仮面と海月と白鷺と   作:光の甘酒

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R - 1 5 に し た 理 由


後にも先に日菜ちゃんにここまでさせたのは私だけだと自負したいところです。





第6話 氷川日菜Ⅱ

「いやーどうしようねこれ」

「どうしたもんかねえ」

 

 

俺たちは意外と冷静だ。別に一生出られるわけではないし、所詮は止まったエレベーター。ぶっ壊れて落下でもしない限り問題はない。

日菜さんは日菜さんでエレベーターが止まる非日常を少し楽しんでいる節がある。

こういう時は取り乱されたり暴れられたり泣きわめかれたする方が大変なので今回はその辺に救われた。

 

 

「んー・・・あ、これダメだ」

「なにが?」

「エレベーターって普通24時間リモート監視されてるでしょ?だから非常通話ボタン押したんだけど繋がらないや。電気系統もいっちゃってるのかなー?あーでも照明は生きてるしなー」

「え、マジか。俺もそれやるつもりでいたんだけど。うーん・・・あ、なんならエレベーターの天井開けてみる?出口が近ければ扉をこじ開けることができるかもしれん」

「今のエレベーターの上はあかないよ?」

「・・・・そうなの?」

「そ、だからあたしたちは救助が来るまで待つしかないってわけ」

「無知をさらけ出して恥ずかしい・・・というか日菜さんやけに詳しいね」

「そーかな?サスペンスドラマみてて気になったから調べたことあってさ。それを覚えていただけだよ」

「いやー気になるのもすごいし普通そこまで調べないないと思うんだけど。いや、おかけで見聞が広がったし余分な体力を使わなくて済んだよ」

「ま、あたしはあたしだからさ。しかし参ったねー。密閉空間だから暑いよ。喉かわいちゃった」

 

 

日菜さんは胸元をパタパタとし涼をとっている。

あまり見るものではないがこう狭い空間だとその合間合間に見えてはいけないものが見えてしまうのはつらいところだ。

 

 

「日菜さん、気持ちはわかるんだけど俺、男。キミ、女。わかるよね?」

「えー?わかんなーい」

「いやその声のトーン絶対わかってるでしょ」

 

 

日菜さんは小悪魔的な笑いをしながら胸元パタパタをやめない。

うん、絶対からかわれている。

 

 

「なんてねー。別に見えたところで下にキャミ着てるし、芽音くんがなにかするなんて思ってないからさ」

「そういう問題じゃない気がするしそれはそれでなんか複雑だよ」

 

 

こう、男として見られていないということかな?

いやまあ信頼されているのは伝わってくるのでいいんだけどさ。

 

 

「信頼してるってことだからだいじょーぶだいじょーぶ!」

「心の声を読まないでくださいませんかね」

「しかし暑いなー」

「スルーですかそうですか・・・あ、そういやあとで飲もうと持ってきたコーヒーでよかったらあるけど」

 

 

そういって俺はまだ冷たい、ペットボトル入りのアイスコーヒーを取り出す。

 

 

「お、芽音くんナイス!貰ってもいい??」

「構わんよ」

「うーん、おいしい!」

 

 

日菜さんはふたを開けるとグビッっとコーヒーを飲む。相当喉が渇いていたようで半分以上飲んでしまった。

 

 

「ぷはー!おいしー!あ、芽音くんも喉乾いてるでしょ?返すよ」

「いや、それそのまま飲んだら間接キスですやん」

「えー?あたしは全然気にならないけどなー」

「日菜さんは気にしないけど俺っていうかファンは気にするの。ここでペットボトルをうけとってそのことがばれたら俺はおそらく明日を迎えることはなくなってしまうよ」

「あははーなにそれ!」

「いや冗談抜きに男にこういうことしないほうがいいよ。アイドルとして結構ヤバめだよ」

「はーい」

 

 

わかっているようなわかっていないような返事をする日菜さん。

どちらにせよ待つ以外にやることがないのでひたすら雑談に興じた。

 

 

「そういや芽音くんって表裏の使い分け上手いよね」

「え?」

「相手を見てオンオフが切り替わってるっていうか?仮面被っているっていうか?」

 

なんと。

たしかに俺は以前より仮面を被らなくなり、仮面を被るときはほとんど限定的な場面のみ。スタッフとしての業務中や知らない人・ほかのスタッフと話すときなど外面をよくする必要があるときだけだ。

そんなわずかな違いを見抜いてくる日菜さんは単純にすごい。

 

 

「いやー日菜さんと学校が違って本当に良かった」

「えー?なにそれひどくなーい?」

「もし紗夜さんじゃなくて日菜さんが花咲川に通っていたら早い段階で本性が一発でバレてたわ」

「あ、そういうことね」

 

 

もしそうなら今みたいな地位にいはいられなかっただろう。

まあIFの話をしても仕方がない。

幸い俺も日菜さんもよくしゃべるほうだし、日菜さんに仮面を被っても無駄だということもありなんだかんだ結構ウマが合う。

話ははずみ、空になったコーヒーのペットボトルを床に置く。

しかしそれは、その楽しい時間を不穏な方向へと誘う合図なのであった。

 

 

「あ」

「どうした?」

「うーん困ったなー。いやー実に困った」

 

 

日菜さんは少しもじもじしながら突然言い出す。

 

 

「だからどうしたの?」

「うーん・・・ねえ芽音くん。人の尿って出したばかりは無菌で飲めるって知ってる?」

「なんじゃその恐ろしく物騒でヤバイ性癖の人が喜びそうな発想は・・・」

 

 

唐突に物騒なことを言い出す日菜さん。

あ、待てよ。そういうことは。

 

 

「いや・・・ちょっと待って理解した。うん、察せなかった俺が悪いね、うん。いや、すまんが俺にはそれをやる勇気も性癖も持ち合わせていないしアイドルがそんなヤバイ単語を口にしちゃいけないし金輪際その考えは捨てなさいわかったね?」

「おおう、芽音くんが割と怖い」

「当たり前!!!・・・っとそんなことよりつまり日菜さんアレだね」

「うん、トイレいきたくなっちゃった」

 

 

最悪の事態だ。

 

 

「コーヒーがぶ飲みなんてするから・・・・」

「だってー喉乾いたしそれにくれたの芽音くんじゃん」

「それはそうだけど・・・」

 

 

これは結構まずいのでは。早く復旧してくれるのを祈りつつ我慢してもらうしかない。

 

 

「・・・あ」

「どうしたの?」

「携帯、あったんだった・・・」

「・・・・」

「・・・・」

 

 

お互いに顔を合わせ真顔で見つめあう。

 

 

「あはははははは!すっごい二人とも綺麗に忘れてた!!」

「いやこれは笑うわさすがに。とりあえずマネージャーの川崎さんにかけてみる」

 

 

 

俺はすぐさま携帯を使い、電話をかけた。

携帯はマナーモードになっており、着信履歴には川崎さんからのものが何件も入っていた。

 

 

「あ、もしもし俗です」

「芽音くん、よかった。時間が過ぎていますけど地震でトラブルですか?」

「実は・・・・」

 

 

俺は今の状況を説明。

地震でエレベーターが止まったこと。リモート通話が機能しないことなどなど。

 

 

「なるほど、エレベーターに閉じ込められてしまってるのですね。実は他のスタッフも別のエレベーターに閉じ込められているようで、今復旧作業をしているようです。あと20~30分はかかるようなのですが・・・」

「20~30分」

 

 

うーん。長い。これは厳しいかもしれない。

 

 

「あと芽音くん。日菜さんは無事ですか?」

「はい」

「それと暑いと思うので脱水症状には気を付けて下さい。もしお水などがなかったらエレベーターにある非常ボックスにある程度入っているようです」

「え?そうなんですか?」

「はい、なのでもうしばらく辛抱してください」

「分かりました」

 

 

そういって通話を終了した。とりあえずこれで俺たちがエレベーターに捕らわれていることが伝わった。

初耳だ。目をやると確かにそれらしきものがエレベーターに鎮座している。

ん・・・?非常用BOXということはまさか・・・

非常BOXを開けて中身を確認する。

 

 

「やっぱりだ」

「なになにどうしたの?」

「これだよ」

 

 

俺が手に取ったのは非常用の簡易トイレだった。

 

 

「コレがあれば大丈夫だ!!」

「いや大丈夫じゃないよ全然!!!つまりそれ、この密室で芽音くんの目の前でやれってことだよね!?!?!?」

 

 

 

日菜さんが珍しく動揺している。こんなに顔を真っ赤にして焦り、ツッコミに回る日菜さんは貴重かもしれない。

 

 

「さっき無菌ならなんとかっていってた・・・あ、いえなんでもないです。一理あるね、うん」

「でも現実問題救助までまだまだかかるし・・・うーん・・・」

「わかった、俺は耳も塞ぐし後ろ向いて目をつむるし鼻にもティッシュ詰め込むから」

「うーん・・・うーん・・・そこまでいうなら・・・背に腹は代えられないかなあ」

 

 

話はまとまった。

 

 

まず俺は持っていたティッシュを鼻に詰め込み嗅覚を遮断した。そしてまたまた持っていた音楽プレイヤーのイヤホンを耳に刺し聴覚を遮断、音楽を流す。そして後ろを向き目をつむり視覚を遮断した。

 

 

「これで完璧・・・ハァ・・・ハァ・・・日菜さん・・・いつでもOKだ・・・ハァ・・・ハァ・・・」

「いや変態じゃん」

 

 

だって鼻呼吸できないから口でするしかないんだもん。

仕方ないね。

 

 

 

 

「照れてる日菜さんってなんか貴重だね」

「いやこれ照れてるんじゃなくて普通に恥ずかしがってるだけなんだけどなー」

 

 

そういいつつ冷静さを取り戻しつつある日菜さんであった。

すべてがおわったあと俺の視界に入らないところにブツを隠し、非常セットに入っていた消臭スプレーを振りまくと再び待機モードに入った。

 

 

 

「あ、動いた」

「動いたね」

 

 

そしてしばらくするとエレベーターは動き出し、扉が開いた。

 

 

 

「日菜さん、芽音くん、大丈夫ですか!?」

「川崎さん。おかげさまで」

「大丈夫でーす!」

「いやぁよく耐えてくれました」

 

 

メンテナンス作業員と思しき人が声をかけてきた。

 

 

「おや?非常BOXが開いて・・・あ、トイレ使ったんですか?」

「ええ。恥ずかしながらちょっと我慢できなくて俺が」

「そうですか。しかしいい判断です。我慢は体に毒ですし万一粗相になったら精神的にも辛いですからね」

 

 

そんなこんなで俺たちのエレベーター幽閉大変は終わった。

色々あったけど結果的には日菜さんとももっと仲良くなれた気がするし、エレベーターに捕らわれるというある意味貴重な体験もできたので結果オーライだろう。

その後の俺たちは予定より遅れたものの仕事をつつがなく終わらせたのであった。

 

 

 

 

 

「ええ。恥ずかしながらちょっと我慢できなくて俺が」

 

 

芽音くんが作業員さんにそういうのを聞いてえ?って思った。

だって使ったのはあたしだから。

あーそっか。芽音くんあたしをかばってくれてるんだ。

考えてみれば芽音くんは紳士だったもんね。さすが千聖ちゃんの想い人って感じかなあ。

でもさすがのあたしも恥ずかしかった。あんな体験後にも先にも今日だけにして欲しいしそうでないと困るよね。

・・・ここであたしのこころに一つの感情が芽生えた。

 

 

”あたしだけ恥ずかしい思いしたのは納得できないから芽音くんの恥ずかしいところも見たい”

 

 

こんなふざけた、戯れのような感情。あたしは新しい遊びを見つけたのだ。

 

 

「うーん、るんっ♪ってきた!」

「日菜さん、いくよ?」

「あ、うん!」

 

 

あたしは少し変化があった芽音くんとの関係性を感じつつ、それと同時に興味を持ち一緒に仕事場へと向かったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 




時間がかかり申し訳ありません!
みなさんコロナは大丈夫ですか?頑張って乗り切りましょう。

エレベーターの非常BOXのステマみたいになっちゃいましたけど全くそんな気はないので災害時にはぜひ探してみてください。

引き続きよろしくお願いいたします。

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