ほんとうはエピローグを書いてからのつもりですがまとめてしまいました。
引き続きよろしくお願いいたします!!
第1話 再会と出会い
「うわ、この感じ超久しぶり」
新しい春が来た。もちろん、俺が今地に足をつけている花咲川地区にもだ。川沿いには満開の桜が咲き乱れ、商店街もどこか活気がある。
たった一年しか過ごしていないのであるがもうすっかり俺の心になじんでいるのを実感する。
「待ち合わせまではまだ時間があるな・・・」
さて、俺・俗芽音が花咲川に帰ってきたのは約1年ぶりである。
1年前、清田美緒の襲撃により倒れた俺は二人の親友である松原花音、白鷺千聖のおかげで無事に目を覚ますことができた。
しかしながら長い間眠っていた俺の筋力は衰え、襲撃の際の後遺症もあり、まともに生活できるようになるまでは順当にやって2年、かなりきついリハビリをやっても1年はかかるだろうと言われた。
そこで提案があったのだ。地元でゆっくりリハビリをやるか、遠く離れたところにある、弦巻家が運営する専門のリハビリ施設に入ってガッチリやるか。
俺は後者を選んだ。しばらく花咲川を離れることになるが長い目で見れば早く復帰できるわけだし、なにより時間を無駄にしたくなかった。
それにその施設はリハビリの他色々と鍛えてくれる施設もあるらしい。
俺はそこでキツイリハビリを乗り越え、そしてもっと強くなっていざというときに大事な人を守れるように腕っぷしの強さも磨いた。
そんなことをやっていたら想定以上に回復が早く、1年がたつまでもなく十分な力を取り戻したのである。しかも以前よりも強くなった。
これにはリハビリの先生も驚いていた。
「腹減ったなぁ・・・久々につぐみちゃんのお店にでも顔を出してみようか」
そして今日はあれから初めて花咲川に足を踏み入れる日。花音は家の用事が、千聖はどうしても外せない仕事があり会えるのは夕方になってしまうらしい。
とはいっても遠方にいる間もハロー、ハッピーワールド!の謎(というか弦巻家)の財力でそれなりの頻度で会いに来てくれていたのでメチャクチャ久しぶりというわけではない。千聖も休暇を利用し何度か会いに来てくれていた。
とまあそういうわけではあるが、仕方がないので俺は商店街で時間をつぶすことにした。
あ、俺の学校復帰はすでに決まっている。襲撃される前に進学に必要な出席日数は満たしていたので、今年から2年生だ。
ちょうど1年留年した計算になるが復帰できるだけでもヨシとせねばね。
ちなみにリハビリの手配、学校復帰の算段などはすべて弦巻家、弦巻こころ(俺は経緯その他を込めてお譲と呼んでいる)がやってくれた。
正直、俺はもうお嬢に頭が上がらない気がする。しっかりと恩を返していかねばならん。
「あちゃ~今日定休日だったか」
そんなことを考えながら羽沢珈琲店についた俺であるが、目の前にぶら下がるのは定休日の看板。
「うーん、甘いものを食べるハラになっていたのだけど・・・どうしたもんか・・・あっ」
歩いていると見つけたのはパン屋だ。
そう、やまぶきベーカリー。以前ここで買ったチョココロネはマジでうまかった。
「いらっしゃいませー!」
店に入ると元気な声で出迎えられる。年は俺と一緒くらいかな?そういえばここのおすすめがチョココロネだってことはこの子に教えてもらった気がする。
「おや?これは?」
「あ、それ新作なんです。ちょっと変わった色してますけど」
「確かに、でもこういう創作パンも楽しみの一つですよね」
「そう言ってもらえると助かります!それに実はこれ、私が考えたパンなんです。お父さんがこれなら店に出していいよって、今日初めて店に出させてもらったパンでして」
「そりゃいい。うん、これも貰います」
「ありがとうございます!!」
こうして美味いパンを手に入れた俺。そのあと色々あったが、時間は間もなく待ち合わせの時間。
待ち合わせ場所に指定されたのはとあるライブハウス前の喫茶店だ。
「CiRCLEか」
目の前に掲げられた看板はライブハウスCiRCLE。
花音も千聖もここを拠点にバンド活動を始めたとか。
なるほど、羽沢珈琲店が定休日だと知っていたからこちらになったわけか。
「芽音くん、久しぶり・・・でもないかな?」
「よう花音。んーまあそれ内に空いたから久しぶりでもいいんじゃないか?」
「私は結構久しぶりね」
「千聖は忙しいからな。仕方がないさ」
そんなことを考えていたらちょうど二人がやってきた。どうやら来る途中でたまたま合流したらしい。
いつもとかわらない空気。いつもと変わらない会話。
うん、俺の居場所はやっぱりここだ。
「あ、そうだ。一応今日が戻ってきて初日だしこれは言っておかなきゃ。ただいま。花音、千聖。また今日からよろしくな」
「「うん、おかえり!」」
二人の笑顔がはじける。
俺はまた始まる花咲川での生活に期待を膨らませ、積もる話を二人としたのであった。
※
俺は仮面を被るのを辞めた。
はじめは高校なんて高校卒業の資格を得るために我慢して通うようなもんだ。適当に仮面を被って3年間無難に過ごせばいいと思っていた。
でもあいつらと出会い、その考えは変わった。もちろん相手によっては仮面を被るし、そうでない相手には普通に接する。やめた、というよりも気ままに生活してみようと思っただけなのかもしれない。
「あれ、美咲?」
「芽音さんじゃないですか。なんでここに」
「なんでってここ俺のクラスですしお寿司」
「あ~そっか芽音さんダブったんでしたっけ」
新学期1日目。俺はクラス分け表に従い自分のクラスに入ったわけであるが、そこで見慣れた顔である奥沢美咲を見つけた。
美咲を含むハロハピメンバーは花音やお譲にひっついてよく俺のリハビリ地まで来ていたので、よく知る仲となっている。
ちなみにお嬢とはぐみは違うクラスみたいだ。
「まぁよく知らない人が同じクラスにいるよりはいっか。よろしくお願いしますね、芽音さん」
「こちらこそ。あと同級生になるわけだから敬語もやめてもらえると助かる」
「あ~そっか。確かに学校じゃ違和感ありますもんね。わかりました。じゃあよろしく芽音・・・くん?」
「それでOK」
こちらとしても顔見知りの人がいるのはありがたい。1年ダブったのでまた友人0からスタートすると思っていたのでこれは嬉しい誤算だ。
その後は始業式、そしてホームルームを経て1日目は終了した。
「さて帰るか・・・美咲は練習?」
「そうだね、今日はこのままハロハピの練習」
「ってことは花音もか。よろしく言っておいてくれ」
「はいはーい」
そんな感じで雑談をしていると、誰かがこちらに近づいてくる気配を感じた。
「あの~・・・」
「あれ?市ヶ谷さんどうしたの?」
「えっと、俗くん?に用事があって」
美咲に市ヶ谷と呼ばれた子は恐る恐るといった感じだ。
どうやら目的は俺らしい。
「俗は俺だけどどうしたのかな?」
「えっと、よくわかんないんですけど俗くんに手続きの書類を書いてほしいらしくて。生徒会室にあるので今から来てもらえたりしますか?」
「なるほど、そういうことね。いいよ」
「助かります」
「しかしそういうのは職員がやるものだと思うんだけどなんで市ヶ谷さんが?」
「私生徒会なんですけど先生が忙しいから同じクラスだし代わりにもらっておいてくれって」
「うーん、人使いが荒いねぇ」
「まったくです。どちらにせよ生徒会の印がいるので理にかなっているとは理にかなっているですけどね」
そんな感じで話す俺たちであるが俺は一つ考えていた。
あ、この子猫被ってるなと。
まあ気持ちはわかるがそれが見抜かれていて気づかないふりをするのはちょっと悪いかもしれない。俺自身外面ばかりに仮面野郎だったのでその苦しさはよく知っている。
あとで俺には猫を被る必要がないことは教えてあげよう。
「というわけだ美咲」
「うん了解。じゃあ私もいくね」
美咲と別れ生徒会室へ向かう俺と市ヶ谷さん。
沈黙はアレなのでわざとらしくならない程度に会話をする。
「奥沢さんと知り合いなんですか?」
「美咲とは共通の知り合いがいてね。まさか同じクラスになるなんて思ってなかったけど」
「なるほど。っていうか俗くんって転入生か何か?去年うちの学年にはいなかったと思うんですけど」
「うーん、そのようなものかなぁ。多分これから書きに行く書類もそれに関係することだろうしすぐわかるさ」
「へぇ」
そんなことを話している間に生徒会室に到着する。
「あ、市ヶ谷さん。お疲れ様です・・・」
「お疲れ様です燐子先輩。連れてきました」
「こんにちは。生徒会長の白金燐子と申します。放課後にわざわざありがとうございます」
「いえいえ。そちらこそお疲れ様です。俗芽音です、よろしくお願いします」
「はい」
生徒会室に入り、椅子に座る俺。
そういえばこの学校、生徒会室と風紀委員室が一緒だったな。
「そういえば氷川さんって元気にしてます?」
「氷川さんですか?氷川さんなら・・・」
「ただ今戻りました。おや・・・?」
「ちょうど来たみたいですね」
ドアが開いた先には氷川さんが立っていた。
俺の顔を見て少し驚いている様子だ。
「俗さんではないですか。そういえば復学されるのは今日でしたね。・・・なるほど、この書類はそのために」
「そうみたいだね」
「学年は一つ変わってしまいましたが変わらぬお付き合いをお願いします」
「こちらこそ」
氷川紗夜さん。久しぶりに会うが変わらない・・・いや、雰囲気がかなり柔らかくなった気がする。この1年で色々あったんだろう。
「あの~紗夜先輩と俗くんは知り合いなんですか?それに学年が変わったって・・・」
「あー俺ね、一つダブっちゃったんだよね。ケガで療養しててさ。それで1年ずれちゃったわけ」
「アレ?ってことは先輩?」
「そうなるけど同じクラスのよしみだし同級生として扱ってくれると嬉しいかな。敬語とかも抜きで」
「・・・りょーかい、そうしますわ」
「話が早くて助かるよ」
市ヶ谷さんは少し緊張が解けたような雰囲気を出した。うんうん、はやり気を張っていると疲れるだろうしもっと気を抜いてほしいものである。
「さて、書類とやらを記入しましょうかね」
「それではこちらをお願いします」
やはり留年関係の書類であったか。
俺は手早く記入し、しばらくみんなと雑談していた。
「え?白金さんと氷川さんって同じバンドなの?」
「ええ」
「私がキーボードで氷川さんはギターです」
「へぇ~・・・アレ?美咲もやってるって言ってたけどバンド流行ってるの?」
「大ガールズバンド時代とまで言われてますね。かくいう私もキーボードやってますし」
「なんと」
市ヶ谷さんが解説してくれる。どうやら今はガールズバンドが大人気のようだ。
「あ~~~~り~~~さ~~~~~!!!!!」
そんな感じでいると突然生徒会室のドアが開く。
なにやらめちゃくちゃ元気な女の子が入って来るや否や、市ヶ谷さんに抱き着く。
「ちょ、香澄!!場をわきまえろ場を!!!」
「だってぇ~有咲いつまでたってもこないんだもーん」
「だぁ~くっつくなあ~!!」
叫ぶ市ヶ谷さんであるが俺の顔をみてハッとする。
あ、そうか。市ヶ谷さん俺の前では猫を被っていたからね。思わず本性を見せてしまって焦っているのか。
「えっと、これはその。仲のいい友達同士だからというか・・・」
「大丈夫大丈夫。市ヶ谷さん猫被ってたの気づいてたし、俺の前で無理はする必要ないよ」
「気づいてた!?いつから!?」
「教室で話しかけられた時から」
「マジかよおおおおお!」
うん、恥ずかしいよね。気持ちはよくわかる。
※
その後書類を出してくるということで白金さんが、校内の見回りに行くということで氷川さんが退室した。
市ヶ谷さんも今日の仕事はこれだけということで、この後はバンドの練習があるようだ。
「え?じゃあ戸山さんも同じクラスなんだ」
「そうだよー?まあ初日だし気づかなくても仕方ないよ!」
「何はともあれ、これからよろしくね」
「こっちこそ!」
「お前ら初対面でここまでフランクに話せるってコミュ力お化けかよ・・・」
市ヶ谷さんのツッコミも入りながら歩く俺たち。市ヶ谷さんは完全に猫を被るのを辞めたようだ。うん、こっちの方が俺も気楽だ。
ちなみにこの後はバンドメンバーと待ち合わせをしているらしい。
「あ、いたいた!さーやー!」
どうやらそのうちの一人が偶然いたようだ。
「あれ?」
その中のメンバーの一人は見覚えがあった。
「やまぶきベーカリーの子だ」
「俗くん、沙綾と知り合いなのか?」
「客としてだけど」
「あーね。そういうことか」
近づくとあちらも気が付いたようだ。
「え!?うそ・・・」
そして驚いた顔をされた。
「どうも。昨日ぶりかな?」
「昨日はありがとうございました!!!」
そして深々と頭を下げられる。
「そう大したことはしていないよ」
「いえ、ほんと助かったので。というか同じ学校だったなんて」
「うん、俺もびっくり。よろしく」
「よろしくお願いします!」
昨日何があったかは別の機会に話すとしてこれは思わぬ再会だ。
さて、俺もそろそろ帰るかな。
「んじゃ、俺はこの辺で。練習頑張ってね」
「うん!俗くんもじゃーね!」
「気を付けてなー」
「またね」
そんな感じで俺は撤退だ。
さて、下校する俺であるがこの後やることがある。
「俺の読みが正しければそろそろ来る頃だろうね」
一言つぶやくと、俺はそのまま商店街へ、やまぶきベーカリーへと向かったのである。
2章は花音や千聖以外にも少しフォーカスをあてる感じで考えています。
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