仮面と海月と白鷺と   作:光の甘酒

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せつないですね。





第17話 √山吹沙綾-fine-

「いらっしゃいませー!」

 

 

俺は今、やまぶきベーカリーの店内にスタッフとして立っている。

いつも通り沙綾さんの彼氏(仮)として送り迎えをしていたわけであるが、ある日家につくと沙綾さんのお父さんが少し慌て気味にしていた。

 

 

「お父さん、どうしたの?」

「沙綾、ちょうどよかった。実は母さんが少し調子が悪くてな」

「え!?大丈夫なの!?」

「心配ない。電話で病院の先生に聞いたら点滴を打って少し安瀬にすればよくなるだろうとのことだ」

「よかった・・・」

「すまないが私は母さんを病院に連れて行かなければいけない。店番を頼んでいいかい?今日焼く予定だった分はすでに焼き終わってるから売るだけなんだ」

「わかったよ。でもこの後ちょっと忙しくなる時間だよね~・・・」

「うーん、そうなんだ。・・・おや、キミは・・・」

「お久しぶりです」

「おお!その節はありがとう!!・・・そうだ、君って接客業の経験はあるかな?」

 

 

とまあこんな感じで臨時バイトとして雇われたわけである。

 

 

「おやおや~?芽音さんじゃないですかー」

「モカちゃん?」

「はいはーい、モカちゃんでーす。なんでそっち側にいるんですか~?」

「実は臨時のバイトでね。今日限りではあるんだけど」

「そうなんですか~残念ですな~常時バイトなら取り入って売れ残りのおこぼれにあずかるという、たった今思いついた華麗な計画がとん挫してしまいましたよ~」

「たった今なのか・・・それに華麗ってそういう意味じゃないと思うんですがそれは」

「まあまあ細かいことはいいじゃないですか~というわけでこれ下さい」

「マイペースだなあほんと。はい、ありがとうございます」

「ではでは~」

 

 

店を出た瞬間パンをほおばるモカちゃんを見送る。

どうやらちょうど人の波が掃けたみたいだ。

 

 

「あれ?モカ来てた?」

「うん、今さっき。相変わらず大量購入の優良顧客だったよ」

「あはは。モカってほんと美味しそうに食べてくれるから嬉しいんだよね。芽音くん、そろそろキリがいいし今日はこの辺にしておこうか。在庫もほとんど掃けたしね」

「了解」

「あ、今日のお礼もかねて売れ残りは好きな奴持って行っていいよ。もちろん、バイト代は別に出すし」

「マジで?いやーもしあれなら買おうと思ってたんだけどそういうことならありがたく」

 

 

ここのパンほんと美味いからなー

これで明日の朝飯は確保できた。いやあ役得役得

 

 

「んじゃ俺はあがるんで」

「うん!本当に助かったよ。ありがと!」

 

 

こうして俺はやまぶきベーカリーを後にした。

 

 

「さてと・・・」

 

 

帰り道を歩いていた俺は後ろから迫りくる気配を避けるようにサイドステップを踏む。

 

 

「なっ!?」

「やっぱお前か後付。お前、さっき俺が働いている時、物陰からチラチラ見てただろ」

 

 

そこにいたのは角材を空振りした後付光朗の姿であった。

 

 

「俗・・・お前のせいでお前のせいで俺は!あの子を解放しろ!お前がマインドコントロールしてるんだろ!?でなきゃあの子があんなに酷いことを俺に言うはずがない!!!」

 

 

何言ってんだこのおぼっちゃんは?

 

 

「えーっと。頭大丈夫?」

「バカにするなあああああ」

「おおっと」

 

 

力任せに棒切れ振り回すだけじゃどうにもならないんだよなあ

こんなんでも全中二位の剣道選手だったわけであるので棒切れを見切って避けるなんぞ御茶の子さいさいである。

 

 

「もう満足した?」

「くっ・・・その余裕、いつまで持っていられるかな?」

「なんだと?」

 

 

答えを聞く前に答えが分かってしまった。

後ろから現れたのはガタイのいいお兄様。うーむ、ムキムキである。

 

 

「俺の攻撃で終わればよかったが保険はかけておくものだ。こいつは俺の雇ったレスラーの卵だ。お前みたいに貧弱な奴が叶うわけないんだよ!」

「あちゃ~気の毒に」

「自分のことを言ってるのか?」

「いや、そうじゃなくてね。汗水流して稼いだ金の行き先がバカ息子の無駄遣いって・・・パパが気の毒だなと」

「やれ!!!」

「死ねや!!」

「短気だなぁ」

 

 

まずは動き、とパワーを見る。

動きはそこまで早くない。しかしパワーが今までやった奴らの中ではけた外れに高いのは見てわかった。

 

 

「逃げてばっかか?痛い目見る前に降参するか?」

「まさか。しかし困ったなあ」

 

 

相手はレスラーの卵である。その鍛え抜かれた肉体に俺が攻撃を加えても一撃で勝負を決めることは不可能だと思うし、食らわせたところで反撃されるのが関の山だ。ひとまず回避を繰り返し作戦を考えよう。

 

 

「ハァ・・・ハァ・・・クッソ・・・ちょこまかと」

「いやあだって当たったら痛いじゃんそんなん。そりゃ避けるって」

「いい加減にしろ!」

 

 

考えろ。相手は体を鍛えることに心血を注いだ奴だ。

並大抵の攻撃はダメージが少ないし、捨て身で攻撃をしたら本当にやられる。

・・・・待てよ。

 

 

「人間ってさ。どれだけ鍛えても鍛えられないところがあるって知ってる?」

「なんだ、苦し紛れにクイズか?んなもんはねえ!」

「そっかあ・・・残念、外れ」

 

 

奴は性懲りもなく突進をしてくる。

俺はそれを回避すると、足に渾身の力を込めてそれをある部分に放った。

 

 

「正解は・・・キ〇タマだよ」

 

 

 

ガキィィィィィィン!!!

 

 

「!?!?!?&%&%&$%&’(’’(%&%&!?!?!?」

「あら、声にならない声。もう一発!」

「うごぉぁぁぁぁおぁおぉぁおあぁぁぁぁぁぁぁおぉぉぉぉ!!!」

「からのぉ・・・みぞおちに連打連打連打連打!」

「ガハッ・・・ウッ・・・」

 

 

ふむ、意識を飛ばすのに成功したようだ。

 

 

「さてと」

「ひぇぇぇぇぇぇぇ」

「うわ、クッソ情けない声」

「た、た、た、助けて・・・・」

「それはあまりに都合がいいと思わないか?」

 

 

俺はスイッチを入れる。口調、言動、雰囲気を変え、コントロールする。

 

 

「一つ聞くけどよ。お前さん、当然覚悟はしてきてるんだよな?」

「か、かくご・・・?」

「やりあう奴にみんなに聞いていることだけどよ。人を傷つけるということは自分も傷つく覚悟があるかどうかってことだ。人を傷つけることにはなあ、リスクを伴うんだよ。それをお前は覚悟をしてここに来たのか?」

「そ、それは・・・」

「お前が金持ちなのも自分に自信を持つのも結構なことだ。でもそれを笠に着てイキリ散らすのは違うだろ。ましてや恋愛にまで持ち込んで相手のことも考えずに好き放題やりやがる。そんなクズのことを誰が好きになるんだ?身の程をわきまえろよ」

「そ、そこまで言わなくても・・・」

「そこまで言われることをお前はしたんだよ。さて、お話はここまでだ。これからお前の覚悟を試させてもらう」

「ひぇ・・・!」

 

 

後ずさりする後付しかし俺は構わず奴の胸倉を掴み、裏路地に引きずり込んでいった。

 

 

「いっつもは俺が連れてこられる側なんだが・・・まあたまにはいいか」

 

 

なんてメタ発言をしていると怯えた後付が声を上げた。

 

 

「助けてくれ!金はいくらでも払う!俺が悪かったから!!」

「そんな無駄遣いする暇があったらパパに親孝行でもしな」

「ほんと頼むよ助けてくれ!!」

「・・・とりあえず警察に通報するか」

「警察だけは本当にやめてくれ!!!こんなことがパパにばれたら殺される!!」

「お前マジでクズだな!?警察にもパパにもバレたくないってどんだけ身勝手なの」

「頼む!何でもするから!!」

「ん?今何でもするっていったよね?」

 

 

ようは今後一切沙綾さんに近づけさせなければいいのだ。

で、あればこの手のタイプにはアレが有効か。

 

 

「んじゃさ、今から動画でお前のこと取るから。俺の言われた通りのこと喋りな」

 

 

 

 

 

”僕、後付光朗は自分勝手な考えで山吹沙綾さんに一方的にストーカーをしました。そしてそれを咎めた俗芽音さんに危害を加えようと父のお金を無断で使いました。このことを反省し記録に残します。また今後一切、山吹沙綾さんと俗芽音くんには関わりません。”

 

 

 

「え?本当に・・・?」

 

 

いつものように沙綾さんを迎えに行って送り届ける帰り道。

俺はこの動画を見せてもう後付の脅威はないことを沙綾さんに告げた。

 

 

「うん、実はバイトの後に後付と話し合ってね。穏便に話がついて今後沙綾さんには関わらないことを約束させた」

「そっか。うん、ありがと!ほんと芽音くんにはいつも助けてもらってばっかだね」

「俺が好きでやってることだし気にしなくていいさ。しかしあれだね。これで彼氏(仮)も終わりかな」

「あ・・・・」

 

 

それを言った瞬間、沙綾さんは黙り込んでしまった。

続く沈黙少し気まずい。俺は意味が分からずなんかまずいことを言ったのかな?と考え始めていた。

 

 

「ねえ芽音くん。芽音くんってさ、好きな人・・・いる?」

 

 

沈黙を破ったのは意を決したように口を開いた沙綾さん。その表情はこわばっており、緊張している雰囲気がだだもれである。

そんなこと、されてしまったらさすがの俺も感づいてしまう。

 

―ここで俺はある出来事を思い出す。

ああ、そうか―

 

 

「どうしたの突然?」

「えっと・・・深い意味はないっていうか・・・世間話っていうか・・・」

 

 

”ねえ、芽音。私たちは変わってない。でも、それは永遠じゃないわ”

”なんだよ突然”

”ただの世間話よ。私たちは徐々に大人になっていくし、どんなきっかけで関係が変わるかわからない。でも関係が変わる出来事っていうその瞬間はいずれやってくるわ”

”随分深いことを言うね”

”そうかしら?まあ私から言いたいのはその瞬間が来たと感じたらその都度、真剣になって考えてねってことよ”

 

 

千聖。言ってたのはこういうことだったのか―

 

 

「沙綾さん俺は・・・」

 

 

千聖と俺の関係だけではない。あれはすべての人が対象の言葉だったんだ。ここは想いには応えねばならない。これこそが人と人の関係が変わる出来事なのだから。

 

 

「いるよ」

「・・・え?」

「いるよ。好きな人」

 

 

俺は淡々と話す。

 

 

「へ、へえそうなんだ。えっと、誰とか聞いてもいい?」

「ごめんそれは言えない。こんなことをいうのは恥ずかしいけど、その人はいろんな意味で深い絆で繋がっている、ずっとずっと前から大事な人なんだ」

 

 

それは君じゃない―

そう言っているようなものだった。

そしてそれは沙綾さんも察したようで、雰囲気がまた変化する。

 

 

「そっか!そっか・・・そうなんだ。そっか・・・そ、その人と上手くいくと・・・上手くいくと・・・あーやっぱだめだ・・・」

 

 

沙綾さんは決心したように顔を上げる。

 

 

「やっぱ言わなきゃダメだ。ねえ、芽音くん。答えはわかってる。でも言わせてほしい。言わないと私、一生後悔したまま過ごすことになりそうだから」

「・・・・うん」

「芽音くん、私・・・私はあなたのことが好きです。最初に助けてもらったあの時から。ずっとずっと好きです。あれからも色々なことがあってその度に芽音くんは助けてくれて・・・その気持ちはどんどん大きくなっていきました。これが・・・私の気持ちです」

 

 

沙綾さんの決心は生半可なものではない。それなのに何だ俺は。

間接的に事実を告げてそれで終わらせるなんてムシが良すぎるだろう。

そんなことが許されるはずがないよな。

 

 

「沙綾さんの気持ち、ものすごく嬉しい。でもごめん・・・ごめんね沙綾さん。でもこういう時はちゃんと言わないといけないと思うから」

「うん・・・うん・・・」

 

 

俺は深呼吸してこれから告げる残酷な一言を喉元から出す準備を整える。

 

 

「俺は沙綾さんとはお付き合いできません。さっきも言った通り、俺には好きな人がいるから」

「望みはないんだよね・・・?」

「・・・うん」

「・・・・そっか」

 

 

沙綾さんはうつむきしばらく震えていた。

ここで抱きしめる権利も肩を抱く権利も俺にはない。

だって俺は沙綾さんがこうなる原因を作った元凶なんだから。振った張本人なんだから。

 

 

「うん!よしっ!」

「え?」

「話聞いてくれてありがとう!言いたいこと言えてスッキリしたよ。なんか微妙な空気になっちゃったけどさ、これからもお友達でいてくれると嬉しいな!」

 

 

俺にはわかる。これはカラ元気だ。無理して笑顔を作って、今にも泣きそうなのを必死に抑えている。

でもそれが沙綾さんが出した答えなら。そうであるならば俺はそれに応えるだけだ。

 

 

「うん。これからもよろしくね、沙綾さん」

「うん!」

 

 

沙綾さんの限界が来る前に俺は退散することにした。

今日のところは俺が側にいてはならない気がしたから。

 

 

「じゃあ沙綾さん。また学校で」

「うん。今日はありがとね」

 

 

 

 

芽音くんの背中を見送る。

私の中では自分が言った言葉、それに対する芽音くんの言葉が反芻している。

 

 

「沙綾」

「・・・有咲」

 

 

そこに現れたのは有咲だ。

 

 

「見てたんだ」

「・・・たまたまな」

「そっか」

 

 

しばし沈黙が流れる。

 

 

「あはは、ダメだったよ。やっぱ恋愛って難しいね~」

「沙綾・・・」

「何よ有咲?私は大丈夫だよ切り替えて次いけばいいからさ」

「お前・・・そんな涙ボロボロの顔で言っても説得力ないっての」

「え・・・?」

 

 

指摘を受け私は自分の顔を触る。

その瞬間指はビショビショに濡れた。

 

 

「あれ・・・?おかしいな・・・」

 

 

するとその様子を優しくみていた有咲は突然私を抱きしめたんだ。

 

 

「頑張ったな。沙綾、ほんとによく頑張ったよ」

「・・・・有咲ぁ」

 

 

もうダメだった。有咲の優しさで堤防が決壊してしまった。

 

 

「本当に・・・本当に好きだったんだよ・・・!わかってた。芽音くんの気持ちは私に向いてないってこと。でもどうしようもなく好きだったんだよ・・・!」

「うん、うん」

「いやだよぉ・・・芽音くん・・・好きぃ・・・大好き・・・!」

「・・・今日くらいは胸貸してやっから」

「有咲・・・うわあああああああああん」

 

 

その日私はとてもみっともなく有咲の胸で泣いた。

でも後悔はない。芽音くんを好きになって幸せな時間を過ごして今がある。

結果はダメだったけどこの時間は決して無駄なものじゃない。

そう言える確信が私にはあった。

 

 

 

 

「芽音くん、おはよう」

「沙綾さん・・・?」

 

 

沙綾さんの告白があった翌朝。

昇降口で花音と別れて自分の下駄箱に向かうと、そこには髪をバッサリ切った沙綾さんの姿があった。

 

「沙綾さん、その髪・・・」

「あ、これ?あのあとさ、思い切って切っちゃった。どう?似合うかな?」

「あ、ああ似合うよ」

 

 

これはアレだ。間違いなく昨日のことが原因だろう。

そんなことを考えていると沙綾さんは笑いながら清々しい声でこう言い放った。

 

 

「まあこれからも変わらずよろしくね。あ、そうだ。私を振ったことを後悔しても知らないからね~?」

 

 

彼女は笑う。その笑いには無理をしている様子は一切なかった。

そっか、これが沙綾さんの出した答えか。

 

 

「最後の最後に1本取られたね」

「あはは、なにそれ。じゃあ私は教室にいくね。じゃあまた」

「うん」

 

 

これで山吹沙綾さんと俺をめぐる物語は終わりだ。

恋愛の難しさ、向き合い方、いろんなものを学んだ。沙綾さんの決意を決して無駄にしてはいけない。俺は俺自身、自分の問題に向き合わねばならない。

そう強く思う俺であった。

 

 

√山吹沙綾 Fin

 




というわけでサブヒロイン1人目、沙綾のシナリオこれにて終了です。


この沙綾ルートなのですが実はもう一つあったんですけど芽音と沙綾がハイエースされたり攫われた先の廃工場で無双して無事帰還っていう構想だったんですけど話が大きくなりすぎるのと、後付のヤバさがもはやキチガイの域に達していたり日本刀を持ち出したりしたのでめでたく没になりました。
おそらく日の目を見ることはないでしょう。


次回は日菜、ひまり、ちゆのいずれかです。
構想は上がっているので文章化するのに少々お時間をください。
引き続きよろしくお願いいたします。
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