?!?!?」
まどろっこしいことはなしに核心に迫る話を始めたのであるが、その刹那、俺の全身を刺すように禍々しい気配が清田美緒からあふれだす。
俺はそれに圧倒されないよう、気を強く持ち話を続ける。
「二股かけてんのか?」
「違うわよ二股なんてかけてない」
俺の問いに即否定の言葉を発する清田美緒。いやいやどう考えたってそうだろと心の中で突っ込む。
「とぼける気か?まあなんでもいい。ただカケルは俺の大事な友達なんだ。本気じゃないならあいつを解放してやってくれ。あいつを悲しませるようなことはして欲しくないんだ」
「うわー男臭い友情ね。うん、断る!」
「なんだと・・・?」
「別に恋愛の形なんて自由じゃん?中学の恋愛なんてその場限りのものだしさ。もしくは数多いる男の中から運命の人が現れるかもしれない。だから好きって思った人とはみんな付き合う。翔君も、あの人もね。幸い容姿には恵まれて生まれたし、告白して断られることなんてないから」
こいつ壊れている・・・・
そしてものすごい自信だ。確かに清田美緒程の見た目なら喜んで付き合ってくれといいたくなるだろう。・・・本性を知らなければな。
ん・・・?ちょっと待てよ。ってことは・・・
「二股してないってのは本当みたいだな。
「んー・・・クラスの子が5人でしょ、他のクラスとか学校とかを含めるとー・・・両手じゃ足りないや」
-恐ろしい。
何かおかしいの?といわんばかりにあっさりという清田美緒に俺は純粋に恐怖を感じたのだ。
まさに男を手玉に取り弄ぶ稀代の悪女。15歳とは思えない恐ろしさ。
「そうだ!俗君も私と付き合おうよ!話してたらなんか好きになって来ちゃったから!」
「ふざんけんのも大概にしろ。さっきまでの話を聞いて”はいそうですか”というと思うか?」
「え~?いいじゃん。同じ穴の狢になっちゃえば秘密も共有出来て、黙ってれば翔君との関係も崩れない。win-winだよ?」
「ふざけるな!何がwin-winだ。そんなもの、お前しか得をしない!それを基にできたできたwin-winな関係なんて虚像だろ!!」
「さっきもいったよね?あたしってさ、告白して拒否されたことないの。アンタ、その経歴に泥を塗るつもり?付き合えばいっぱい尽くしてあげるし、そのうち本命になるかも!この体だって好きにさせてあげるよ?」
そういって自分の服をまくり上げる清田美緒。下着が見えようとしているのに何の羞恥も焦りも伝わって来ない、
俺はそれを見た焦り、今までの言葉、そして言動に俺はただただ怒っていた。そして、それと同時に得体のしれない相手への恐怖を感じていただのだ。
「やめろ!!!」
いろんな感情が入り混じった俺はたまらなくなり、大声でその行動を制する。
「もう話すことはない。俺はもう行く」
そういって踵を返す俺。こいつは本当の悪女だ。こんなやつを放置していたら傷つく人がいっぱい出てしまう。
ひとまずカケルだけにでもこのことを・・・
「あたしの邪魔はしないでよ?何か余計なことをしたら・・・アンタの大事な翔君がどうなっても知らないから」
そう考えていた矢先に放り込まれる一言。
”こいつはなにをしでかすかわからない”
直感的にそう思った俺は、これからどうするべきなのか考えがまとまらないまま、教室へ戻ったのであった。
※
その日は眠れなかった。そして一晩中悩んだ。俺はどうするべきなのか?
今日もカケルが迎えに来て通学路を歩く。表面上はいつも通りを装うが教室について清田美緒の姿をみた俺は冷静でいられるだろうか。
そんなことをひたすら考えていた。
―しかし、その不安はすでに災厄へと変わっていることを俺は教室についた瞬間、知ることになるである。
「もういっぺん言ってみろ!!!」
「ああ!何度でも言ってやる!!!勘違いして舞い上がって人の彼女に手を出すんじゃねえ!!!!」
教室内に響き渡る怒号。一人は以前、清田美緒と一緒に出掛けていたクラスメイトのAだ。
もう一人は同じくクラスメイトで俺やカケルと同じグループに属するBだ。顔を真っ赤にしてブチきれている。
「おいどうしたんだよ?朝から怒鳴り散らしちゃってさ」
「あ、カケル!聞いてくれよ、Aが俺の彼女と付き合ってるって言うんだ!しかもそれを勘違いって言いやがって・・・・!」
「当たり前だろ!?それにお前、ちゃんと俺がデートしてるとこ見たんだろ?それがなによりの証拠じゃねえか!」
この瞬間、俺は察してしまった。
BもAと清田美緒が一緒にいるところを見てしまったんだ。
Bも清田美緒と付き合っているから”どういうことだ?”となり、Aに話を聞いたらこんな感じになったのだろう。
「とりあえずAもBも落ち着けって。話まとめると、二人とも同じ人と付き合っててわけわかんなくなってんだろ?何か誤解があるのかもしれないから冷静に話そうぜ?」
とりなすカケル。だが俺はこの時点で嫌な予感が止まらなかった。
なんとか場所を変えて冷静にならないといけない。そんな気がずっとしているのである。
だが、そんな願いは虚しく次なる修羅場がすぐさま生まれたのであった。
「とにかく!美緒は俺と付き合ってるんだ!!勘違いでいつまでもグダグダ言ってんじゃねえ!」
ついに放り込まれた爆弾。
ついに、奴の名前をいってしまった。
当の本人はまだ登校していない。だがそんなもの関係ないと言わんばかりに教室内は強烈な怒りと困惑のオーラに包まれる。
「美緒・・・美緒だと・・・・?それは清田美緒のことか・・・?」
カケルは信じられないといった風に問いかける。
「そうだよ!」
「ハハ・・・なにをバカな。だって、美緒は俺と付き合ってるんだぞ・・・?」
そう口にした瞬間、カケルだけじゃない。他にも2人、名乗りを上げた。
こいつらもモブなのでC、Dとしておく。
「待てよ、俺も付き合ってるんだけど・・・・」
「俺も・・・・」
もはや意味が分からない雰囲気に包まれる。
そういえば清田美緒は言っていた。クラスに5人、付き合っている奴がいると。
A~D、そしてカケル。ピッタリ5人だ。
「おはよ~・・・ってなにこれ」
そんな中、空気を読まずほんわかとした空気を出して入ってきたのは稀代の悪女。
本件の最大の当事者で元凶である清田美緒である。
「おい美緒!どういうことだよ!?BもCもDもカケルもお前と付き合ってるって・・・!ウソだよな!?こいつらの勘違いだよな!?」
Aが叫ぶように問いかける。それを聞いた瞬間、清田美緒の顔がこわばりこちらを睨みつけるように見た。
”アンタ、バラしたわね?”
清田美緒の目はそう言っていた。だが俺はそれに対し、小さく首を横に振る。
「あーあ。遊んでたのバレちゃったか。ゴメンネ、みんなは本命じゃないんだ」
清田美緒はそう言い放つ。そしてその瞬間、5人の顔は絶望色に染まる。
「それにぃ~・・・あたしの本命は芽音だから!ねっ!芽音!!」
「は!?!?!?!?」
突然そんなことを言い出す清田美緒。当然大嘘であるが頭に血が上っているAをはじめ、他の4人も驚愕と怒りの雰囲気を醸し出していた。
「芽音・・・?どういうことだよ・・・?」
「カケル!違う!これはこいつのウソだ!!」
「お前・・・俺のことバカにしてたのかよ・・・?お前が美緒の本命で、遊ばれてる俺のことをさ・・・・?」
「違う!カケル、話を聞いてくれ!!」
「言い訳すんなよ!?もし本当に付き合ってないのなら美緒がお前の名前を出す理由がない・・・・!」
「カケル!冷静になれ!」
焦る俺。そしてそんな俺を見て、清田美緒はニヤリと邪悪の笑みを浮かべていた。
「さきなりいいいいいいいいいいいいいい!」ドゴッ!
「ぐあああ!」
不意打ち。なんと横からAが殴りかかってきた。
「A、落ち着け!すべて清田美緒のウソだ!」
「・・・聞きたくない、聞きたくない・・・美緒、何かわけがあってこんなこといてるんだよね?俺だけが好きなんだよね・・・?」
自分に言い聞かせるように言うA。それを見た俺はついにイライラが爆発してしまった。
「クソ女に騙されてここまでやりやがって!!!テメェは自分の意思を持ってねえのかクソ野郎!!!!」ドゴッ!!
「がああ・・・て、テメエ芽音いいいい!」
「叫んでキレて暴れれば何でも思い通りになると思うなバカ野郎!頭を冷やしやがれ!!!」
さらなる攻撃を加える俺。こうは言ってるが俺もかなりキレていたので説得力などなかった。
「・・・もうどうでもいい。お前ら全員ぶちのめしてやる!!」ドゴッ
「いてええええ!てめぇなにすんだゴラァ!!!!」
放心状態になったかと思えばまたブチ切れたAはBを殴る。周りにいる奴らを次々と殴っていく。C、D、そしてカケルにも。
さらにそれを止めに入った別のクラスメイトも次々と巻き込まれる。
そいつらも殴られたことによる怒りでブチ切れ、俺たちのグループ全員を巻き込んだ殴り合いのケンカが始まってしまったのであった。
※
血の海・・・とまではいかないが汚れた教室。
机も椅子もメチャクチャになっている。俺たちのケンカは教員が総動員で止めにかかり、ようやく終息した。
その日の授業は中止になり、俺たちは全員病院に連れていかれケガの治療を受けた。
全員停学1か月、推薦入学が決まっていた者はすべて取り消し、さらに反省文。
これが俺たち全員に下された処分だ。
停学があけ登校すると、今まで仲の良かったクラスメイト達は俺を触ってはいけないモノのように振る舞った。グループは当然崩壊、教員も腫物を扱うかごとくケンカに参加したメンバーには無関心を貫いていた。
俺が清田美緒とは付き合っておらず、奴に言いがかりをつけられただけというのは幸い理解してもらえたが現状はコレであった。
さらにあの一件以来、学校に来なくなった奴も多くいた。ちなみに俺は親がそれを許さなかったため居心地の悪い中ひたすら登校した。それに推薦が取り消しになってしまったので受験もしなければならない。
そして清田美緒も姿を消した。さすがに本性や派手なオトコ関係が暴露されて学校に来られるほどの強メンタルはお持ちでなかったようだ。おそらく最後にかました俺と付き合っている宣言はどうせ死ぬなら道連れに精神だったのだろう。
「ここにするか」
出し直しになった進路希望調査。
俺はいろいろと調べた。そこで選んだのが花咲川女学園だ。
・顔見知りのいる地元ではないこと
・共学化によるテストクラスなので元々は中学からのエスカレーターが多い女子高であること
・故に男子と絡む機会が少なかったはずで、清田美緒のようにクラスメイト達を手玉に取るような悪女に出会う確率が共学に比べて低い
というのが理由だ。
偏差値は十分足りているので、試験は余裕であった。
「色々あったがこれで地元ともお別れか」
清田美緒という稀代の悪女に出会ってしまったばかりに起きてしまった悲劇。
地元での居場所を失い、子供の頃からの親友まで失ってしまった。
もう俺には何も残っていない。
「どうせ、高校で出会う奴らも3年間だけの短い付き合いだ」
どれだけ仲のいい親友でも些細なことで友情が崩壊する。
友達を作らないこと。親友なんてもっての他。
本性を隠し、理想のクラスメイトを演じること。
決して深い関係にならないこと。
これが今回の件で俺が学んだことだ。だが、ここまで読んでくれた諸君はわかっていると思うがが全然守れていない。
それはやはり松原花音、白鷺千聖という特別な存在に出会えたからだ。
それなのに・・・再び俺は出会ってしまった。
―あの稀代の悪女に
次回から進みます。引き続きよろしくお願いいたします!