仮面と海月と白鷺と   作:光の甘酒

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前回までのあらずし
凶行に伏した芽音を救うため、花音と千聖は立ち上がる。
生成された仮想空間により何度も何度もリトライするふたり。何回目かのループを終えた二人は疲れを感じながらも再び仮想空間にダイブするのであった。


第5話 海月の奮起

「千聖ちゃん・・・大丈夫・・・?」

「ええ・・・花音こそ大丈夫かしら?」

 

 

もうこれで何回目だろう?仮想空間に入っては1年生の最初からやり直し、芽音くんや千聖ちゃんのであって、そして芽音くんが酷い目に遭うシーンを見て目を覚ます。

何度も何度もあの光景を見ている。

 

 

「松原さん、白鷺さん、大丈夫ですか?」

「は、はい・・・」

「まだいけます」

 

 

そんな風に強がって見せるが正直結構しんどい。

千聖ちゃんの顔を見ても同じく辛そうだ。

 

 

「どれくらい時間が経ったのですか?」

「そうですね、始めてから4時間といったところでしょうか?」

 

 

聞くところによると、仮想空間は時間の流れがかなり速いらしい。

今の時点、回数で言うとすでに10回ほど失敗をしているらしい。

たった4時間で10回分の高校2学期分を過ごした計算だ。そう考えると恐ろしい、脳が疲れているのをものすごく実感する。

 

 

「でも、芽音くんのため・・・!」

「そうね」

 

 

さあ、11回目のダイブだ。そう思っていたのだけれど・・・

 

 

「今日はこの辺で終わりましょう。医者としてそんな疲れた顔をしている方に無理強いはできません」

「・・・でも!」

「・・・そうですね。初日なのに飛ばしすぎたのかもしれません」

 

 

私はまだいけるよ!・・・って言おうとしたけど疲れがあるのも本当だった。

特に千聖ちゃんは仕事柄自分の体力の限界やペースの維持のコントロールに長けている。なにより私一人では仮想空間に行っても意味がない。ここは素直に千聖ちゃんに合わせたほうが良いかもしれない。

 

 

「そうだね、やっぱり今日は終わりにしよっか」

 

 

そのまま本日は解散となった。千聖ちゃんと駅で別れた後、帰宅した私は何も考えず、思考を放棄してベッドに倒れこんでそのまま朝まで目を覚まさなかった。

よかった、次の日が日曜日で。

 

 

 

 

「花音さん疲れた顔してますけど大丈夫ですか?」

「あ、美咲ちゃん」

 

 

今日病院に行くのはお昼から。それまでリフレッシュしておこうかなとつぐみちゃんのお店に向かう途中で美咲ちゃんに会った。

 

 

「ちょっと色々あってね」

「あ~・・・余計なお世話かもしれないですけど私でよかったらお話し聞きましょうか?」

 

 

お言葉に甘えた。誰かに聞いてほしかったのかもしれない。

私と美咲ちゃんはそのまま羽沢珈琲店に向かい、今のことをお話しすることにした。

 

 

「いらっしゃいませー!あ、花音先輩、美咲ちゃん!」

 

 

お店に入るとつぐみちゃんが元気にお迎えしてくれる。

そのまま席に案内され、腰を下ろして一息つく。

 

 

「あら?」

「あれ?紗夜ちゃん?」

「松原さん、奥沢さん、こんにちは」

 

 

そこには紗夜ちゃんもいた。どうやら一人らしい。

 

 

「今日はハロハピの練習はないのですか?」

「今日はオフです」

「うん、こころちゃんがお家の用事ではぐみちゃんがお店の手伝い、薫さんは劇の本番が近いとかで別の練習なんだよ」

「なるほど」

「ま、私と花音さんが会ったのは偶然なんですけどね」

「Roseliaもおやすみ?」

「ええ。今日は湊さんと今井さんがお隣同士二家族そろってお出かけだそうで。今日は自主練です。私は昼から個人練習の予定ですが軽く食事をと思いまして」

 

 

紗夜ちゃんは相変わらず真面目だ。

 

 

「おまたせしました~」

 

 

そのタイミングつぐみちゃんが注文の品を持ってきた。

 

 

「ごゆっくり~」

 

 

うん、やっぱり羽沢珈琲店のコーヒーは絶品だ。

素人の私でも香り、味の違いが判るほどだ。

 

 

「で、どうしたんですか?花音さん」

「あ、それはね・・・」

 

 

一息ついたところで美咲ちゃんが話を切り出した。

 

 

「私は訊かないほうが良い話ですか?」

 

 

そして横で聞いていた紗夜ちゃんが気を利かせてくれた。

 

 

「ううん、紗夜ちゃんも芽音くんと仲良しだしいいと思う」

「俗さんですか?彼が休学しているのに関係あることなのでしょうか。それに仲良しというほどでは・・・」

「でも紗夜ちゃんって他の男の子と話すときより芽音くんに優しいよね。あ、今からはなすことは他言しちゃダメだからね?」

「え、そんな重たい話なんですか花音さん」

「どうだろ・・・聞きようによってはかな・・・?」

 

 

私は今の悩みを紗夜ちゃん、美咲ちゃん、そして他にお客さんがいないのでつぐみちゃんまで加わって話した。

 

 

「まさか俗さんが・・・」

「芽音さん・・・最近来ないと思ったらそんなことになってたなんて・・・」

「うわーコメントしづらいなあこれ・・・」

 

 

店内が若干お通夜モードになる。

 

 

「あ、でも続ければいつかは・・・!今日もいくしね」

「・・・しかし松原さん。今それは何度目なんですか?」

「うーんと。ちょうど10回かな」

「「「10回!?!?!?」」」

 

 

一同が裏声で驚く。うん、まあ気持ちはわかるよ。

 

 

「なんというか花音さん・・・すごいですね」

「驚いたわ・・・」

「花音先輩・・・すごいです」

 

 

みんなが感嘆の声を上げる。

 

 

「しかしなぜ俗さんのためとはいえそこまで?松原さんの負担も相当なものでしょう?」

「え!?」

「え!?」

 

 

紗夜ちゃんが疑問を口にすると、つぐみちゃんと美咲ちゃんはさらに驚く声を発する。

 

 

「あの~紗夜先輩。今の花音さんの話なと話し方とか聞いていたらアレだと思うんですけど」

「う、うん。アレだと思う」

「・・・・?」

「あの、花音さん。間違ってたらごめんなさい。その、俗さんって人のこと、花音さんアレなんですよね。なんというか特別なんですよね」

 

 

美咲ちゃんの言ったことを消化する。

とくべつ・・・・あっ///

 

 

「ふぇぇぇぇ」

「花音先輩大丈夫です!私はそんな花音先輩のこと応援します!!!」

「ふぇぇぇぇぇ/////」

「・・・・?」

「紗夜先輩(さん)まだわからないんですか!?」

「申し訳ありません、なぜ松原さんはそんなに顔を真っ赤にしているのでしょうか?」

「好きってことですよ!その人のこと!!」

 

 

美咲ちゃんの一言で訪れる沈黙。美咲ちゃんは”あ、しまった。ハッキリ言っちゃった”という顔をしている

もうやだぁ・・・・死んじゃいそう・・・・

 

 

「・・・・なるほど」

 

 

そして納得のいくような顔をした一人だけ冷静な顔をした紗夜ちゃん。

 

 

「それはあれですか?LikeではなくLove的な意味で?」

「・・・・うん」

「なるほど、松原さんは俗さんが好きなのですね」

「冷静に分析しないでぇぇぇぇぇぇぇぇ・・・・」

 

 

しばらく顔を上げることができなかった。

 

 

「でもまあ・・・花音さんがそこまで本気になってるなら応援しますよ。今日みたいに話聞くとか気分転換に付き合うくらいしかできないですけど」

「そうですね。私も俗さんのことは心配です。力になれることがあればなんでも言ってください」

「またいつでもお店に来てください!疲れがとれるメニュー考えておきますね!」

 

 

みんな、ありがとう。私は元気をもらい、お店を出た後芽音くんの待つ病院に向かったのだった。

 




いやーいろんなバンドリキャラを出せるのは楽しいですね。
次回は千聖編です。
あと、たくさんの評価とお気に入りありがとうございます。
気が付けば560件と自分でもびっくりしています。感想などもぜひ。
引き続きよろしくお願いいたします。

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