それではお楽しみください。
「うわっ!?」
「わ、わりぃ。」
教室の扉を開けると勢い良く出てきた井上くんとぶつかりそうになった。
「どうしたのそんなに慌てて。」
「英雄のやつがメイドを残してFに行ったから、俺も行こうかと思って。お前も、来るか?」
「用事ないし、やめとくよ。」
「そうか。まーあれを経験しとくのもいいと思うし、頑張れや。」
意味がわからず首をかしげる俺の肩をポンッと叩き、井上くんはそのまま通り過ぎていった。
「……なんのことだろ。」
「おーこれはこれは、先日青臭い発言をした庶民ではないか。」
教室に入ると不死川さんが扇子でニヤついているであろう口元を隠しながら僕の方を見る。昨日の一件でS組での俺の立ち位置が決まったようだ。一部のクラスメイトからは見下すような視線を感じ取れる。このクラスは成績優秀なエリートとか良い家柄が多いようでそれぞれが個人としての能力に重きを置いている分、協調性とはかけ離れているのだろう。そんなところにみんなで仲良く学校生活をしよう、と発言する俺みたいな新参者が現れれば反感を買うのは当然なんだろう。
「おはよう、不死川さん。」
「あれは流石に笑いを堪えるのが大変だったぞ、しかも猟犬相手に言うんだもんな。」
そう言うのは普段と同じ姿だが雰囲気だけが違うあずみさん。目つきや声のトーン、態度まで違う。
「おはよう……ってなんかあずみさん、キャラ違くない?」
「こっちが素なんだよ。」
「英雄が居ないときはこんなだよー、ねー。」
「おうおう、今日もユキはいい子だな。」
「葵くん、小雪さん、おはよう。」
「おはようございます、神衣くん。」
「井上くんが言ってたのはこれのことか。」
独り言のように呟く。さっきの様子を見るとF組に行った理由の一つに今の状態のあずみさんが関係していそうだ。
「あぁ? なんか言ったか?」
「え? 今のほうがあずみさんらしさを感じるなーと。」
「はぁ?」
「ふむ、昨日の件と今の対応で確信しました。どうやら神衣くんはS組には居なかったS組らしくないタイプの人間ですね。」
「それって褒めて……は、いないよね?」
「ええ、今のところ褒め言葉にはならなさそうですね。」
「今のところは、か。」
葵くんは納得した表情を浮かべて、またすぐに何かを考え始めた。
「月日が経ち、あの女王蜂もここまで変わるとは驚きです。」
いつの間にか後ろからマルギッテさんの声が聞こえる。
「猟犬には言われたくねぇ。」
なんでも二人は昔、戦場で命の奪い合いをしていたらしい。それが曲がり曲がって学び舎で再会したのだ。当時とは違い、今はお互い仕えている主の密命やら護衛がメインなので戦いにはほぼならないとのこと。
「おはよう、マルギッテさん。」
「おはよう、神衣輝……シャツが少し出てるのですぐ直しなさい。」
教室に入り席へ向かう途中に指摘される。軍人という仕事柄、規律とか風紀とかそういうことに気が付きやすいのかもしれない。
「あ、ほんとだ。さっき井上くんとぶつかった時に出ちゃったのかな。ありがと。」
「ふーん、らしくないじゃないか猟犬。」
「学生として行動したまでです。」
俺が席に座ると同時にF組に行っていた二人が帰ってきた。
「さすが一子殿。今日も素敵であった!!」
「一日一委員長は心が洗われる。」
「おかえりなさいませ!! 英雄さまっ!!!」
目にも留まらぬ速さでいつものあずみさんになり、九鬼くんからそそくさと井上くんは離れる。
「これって九鬼くん気づいてない感じ?」
「多分な。仮に直接言っても信じねぇだろうな。」
「突然ですが神衣くん、今日の放課後空いてますか?」
「特に予定は無いけど。」
「おっし、じゃあホームルーム始めるぞ。」
答えると同時に宇佐美先生が教室に入ってきて、チャイムが鳴る。
「それはよかった。ではあとで続きを話しましょう。」
そして普段の授業を終えて下校時間となり、俺たちは色々あってファミレスに行くのであった。
「まさかこの組み合わせで遊ぶことになるとは思ってもみなかったよ。」
机にはドリンク3つに少し小腹を満たすためのフライドポテト。居るのは葵くんを除いた、俺、井上くん、小雪さんの三人。もちろん二人は俺の向かい側の席だ。
「うーん、ギリギリセーフ! トーマのために我慢するー。」
「おー、珍しく大人なユキだな。ま、英雄の絡んだ用事ならしゃーないしな。」
小雪さんは隣に座っている井上くん側に寝転がる。葵くんから誘われたのは元々三人でぶらつく予定だったのが九鬼くんから急な用事を頼まれ行けなくなったらしい。それで予定が空いてるなら街の案内とかもできるし丁度良いとのことで声をかけてくれたそうだ。
「場違いじゃない?」
「場違いなら若はお前に頼まねぇよ。気にしないでパーっといこうぜ!」
「これはこれで面白いかもしれないしねー。」
「お前って帰ってから勉強したりしてる系?」
「前の学校では時間があったからやってたよ。最近は色々忙しくてやれてないんだけど。」
「そうか。じゃあ今度若がいる時勉強会でもしてみるか。」
「ほんと? 俺からもお願いするよ。」
「こう見えてユキも成績良いからな。そういうふうに見えないだろ?」
「何考えてるかはわかんないけど賢そうに見えるよ。」
今までの学校が偏差値良くなかったいわゆる不良系だったため、本当に勉強の出来ない人は見てわかるようになった。喧嘩に明け暮れていたり、陰湿なイジメの首謀者のように頭が良くてもそういう事をやってる人もいたし。
「ふふーん。お前には小雪スペシャルを贈呈する、しばしまてれーい。」
そう言うと小雪さんはドリンクバーを注ぎに席を立った。多分、ファミレスあるあるのオリジナルドリンクンバーだろう。まさか、夢のひとつがこうも簡単に叶うとは思っても見なかった。夢、と言っても普通の学生がやるようなこと全部がそれにあたったりするんだけど。
「ゲーセンとかは?」
「二回かな、不良のたまり場になってたからあんまり行けなかったよ。」
「ならちょうど良いか、少しいってみよーぜ。」
そして次の目的地も出来たので小雪スペシャル(魔)をなんとか飲み終え、ファミレスを後にした。ゲームセンターの思い出としては一回目だけは普通に楽しめた気がする、もちろん一人でゲームを眺めただけだ。二回目はそこを拠点としている奴らに目をつけられたので対処してから行かなくなった。
「思ってたより治安悪くないね。」
周りを見るとそこまで汚くない。それなりにキレイでちゃんとファミリー向け、キッズ向けのゲームエリアもある。
「そりゃ、問題があれば大人が動くし。他のとこに比べれば武闘派が多いからな。」
「なるほど。」
「これでもやってみるか、二人一組でやるやつ。」
井上くんは先に座る。台には色んな種類のロボットが写っていて、操作方法も貼ってある。隣に座り、お金を入れた。
「じゃあ僕は見てるねー。」
「今の時事ネタ的にこいつかな。」
井上くんは最近CMとかで見覚えのある大型の機体を選ぶ。名前は……なんて読むかわからない記号を使っているゴツめの。
「うーん、俺は質量のあるような残像を使いそうなこれにするよ。」
「結構渋いな。やり方はここにあるから見ながらだな。」
ほとんど井上くんが敵機を落として、俺は操作を覚えるのに必死。それでも1ステージ、2ステージと問題無く進んでいく。
「みんなよくこれで操作出来るよね、個人的にはコントローラーとかのほうがやりやすいんだけど。」
「普通逆だろ。お、乱入か。」
「これって対人戦?」
戦闘は中断され相手が機体を選び終わるのを待つ。
「ああ、相手は一人だしなんとかなるだろ。」
相手が選び終わり互いの機体が表示された、赤くて両手に剣を持っている機体だ。そして戦闘が始まると相手は一目散に井上くんを狙いに行く。
「こっち狙ってくるかー、ちっ、強いな。」
素人が見ても相手の方がうまいとわかる。それでも一矢報いるために俺も赤い機体目掛けてライフルを撃つ。
「一回くらいは落としたいが……きついかー。」
「ごめん、全然当たらない。」
そして俺たちは何も出来ないまま負けてしまった。
「対戦ゲームはこういうの日常茶飯事だからな。」
「上手くなりたいなら連日通わないといけないのか。時間がいくらあっても足りないね。」
お互いに席から立ち上がりゲームセンターの入り口へ向かう。
「時間も丁度良いし、この辺でお開きにするか。」
「今日はありがとう。」
「誘ったのは若だけどな。じゃ、またな。」
「ばーいばーい。」
二人と別れ、川神院へ帰るために歩き始める。
「なんかちゃんと学校生活出来てる気がする。」
他の学校と比べれば通常のカリキュラムじゃないのかもしれない。それでも日常として見れば他のところと変わらない。ならそれは俺にとって幸福でしかない。そんなことを考えて少し頬が緩んだ。
「ふぅー、とりあえずこんなもんでいいか。」
自室で軽いトレーニングをして乾いた喉を潤そうと部屋を出ると玄関へ向かう百代さんの姿を見かける。
「あれ? こんな時間にどこか行くんですか?」
「なんだお前か、ちょっと島津寮にな。」
たしか島津寮って言うと直江くんたちが暮らしているところだったはず。仲が良いんだし時間が遅くても少しくらい遊びに行くこともあるんだろうと思い当初の目的である飲み物を取りに行こうとすると百代さんは何かを思い出したように俺に声をかける。
「お前決闘に興味あるんだよな。来るか?」
言葉的に島津寮で決闘すること自体が少し変だと思いつつも俺はついていくために百代さんに近づく。
「御一緒させてもらいます。一子ちゃんは呼ばなくて良いんですか?」
決闘なら俺より、一子ちゃんのほうが見たがる気がして尋ねる。
「ああ、ちょっと個人的に行くだけだからな。」
川神院を出て俺たちは並びながら、特に何も話すこと無く目的地へと向かう。百代さんならすぐに島津寮へ行けるはずがなぜか普通に歩いている。様子を見る限り俺に気遣って歩幅を合せているわけじゃなくて、単に足取りが少し重い。
「よっと。」
島津寮についた途端、百代さんは壁をヒョイッと乗り越えていく。
「……玄関探さないと。」
俺にはそんな芸当出来るわけも無いので素直に玄関を探す。
「勝手に庭行っても大丈夫かな?」
少しあたりを見回してから誰も居ないことを確認してゆっくりと庭へ向かう。
「おじゃましまーす。」
そこにはマルギッテさんと百代さんが互いに向かい合っていて、それを見守る形で直江くんたちがいた。
「神衣? どうしてこんなところに?」
「百代さんが決闘に興味あるならって。それよりなんでマルギッテさんがここに?」
「なんでもクリスの保護者役みたいな感じらしくて島津寮にはたまに来ることになってるんだ。」
直江くんから理由を聞いているとクリスさんが近寄っていくる。
「たしか神衣だったな。マルさんから話は聞いたぞ、少しおもしろそうな男がいるって。」
「そんなこと言ってくれてるんだ。」
「任務以外の時で学園内でも少しは楽しくなりそうだって言ってた。」
「そっか。」
「そろそろ始まりそうだぞ。」
風間くんがそう言うと静寂が訪れる。そしてマルギッテさんから動いて戦いは始まった。俺には二人の動きは早くて目で完全に追うことは出来ない。なんとなく今拳を出したとか程度。今まで見た中では一番激しい戦い。でも俺は違和感を感じた。
「……これって川神学園で言うところの決闘みたいなのであってる?」
「ああ。と、言いたいところだけどちょっと雲行きが怪しいな。」
答えてくれた直江くんもなにかを感じ取っているようだ。戦いはトンファーを装備しているマルギッテさんが攻めつつも、百代さんは難無く受け流し一撃を入れ、距離が開く。
「くっ! 想像以上です、川神百代。」
「そうか、こちらも嬉しいぞ!」
マルギッテさんが眼帯を外す。すると空気がもう一段階重くなる。それに応じて百代さんの纏う気も変わった。そこで完全に口を挟める状況じゃ無くなる。大人とか対等な関係とかじゃないと関われない。それでも俺の感じた違和感は強くなる一方だったから意を決して言葉に出した。
「…………止めたほうが良くない?」
「確かに、でも――」
「眼帯を外したマルさんは本気だ。全力を出している以上それは出来ない。」
近くにいた二人はこういった状況に場馴れしているのか、いつもどおりと言った感じで答えた。直江くんは何か言いかけていたけど多分クリスさんと似たようなことを言おうとしたんだと思う。武を重んじる人ならではの考え方があるのはここに来てからよく感じる。確かにマルギッテさんはそういった類の気迫だと思う。それに比べて百代さんはどうだ? もちろん武人だし、家柄を考えれば同じ類いであることは間違いない。でも、今はそれだけじゃない気がする。
「…………前の俺もこんなんだったのかな。」
強さの次元こそ全然違うし、心意気すらも比べる価値が無い。それでも俺が昔していた行動に似ている気がする。
「…………。」
「……っく。」
どうやら全力を出したマルギッテさんに対し、百代さんも全力を出したくなったのかもう一段階、場が重くなる。直江くん以外の人も少しばかり気にし始めるくらいに空気が重い。素人の俺ですら勝敗がわかる、それほど圧倒的。このまま無理に続けるならマルギッテさんの敗北、それも今の百代さんの状態だと無傷では済みそうにない。
「クリスさん、このままじゃマルギッテさん怪我しちゃうんじゃない? 止めよう。」
「俺もそう思う。」
直江くんも同じことを考えていたようで賛同してくれた。
「でもマルさんは戦い抜こうとしている。同じ武人として止めることは出来ない。」
「そっか。」
顔を俯き、ごちゃごちゃ考えてることをやめる。
「姉さん相手じゃ俺たちだけで止められないし、後は川神院に任せたほうが良いかもな。」
「……関係無い。」
「え?」
「武人じゃない俺には関係無い。」
俺は顔を上げて向かい合っている二人を見る。
「はぁぁぁ!!」
マルギッテさんは声を上げながら飛び上がり、それを迎え撃つ百代さんも飛び上がる。そしてマルギッテさんから最後の一撃が放たれるとそこにいたはずの百代さんの姿が消え、真横に現れた。そこで百代さんの一撃。
「やめろぉ!!」
「なっ!?」
「くっ!?」
そのままマルギッテさんの横っ腹に当たると思われた拳は二人の間目掛けて飛んだ俺に当たる。ズドンとした衝撃を感じながら俺はマルギッテさん共々、庭の壁際へとふっとばされた。
「神衣はどうなんです?」
あれから場所を移して川神院。学長とルー先生が出てくる。隠れて携帯で学長に一応連絡していたことが幸いして、すぐに川神院が対応してくれた。武人ならともかくただの一般人が姉さんの攻撃を受けたら迅速に動かなければ命に関わる。
しかも状況が状況なだけに。
「今治療中じゃ、とりあえず意識が戻らんことにはな。」
「そうですか。」
姉さん的には全力で全力を抜いたが一瞬だったからさらに当てるとこを変えたらしい。それでも常人には相当な威力のはずだ。
「時間ももう遅イ、直江ももう帰りなさイ。」
「ここにいても何も出来ないし、そうします。あの、姉さんは?」
「百代は今坐禅中ネ。」
「そうですか、それじゃあ今日はこれで失礼します。おやすみなさい、また明日来ます。」
「うン、おやすミ。気をつけて帰るんだヨ。」
直江が帰り、姿が見えなくなるまで二人は見送る。
「それデ、どうなんですカ?」
「モモも相当体に負荷を掛けて威力を抑えたみたいで大事にはならん。」
「ふー、それは良かっタ。」
ルー師範代が一息付くとどこからともなく金髪の執事が現れた。
「少し気を感じたと思ったがお前のところだったか。」
「モモのことか?」
「それもある。」
「ふむ、今回のことが二人にとってきっかけになればよいのじゃが。」
「百代はどうか知らんが、もう片方には十分過ぎる刺激だと思うぞ。」
「何か考えがあるなら少しくらい関わってもよいぞ。」
「ふっ、その言葉忘れるなよ鉄心。」
こうして俺は学校生活というものを実感してきた途端、怪我で二、三日学校を休むことになった。そしてこれから自分が思い描いていた学校生活からかけ離れていくことになる。
いかがでしたでしょうか?
一応予定通り今回で主人公は目覚めました、目、覚めてないけど。まじ恋やった方なら百代の一撃食らって何も無いなんてって思いますよね。なのでちゃんと理由は考えました。百代には無理やりご都合的に威力抑えてもらいましたけど。
そんなわけで次回は青春回の予定ですが変わる可能性が大いにありますので読者の方々も妄想を膨らませながら御待ちくださいませ。
読者の方々、ご観覧ありがとうございました。
ご意見、ご感想、ご指摘がありましたらお気軽にメッセージ等にお願いします。