すべての過去を告白した芽音。そしてすべてを受け入れた花音と千聖。そして芽音の背後に迫る清田美緒の影。
俗芽音、松原花音、白鷺千聖が織りなす物語の真相がここに紐解かれる。
第1話 白鷺千聖
頭に強烈な衝撃を感じた直後、眩む視界。
「あーっはっはっはっはっは!!!!!」
うっすらと見える風景には、高笑いする清田美緒と病院着のまま顔を俯かせて落胆する千聖、そして何かを思い出したかのように目を開く花音の姿があった。
「いったい・・・なん・・・・で・・・・」
声がうまく出ない。それどころか視界はどんどん悪くなっていく頭の名がグニャグニャになる感覚が襲い掛かる。
つらい。きもちわるい。
「また・・・ダメだったのね・・・・」
「千聖ちゃ・・・はっ・・・!そっか・・・まだダメだったんだね・・・・」
「待っててね・・・また・・・頑張るから・・・」
「かのん・・・ちさと・・・・?」
俺の記憶はそこまでだ。
そしてただただ深い闇の中へ意識は消えていった。
※
これは私、白鷺千聖の物語。
いや、私と、花音と、そして芽音というのが正しいのだろうか。
「白鷺さん!」
入学してしばらくしたが私は仕事が忙しくなかなか学校に来られなかった。
その間の分のノートを花音に貸してもらう約束だったのだけれど、どうやら花音は風邪をひいてしまったらしく休みらしい。
クラスの友達にノートをお願いしてあるからって言ってたけど誰なんだろう?
そんなことを考えていたら、その人は突然私に話をかけてきた。
「あなたは・・・俗君、だったかしら?」
「うんうん、俗芽音ね。改めてよろしく!」
まさかの男の子。
清々しい笑顔、明るい言葉遣い。きれいすぎて反吐が出るほどにその声はさわやかに聞こえた。あくまで表情を崩さず、態度も崩さず普通に返答する私。
聞けば花音が見せてくれるはずだったノートをこの人がみせてくれるらしい。
その日、私は俗芽音という人間を注意してみるようにした。
その生活態度は非の打ち所がない。クラスメイトとは男女問わず打ち解け、まさにクラスの中心人物となりえるスペック。誰に対しても優しいまさに”理想のクラスメイト”を体現したような人物であった。あまりに完璧だった。
そう・・・一点を除いては。
※
「それで何を話せばいいのかな?」
「そうね。あなた、花音と仲がいいのよね?」
「うん、まあ世間一般的にいうとそうなるのかな?」
「そうなの・・・・じゃあ一ついいかしら」
「なにかな・・・はっ!?」
花音のお見舞いに行ったところでばったり俗くんと出会ってしまった。
これぞ好機、ととらえた私は俗くんに質問すべく、つぐみちゃんのお店へ連れて行ったのだ。
そこで話を切り出し、いままで隠していた雰囲気を一気に開放する。
それに俗くんはわかりやすいくらい反応し、私はある確信をして言い放った。
「もう花音には近寄らないでくれるかしら?」
「な、なんで君にそんなこといわれなきゃいけないのかな・・・?」
「私が花音の親友だからよ。親友のことは私が守る。ただそれだけのことね」
「意味が分からないよ!それがなんで俺が近づかないのが解決になるのさ!?」
この人の本性は底知れない。
今日一日観察し私はそう確信した。仮面を被り、上っ面だけ完璧でその仮面の裏にはドス黒いオーラを隠している。それがさっき思ったただ一つの欠点。
何を隠そう私自身、感情を制御しながら生き、相手によって顔を変える役者である。それと全く同じことをしている男の子が親友に・・・花音に近づいているのだから放っておけるわけがなかった。
「私は役者よ?あなたが仮面を被ってるなんてお見通し。そんな状態で花音に近づいて・・・何をたくらんでいるの?」
本題。私は思っていたことを一気に言う。
「それにあなた、人の雰囲気を察するのが得意よね?」
「・・・・そこまでわかってるのか」
「ええ。だからこそあなたの前では考えていることを漏らさないようにしてた。そして必要な時だけ出してたのよ」
いうなれば”ウソだろ・・・?”と言いたげな表情。
上手く隠していたつもりがあっさりバレ、詰問され何らかの目的で狙っていた花音に近づくなといわれたらこうなるのもわかる。
私は追い打ちをかけるべくさらに続けた。
「とにかく!得体のしれない男の人を親友に近づけるわけにはいかないわ。話は終わりよ。ここは私が会計しておくから・・・それじゃ」
「オイ待てよ!そんな一方的に・・・・!」
私は伝票を確認し、おつりはいらないわとつぐみちゃんにお金を渡すと早足で店を出た。まあ、おつりがいらないなんていわれたらお店は困っちゃうだろうから、あとでつぐみちゃんにはフォローを入れなければならないわね。
「・・・・!?むぐぅ!?」
店を出て少し歩いた刹那、私は急に口を塞がれ裏路地の方へ引きずられてしまった。
「むぅー!むぅー!」
「あ、ごめんね千聖。苦しかったよね?今放してあげるけど・・・大声出したり、逃げたらわかるよね?」
突然訪れた危機。恐怖でどうにかなりそうだった。
でもここで動けなくなってしまっては相手の思うツボ。心を強く持ち、相手が私を放すと私は逃げようとする・・・しかしすぐにつかまってしまった。
「い、いやっ!離してください!」
「コラコラ、子役の頃から応援しているファンになんて言い草だ。俺が育ててやったようなもんだろ?千聖」
そんなことを言いながら顔を近づけてくる相手。
汗をかき、体温が上がっているせいか嫌な熱気を感じ、不快な臭いと恐怖が私を襲った。
「せっかくプレゼントも持ってきたし、育ての親同然のオレにサービスしてくれてもいいんじゃない?」
「プレゼントは事務所を通してください!それにあなたなんて知りません!」
「パパに向かってなんて言い草だ!お仕置きだぞっ!」
ダメ・・・話が通じない・・・
私はどうなってしまうの・・・?
強く気を持とうとこわばっていた心がどんどん緩んでいき、不安と恐怖が徐々に侵食するのを私は感じていた。
「それにさっき男と一緒にいたよねえ?誰なんだ!あんなやつ許さないぞ!」
「あ、あの人は・・・・」
どうやらつぐみちゃんのお店にいるときから監視されたいたらしい。
ダメ。もうダメかも。怖い。動けない。どうすればいいの・・・・?
「それって俺のことですか?」
「え・・・?俗君・・・?」
「俺、参上!」
そんなことを言いながら現れたのは俗くんだった。
シリアスな雰囲気をものともせず、思わず昔の特撮ヒーローのようなポーズをとる俗くんを私は汚物を見るような目で見てしまった。でもそれが逆に良かった。彼がお道化てくれた賭けでそのおかげでこんな状況下でも心が恐怖に完全に支配されることはなかったのだ。
「オイコラそこのデブ。俺の知り合いになーにやってくれちゃってんの?気色ワリィ顔を近づけんなよ、白鷺さんの顔が腐っちまうだろ?女の子の顔に傷つけて責任とれんの?」
ポーズを解除した途端、俗くんの口からあふれ出る罵詈雑言。
そこには普段感じていた仮面も完璧な雰囲気も・・・跡形もなく消し去っていた。
「なんだ貴様・・・人が気にしてる体系のことまでそんなストレートに・・・それに、そんなひどいことをいうなんて・・・」
「気にしてんなら改善の一つでもしようをしないのか?それにひどいもクソも事実をそのまま言ってるだけだが?デブだし服のセンスは絶望的だし顔も脂ぎってきたねえし何よりそのしたり顔が最高に気持ち悪い。その姿で歩いてて恥ずかしくねえの?あ、もしかしてうんこの生まれ変わりかな?だったら便器に流れてろよクソ野郎」
びっくりするくらいの罵詈雑言を繰り返す俗くんに、相手は体をプルプル震わせながらうつむきだした。
「そこまでいわなくていいじゃないかあああああ~~~~~~~」
「うぉ!?泣き出した!?」
「・・・ろす」
「ん???なんだって?」
「殺すぅぅぅぅぅ!殺してやるぅぅぅぅ!」チキチキチキ
私を突き飛ばし、殺意を放ちながらカッターナイフを取り出し俗くんへと襲い掛かる。
その光景に戦慄したのも一瞬、俗くんは落ちていた棒で応戦し、あっという間に制圧してしまった。
「うおおおおおおおお・・・・・」
「自分の欲望を満たすためだけに自分勝手やらかす奴に救いはねえよ。豚箱に入ってろ」
その日、私は俗芽音という人間のことを理解し、友達となった。
その時、私は彼に普通ではない特別な感情を抱いたのだった。
ただ、それは恋愛的にとは断言できない。
正直、あんな危ないところを助けてもらって吊り橋効果的なものがあるとも思うからだ。
※
ある休日、花音と芽音と一緒に出掛け、お揃いのブレスレッドを買った。
花音は顔に出して喜んでいたが私はプライドからか顔には喜びを出さないでいた。これは金額で見たら大したでないけど私の大事な宝物。
そういえば朝の仕事で学校を遅刻した時、芽音も遅刻したようで校門でばったりで出会った。
その後、風紀委員会室にも一緒に行った。
「その節はお世話になりました」
「いやいや、あの後妹さんとはちゃんと合流できた?」
「ええ、おかげさまで。しかしあなたが花咲川の生徒だったとは・・・」
「こちらも驚きだよ」
「氷川紗夜。1年生です」
「俗 芽音。よろしくね」
どうやら風紀委員の氷川さんとは知り合いだったようで二人で話し始める。どうやらこの前ショッピングモールへ行ったときに関わったようだ。
「・・・そろそろ話に入っていいかしら?」
「あ、白鷺さん!申し訳ありません、私としたことが」
「氷川さんはいいのよ。ねえ、芽音?」
あら、思わずイライラした感じを出してしまったわ。
芽音もそれを感じ取ったようでビクついているのがわかる。
別に芽音が誰と話そうが勝手なはずなのになんでこんなことをやってしまったのかしら?
「芽音、説明なさい」
話を聞いて私の気もおさまってきた。
いや、最初から気なんて立ってない・・・立ってないはず。
※
「私の彼氏になってくれないかしら?」
この言葉から始まった私と芽音の仮想恋人。
私は役になり切りたいというもっともな理由で申し出たわけであるが、嘘ではない。でも本当の目的は私のこのよくわからない気持ちの答えを探すためであった。
「悪い千聖、待たせちゃった」
「ううん、いいの!あたしも今来たところだから!こうやってキミを待つ時間もすっごくドキドキして楽しかったからだいじょーぶ!!」
「ファッ!?」
正直、顔から火が出るほど恥ずかしい。役柄を掴むという目的もある以上、それも完遂しなければならない。
故に行った役へのなりきり。仮想デート中はこれで過ごすつもりだ。でももう一度言おう。顔から火が出るほど恥ずかしい。案の定、私はすぐに陥落した。
「んでちーちゃん、最初はどこに行くんだ?」
「もうやめてええええええええ!」
陥落したのを察したのか、芽音はここぞとばかりにからかってくるのに悶えながら、私たちは映画館へと入場していった。
※
映画が始まる。
今日見るのは前から観たかった話題作の恋愛映画だ。それに私が尊敬する役者の一人も出ている。
出来はかなり上々。コメディから始まり駆け引き、緊張感、そして壮大なハッピーエンド。すべて調和し、役者の演技がそれをさらに磨く。
夢中で映画にのめりこみ気が付けばスタッフロールまであっという間だった。
「いい映画だったわ」
「ああ、確かにかなり当たりだったもしれない。観る前は所詮恋愛映画とナメてかかっていたが、なかなかなどうして出来がいいじゃないか。しかし・・・」
芽音が感想を言うのであるが、ここで困惑したような雰囲気が伝わってきた。
「それで千聖、これも台本通りなのか?」
「なんのことかしら?」
特に特別な挙動はしていないはず。一体芽音は何のことを言っているのだろう?
「ん?手、あなたの手、Your hand.」
「なんで急に英語に・・・・あっ////」
そういえばさっきから何か違和感があったのだ。それを指摘され、初めて自覚した。どうやら映画に夢中になり、演出に感化され知らない間に芽音の手を握ってしまっていたのだろう。
「忘れてたのか・・・・」
「・・・なんてね、ここまで台本通りよ」
一瞬不意を突かれて熱が上がったが瞬時に平静さを保ち、クールダウンすることに成功した。
「全然わかんなかった。さすがだな」
「でなきゃここに来た意味がないわ。・・・・よかった、バレてないみたいね・・・」
「ん?」
「なんでもないわ。出ましょう」
「ああ」
そうやって涼しげに言う私。でもその心臓はさっきの失態を思い出して破裂しそうであった。
一体なんでここまでうるさいの・・・?
その謎はまだ解けそうになかった。
※
「ここまで話したからかなりぶっちゃけるけどさ」
「なにかしら?」
「同じような感情を千聖にも抱いてんだよね」
「・・・・!?!?!?!?」
ある日のこと。芽音から相談したいことがあるといわれてきた仕事終わりの羽沢珈琲店。そこで言われた一言は不意打ちで、体の温度の上昇を抑えることができなかった。
「な、な、な、なにを言ってるのかしら!?」
「おおう、目に見えて動揺してるね」
「当たり前じゃない!急に変なこと言うから!!」
芽音の過去を聞いた。そして今後気を付けるべきことを。そこで芽音が言ったのだ。芽音は花音が好きで(恋愛的な意味かはわからないけど)、その感情は私にも向けられているのだと。
「まあそういうわけだからさ。恋愛とか・・・そういうわけじゃないと思うんだよね。もしそうだったら二人の女性に手を出すクソ野郎じゃん」
「・・・・それもそうね。うん、わかったわ。親友として、人として好きってことで解釈しておくわね」
「あ、その表現ナイス。一番しっくりくるかも」
芽音は一人で納得しているようだったので援護射撃を出しておいた。
うん、これで正しいはず。正しいはずなんだ。なんでさっき動揺したのか?その答えを考えることを放棄した私は芽音が出した私にとっても都合のいい回答に便乗した。
※
「千聖も食うか?」
「え?・・・むぐっ」
羽沢珈琲店の帰り、芽音にチョココロネを口に押し込まれた。
「むぐむぐ・・・急に何を・・・・」
「いや、食べたそうな目をしてたから」
「芽音・・・あなたねえ・・・・」
別にそんな目はしてないわよ!
まあでも、芽音が浮かれる気持ちもわかる。今日くらいは大目に見てあげましょう。
・・・別に私も嬉しいとかないはず。
私は芽音にジト目を向けつつもしょうがないわねえと思っていた。
キィィィィィィ!!!
「え・・・・?」
「千聖!!!!!!!!!!!」
ドンッ!
刹那、私は意識を手放した。次に眼が覚めたのは病院のベッドだ。
どうやら私は事故に遭ったらしい。でも命に別状はなく、仕事の疲れもたまってたか数日間眠っていたらしい。
「ふぅ・・・たくさん話したらなんだか疲れてしまったわ」
「数日眠ってたんだから無理もないさ。病み上がりだし今日はこの辺にしとくか」
「そうだね。千聖ちゃん、また明日来るね?」
検査も終わり、二人と話していたがさすがに少し疲れてしまった。
それを察してか二人もそろそろ切り上げるとのことだ。
「ありがとう、二人とも。あっ・・・」
・・・・?なんだろう?私は何を言おうとしているの?
「どうした?」
「えっと・・・ヘンなことを聞くのだけれど・・・」
なぜこんなことを聞いてしまうのかわからない。でも聞かなきゃダメな気がした。
「えっと・・・ヘンなことを聞くのだけれど・・・前にもこんなことがなかったかしら?」
※
なんであんなことを聞いたんだろう?
私が以前もこんな状況に置かれたことなんてない。あるはずないのだ。
あるはずないのに・・・・
「・・・・ッ!?」
そう、考えていた。
「・・・・芽音」
私は思い出す。そして走り出す。繋がれているチューブを引きちぎり、病院着のまま裸足のまま。こんなものただのまやかしだ。痛くもかゆくもない。
だって、私がどうしてここにいて、何のためにここにいるのかわかったから。
「芽音・・・芽音・・・間に合って・・・!」
必死で駆ける。これで正しいはず。正しいはずなんだ。
そう、思ったのに。
「あーっはっはっはっはっは!!!!!」
高らかに響く笑い声。そして頭から血を流し地面に伏せる芽音。
やっとの思いで到着した私の目に映るのはそんな惨状であった。
「また・・・ダメだったのね・・・・」
「千聖ちゃ・・・はっ・・・!そっか・・・まだダメだったんだね・・・・」
私はすべて思い出した。
どうやら花音も思い出したようだ。私たちが何でここにいて、何をすべきなのか。
「待っててね・・・また・・・頑張るから・・・」
私はそう呟く。そしてうっすらと目を開けた芽音は私たちに反応する。
「かのん・・・ちさと・・・・?」
そう言った瞬間、芽音の意識と共に私の視界はブラックアウトし、そして・・・
現実へと引き戻されるのであった。
※
「芽音!!!!!!」
「芽音くん!!!!!」
私たちは飛び起きる。
「はぁはぁ・・・・はぁ・・・また・・・・」
「また・・・ダメだった・・・んだね」
これで何度目だろうか。何回芽音を辛い目に遭わせているんだろうか。
汗だくになって目を覚ます私たち。そして機械に繋がれ意識を取り戻さない芽音。何も変わらない。
何も変わらず、ただただ室内に響く機械音とともに、私たちの頭には芽音が倒れる瞬間がただただひたすらフラッシュバックしていたのであった。
でも―
「何度だって、何度でも・・・絶対助けるから」
私は何度目かわからない決意をする。
だって私は―
芽音のことが好きだから。
めっちゃくちゃ間が空いてしまいました。
仕事やら国家試験やらでめちゃくちゃ忙しいうえに難産でした。
結末決まってるんですが文章化が遅い遅い・・・
ここから視点が変わります。芽音が見てきた未来予知ともいえる夢の理由、芽音はどうなっているのか、千聖や花音は何をしているのか?あと2~3話でまとめる予定です。
引き続きよろしくお願いいたします。