仮面と海月と白鷺と   作:光の甘酒

18 / 47
前回までのあらすじ

芽音はかつて芽音を事実上地元から追放した張本人、清田美緒に再会する。中学時代の黒歴史をすべて知る清田美緒は花音にそのことを語り、芽音と花音を引き裂こうと画策する。しかし、芽音のことを心から信頼する花音はその言葉に耳を貸さず、逆に撃退。その姿を見た芽音は正体をのわからない好意を花音に対して抱いたのであった。





第12話 困惑、そして安堵、そして・・・

清田美緒襲撃事件から1日。俺は昨日のこと、俺が感じたこと、そして現状を相談すべく千聖を頼ることにした。

待ち合わせは13:30で現在時刻は13:10。約束の時間まであと20分ほど。早く着くに越したことはないし、もしかしたら千聖はもう来ているかもしれない。

そんな何の変哲もない、ただ親友と会うだけの日のはずだった。俺はこの後に起きることなんて全く想像していなかった。いや、できるはずもなかった。

 

 

 

 

「まだ来ていないか」

 

 

待ち合わせ場所である羽沢珈琲店に到着すると時間は15分前。千聖はまだ来ていないようだ。

そういえば午前は仕事が入っているといっていたから、今の時間で来ていないとなるとギリギリか少しくらい遅れる可能性はあるか。

まあ俺が相談したくて呼び出したわけだし、それくらいは全然かまわないのだけれど。

 

 

「あ、芽音さんいらっしゃいませ!」

「こんにちはつぐみちゃん。席いいかな?千聖と待ち合わせしてるんだ」

「はい!あちらの席にどうぞ!」

「ありがとう。注文は千聖が来てからするよ」

「かしこまりました!」

 

 

元気いっぱいの声に迎えられた俺は席に着く。

するとほどなくして店の扉が開く音と、それを出迎えるつぐみちゃんの声が響き渡る。

 

 

「あ、千聖さんいらっしゃいませ!芽音さん、来てますよ!!」

「ありがとう、つぐみちゃん」

 

 

千聖が入店し、こちらに気が付いたようで近づいてくる。

 

 

「芽音、ごめんなさい。待たせたわね」

「まだ時間前だし問題はないさ。仕事は順調か?」

「ええ、つつがなく」

 

 

さらに少し待つと千聖がやってきた。集合3分前。仕事から直行して間に合うとはさすが優等生だ。

 

 

「それで?今日は急にどうしたのかしら?」

 

 

千聖の質問から始まる会話。俺は昨日あったことを話した。

清田美緒の襲撃があったこと。花音に結果的に助けられたこと。また、中学時代の事件の詳細も話す。千聖といるときに清田美緒が襲撃してくるとも限らないし、なにより千聖には知っていて欲しかった。千聖も俺のかけがえのない親友だし、花音だけがしっているのは何か違うなと思ったからだ。結果的に花音は受け入れてくれたがすべての人がそうとは限らない。そんな不安は付きまとうが、意を決したわけだ。

 

 

「そう、話はわかったわ」

 

 

でも、なんだかんだ話すことに俺は特に抵抗はなかったようですんなり話せた。

”千聖なら大丈夫”

そんな謎めいた確信が俺の中にあったことに気が付いたのは話が終わってからだ。

 

 

「話を一つずつ整理するわね。まず一つ、その清田美緒さんがまた現れるかもしれない。これは了解したわ、私も警戒しておく。それとあなたが起こした事件だけど・・・」

「・・・・うん」

「ふふっ・・・そんな心配そうな顔をしなくても大丈夫よ。話を聞く限り、悪いのはその清田美緒さんだし、何より芽音はしっかり反省してるじゃない。むしろあなたがどうしてそうなったのかはっきりと原因が聞けて良かったわ」

「・・・・ああ」

「今度は急に安心した顔になったわね」

「そりゃそうだ・・・俺にとって最大の黒歴史だし、人によっちゃ受け入れてもらえない話だろうし」

「でも私には自分から話してくれた。大丈夫よ芽音。だからといって私はあなたから離れることはないし、話してくれたことは私への信頼の証と解釈することにするわ」

 

 

その言葉を聞いてどっと脱力する俺。大丈夫とは思っていてもやはり緊張するもので、その緊張は今ここに解消されたわけだ。

 

 

「目に見て力が抜てるわね」

「まあ・・・そうだなあ・・・うん、俺は今超安心しているところだ」

「こんな弱気な芽音初めてよ。それくらいあなたにとっては重要なことだったのね」

 

 

千聖は微笑みながらコーヒーを口にする。

さて、ひと段落ついたところで話題をもう一つの相談にシフト・・・むしろこれが本題といえることだ。

 

 

「それでだな、千聖・・・」

「わかってるわ。ねえ芽音。あなた、花音が好きなのかしら?」

「好きだよ。ただ正直恋愛的な意味か・・・って言われると・・・わからん・・・・」

 

 

そうなんだ。あのとき花音に抱いた感情。一晩かけてかみ砕いて、ひたすら考えたが答えは出なかった。

俺は確かに花音に好意を抱いている。だがそれは・・・・

 

 

「ここまで話したからかなりぶっちゃけるけどさ」

「なにかしら?」

「同じような感情を千聖にも抱いてんだよね」

「・・・・!?!?!?!?」

 

 

そう言い放った瞬間、千聖は顔を紅潮させ、目を見開いた。

 

 

「な、な、な、なにを言ってるのかしら!?」

「おおう、目に見えて動揺してるね」

「当たり前じゃない!急に変なこと言うから!!」

 

 

大きな声を上げる千聖につぐみちゃんがカウンターの奥から「何かあったんですか!?」いわんばかりの目で見てくる。

俺はアイコンタクトでなんでもないよと返すと「そうですか、よかった・・・」みたいな感じで奥に戻っていった。

 

 

「ごめんなさい、少し取り乱したわね」

「少し・・・まあうん、少しね」

「何か言いたいことがあるのかしら?」

「いえ、なんでも」

 

 

さすがにいじりすぎたようで千聖の目が怖い。うん、真面目にいこう真面目に

 

 

「まあそういうわけだからさ。恋愛とか・・・そういうわけじゃないと思うんだよね。もしそうだったら二人の女性に手を出すクソ野郎じゃん」

「・・・・それもそうね。うん、わかったわ。親友として、人として好きってことで解釈しておくわね」

「あ、その表現ナイス。一番しっくりくるかも」

 

 

なるほど、人として好き。うん、それだ。

 

 

「なんか胸のつっかえがとれた」

「それならばよかったわ」

 

 

その後俺俺たちは談笑しつぐみちゃんが新作の試食をしてくれないかと申し出てきたのでそれにあやかることにした。

ちなみにそんなことをしている間につぐみちゃんの友達もやってきたのであった。

聞けば新作を出すときはいつもその友達に食べてもらっているらしい。

 

 

 

 

羽沢珈琲店を出ると俺たちは商店街をぶらつくことにした。

この商店街は若い子が多く活気がある。肉屋の店先で元気に呼び込みをしている子をはじめ明るい雰囲気があるので居心地が良い。

 

 

「ありがとうございましたー!」

 

 

俺は明日の朝飯用に通りがかった女の子が店番をしていたパン屋でいくつかパンを買い、おやつにひとつつまんでみた。

 

 

「お、このチョココロネうんまい」

 

 

店員の女の子がオススメだというチョココロネを一口齧ると最高の触感を持つパンに濃厚で市販のものとは明らかに違うチョコクリームの絶妙なバランスに、思わず舌鼓打つ。

 

 

「千聖も食うか?」

「え?・・・むぐっ」

 

 

喰うか?と聞いておきながら口に突っ込む俺。

そういや以前も同じようなことをしたな。あんときは弁当だったけど。

 

 

「むぐむぐ・・・急に何を・・・・」

「いや、食べたそうな目をしてたから」

「芽音・・・あなたねえ・・・・」

 

 

さっきのことがあって嬉しくなっているのか明らかに調子に乗る俺。

あーまた怒られる・・・でも雰囲気も口調も本気で怒っているように思えないから何とも可愛いものだ。

 

 

「もう・・・」

 

 

そんな俺の雰囲気を感じ取ったのか千聖はしょうがないわけねえみたいな感じのジト目だ。

いやー楽しいなあー

やっぱこうでなくっちゃ。

 

 

キィィィィィィ!!!

 

 

「え・・・・?」

 

 

楽しい時間はあっという間に終わる。そんな言葉を耳にしたことはないだろうか。

しかしそれは楽しくて時間を忘れてしまうという意味であり、理不尽な理由により終わらせていいものではない。

 

 

「千聖!!!!!!!!!!!」

 

 

 

ドンッ!

 

 

 

突っ込んでくる鉄の塊。

そのフロントガラスの奥には老人が座って目を見開いている。

そしてそれはあろうことか俺たちの・・・千聖の方に突っ込んできたのだ。

 

 

 

ドガアアアア!

 

 

 

ソレはそのまま壁に突っ込む。

 

 

 

「ははっ・・・フラグは回避してやったり・・・だ!」

 

 

車を視認した瞬間、俺は咄嗟に体が動いた。

俺はとっさに千聖を抱きしめ、そのまま全力で足に力を込める。

めいっぱいの力で跳躍した俺は間一髪のところで車を回避し、そのまま跳躍先の壁にぶつかったのである。

 

 

「お約束通りどっちかが死ぬなんてあってたまるかよ・・・!千聖、大丈夫か!?」

「・・・・・・」

「おい千聖・・・?千聖!!」

 

 

死を回避したはずの俺たち、しかし俺の腕の中にいる千聖は・・・目を閉じてなんの反応も返してこなかったのである。

 

 

 

 

救急車で病院に運ばれる千聖。ここは弦巻総合病院。都内でもトップクラスの大規模を誇る総合病院だ。どうやらこのあたりの地元の名士がかなりの会社を経営しているらしく、この病院もその一つとのことだ。普通であれば病院一つ経営するのに精いっぱいなもんだがあくまで事業の一つだというのだからすごい話である。

 

 

「芽音くん・・・・!」

「よお花音」

 

 

廊下の椅子に座っていると花音がやって来た。

 

 

「千聖ちゃんは大丈夫なの!?」

「ああ・・・壁に当たっときに頭を打ち付けてしまったみたいでな。検査をしたが命に別状はないそうだ。疲労もたまってたみたいで目を覚ますのに数日かかるだろうとのことだが・・・今親御さんが病室で医者の話を聞いているところだ」

「よ、よかったぁぁぁぁ・・・・」

 

 

 

俺の報告を聞くと花音はその場にへたり込む。

どうやら安心して力が抜けたようだ。

 

 

「あとで一緒に行こうか」

「うん!」

 

 

そんな感じでしばらく話していると、病室から親御さんが出てきた。

 

 

「俗くんだったかな?」

「あ・・・どうも」

 

 

相手は千聖のお父さんだ。後ろではお母さんは頭を下げている。

しかし二人ともものすごい美男美女だ。年齢でいうと40代中盤くらいだがオーラが違う。

 

 

「娘が世話をかけたね」

「いえ・・・僕がもっとちゃんと避け切れていれば・・・」

「あの状況の中であれだけ動ければ大したものだよ。知らせを受けたときは血の気が引いたが・・・・君のようなしっかりした子が側にいてくれて不幸中の幸いだったね。ただ娘との交際を認めるかどうかは別の話だよ?」

「はは・・・そんな畏れ多い」

 

 

冗談っぽくいってくる。雰囲気は優しいものだ。

てっきり”お前がもっとちゃんと見ていれば!”とか”お前が千聖と遊ばなかれば!”とか”娘を傷つけやがって!!”みたいに責め立てられると思っていたが、冷静に状況判断ができる人のようだで安心した。

 

 

「そちらの方は?」

「あ、松原花音と申しますっ・・・!えっと千聖ちゃんの友達です!」

「そうか、来てくれてありがとうね。千聖も喜ぶよ」

 

 

その後色々なことを聞いた。

どうやら事故の原因は運転手の老人がアクセルとブレーキを踏み間違えての暴走らしい。

このあと老人の親族が謝罪に来るそうだ。ちなみに老人も大けがはしたものの命に別条はないらしい。いやあ死者が出なくて本当に良かった。

 

 

「それじゃあ僕たちは色々手続きもあるし、いったん行くよ。よかったら二人で改めて千聖に会いに行ってくれると嬉しい」

「わかりました。でも一応、改めて言わせてください。娘さんにケガをさせて申し訳ありませんでした!」

 

 

頭を下げる俺。するとそれに対して返答をしたのは千聖のお母さんだ。

 

 

「俗さん、頭を上げてください。私たちはあなたに感謝こそすれそ責めるつもりは毛頭ありません。これからも千聖と仲よくしてやってください」

「そういうことだ。まあ入院中千聖が退屈しないように構ってあげてよ」

 

 

そういって親御さんは去っていった。

 

 

「いい人だね、千聖ちゃんのお父さんとお母さん」

「ああ。千聖があんだけ優しい子になるもの納得だ」

「じゃあ千聖ちゃんに会いにいこっか?」

 

 

 

 

千聖が入院してから数日。

あれから千聖のマネージャーさんや事務所の人などが入れ代わり立ち代わりで訪れた。

俺であるが、空いた時間は基本見舞いに来ていたので、看護師さんからは”彼女さん早く目を覚ますといいわね”とまで言われてしまいなんだかなあといった具合だ。

ちなみに今日、花音はバイトがあるとのことで遅れて見舞いに来るらしい。先ほどもうそろそろつくと連絡があったのでもうすぐ来るだろう。俺は花音を待ちながら病室の椅子に座り、ぼんやり外を眺めていた。

 

 

「芽音くん」

「・・・よう」

 

 

数分もしないうちに花音が到着した。

 

 

「様子はどうかな・・・?」

「いつも通りだ。よく眠っている」

 

 

千聖は依然目を覚まさない。医者の話だとそろそろ目を覚ましてもいいころなのであるが・・・・

 

 

「なあ、今日もいい天気だぞ」

 

 

俺はちょっとしたおふざけでシリアスな雰囲気を出してみる。

そして眠る千聖の顔を確認しようとのぞき込む。

 

 

「・・・・・!!?」

「なにシリアスな雰囲気をだしてるのよ」

 

 

その目線の先には千聖が目を開けて俺の方を見ていた。

 

 

「千聖!?俺のことわかるか?自分のことわかるか?」

「そんな大きな声出さなくてもわかるわよ、芽音・・・ここは病院?」

「ああそうだ。花音もいるぞ」

「千聖ちゃん!」

「とりあえずナースコール!」

 

 

俺はナースコールを押し、千聖が目を覚ました旨を伝えると医者がすぐに来た。

その後、検査をするということで俺たちは外に出され、ちょうど見舞いに来ようとしていた千聖のお母さんも合流し、そちらに任せると俺たちは待合室で待ったのあった。

 

 

 

 

検査が一通り終わり、再び病室に入ることを許された俺たち。

時間はだいぶ遅くなったが千聖のお母さんが気を利かせてくれた形だ。

 

 

「うえええええん千聖ちゃあああん」

「よしよし、私はもう大丈夫よ」

 

 

緊張の糸が切れたのか泣きながら千聖に抱き着く花音。

命に別状はなくすぐに目を覚ます。そうわかってはいてもやはり実際に目を覚ますまでは不安だった気持ち、俺にもよくわかる。

花音が大泣きしているせいで逆に落ち着けているが、俺も結構ヤバかったりする。

 

 

「目が覚めて本当に良かったよ」

「心配をかけたわね」

 

 

俺は目を覚ました千聖がハキハキ喋っているのをみて安堵する。

 

 

「でもよかった。ずっと目を覚ますのを待ってたんだよ?」

 

 

少し落ち着いた花音も会話に加わる。

記憶とんだ様子も無く、会話もはっきりしているようだ。

 

 

「本当にごめんなさい。それにお医者様から聞いたわ」

「うん?」

「あなたが助けてくれたってことを。改めてありがとう」

「気にすんな。俺は俺のやれることをやっただけだ」

 

 

千聖は親御さんや医者からことの顛末を聞いたようで礼を言ってきた。

 

 

「まあ千聖を無傷で守ることができなかったし、一応謝らせてくれ。申し訳ない」

「頭を上げて!?あなたにそんな風にされると調子が狂うわ・・・」

「ふふっ・・・千聖ちゃんも芽音くんもいつも通りだね!」

 

 

花音が笑顔を見せることで場の空気は一気に和む。

俺たちはいつもの親友に戻り、しばらく病室で歓談に耽った。

 

 

「ふぅ・・・たくさん話したらなんだか疲れてしまったわ」

「数日眠ってたんだから無理もないさ。病み上がりだし今日はこの辺にしとくか」

「そうだね。千聖ちゃん、また明日来るね?」

「ありがとう、二人とも。あっ・・・」

 

 

俺と花音が帰り時支度をはじめ、席を立って所で千聖は何かを言いかけた。

 

 

「どうした?」

「えっと・・・ヘンなことを聞くのだけれど・・・」

 

 

 

 

「なあ花音。さっきのアレどう思う?」

「あー・・・帰り際のアレだよね?」

 

『えっと・・・ヘンなことを聞くのだけれど・・・前にもこんなことがなかったかしら?』

『前にもって、千聖が事故に遭ってこういうシチュエーションになったってことか?』

『そういうことになるわね』

『うーん・・・さすがにないと思うなあ・・・』

『確かに。頭を打って混乱しているのもあると思うし、一回ゆっくり休んだらどうだ?』

『・・・それもそうね。ごめんなさい、ヘンなこと言って』

 

 

帰り際に千聖が放ったあの言葉。

しかしながら俺も花音も全く身に覚えがないのでただただ困惑するだけだ。

 

 

「千聖も疲れているだろうし、ゆっくり回復を待つしかないな」

「そうだね。明日からもお見舞いいこうね?」

「ああ」

 

 

平和が戻った夕暮れの帰り道。いつもの親友といつもの帰り道を歩く。

しかし俺は安心感で油断していた。全く気付いていなかった。

 

 

「・・・・みつけた」

 

 

背後から狙う、悪意の正体に。




お試しであらすじ入れてみましたが全部に入れないと意味ないかなあ・・・
記憶の章、あと1~2回で終了予定です。なぜ記憶の章というタイトルなのか?解き明かしていきます。果たして皆様にウケるか否か不安ですが引き続きよろしくお願いいたします!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。