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「私は気づいていました。ちゆが自分を見失って、焦って、暴走していくのを。でも私はそれならそれでいいと思っていました。だってそれがちゆの在り方なら私はパレオとして支えるだけだし、世界中の人が敵に回ろうとパレオだけは味方で居ようって決意していたからです」
レオナちゃんは海を背景に語りだす。俺はそれを黙って聞いていた。
「ちゆは優等生の仮面を被って何をしたいかも定まっていないレオナを暗闇から救上げてくれた。だからどこまでも付いていこうって、何があってもちゆを肯定しようって思ってました。
・・・でもそれはダメなことでした。いくらでもできることはあったはずなのに、ちゆが傷ついていく様を見ながら何もできなかった。だから・・・バチが当たったんです。これは私への報いです」
「・・・キミはそれでいいのかい?」
「私の存在意義が存在する目的である本人に否定されたんです。私の意思なんて関係ありませんよ。私は鳰原令王那に戻っていままで通り過ごすだけです。もう終わりでいいですか?」
「・・・ひとつ、昔話に付き合ってもらえるかな?」
「昔話?」
「ああ。バカな事件を起こして遠方に逃げたその先で優等生の仮面を被り、命をすり減らしながら自分を押し殺したバカなやつの話さ」
俺はすぅっと息を吸い話を始める。
「昔々、中学時代に暴力沙汰を起こし、地元から逃れて遠方の高校に逃げた男がいました。高校なんて高校卒業の資格を得るために我慢して通うようなもん。そう斜に構えて優等生の仮面を被って生活をしているような奴でした。そいつは世の中なんてクソ、どうでもいい、理想のクラスメイトを演じてさっさとクソくだらない高校生活を終えよう。そう考えていました。」
「・・・・それって」
「続けるよ。でもそいつはある日、一人の同級生と出会います。その同級生はそいつの本質を見抜いており、本性をバレてしまってなお親友となることを許してくれました。そしてもう一人、新たな親友ができます。その新たな親友は演技力に長けており、一瞬でそいつが仮面を被っていることを見抜きました。そしてその新たな親友となる人物も、そいつの本性を知ってなお親友となってくれたのです。そして、親友たちと過ごすうちに自分の本質を見てくれる人の存在が大きくなったそいつはいつしか仮面を被るのを辞めました。そいつは今も元気に好き勝手やっています。めでたしめでたし」
「・・・・・」
「結局はさ、この世の中の人全員に本性を知ってもらう必要なんてないんだよ。人にはそれぞれ役割がある。優等生でいることを求められる場面もあればそうでない時もある、ようは使い分ければいいのさ。そして本性は知るべき人が知っていてくれるならそれでいいと俺は考えているよ」
「・・・やっぱり芽音さんのお話だったんですね」
「おおっとおしゃべりが過ぎたね。俺もね、少し前は今のレオナちゃんみたいだった。でも今は違う。なんでかは・・・今の話を聞けばわかるよね?」
俺は優しくレオナちゃんに語り掛ける。
レオナちゃんは答えが分かっているようですぐに口を開いた。
「ありのままの自分を見てくれる人がいたから・・・」
「その通り。ねえレオナちゃん。俺はキミの本心が聞きたい。キミはさっき自分の意思なんて関係ないっていったよね」
「はい」
「それは違うよ。鳰原令王那がどうしたいか、それこそが今一番重要なことだ。ちゆちゃんが命ずるからとか必要とされてないからとか関係ない。キミはキミの思うままにやればいい。待つんじゃなくて、キミが選択して動くんだ」
「・・・いいんでしょうか」
「気が進まない、このままただの鳰原令王那として過ごすというなら俺は止めない。でもそうじゃないならRASのみんなに本当のキミを見せつけてやりなよ。そしてキミの意思でRASに戻るんだ」
「・・・少し考えます」
「ああ。んじゃ俺は帰るよ」
そういって俺は話を〆る。そして背中を向けて歩こうとすると、レオナちゃんが声を上げた。
「あの!」
「なにかな?」
「芽音さんは今、幸せですか?」
唐突に投げられた質問。俺は何のためらいもなく答える。
「もちろん」
そして俺はそのまま帰った。
そして帰りの電車に乗った最中、俺はRASのメンバーにパレオさんの所在を知らせるメッセージを送ったのであった。
※
RAS騒動から数日後の週末。
俺はとある山の中の川沿いにいる。
「おい芽音!肉食え肉!」
「俗さん、こちらも焼けていますよ」
「はい~パレオからもお肉のおすそ分けです~!」
「ははは、ありがとう」
「ちょっとみんな、多すぎて俗くん困ってるから」
「んだよレイ、お母さんみたいなこというなよな~」
「お、お母さん・・・」
「男ならたくさん食えるから大丈夫だって!ほら、もっとよそいでやっから!」
あれからRASは無事に5人へと戻った。
そして今、紆余曲折あり俺は山中の河原でRASのみんなとバーベキューを楽しんでいるというわけだ。
「俺もみんなに」
「No,サキナリ、あなたは遠慮しないで食べなさい」
「ちゆちゃん」
「今日のあなたは私たちのお客様よ。気を遣う必要なんてないわ」
そう、俺は騒動解決協力のお礼ということでこのバーベキューにお呼ばれしたわけである。
※
「いいよお礼なんて」
「ダメよ。今回は本当に迷惑かけたもの。お礼をしなきゃ私・・・私たちの気が済まないわ」
「そうですそうです~さあ芽音さん!なんでもおっしゃってください~!」
「そうだぜ芽音。なんならどっかいくか?山か?海か?」
「この時期に海はヤバいでしょ・・・」
「んだよ根性ねえなあ。よし、じゃあ川いこう川!RASも再スタートしたしバーベキューでもしようぜ!」
「What!?No!No thank youよアウドドアなんて!」
「楽しそう(小並感)」
「サキナリ!?」
「よっしゃ決まりだな!レイもロックもいいよな?」
「俗くんがいいなら」
「私も芽音さんが大丈夫ならいいですよ」
「よっしゃ!」
「うううううう・・・・」
呻りながらも参加してくれたのはありがたいと思う。
とまあこんなやりとりがあった感じで今に至るわけである。
俺たちはひとしきり食事を楽しんだあとそれぞれのことをはじめた。
「よっしゃロック!釣りしようぜ釣り!」
「いいですよ~岐阜の川で鍛えた腕みせたる!」
マスキングさんとロックさんは釣りに行くようだ。
「私は散策でもしてこようかな」
「レイヤさん、パレオもお付き合いします~チュチュ様はどうされますか?」
「No thank youよ。ここでゆっくりしてるわ」
「そうですか~ではではレイヤさん、いきましょう。チュチュ様、頑張ってくださいね!」
そういって謎のウインクをして去っていくパレオさんとレイヤさん。
そして横には若干顔を赤くしているちゆちゃんがいた。
「改めてお礼を言うわ。ありがとう・・・」
「どういたしまして。しかしあれだね、すべて丸く収まってよかった」
「今回ばかりは全部あなたのおかげよ」
「そんなことは・・・いや、力になれたようでよかったよ」
「ふふ、それが正解よ。度を越した謙遜は好きじゃないわ」
ちゆちゃんはいつもよりも柔和に、遠いところを見ながら話し始めた。
「前に・・・」
「ん?」
「前に言ったわよね。RASはもう私の最強のバンドじゃないって」
「言ったね」
「意味がやっと分かったわ。RASは私”だけ”の最強のバンドじゃない。RASが5人揃った、私”たち”最強のバンドなのね。当たり前のことに気付けてなかった。ほんと、当時の私をぶん殴ってやりたいわ」
「はは、過激だね」
「それだけ反省しているということよ。私って視野が狭かったのね。あれからみんが思っていることをぶつけてくれて、メンバーのみんなはあんなに私のことを見てくれてついてきてくれたのに・・・私ときたら目先のことしか見えていなかった。それを気付かせてくれたのはレイヤ、ロック、パレオ、マスキング、そしてあなたよ」
「もう大丈夫そうだね。ちゆちゃんは一人じゃないし、これから5人で楽しいことで辛いことも共有して絆を深めていけばいいさ。もちろん俺も力になるよ」
こんなに穏やかないちゆちゃんと1対1で話したのいつぶりだろうか。
そんなことを考えているとちゆちゃんは何かを考えている感じで下を向いてしまった。
「ちゆちゃん?」
「・・・サキナリ、私、私ね」
「うん」
「私・・・!」
決意をしたかのように顔を上げるちゆちゃん。
その表情は緊張が入り混じっており、体温が上がっているのが分かった。
「・・・もうあなたに頼らないことに決めたの」
「え・・・?」
飛び出した言葉は予想外のものであった。
素直に驚く声を上げる。俺ってそんなに頼りないのかな・・・?
「あ、ごめんなさい。あなたが頼りないって意味じゃないわ。今私たちは生まれ変わった。RASは新たな誕生日を迎えたの。今回はあなたがいていっぱい助けてもらってここまできた。でも今度は、今度は私のプロデュースで、RASの5人で挑戦していきたいのよ。あなたの力はすごいと思うわ。でもこれからのRASには必要じゃない」
そういうちゆちゃんは確かな決意と強い意志を目に秘めてそれをまっすぐ向けてきたのである。
ここまで言われては俺はなにも言い返すまい。
「なるほどね。うん、すごくいいことだと思うよ。でもどうしても立ち行かなくなったり、どうしても助けが必要な時は言ってね。それくらいはさせてほしい」
「わかったわ」
そういうとちゆちゃんは立ち上がった。
「これでこの話は終わりよ。私もちょっと空気を吸ってくるわ」
「じゃあ俺も・・・」
「Wait.今は一人になりたい気分なの」
「・・・そっか」
「悪いわね」
そのまま歩き去っていくちゆちゃんの背中を見ながら俺はその場に敷いてあるレジャーシートに寝ころんだ。
とまあ俺が関わったRAS結成談としてはこんなものかな。
本当に上手くいってよかった。これでRASはもう大丈夫だろう。
なにせちゆちゃんにもあんなに素晴らしい仲間ができたのだから。
俺はそんなことを考えながら気持ちの良い風に吹かれながらそのまま眠りについたのであった。
※
「おいチュチュ。あれでよかったのかよ」
「なにがよ」
「そうですそうです。てっきりチュチュ様は芽音さんに告白するものだと思ってました!」
「え?チュチュってそうなの!?」
「むしろレイヤさん気づいてなかったんですか・・・」
「・・・みてたのね」
バーベキューが終わりサキナリは先に帰った。
私達5人はなんとなく音が会わせたくなってマンションまで戻ってきたのである。
そこでマスキングから始まった話は一気にこの場を支配した。
「ワリィな。のぞき見するつもりはなかったんだけどよ」
「魚が全然いないのですぐに戻ったらチュチュさんと芽音さんがお話をされていたので・・・つい」
「私とレイヤさんは途中からですけど・・・」
「全然わからなかった・・・」
「んでチュチュ。どうなんだよ」
マスキングはなんで?といわんばかりに続ける。
「・・・私もするつもりだったわ」
「ではなんでしなかったのでしょう?」
「サキナリの気持ちが私に向いていないのはわかってたし、それにRASのことがあったからよ」
「RASですか?」
「RASがこうやって今5人でいるのはハッキリいってサキナリのおかげよ。彼がいなかったら今はない」
そう、これこそが今回の決意の理由だ。
「一人じゃ何にもできなかった私が、サキナリに付き合ってなんておこがましいことは言えない。彼の負担にしかならない。だから今はRASにすべてを懸けようと思ったのよ。サキナリの力を借りずに私とパレオと、レイヤにロックにマスキング・・・みんなで最強のバンドになって世界を変える。それを成し遂げるまでこの気持ちは封印することにしたってわけよ」
「チュチュ・・・」
「チュチュ様・・・」
「チュチュさん・・・」
「チュチュ・・・」
「そんなしんみりする必要ないわ。これは私の決意なの。だから、その・・・みんな、私についてきてくれるかしら?」
恐る恐る顔を上げる。
・・・そこには笑顔を浮かべたみんながいた。
「あったりめーだろ!なあ?」
「当然です!!チュチュ様あるところにパレオあり!!どこまでもついていきますよー!」
「チュチュさんの気持ち、伝わりました!!」
「私も。相当の覚悟があることが伝わったよ」
サキナリ。あなたがくれた今を私は突っ走るわ。
いつか最強のバンドになって世界を変えて・・・その時に気持ちを伝えられるように。
「私たちらしくいきましょう!」
珠手ちゆ√ Fin
サブヒロイン珠手ちゆ√これにて完結です。
ラストはどうしようかとても悩んだのですが、前回の沙綾とはまた違った形の失恋にしてみました。いかがだったでしょうか?
個人的には「RAS結成に芽音が関わっていたら」というコンセプトで書けて満足しております。
次回も引き続きよろしくお願いいたします!!