それではお楽しみください。
俺にとって実りのあるゴールデンウィークが終わり、川神学園に登校する水曜日。
「おはよう、姉さん、ワン子、神衣。」
通学路の土手を百代さんと一子ちゃんに俺を含めた三人で登校していると直江くんが合流する。
「おーす。」
「おはようやまとー。」
「おはよう直江くん。」
他の生徒から向けられる視線は変わらないまま前に女性が二人、その後方に男が二人といった形になる。
「そういえば二人から色々聞いたけど、箱根でクリスさんと決闘したんだってね。」
「まぁね。」
「見たかったなぁ、決闘ってのが気になってるままだし。」
「そういえば神衣が来てから本格的な決闘はやってないからな。一応賭博場でやったのも決闘みたいなもんなんだけど見たいのはそういうのじゃないんだろう?」
「そうか、あれは決闘だったからあんな雰囲気だったのか。」
「手軽に体験したいってんならワン子なんかは試合したがるからやれると思うけど?」
「なになに! 私と決闘したいの!?」
それを聞いた一子ちゃんはきらきらした瞳でこちらを向く。
「ね?」
「やめとくよ。そういうの苦手でさ。」
ずっと不良たち相手にしかケンカしてなかったのでどういった様子か見たいのが理由なのに自分でやったら意味が無い。
「なら私かぁ?」
百代さんもこちらを向くが、面白半分といった感じだ。強くないんだし、当然だろう。
「お断りさせてもらいます!!」
今後のことも考えると百代さんの前では余り話題に出さないほう良いかもしれない。
「ところで休みの間どうだった?」
会話の状況を察してか、直江くんが話題を変えてくれる。
「えっと、バイト探ししながら街をランニングしてたよ。」
「へぇ、貯金目的?」
「川神院にお世話になれる期間も限られてるし、卒業までには一人暮らし出来るような環境にしたくて。」
「そういうことならなんか良さげなバイトがあったら紹介するよ、タダじゃないけど。」
「ほんと! それでもいいからお願いするよ。」
「なるほど。そのランニング中、英雄に会ったってことですね。」
横から葵くん、井上くん、小雪さんの三人が通りかかり合流する。
「あ、おはよう。」
「おはようございます、みなさん。」
「にしてもお前よく英雄に直接履歴書渡したよな、普通なら萎縮するんじゃねーか。」
「九鬼クンに直接だなんて……やるわね神衣くん。」
「それマジ!? 世界の九鬼に渡したのかよ。」
「正確に言うと近くにいたあずみさんにだけどね。」
「渡しただけでも凄いことだよ、可能性が出来たってことだし。」
「ま、そうですね。限りなくゼロだとしても可能性はありますよ。」
自分では諦めているけど二人は否定的な言葉では無かった。おそらく気を使ってくれてるんだと思う。
「うーん、ゼー、ロー、だと思うけどなー。」
「ユキ、あんまし現実的な数字は言ってやるな。可愛そうだろう。」
小雪さんは二人とは裏腹に現実を突きつけてくる。
「で、どんな手使ったんだ? 九鬼のことだ、通常の手段じゃあ受け取らないだろうし。」
直江くんは少し真面目な表情で聞いてくる。
「……揚羽さんが気にしてくれてたみたいで。」
「揚羽さんって言うとあの九鬼揚羽?」
「それが本当だとするなら可能性はだいぶ上がりますね。」
普通は疑いそうなことだけど二人は嘘だと思わなかったようで少し考えている表情に変わった。
「なんでお前みたいなヤツが揚羽さんと知り合いなんだ?」
「おわっ!?」
みんなが学園に向かって歩いてる最中、百代さんは俺に向かって来たのでびっくりして立ち止まった。
「ちょっと姉さん、驚いてるじゃん。」
周りで話していたみんなも立ち止まり、直江くんは俺と百代さんの間に腕を入れ、場を宥めようとする。
「えーと、川神学園を紹介してもらうときに色々教えてもらったくらいです。弟が在籍してるとか。」
「…………ほんとうか?」
少し怖いと思えるくらいの威圧感。気が弱い人間なら泣いてしまう人もいるんじゃないかと思えるほどだ。
「ほ、本当ですって!」
「ほらほら姉さん、そのへんでいいでしょ。」
「ちぇ、ちょっと期待したんだけどなー。」
そこでようやく百代さんは前を向き、みんなも足を動かしはじめた。
「大丈夫か、ああいうの初めてだろ?」
「さすがにちょっと怖かったかも。」
「しかし、神衣くんの交友関係には少し驚かされますね。川神院と九鬼。この川神でその二つと関係があることの凄さを。」
「さらに学園ではS組で、風間ファミリーとも面識を持ってるわけか。家柄とか関係無く。」
「これは良いクラスメイトが増えたかもしれませんね。」
「それじゃあ私はここで。また後でなー。」
学園に付くと百代さんが三年生で棟が違うため、先に別れる。残りは引き続き一緒に教室へと進む。
「そういえば一子ちゃんたちが戦った軍人ってなんだったの?」
「あー、あれね。クリの身内みたいよ。」
「家柄的に軍関係者が多く、父親が娘に甘い結果軍人がお世話してたらしい。」
「色々ぶっ飛んだお嬢様ってことか。」
「ま、そんなとこ。それじゃ。」
それぞれの教室がある廊下で二人と別れ、俺たちはS組の教室へ入る。
「おい! 転校生――いや、神衣、だったか。」
「おはよう、九鬼くん。」
「英雄自ら声をかけるなんて珍しいですね。」
「庶民の真剣な行動には真剣に答えるだけの話だ。我が友トーマよ。して、神衣。例の件は九鬼全体で周知はした。そして我も目を通した。」
例の件。履歴書のことだろう。まさか九鬼全体でしかも九鬼くんも見てくれたのは予想外だ。
「結論だけ言えば今のところ九鬼として案件を出すことは無い。」
「そ、そうだよね。」
「ヒュホホホ、庶民ではその程度であろうな!」
わかっていたとはいえ少し悲しい気持ちになる。今まで何もしてこなかった分、当然だろう。
「たが! 従者部隊ではなにか案件があるやもしれぬ。あずみ!!」
九鬼くんの少し後方で待機していたあずみさんが前に出てくる。
「はい! 詳しくは言えませんが私が会議で神衣クンの書類を出したところ数名が受け取りましたので何かしらの案件が来るかもしれません。その場合は私からご連絡差し上げます!」
「……神衣って結構すごい奴なのじゃ?」
「わ、わかりました。わざわざありがとうございます。で、従者部隊ってなんです?」
「簡単に言うと九鬼を護衛する方々のことです。あずみさんもそれに当たりますね。」
「ってなると即戦力っていうよりは人材的な面での理由かもな。」
「今日は朝礼なのでそろそろ校庭に向かいましょうか。」
この川神学園では毎週水曜日は校庭に集まり、鉄心さん自ら朝礼をする。内容は時期ごとのイベントだったり、特に何もなく、ただありがたいお言葉だったりするようだ。
「準みてみてー、なんかやるみたいだよー。」
朝礼が終わりみんな教室に戻ると、小雪さんが校庭を指差す。
「こりゃ決闘か。」
「あれは一年生の。たしか武蔵小杉さんですね。」
校庭にはクリスさんと一年生。
「鉄心さんがいるってことは正式な決闘ってことだよね。」
「そういうことになりますね。」
周りにいるギャラリーは殆ど一年生だろう。二年生は風間ファミリーが近くで見ている。対峙する両者は互いに素手だ。そして鉄心さんの開始と言う合図と共に1年生が攻めるものの、同時に攻めていたクリスさんに為す術なく意識を絶たれた。やっている本人としては本気なんだろうし悪い気がするけど個人的にはもうちょっと質の高い決闘を見てみたい気もする。
その後の授業を終えて放課後、帰り道の多馬川土手。
「直江くん……なにしてるのこんなとこで?」
「なにって、見てわかるだろ? 決闘。」
俺たちは川の方にいる百代さんと不良たちを見る。
「そうは見えないんだけど。」
「一応言っておくけどここに居ると何があっても知らないからな。自分の身は自分で守れ、だ。」
「お、誰かと思えば神衣か。どうだ? 実践訓練でもするか?」
俺に気づいた百代さんは不良を相手にしながらこちらに寄ってきたのでそうなると当然残りの不良たちもこちらに寄ってくる。
「やめときます!」
「ちぇ、男なんだからもちょっとがっつけよー!」
控えている不良たちの足が止まる。
「おい、あれってもしかして……。」
「ああ、もしかすると東のほうで噂になってたヤツか。」
不良たちは立ち止まりながらなにかひそひそ話している。少し聞こえるが前いた学校付近で広まった噂だろう。
「おい、その噂ってなんだ?」
「あ、青い髪の男がケンカを売って不良を無傷で倒しまくるって噂で――うわあ!!!」
「ほぉ。」
百代さんは掴んでいた不良を放り投げ、俺を見る。
「へぇ。」
真横からも俺を見る目が。そして百代さんは違う不良をまた掴む。
「そ、その男は今まで自分から手は出さず、一度殴られてから手を出す。」
「殴られてるなら無傷じゃないだろ。」
「それが殴っても殴っても何事も無かったかのように殴りかかってくるし、アザとかが出来ない――ほわわ!!!」
「ふーん。」
同じ動作で掴まれていた不良は彼方に飛んで消える。
「うーん。」
直江くんは顎に軽く手を当てる。
「な、なにかな?」
「噂の転校生だったよね?」
「……一言だけ言わせて! 俺からケンカ売ったことは一度も無い!!」
本当に噂ってのは尾ひれを引くんだなとわかった瞬間だった。
「否定しないんだな。」
「ケンカになってたのは事実だし。」
「ダメージ無しって聞くと心が踊るなー。」
何故か少し機嫌が良さそうな声で残りの不良を投げ飛ばした百代さんが近づいてくる。
「普通に痛かったですよ、なんなら意識もなくなりましたし。」
あの人に食らった一撃だけだけど。
「ま、そんなもんか。」
頭の後ろに手を組んでそのまま三人で帰り道を何事も無かったかのように歩いていく。
翌日、朝のホームルーム。今日は連絡事項があるらしく、宇佐美先生は来て早々みんなを一旦静かにさせた。
「よーし、静かになったな。えー、こほん。今日は転入生を紹介する。入れ。」
ガラガラと音を立て扉を開けて入ってきたのは軍服を着ている女性。しかも意味があるのか、ないのか眼帯を付けている。
「マルギッテ・エーベルバッハです。」
「まー色々思うところはあるだろうが留学生って形でS組になる。F組のクリスと似たような扱いだな。」
そういえば一子ちゃんが森で軍人と戦ったって聞いたが特徴が似てる。
「つーわけで一人、マルギッテと入れ替わりになった。」
休む場合は理由を先生が教えてくれるが、説明無しで一つ空席があって気にしてはいたがこういったことだとは思わなかった。となると俺が来たときも入れ替わりが行われたのだろう。優秀なクラスゆえ仕方ないのだと思うけど。
「なんか複雑な気分になってきた。」
「そこまで気にしなくても大丈夫ですよ、入れ替わるのは大抵メンタルが不安定になる方ですから。」
「ヘルス! ヘルス!」
「まるで破壊の呪文だな。」
「そんじゃ今から質疑応答だ。マルギッテも嫌なら答えなくていいからな。」
「わかっています。」
俺は勢い良く手を挙げる。
「はい!」
「おー、おー、いきなり神衣か。少し驚いたぞ。」
「俺の時そういうの無かったんですけど?」
宇佐美先生に質問をする。確か俺のときはなんだか物騒な話をしていたからそれが理由かもしれないが一応気になったので聞いてみた。
「そりゃお前、性別の差だ。うちの女子連中が男に聞くことなんてあんまなさそうだろ?」
そう言われ自然とクラスの女子を見回す。
「……納得しました。」
「はい、じゃあ次。」
俺は先程の勢いは無いものの、再び手を挙げる。
「はい。」
「なんだ、また俺に質問か?」
「いえ、ちゃんとマルギッテさんに質問です。」
「ならよろしい。だけど次から連続は無しな。」
「服装から軍人だと思いますが楽しい学園生活をしたことありますか?」
「学業は当然です、ですが楽しいといった事を感じたことはありません。全ては優秀な軍人になるための行動と知りなさい。」
似てるかもしれない。似てると言っても学園生活を楽しめていないことに関してだけ。理由も過程も毛ほど似ていないだろうが結果として楽しめていないなら同じだと思う。なぜだかこのときの俺はいつもと違った。変わろうと思っていた自分だけでは動けなかったのを後押しされているような感覚。今思っている事を発言することで変わることが出来るならすることは決まっている。
「そうですか…………なら、同じクラスになったのもなにかの縁ですし、一緒に楽しい学園生活にしましょう!!!」
川神学園に転校して来て、一週間ほど。感情を押し込めて、当たり障りないよう過ごし、それでも向かってくるやつは暴力で対応。どう考えても今までの俺ならこんな行動しなかった。周りの人たちのおかげで本当の自分に戻れるような感じ。変わろう、変わりたいと思いながら立ち止まっていた俺はここで漸く動き出す。まず記念すべき一歩目。この発言がきっかけで俺はS組内で変なやつと認定されてしまった。
いかがでしたでしょうか?
話の区切り的に主人公の戦闘はもう少し先のお話になりそうです。今回でいわゆるプロローグ終わりな感じです。こういった始まりだとなんだかヒロイン確定な感じしますが特に決めてませんのであしからず。
そんなわけで次回は主人公の目覚め!回の予定ですが変わる可能性が大いにありますので読者の方々も妄想を膨らませながら御待ちくださいませ。
読者の方々、ご観覧ありがとうございました。
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