はじめてのリリイベの手伝いは全く問題なく進んだ。
むしろ事務所側が想定していた以上の働きをしたようで、リリイベ以外にもスタッフ業務のバイトでこのまま入ってくれないかという申し出を受けたので俺は二つ返事でOKした。
「お疲れ様~!」
事務所のスタッフ数人とパスパレメンバーで店を貸し切り、ささやかなものではあるが打ち上げがはじまった。
場所は羽沢珈琲店だ。羽沢珈琲店は俺がいなかった間にかなり業績を伸ばしたらしい。ちなみに若宮さん改めイヴちゃんはここにバイトで入っているらしい。親子で切り盛りしていた店がバイトを雇うほど儲かっているのは常連として嬉しいところである。
席はいくつか別れており、俺は他のスタッフとと同じ席にいた。
「芽音さんがパスパレの皆さんと一緒なんて珍しいですね」
コーヒーを運んできたつぐみちゃんがいう。
「実はパスパレ所属の事務所でバイトしててさ。その仕事がひと段落したから打ち上げでね、メンバーと知り合いだったからこうやっておこぼれ頂戴して参加させてもらってるわけ」
「なるほど!でもよかったです。また芽音さんが来てくれるようになって」
「聞いてるかもだけど色々あってね。そういや留年しちゃったからつぐみちゃんとは同級生になるね学校は違えど」
そんな感じで久々の雑談を交わす俺とつぐみちゃん。
「つぐみーちょっと来てくれ」
「あ、お父さんが呼んでる。では芽音さん、ゆっくりしていってくださいね!」
「うん、ありがとう」
ぱたぱたとつぐみちゃんが厨房に行くのを見送ったあと俺はメンバーの方に向き直る。
「ふーん、芽音くんってつぐちゃんと仲いいんだ」
「日菜さん」
テーブルに向き直ったらそこには違う席にいたはずの日菜さんがいた。
「仲がいいっていうか常連のよしみというか。日菜さんは同じ学校だっけ?」
「そうそう、しかも生徒会で一緒なんだー。私が会長でつぐちゃんが副会長!!」
「日菜さんが生徒会長・・・・・?」
こんなぶっとんだ人が生徒会長で羽丘は大丈夫なのか?
俺はわが校の生徒会長、白金会長の顔を思い浮かべながら日菜さんの顔を見る。
「あー芽音くん絶対いま失礼なこと考えたー。失礼だなあ、これでもちゃんとやってるんだよー?」
ぷんぷんと頬を膨らませる日菜さん。やはりアイドルだけあってこんな表情も絵になるな。
ん・・・表情か。前から気になっていたことを今聞いてしまおうか。
「そういや日菜さん、俺たちってどっかで会ったことない?」
「え?今あってるじゃん」
「いやNowの話じゃなくて」
「んーないと思うけどなー」
「うーん、俺の勘違いか・・・?」
「芽音、それは多分日菜ちゃんではないわ」
「あ、千聖ちゃん」
そんなやりとりをしていると他の席と談笑していた千聖も来たようだ。
「芽音、気づかないかしら?日菜ちゃんの名字」
「名字?・・・・あっ」
「気づいたみたいね」
「えー?なになにどういうことー?」
「・・・双子だったのか」
合点がいった。なるほどなーそういうことだったのか。
「あれ?芽音くんおねーちゃんのこと知ってるの?」
「知ってるも何も普通に友達」
「お~・・・世間は狭いねえ」
「いやほんとびっくりだよ」
なるほど、この感じの正体はコレだったか。
いやあ日菜さんの言う通り世間は狭いなあ。
「おねーちゃんと芽音くんって仲いいの?」
「顔を合わせれば普通に会話するくらいには」
「へ~おねーちゃんが男の子と仲よくしてるなんて想像できないな~芽音くん、気に入られてる」
「そうなの?」
「うん!おねーちゃんおとーさん以外の男の人以外と必要最低限な会話しかしないもん!雑談なんてもってのほか!」
「私の目から見ても紗夜ちゃんと芽音は仲が良いと思うわ」
「おおう」
思いがけない援護射撃を受け何気に喜ぶ俺。考えてみれば氷川さんも比較的本音を隠せず話せている気がする。
そして双子の妹の日菜さんとも知り合いになれたのは今後のプラスになるかもしれない。
「あ、俗君!ようやく見つけた」
「川崎さん?」
その中に割って入ってきたのはパスパレマネージャーの川崎さんだ。
この年にして結構なやりてらしく、仕事がかなりできるキャリアウーマンといった感じの人である。(肝心の事務所がポンコツ気味で振り回されている感はあるが)
「どうしたんですか?」
「実はお願いしたいことがありまして」
「私たちは退席したほうがいいですか?」
すかさず千聖が聞く。
さすが芸能人だけあってこの場にとどまっていいかの判断を仰ぐのが早い。
「いえ、構いません。あなたたちにも関わってくることなので」
「私たちにも?」
「はい。俗君、このままバイトを続けてほしいという要望は前に伝えたとおりですが・・・」
「ええ」
「そのバイトなんですが、私の助手、パスパレのマネージャーのお手伝いをしてもらえませんか?」
※
まあ色々理由はあるらしいがそういうことだ。俺はOKした。
俺の仕事ぶりが評価されたのと、メンバーと年が近く色々と悩み事に気付きやすかったり学校やプライベートでのトラブルに対応してもらいたいと。
割と役割が重たいので時給は恐ろしいことになるようだ。
なにより今までかかわれず正体不明の、仕事中の千聖達に関われるのが嬉しかったのだ。
「芽音くん、次どこだっけ?」
「えーとあと5分くらい歩いたビルの中で打ち合わせだね」
そしてその仕事の一環として俺は日菜さんに同行していた。
ビルにつくとエレベーターに乗り込む。
「いやーまさかこんなことになるなんてね~」
「うん、まあ結構驚きだよな」
「おねーちゃんにいわれちゃった、”俗さんに迷惑をかけないように!”ってさ~ひどいな~そんな風に見るなんて」
「そういえば俺も”日菜がご迷惑をおかけしますがよろしくお願いします”って言われた」
「あはは!」
日菜さんの話題のポイントはズバリ氷川さん、改め紗夜さんだ。
(姉妹と知り合いになってしまったので名前で呼ぶことを了承してもらった)
紗夜さんの話をしている日菜さんは本当に楽しそうでよっぽど好きなんだなというのが隠すまでもなく伝わってくる。
「それでさ~・・・・!?」
「・・・日菜さん!」
俺はその異変を察知し日菜さんを俺の方に抱き寄せ、上から覆いかぶさるような姿勢をとる。
―地震
それも足元がふらつくくらいには大きい。
「・・・・・」
「おさまったか・・・?」
しばらくすると揺れが収まった。
「うわ~びっくりしたね~結構大きかったかも」
「ああ」
「それでさ~芽音くん、結構苦しいんだよなーこれが」
「あ」
俺は慌てて日菜さんから離れる。
「んーんいーよ。真っ先に体が動いて男の子の対応としては満点!川崎さんにも評価アップ伝えておくよ」
「そりゃどうも。でもね日菜さん。ちょっと問題が起きたみたいだね」
「あ~芽音くんもそう思っているってことは間違いないか~」
俺たちが感じていたこと。その正体はすぐ判明した。
「エレベーター止まっちゃったね」
「うん、そうみたいだね」
つまるところ―
俺たちは地震で停止したエレベーターに閉じ込められてしまった。
そして脱出までの時間、俺たちはこの狭い密閉空間で過ごすことになったのである。
2人目のサブヒロインはズバリ日菜ちゃんでした
日菜ちゃんは割と自由に書けるので今後が楽しみですね!
引き続きよろしくお願いいたします!!