仮面と海月と白鷺と   作:光の甘酒

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第7話 これがハッピーエンドというものだよ

俺は今日、花咲川に入学する。中学までの俺とは訣別し、仮面を被り、無難で中身のない3年間を送る。そう決めて臨んだはずであるが、そこで一人の少女と出会った。

絶望までの方向音痴でクラゲが大好きらしいクラスメイト、松原花音。その後俺が被る仮面を見抜かれたこともあり、ありのままの俺を受け入れてくれた花音。

親友になれた。初めてだった、ここまで信頼できる人に出会えたのは。

 

 

「いや・・・はじめて・・・だよな?」

「え?何が?」

 

 

しかし違和感があった。なんていうかこう、かなり前から親友だったような感じだ。いや、間違いなく初めてあったはずだし地元が違うし実は幼馴染で昔会ってた、なんてこともなハズだ。

なのにこの安心感、信頼感はなんだろうか?それほどまでにこの子を信頼しきっているのだろうか?

 

 

「俺と花音って高校が初対面だよな?」

「え・・・?そうだと思うけど」

 

 

花音はなんでそんなこと聞くの?といわんばかりの反応だ。

まあマイナスな感情ではない、よいだろう。

 

 

そして次に出会ったのは俺と同じく仮面を被り、雰囲気のコントロールまでこなす化け物、白鷺千聖。

どうやら花音が一番仲のいい子らしくなんと芸能人。一時は誤解から花音と俺の中を引き裂こうと画策していたが、あるトラブルから助け、誤解を解いたことで二人目の親友となった。

 

 

「なあ千聖、俺と千聖って昔会ったことあるとかないよな?」

「ナンパは初対面の相手にやらないと逆効果よ?」

「ナンパじゃねーよ、いや、俺も何変なこと聞いてるんだって感じなんだけど・・・」

「ふふ・・・変なの」

 

 

そういって千聖は笑う。やはり俺の気のせいなんだろうか?

そして俺と花音、千聖。3人の楽しい時間はどんどん過ぎていき、ついに運命の日とも呼べる日を迎えてしまう。

 

 

「なんで・・・お前がここに」

「やっほー、芽音」

 

 

目の前にいるのは清田美緒だ。俺が地元を離れるきっかけになったトラウマの元凶、仮面を被ることになった原因の人物。

その日をきっかけに、俺はすべてを知ることになる。俺が抱いていた違和感の正体、そして花音や千聖が何をしているのか。そのすべてを・・・・

 

 

 

私は考える。

清田美緒さんが突然現れて、芽音くんの過去をさらけ出し、陥れようとした。

でも私はそれが来るのが分かっていたかのようにスラスラと反論し、追い返すことに成功したのだ。

 

 

「うーん・・・なんなんだろう」

「どうした花音?」

「あ、ううん。ごめんね、独り言だよ」

「珍しいな、花音が独り言だなんて」

「ねえ、芽音くん。変なこと聞くんだけどね。清田美緒さんと私って初対面だよね?」

「初対面じゃなかったら怖いわ・・・なんでまたそんなことを?そういや花音、清田美緒を目の前にしてすげー毅然とした感じだったような」

 

 

二人で頭を悩ませるがどれだけ悩んでも答えは出なかった。

そしてその後、事故で入院した千聖ちゃんのお見舞いの帰り。私はなんだか胸騒ぎが収まらなかった。

 

 

”前にもこんなことなかったかしら?”

 

 

さっき病院で千聖ちゃんが言ったあの言葉。千聖ちゃんが事故に遭うなんてそう何回もあったらたまらない思う。でも不思議と私もそんな気がしていたのだ。

ああもう、最近感じるこのモヤっとしたの、本当になんなんだろ?

でもその答えはもう間もなく、出ることになった。

 

 

「さあああああきいいいなりいいいいいいい!!!!」

「芽音!!後ろ!!逃げて!!!!」

 

 

響き渡る恨みのこもった声、そして近くで叫ぶのは・・・

病院着を見たまま全力で走ってくる千聖ちゃんの姿だった。

 

 

「・・・・・!!!!!!!」

 

 

そっか。そうだった。

 

 

「全部、思い出した」

 

 

そうだ、私がここにいる理由。答えはもう決まっている。

 

 

「芽音くんはやらせないよ・・・!」

 

 

 

 

”前にもこんなことなかったかしら?”

 

事故で入院し、目を覚ました私は芽音と花音にそんなことを聞く。

少なくとも今まで事故に遭って芽音に助けてもらった・・・なんてことはないはずだ。

・・・・ないはずなんだけどそうにも頭がモヤモヤする。寝起きだからだろうか?

 

 

「何か大事なことを忘れているような気がするわね」

 

 

思えばここ最近はなんだか煮え切らない日々が続いた。

既視感を覚える頻度も多く、芽音もことあるごとに「前にもおんなじことが・・・」と聞いてきたりしてきたからだ。

私は考える。考えて考えて必死に記憶の引き出しを開ける。

 

 

「・・・・・!!!!!!!」

 

 

それは一瞬の出来事。喉につっかえた小骨がなくなったような感じだ。

 

 

「芽音!!!」

 

 

私は駆けだす。病院着のまま、裸足のまま。腕についた点滴のチューブを引きちぎり、走る。

芽音たちが病院を出てからそう長い時間は経っていない。

以前の失敗より時間はあるはずだ。

 

 

「・・・・いた!」

 

 

芽音と花音の後ろ姿。そしてそのあとをつけるレンガを手に持つ女性。

 

 

「さあああああきいいいなりいいいいいいい!!!!」

「芽音!!後ろ!!逃げて!!!」

 

 

私は力を振り絞り走る。

そしてそのまま女性のうごきを止めるべく、行動を起こしたのであった。

 

 

「やらせない!」

「な。なんだよお前!!離せ!!!」

 

 

私は女性にしがみつくも女性は手に持つレンガを振り回し、それは運悪く私に当たってしまう。

 

 

「あぐっ・・・!」

「邪魔しないで」

 

 

倒れこむ私を背に再びその女性は歩き出した。

 

 

「花音・・・・!」

 

 

私は花音が思い出していることを信じ、彼女に託すのであった。

 

 

 

 

「清田美緒・・・!?なんでここに・・・?・・・!!千聖!!!」

「さあああああきいいいなりいいいいいいい!!!!」」

 

 

不意を突かれた。俺の目の前で千聖が突き飛ばされる。咄嗟のことに判断できなかった俺は、鬼のような形相でレンガを掲げる清田美緒を前に硬直してしまった。

 

 

「死ねええええええええ!!!」

 

 

ドガッ!!!

 

 

「・・・・・?」

 

 

確かに殴る音は聞こえた。しかし俺は何ともない。

俺は咄嗟に閉じたを目開ける。

 

 

「・・・よか・・・た。芽音くん・・・無事だぁ・・・」

「か、花音・・・・?」

 

 

レンガを受け倒れる花音。花音は心底俺が無事でよかったという顔を浮かべていた。

 

「花音・・・おい花音・・・どうしてだよ・・・・!?」

「チッ・・・ジャマばっかりしやがって・・・でももう壁はないわ。芽音、覚悟して!!!」

 

 

再びレンガを振りかざす清田美緒。俺はそんなものどうでもいいくらいブチ切れていたのだ。

 

 

「・・・なっ!?ぐぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

まさに一閃。俺は迫りくる清田美緒にカウンターで拳をぶち込み、一撃で静めた。

無言で放つ一撃。俺は今までにないくらいさらにブチ切れていた。

 

 

「花音・・・!千聖・・・!なんで・・・・・」

 

 

俺は花音と千聖に問いかける。

 

 

「・・・どうやら成功したみたいね、花音」

「うん、よかった。ようやく上手くいったんだね」

「花音・・・?千聖・・・?怪我は大丈夫なのか・・・?」

 

 

花音と千聖は何にもなかったかのように立ち上がった。

それどころかさっきぶちのめしたはずの清田美緒の姿も消えており、次第にまわりの景色も崩れ始めた。

 

 

「うーん、本来は存在しないケガだからね。貰った時は痛かったけど大丈夫だよ」

「私に関してはそもそもこの場にいることがイレギュラーですもの。なんてことないわ」

 

 

花音と千聖はこの状況を理解しているようだ。

とりあえず俺も冷静になろう。この二人からしっかり説明を聞いて、消化させよう。

 

 

「・・・すまん、取り乱した。説明してほしい」

「さすが芽音ね。切り替えが早くて助かるわ」

「ねえ。芽音くん。今まで妙に既視感があったり、私たちと昔から知り合いだったって感じがあったって言ってたよね?」

「ああ」

「それね、気のせいじゃないの」

「どういうことだ?」

 

 

その後、花音と千聖の説明をしっかり聞く俺。

その内容は想像を絶する内容であった。

 

 

「ってことは・・・・ここは現実じゃなくて俺の記憶を基に作られた仮想空間・・・?」

理解が早くて助かるよ。多分何回も仮想空間を再生するうちに、定着まではしないものの断片的な記憶としては残ったんじゃないかな?」

 

 

衝撃的過ぎて話に若干ついていけない。でもこの二人の雰囲気は至って真剣だ。決してからかったりはしていないだろう。

 

 

「本来の記憶はあそこで芽音は清田美緒さんの凶行に倒れるはずだった。でも間一髪で役割を思い出した私たちが清田美緒さんを止めた。そのことによって存在しなはずの記憶が一時的に生成されているわけね。そうなると仮想空間が無理やり書き換えられていることになるから、記憶の本人と、介入者である私たち以外は消滅を始めるというわけよ。おそらく私たちも長くは持たないと思う」

「・・・話はわかったよ。ありがとう、二人とも。俺のために」

 

 

衝撃的な内容もそうだが、それ以上に俺は嬉しかった。二人の親友が俺のためにリスクを背負ってここまでやってくれることに。

こりゃ目覚めた後は当分頭があがんねーな・・・・

 

 

「あ、そうだ、一応これは言っておかなきゃ」

 

 

花音が思い出したあのように口を開いた。

 

 

「芽音くん。これはあなたの記憶です。夢でも錯覚でもなく、あなたが歩んできた人生の一片です。わかってくれましたか?」

 

 

優し気な表情で花音は言った。

ああ、もちろん―

 

 

「わかったよ。二人とも、本当にありがとう」

「よかった」

「これであとは目覚めるのを待つだけね」

 

 

そういった瞬間、二人の体は光を放ち始めた。

 

 

「そっか。役割がおわったから私たちも戻らなきゃなんだね」

「芽音。これからあなたはこのまま眠りながらゆっくり記憶として定着させていくわ。目覚めるその日まで私たちはずっと待ってるから・・・頑張るのよ」

「ああ!」

「ふふ、いい返事ね」

「じゃあね、芽音くん。現実で待ってるから」

 

 

そういって二人の姿は消えた。

そして俺の視界も揺れる。周りの景色はすでに崩壊し、真っ暗な暗闇になっている。

 

 

「さて、俺もひと眠りしますかね」

 

 

俺はそのまま体を闇にゆだね、そのまま目を閉じた。

そして次に目覚めたときには、ドラマにありがちな病院の白い天井が見えるベッドの上であった。

 

 

 

 

「・・・・」

「・・・・」

 

 

ゆっくり起き上がり考えを整理する。私と花音。

 

 

「・・・やったね」

「ええ・・・やったわ」

 

 

やりきった―

 

 

これで芽音は目覚めるはず。お医者様の話だと、記憶の定着まではもう少々かかるだろうということだ。

ちなみに私たちがあれから仮想空間に入った回数は50回を超えたところから数えていない。この短期間で一体何年分の時を駆けたのだろう?

実際は成長していないし精神的なものではあるのだけれど。

 

そして、その日は意外にも早くやってきた。数日後、いつも通り花音とお見舞いに来た時だ。

 

 

「・・・ここは現実か?」

 

 

ボソッとした声で囁かれた言葉。でも私たちは決して聞き逃さなかった。

 

 

「芽音くん!?」

「芽音!?」

 

 

 

 

「あー・・・なんていうか心配かけたな、うん。うわ、喉がカラカラで声が全然でねえ・・・」

 

 

あのあと医者がすっ飛んできて俺の検査をした。その後、長期間眠っていたことによる筋力の衰えと喋らなかったことによる喉の弊害以外問題なしと判断されたようだ。

 

 

「ほんとうによかったよぉ・・・」

「か、花音・・・泣くなんてはしたないわ・・・」

「千聖ちゃんだって泣いてるよぉ・・・」

 

 

うーん、二人の女のこと泣かせちゃうなんてあたしってばとんだ畜生ね。

・・・なんてアホなこと考えている場合じゃないや

 

 

「二人とも。改めて本当にありがとう。俺がこうして無事に起きて話せるのは二人のおかけだ」

「ううん、私たちがしたいからした。それだけだよ」

 

 

その後は俺が眠っていた間の話を聞いた。

なんと花音も千聖もバンドを始めたとか。俺が眠っている間にたくさん友達や仲間ができて、進むべき道も定まっているようで安心した。

 

 

「あ、そうだ。花音、千聖これだけは言わせてくれ」

「「なにかな(かしら)?」」

「ただいま」

 

 

俺がそういうと二人は笑顔でこう返してくれた。

 

 

「「おかえり!!」」

 

 




と、いうわけで一区切りでございます!
エピローグを経て、現在のバンドリ時系列で第2章をやろうとかぼんやり考えていますけどどうなんでしょうね。
次回も引き続きよろしくお願いいたします!!

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