仮面と海月と白鷺と   作:光の甘酒

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前回までのあらすじ
新たな居場所を見つけた二人。松原花音はハロー、ハッピーワールド!、白鷺千聖はPastel*Palettes。
松原花音は弦巻こころに振り回されながら、白鷺千聖は丸山彩に芽音を感じながら、芽音の目覚めを待つのであった。


第4話 夢

 

 

「あら?花音に千聖じゃない!!ハロー!!」

「あれ、こころちゃん?」

「こんにちは、こころちゃん」

 

 

芽音のお見舞いにいくために病院に行ったら、そこにはこころちゃんがいた。

花音とバンドを組んだと聞いたけど見れば見るほど正反対な二人だ。

 

 

「どうしてこころちゃんがここに?」

「ここ、お父様が経営している病院なのね!それでたまにきて入院中の人たちに笑顔を届けに来ているのよ!!」

 

 

そうか、ここは弦巻総合病院。要約するとボランティアでお父様が経営する病院に来ているということらしい。

 

 

「花音と千聖はどうしているのかしら?」

「えっと、友達が入院しててね・・・」

「どうしたのかしら二人とも?怖い夢をみた時みたいな顔をしてるわよ?」

 

 

そう聞かれて私たちは少し状況を話した。

 

 

「ふむふむーなるほどそういうことだったのね!花音と千聖が笑顔じゃないのはダメね!!あたしがちょっと聞いてきてあげるわ!」

「え?こころちゃん!?」

 

 

そういうとこころちゃんはどこかへ行ってしまった。

 

 

「いっちゃったね・・・?」

「え、ええ」

 

 

とりあえずどうしたらいいかわからないので私たちはすぐそこの芽音くんの病室へ向かう。病室につくとちょうど、芽音くんの入院を受けて地元から来ている芽音くんのお母さんがいて、軽く挨拶をした。

 

 

「こんにちは、松原さん、白鷺さん。いつもありがとう」

「いえいえ、大事な友達ですから」

「そうです、芽音くん、早く目を覚ますといいですね」

「千聖!花音!ここにいたのね!」

「こころちゃん、病院だから声を小さく・・・ね?」

 

 

挨拶で少し落ち着いたのも束の間。怒涛の勢いで現れたのはこころちゃんだ。

後ろには息を切らした病院の先生がいた。

 

 

「ぜえ・・・ぜえ・・・お嬢様・・・病院内は・・・ゼエ・・・お静かに・・・」

「さあ説明してあげて頂戴!」

「わかりましたから少し休憩をですね・・・・」

「それで、先生どうかしかのですか?」

 

 

冷静にツッコミを入れたのはお母さんだ。

 

 

「実はちょうどお母様に報告することがありましてね。芽音さんの病状についてです。検査の結果新しいことがわかりまして」

「新しいこと?」

「ええ。あ、ご家族以外の方がいますがご説明しても?」

「構いません」

「わかりました。芽音さんは、頭に強い衝撃を受けていますね。命にかかわる部分は手術で治りましたが、殴られた後遺症で記憶に障害が起きてるようなんです」

 

 

 

 

私たちは静かにお医者様の話を聞く。

 

 

「その記憶障害のせいで脳が正しい選択をできなくなってしまっています。不謹慎なたとえかもしれませんが、機械がバグをおこし”目を覚ます”というコマンドを選択できない状態といいましょうか」

 

「治す方法はあるんでしょうか・・・?」

 

「・・・ありませんでした。少なくとも、今日この時点では選択肢が、という意味ですが」

 

「どういうことでしょうか?」

 

「実はですね、試験的に運用している医療機器があります。記憶喪失の患者さんや芽音さんのような記憶障害を起こしてしまった患者さんの記憶を再生する機器といいましょうか」

 

「そんなことができるんですか!?」

 

「VRMMOというのを聞いたことはありませんか?フルダイブシステムともいいます。仮想空間にダイブし、まるで現実世界のように振る舞えるシステムです。現実的にはまだまだ実用的はないのですが、一昔前にそれを題材にしたアニメーションが流行りました。そう言ったものと思っていただいて結構です」

 

 

お医者はさらに続ける。

 

 

「この機械はですね、患者さんの記憶を読み取り、その情報を基に患者さんの記憶を再現した仮想空間を作り出します。そうやって作り出した仮想空間を患者さんに夢のような形で見せて、復元した記憶として脳に定着させるのです」

 

「でも、実用的ではないということはまだまだ運用できる段階ではないということなんですか?」

 

「いい質問です。厳密にいえば、条件が厳しすぎるのが今の課題なんです。まず、仮想空間を作り出すだけでは記憶として定着しません。ストリーミングの動画再生の状態といえばわかりやすいでしょうか。映像は流れるけどダウンロードしていないからデータとしては残っていない状態ともいえます。そのままではただの夢であると脳が認識してしまうので、定着させるにはきっかけが必要です」

 

「きっかけ?」

 

「本人に、仮想空間で”これは自分の記憶だ、夢ではない”と認知させることです。それがいわゆるダウンロードの状態です」

 

「・・・どうやってやるのですか?」

 

「これが二つ目の課題です。誰かが仮想空間に潜り込んで、そのことを教えてあげなければいけません」

 

「誰かが?」

 

「ええ。それも直近の記憶で深くかかわった人が必要です。それに潜り込む人にも条件が課されます」

 

「条件とはなんでしょう?」

 

「仮想空間に入ったら今お話した内容は断片的にしか保持されません。おそらく入った人本人も患者さんの記憶通りの行動を強いられます。つまり仮想空間に入ったあとは記憶通りの行動に抗いながら、自力で役割を思い出し、患者さんにこれは夢ではなくあなたの記憶だ、教えてあげる必要があります。そして仮想空間が維持されるのは記憶を失う寸前まで。芽音さんの場合はやられるまでがタイムリミットです。仮想空間で芽音さんがやられれば仮想空間は再生をストップし、入っていた人は現実世界に強制送還されます。」

 

 

確かに条件が厳しい。まだ実用段階ではない医療機器でしかも現実世界の話ではない。そんななか数多の課題をこなすのは困難を極めるだろう。

 

 

「それともう2つ。仮想空間に入った人は、ダイブ中は記憶が保持されませんが目を覚ました後は仮想空間で起きたことの記憶は保持されます。つまり、失敗したら失敗しただけ芽音さんが酷い目に遭うシーンを見続けるということです。それはかなり精神的に辛いでしょう。もっとも何回もやることによって断片的な記憶が補完され思い出す率は高くなります。加えて、費用の話です。先進医療扱いなので治療費が全額負担の高額治療になります」

 

 

まとめるとこうだ

 

①芽音の記憶を基に仮想空間を生成し、夢として見せる

②さらに第三者が仮想空間に入り込み、芽音にそのことを教える必要がある

③第三者は基本芽音の記憶通りの行動を強いられる

④入った第三者も記憶が断片的にしか保持できないので自力で役割を思い出さなければならない。失敗すればするほど記憶保持の率が上がる。

⑤タイムリミットは芽音がやられるまでで、失敗すればしただけ芽音が殴られるシーンをみることになる

⑥費用が高額

 

 

「すごく難しい話ですが・・・とにかく難易度が高くて現実的じゃないってことですよねえ・・・費用もそんなにかかるとなるとどうにも・・・」

 

 

お母様は心底残念そうな顔で、声を絞るように言った。難易度に関してはやってみる価値はあると思うが、現実問題費用面がかなりネックだ。

こうなると確かに現実問題難しいだろう。私も、花音も顔を俯かせる。

 

 

「あら?諦めるのかしら?」

 

 

そんな空気を壊したのはこころちゃんだった。

 

 

「少しでも治る可能性があるのよね?だったらやらない手はないわ!」

「でも条件が・・・」

「んー・・・少し待っていてくれるかしら?」

 

 

そういうとこころちゃんは病室の外に出ていった。

・・・かと思ったらすぐに戻ってきた。

 

 

「費用のことは心配しなくていいわ!」

「えっ!?お嬢様それはどういう・・・」

 

 

ピンポンパンポーン・・・

 

 

刹那、アナウンスがなりお医者に電話が入っていると呼び出しがあった。

少々お待ちを、といって病室を出ていった先生であるが、しばらくすると戻ってきた。

 

 

「・・・費用面は問題ありません。スポンサーが付きました」

「え!?」

 

 

こころを除く全員が驚いた声を上げる。

 

 

「いや、その。医院長よりデータ収集実験扱いでやれという指示がきまして」

「うーん!これで安心ね!あとは花音、千聖、あなたたちがやるかどうかだけだわ!!」

「「え!?私達!?」」

「そうよ?だってこの人とずっと仲良しだったのよね?あなたたち以上の適任なんていないと思うわよ?うーん、でもちょっとツライこともあるみたいだから無理強いはするなってお父様にはいわれてるけれど・・・どうかしら!?」

 

 

・・・・確かにそうだ。出会ってからこんにちに至るまで、ほぼ一緒に過ごしたいっても過言ではない。私も、花音も。

さっきまでの話をまとめると、こころちゃんが言う通り私たち以上の適任はいないのかもしれない。

 

 

「・・・私はやるよ、千聖ちゃん」

「花音・・・?」

「少しでも可能性があるのなら、私でも芽音くんの力になれるならなんだってやる。それに千聖ちゃんもやる気なんでしょ?」

「・・・花音には敵わないわね」

 

 

花音はすでに心を決めた私を見抜いていたようだ。

そうして、私たちは決意する。

 

 

「その役割、謹んでお受けいたします」

 

 

その後、芽音のお母様にお礼を言われて、自分たちの親にも説明して許可を得た。

 

 

「じゃあ花音、芽音を迎えに行きましょうか」

「うん!」

 

 

機械に横たわり私たちは言葉をかけあう。

 

 

「それでは生成した仮想空間にダイブしていただきます。目を閉じて力を抜いてください」

 

 

そうして、私たちの長い戦いが始まった。

 




佳境に入ってきました。

賛否がありそうですが、ちょっと複雑化してきましたの整理をば。

実は初期からこの構想はあり、この流れがやりたくてずっと書いていました。

つまるところ序章~記憶の章の内容はすべて、花音と千聖がダイブした芽音の記憶を基に作られた仮想空間での出来事でした。「記憶の章」とはそういう意味です。

とはいっても仮想空間が形成させるにもとになった記憶でもありますので、現実に起こったことでもあります。

つまり花音と千聖は序章~記憶の章の出来事を何度も何度もループし、徐々に断片的な記憶を埋めていき、思い出す確率を上げていっています。

芽音が清田美緒に襲われた時に花音や千聖が何かを何かを思い出したように「またダメだった」と悔いたのは、失敗した瞬間に自分たちの役割や今までの失敗を思い出し、記憶の定着に失敗し芽音を襲わせてしまった後悔を表しています。

次回からさらに進む予定ですので、引き続きよろしくお願いいたします。

※記憶に関することや医療機器、仮想空間などはすべてフィクションです。現実のものと一切関係ありません。筆者に専門的な医療知識はございません。

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