真剣に!   作:橘恵一

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時間があった時、積んでいた原作をプレイしてから構想していた物語です。

やっぱり少年マンガみたいに男がそれなりに戦うのもみたいと思って始めます。


第1話 「この方が簡単だし。」

「ぐ、うぅ……。」

 

 人通りの少ない路地。数人の男たちが呻き声をあげながら倒れている。どんな状況か見るには日差しが当たらず暗くて目が暗闇に慣れてこなければわからないような場所だけあって通勤中の人が見に来ることは無い。

 

「お前たちから手を出してこなければよかったんだけどな。これに懲りたらもう俺には関わってくるなよー。」

 

 倒れている男たちとは違い無傷の俺はそう言い残しながらかばんを手に持ち、路地から出ようとする。

 

「そこのお前、ちょっと待て。」

 

 すると人通りのある方向から女性の声。今まで絡まれたときは誰かに見られないためにここを利用していたんだけど初めて見られた。それも女性に。

 

「はぁ。」

 

 声色からちょっと怒ってるように感じる。これ以上面倒なことにならないか心配になり、自然と溜息をつく。そして女性は俺の横を通りすぎて倒れてる奴らを一瞥する。

 

「これはお前がやったのか?」

「一応そうなるのかな。でもやりたくもない喧嘩を売ってきたから仕方なくだし悪いのはこいつらでしょ。」

 

 ここで一応、言っておくが今までで俺から手を出した喧嘩は一回も無い。あくまで売られるだけ。理由があるのかと思って色々聞いたんだけど大体なんかウザいとか気に入らないってことらしい。

 

「ふむ、理由がそうだとしても少しやり過ぎだ。」

「これより抑えめにすると報復される割合が多かったんで致し方なく。」

 

 俺だって喧嘩が好きってわけじゃない。だからこそ、やり返しに来ないラインってのを探って今の痛めつけ方になった。

 

「それがわかっているなら他に方法があるんじゃないのか?」

「この方が簡単だし。」

 

 原因がわかれば改善出来るかもしれないけどはっきりしない以上難しい。となると俺には逃げるか戦うかの2択しか思いつかなかった。最初の方は親に迷惑がかかることを知りながらも転校をさせてもらったんだけど状況は変わらず。それで仕方なく戦う方を選んだらとりあえず一時的には落ち着ける期間が出来た為こうなった……他に方法があるならやってみたいけど誰も相談には乗ってくれないし。

 

「……根は悪くなさそうだがこのまま行けばお前は力の使い方を間違えたままだ。」

「何言ってるかわかんないんだけど。」

「そういう奴には……制裁だ!!!」

 

 その言葉を返すこと無く繰り出された蹴りで俺の意識は途切れた。丁度その頃、どこかで腕の立つ者同士が最後の決闘をしていたとかしていないとからしい。何はともあれこの出会いがきっかけで俺は考えを改めてちゃんと学校生活を送ろうとしたのだが、すでに煙たがられている学校では難しく最後の転校をしようと思ったものの今までのことがあって受け入れてくれる学校も無かった。そんなとき俺に一本の電話が来て事態は進展することになる。

 

 場所はとある学校の待合室。言っておくがこの物語の舞台にはならない場所だ。部屋には俺と椅子に座っているひげを伸ばした道着姿の爺さんがいる。

 

「ワシは川神鉄心。キミが噂になってた子じゃな?」

 

 俺が椅子に座ると鉄心さんは聞いてくる。

 

「はい。」

「聞いた所によると喧嘩を多くしていたせいで入学させてくれる学校が無いと。」

「自分から手を出したりはしていませんがその通りです。」

 

 転校しても喧嘩まみれになってしまう問題児がいてその子がまた学校を探しているといった噂らしい。自分で喧嘩に明け暮れていた認識は無いが該当しているのは俺だったりする。そこで噂を嗅ぎつけた川神学園の代表である鉄心さんが名乗りを上げてくれたらしい。

 

「そういった事情ならば我が学園は最適じゃろう。余程のことが無い限り退学なんて事にはならんからのう。」

「……そ、それはちゃんと卒業することが出来るってことですよね!?」

 

 正直ダメだろうと思っていたからどんな学園かなんて知らないがこれは最後のチャンスになるかもしれない。

 

「基本的にはそうじゃよ。じゃが入学するのに条件が――」

「これからよろしくお願いします!!!」

 

 俺は勢い良く立ち上がり頭を下げる。最後のチャンスと思い込んでしまった以上、気の変わらないうちに了承しようと判断したのだ。

 

「となると条件を飲んでもらうが聞いてから判断しなくて良いのか?」

「はい、構いません。僕で出来ることならなんでもします。」

 

 条件っていっても素行を良くしておくか、良い成績を取るといった事だろう。生憎と喧嘩に明け暮れていたわけでもなく、かと言って遊ぶような友達なんていなかったし勉強だけなら出来る方だ。

 

「そうか。そこまで気持ちの良い返事をされたら少しばかり待遇を良くしよう、何か希望はあるか?」

「出来ればこれ以上親に迷惑をかけたくないんで一人暮らしの手続きをしてもらいたいなと。」

 

 これまで転校のせいで迷惑をかけたし、寮みたいな場所に住むことが出来れば両親も少しは落ち着けるだろう。

 

「それなら部屋を借りれるようになるまで家で暮らしなさい。条件を満たすにもそのほうが良いじゃろう。」

「家って確か川神院ですよね?」

「そうじゃよ。」

 

 川神院は歴史が長く、武術家を育てていると聞いたことがある。そこに武術の心得が無い奴を住まわせていいのだろうか。急な話に今更ながら不安になった俺はオドオドしながら尋ねてみる。

 

「俺、武術とかしませんけど?」

「それでも構わんが条件を聞いたらそうも言ってられんじゃろう。」

 

 このとき俺は知った。うまい話には裏があるということを。そういう場合のためにも話はきちんと最後までよく聞いてから答えようと。

そして時間は進み、入学手続きをするために川神へ訪れる。

 

「んで、こいつは誰だよじじい。」

 

 そう言いながら俺を興味なさそうな目で一瞥する。綺麗な黒色の長髪で凛とした女性。どうやらこの人が例の川神百代らしい。

 

「川神学園に転校してくることになった神衣輝(かみいあきら)くんじゃ。」

「それは前に聞いた。そうじゃなくてなんでここに住むんだよ。」

「住むと言っても卒業して一人暮らし出来る資金が貯まるまでの間じゃて。」

「いいのか? 見たところ武術をやっているようには見えないぞ。」

 

 百代さんは少しばかり鋭いような目つきで俺を見る。実力がある人は見ればわかる。確かそういうのがよくある話だったっけ。

 

「なに、少しばかりは鍛錬も一緒にしてもらうことになってるわい。」

「え? そんなこと聞いてないですけど。」

「じじい話が噛み合って無いじゃないか。」

「なにを言ってるんじゃ神衣くん、さっき伝えたばかりではないか。」

「あ、あぁ体力作りのことですか?」

 

 言葉的に鍛錬で通じるんだろうけど素人からすると体力づくりと鍛錬が同じだとは思えず変な受け答えをしてしまった。

 

「そうじゃ。」

 

 転校の条件とは違い、実験みたいなことをしたいと言っていた方の事だったようだ。

 

「もしかして私にその面倒をしろってことか?」

「誰かと戦うのも、己を鍛えるのも良いが誰かを鍛え、己と戦うというのもいいかも知れんぞ? ま、百にはちと早い気がするがの。」

「む。」

「だからやっぱ神衣くんはルーに――」

「ちょっとまてじじい。こいつは卒業までいるんだしちょっとだけ私にやらせてみないか?」

「ふむ。」

「どうせこれから先、武だけで生きていくってわけでもないだろうし物は試しだ。」

「そういう軽い気持ちはいかん。じゃがどうかね神衣くんは?」

「え、体力づくりくらいしか考えてなかったんですがそれでもいいなら構いませんよ。」

 

 ほとんど鉄心さんが事前に話していた通りの結果になった。でも気になるのはこの後どうなるのかを見てみたいらしい。

 

「ああ、飽きたらすぐルー師範代に変わってもらうさ。」

「なら少しの間試して見るといい。そういえば百よ、一子はどこじゃ?」

「一応伝えたが居ないってことは大和のところじゃないか。」

「なら神衣くんの紹介がてら迎えに行ってくれんか?」

「面倒……だけどじじいが言うなら仕方ない、行ってやる。」

「言っておくが神衣くんに合わせてゆっくりじゃぞ。」

「わかってるよ。ほら、行くぞ。」

「それじゃ行ってきます。」

 

 わざわざゆっくりと言った意味がわからないまま、俺は百代さんの後を追う。その入れ違いに中国風の服を来た男が鉄心さんの方へ。今言葉を交わすと足が止まってしまうので悪いとは思いながら軽い会釈で済ませると相手もわかっていたのか、それに応じてくれた。

 

「それよりも師範、良かったんですカ? 今不安定な百代に教え子とハ。」

「ワシの目に狂いが無ければ問題なかろうて。」

 

 川神院の出口辺りで百代さんに追いつき、横に並ぶようにして歩幅をあわせる。

 

「言うタイミングが無かったんで今更ですが自己紹介を。神衣輝です、よろしくお願いします。」

「私は川神百代だ。年下なら敬えよ。」

「言葉遣いは気をつけます。」

 

 少し歩いて周りの景色が変わり、自販機やコンビニが見える。どうやら歩幅を合わせようと思っていたのだがどうやら逆に合わせてもらっているらしい。

 

「私の案内料は本来ならべらぼうに高いんだぞ。何か食べ物をおごってもらう必要があるんだけどなー。」

「まだバイトも決まってないのでとりあえず飲み物で勘弁してください。」

 

 今までバイトしてたってわけでも無いので貯金なんて無く。親からもらった当分の生活費だけだし仕方ないだろう。

 

「とりあえずってことは後日おごってくれるってことか!?」

 

 歩みを止めて俺の顔覗き込む。

 

「そう出来るように頑張ります。」

 

 そう言うと百代さんは少し歩くスペースを上げた。

 

「よし! なら大目に見てやる。」

 

 日が暮れかけている河原。大体いつも大人数で一緒に入るためファミリーと呼ばれている者らが寝そべりながら雑談をしている。

 

「なぁ、大和。転校生の情報第2弾を手に入れたんだがどうする?」

 

 キャップは肩を組みながら周囲に聞こえないように話す。

 

「さすがに続けざまだとな、それにクリスがいるしやめとこう。」

 

 俺がちらっと見るとそれを感じたのか、目線が合ってしまう。

 

「自分がどうかしたか?」

「いや、なんでもない。気にしないでくれ。」

「あ、キャップが言ってる転校生ってもしかしたら爺ちゃんが言ってた子のことかも。」

「お! そりゃあ面白そうだな。詳しく聞かせろよワンコ!」

 

 思わぬところからの情報だ。ワンコが知ってるなら川神院が絡んでいることになるだろうし、信憑性は高いだろう。

 

「うんとねー、どこの学校も引き受けないから爺ちゃんが引き取ったんだって。」

「あ、それなら私も聞いたことがあります。」

「ネットの方でも少し話題になってたよね、その話。」

 

 まゆっちとモロは聞いたことがあるようだ。因みに言うとその噂だけなら俺も聞いたことはあるけど興味が無く調べなかったから詳しく知らない。

 

「引き取ったって事は川神院で暮らすのか?」

「一人暮らし出来るようなお金が貯まるまでは居るみたいよ。」

 

 武術に秀でている川神院が引き取ったとなると実力者なのかもしれない。それでいて男ならもしかしたら……。

 

「そいつって強い奴なのか?」

「爺ちゃんにしては珍しく強さの話はしてなかったわね。」

「おし、決めた! 今すぐそいつの顔を拝みに行こうぜ!」

 

 キャップが勢い良く手を上げる。

 

「その必要は無いみたい。」

「なんでだよう、京ー。」

「あれ。」

 

 京が指差す方向には姉さんと話しのネタ本人らしき人物が飲み物を飲みながら歩いている。青くて短めの髪で整った顔をしているけど和やかな雰囲気、いわゆる爽やか系といったところだろうか。身長は姉さんより少し高く、傍から見たら仲睦まじい男女に見える――少なくとも俺には一瞬そう見えた。

 

「……姉さん。」

 

 一子という人物を探すついでに飲み物を買ったんだがどうやら好物の物だったらしく、機嫌が良くなって色々教えてくれた。川神市や川神院の事。それに随分昔からつるんでいる風間ファミリーの事。今までそういった経験をしてなかったからなのか、他人のことなのに話を聞いてるうち心が満たされていく。俺もいつかそんな友人を作ってみたいと。

 

「へぇ、仲が良くて羨ましい。」

 

 自然と言葉が出てしまう。

 

「お前にはそういう友達居ないのか?」

「喧嘩ばっかしてたら誰も寄ってきてくれなかったし、逃げられてました。」

 

 する前でも同じだったけど。

 

「強くもないのにそういうことするからだろ。」

「はは。あんまり信じてもらえないんですけど向こうから来るんですよね。」

「私としてはそれの方が羨ましいぞ、もしかしたら強いやつに当たるかもしれないからな。」

「良いライバルってのも居てくれたら何か変わってたかも。」

 

 生憎とただのチンピラぐらいしか来なかったせいか、そんな奴は一人も居なかった。

 

「おっ、あれだよ。さっきまで話してた風間ファミリーってのは。」

 

 河原でたむろっている集団を眺めていると誰かががこちらを指差す。

 

「見るからに俺だけ場違いですよね。」

「来たばかりなんだから仕方ないだろ、と言っても普通に接してくれるだろう。」

「だと良いんですが。」

 

 一人、バンダナを巻いた男だけが先にこちらへ駆け寄ってきた。

 

「百先輩、そいつってもしかして噂の転校生!」

「おいじじいにあんまり言いふらすなって言われただろう一子。」

「そうだっけ?」

 

 首をかしげている女の子がどうやら一子さんなのだろう。そういった行動がなくても一人だけタイヤを引きずってるし、わかりやすい。百代さんが離れたこともあって俺はバンダナの男と向かい合う。

 

「来る途中に少しだけ百代さんから聞いたよ。」

「俺らもあんたのうわさ話だけなら今聞いた。」

「そっか。」

「なに、心配すんな。噂は噂だ。これからお前を知っていけばホントかどうか自ずと分かる。」

「そんな風に言われたのは初めてだな、ならまずは自己紹介からだね。学園に行ってもすると思うけど神衣輝です、これからよろしく。」

「俺は風間翔一。」

 

 風間ファミリーって言うほどなんだから彼がみんなを引っ張ってるんだろうと一目でわかる。

 

「自分はクリスティアーネ・フリードリヒ、クリスでいいぞ。」

 

 いかにも正義感あふれる雰囲気の金髪女子……ほんのちょっとだけどあの人に似てるな。

 

「僕は師岡卓也でこっちはガクト。」

「俺は島津岳人、ガクトはあだ名だ。」

 

 か細い体と分厚い体。正反対と言えるくらいの体格差がある二人。

 

「わ、私は黛由紀江、一年生です。そ、それでこの子が松風です。」

 

 そう言うとぶら下がってるキーホルダーを目の高さまで上げる。

 

「オイラ松風だー、そこんとこよろしく。」

「え……あ、よ、よろしく。」

 

 どう反応していいかわからず、言葉に詰まりながらも返す。

 

「それでこの可愛いのが私の妹の一子だ。」

「ちょっとお姉さま私の台詞ー!」

 

 百代さんは一子さんとじゃれあっている。話しには聞いていたが本当に仲の良い姉妹のようだ。

 

「…………。」

 

 無表情の女の子は明らかに近寄ってくるなオーラを放っているのがわかる。これが普通なんだろうと思いつつも近くにいる男に尋ねた。

 

「えっと、なんか気に触ることしちゃった?」

「こっちは椎名京、悪いねちょっとシャイなんだ。」

「そっか、今後は気をつけるよ。」

「それで俺は直江大和、何か困ったことがあったら相談してくれ。」

 

 直江くんは右手を差し出す。

 

「ありがとう、その時はよろしく。」

 

 俺は差し出された右手を掴み、握手する。今まで握手を求められることが無かった俺にとってこの出来事は一生思い出に残ることだろう。こうして川神市での初日を終え、新天地での生活が始まるのであった。




いかがでしたでしょうか?

一応今の構想では無印シナリオに沿った話になります。理由は単純にS、Aをまだプレイできていないからです。仮にプレイ後だとしても膨大なシナリオなので完結出来るか微妙かと思い、1つずつといった予定です。

読者の方々、ご観覧ありがとうございました。
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