それではお楽しみください。
俺は眺める。新しく生活している場所、川神を空から。現実ではありえない。浮かんでいるのだ。こういう景色を見るのはこれで二度目。多分意識を強引に絶たれたからだろう。最初もこういう感じだった。ただ違うのはどんどん離れて上昇していること。夢みたいなもんだろうし別に気にするようなことじゃないけど少し怖い。そしてついには川神が見えないほど離れる。このまま行けば大気圏を超え、宇宙に出るかもしれない。俺は興味本位で体の向きを変えた。
「…………あれ?」
向きを変えたと思った途端体が動かず、意識が覚醒する。
「川神院……か。」
ここがどこだかわかり一呼吸すると扉が開いた。
「…………。」
「あ、おはよう百代さん。」
返事が返ってこないまま、百代さんはそばにある椅子へドカッと腰掛ける。
「俺、なんかしました?」
「……なんだ、覚えてないのか?」
そう言われて意識を絶たれた時の事を思い出す。
「あっ!? マルギッテさんは大丈夫なんですか!?」
「ああ、ピンピンしてたぞ。」
「そっか、良かったー。」
マルギッテさんが怪我してないことを知り、少し頬が緩む。何事も無かったならまた学園で会えるし、これからの行事も楽しめそうだ。そんなことを考えている俺とは裏腹に百代さんは真面目な表情のまま、腕を組んでこちらを見つめている。明らかに雰囲気がいつもと違うので恐る恐る尋ねる。
「……やっぱ怒ってます?」
「怒ってるって言ったら謝るか?」
クリスさんも言っていたが武人としてやってはいけない事。怒られてもおかしくないことをやったんだと思う。本来であれば謝るのは当然なのかもしれない。でも俺は悩まずすぐ言葉を返す。
「いえ、謝らないです。あれは決闘なんかじゃなくてただのケンカにしか見えなかったんで。」
仮にマルギッテさんやクリスさんに怒られようとも謝ることはないとはっきり言える。それだけ歪な争いだと感じたから。
「ならそれで良い、私もその事に関しては謝らない、お前が勝手に割り込んだんだからな。」
「でも感謝はしますよ、ありがとうございました。」
状態が状態なので軽く頭を下げる。
「なにがだ?」
「拳が当たる直前なんとかしようとしてましたよね? マルギッテさんだって俺の代わりに受け身を取ろうとしてたし。」
俺が二人の間に割り込んだ瞬間、二人共瞬時に何かしらの対処を考えたことはわかった。そうでなければ全力の百代さんの拳を俺なんかが受けてこの程度で済むはずがない。
「あの時私に出来たのはそれくらいしかなかったからな。割り込んでくるなんて思わなかったし。」
そう言うと百代さんは立ち上がる。
「まーその様子なら晩飯は食えそうだな。用意させとく。」
百代さんはそのまま部屋を出た。鉄心さんに言われて俺の様子でも見に来たのだろうか。あんなことしたんだしてっきりボコボコにされるかと思ってたんだけどなんにもなくてよかった。一安心して、横にある携帯に気づき手に取る。
「あ、直江くんからメール来てる。」
その日は晩ごはんを頂き、直江くんに返事だけ返して眠りについた。
「お! 来たな神衣!!」
「……おはよう。」
「なんだそれ、あの時の気合はどこ行ったんだよー。」
「吹っ飛んじゃったかなぁ。」
「モモ先輩に殴られたならそうなんじゃねぇか?」
「殴られたってのはちょっと違うと思うけど。」
「まーまー、一応病み上がりなんだしそれくらいにしてそろそろ行こう。」
学園に登校するため川神院を出ると風間ファミリーの男性陣がいた。この前、直江くんのメールでもしかしたら男連中で今回の件を詳しく聞きながら登校するかも。と言った内容が来ていたので驚きはしなかったが、少し緊張はしていた。
「早速、本題!」
歩いていると突然立ち止まり風間くんが人差し指を立てた。
「お前、修行してるだろ?」
その指を俺に向ける。
「どうして?」
「気合が凄かったのはわかるんだけど気合だけじゃあんなに飛べねぇ。」
「俺様たちも昔モモ先輩が仲間になってから少し試したもんな。」
「僕は試してないけど。」
「俺も俺も。」
色々整理してみると確かに二人は空中で交差していた。宙に浮かんだとかではなくそれこそ文字通り本当に空中で。そしてその間に俺は割り込んだ。
「言われてみれば飛んだってことになるのか。気にしてなかったよ。」
「まさしく無我夢中ってことか。」
「ちょっと今ジャンプしてみろよ。」
岳人くんが軽く腰を叩く。
「傍から聞くとただのカツアゲだよね。」
「よっと。」
言われたとおり軽くジャンプすると少し小銭の音がした。
「普通ジャン。」
「普通だね。」
「普通じゃねぇか。」
「普通だな。」
「なんか申し訳ない。」
みんな頭にはてなマークを浮かべてる表情のまま、足を動かし始めた。
「そういえばさ、クリスさん結構怒ってるの?」
実は直江くんのメールには続きがあり、どうもクリスさん的に俺がやったことを快く思っていないとのこと。一応アフターケア的な事をやれるだけやってみると書いてあったのだ。今考えてみれば百代さんにも同じようなことをしてくれたんだと思う。
「俺のときに比べれば全然怒ってない方だ。」
「なんかついこの間も似たような事あったよね。」
「ああ、我らが大軍師様とな。」
「つーとあれか。神衣も決闘で決着つけるか?」
直江くんとクリスさんは確か決闘で多少吹っ切れた関係になったはずだし、俺もやればそうなるかもしれない。
「とりあえずクラスが違うんだし、時間で解決ってのが理想じゃない?」
時間はかかるけど師岡くんの言っている案が無難な気がする。
「あれ、クリスじゃね?」
風間くんの言葉を聞いて俺はみんなと喋っていた視線を横からゆっくりと前へと移す。
「こっち向かって来てんぞ。」
目的が何かは知らない。誰に用事とかも。ただ俺と目が合う。
「ま、最初は当たって砕けろだ。」
直江くんが肩を二回軽く叩く。
「お、おはよう、クリスさん。」
「おはよう。」
挨拶を交わし、一瞬の静寂。
「とりあえずマルさんが怪我しなかったことには礼を言う。ありがとう。」
「え? いや、こちらこそ受け身を代わりにしてくれたみたいで。」
想像してた言葉ではなく、動揺する。
「で、本題だ。なぜあの戦いに割り込んで武人として戦っている二人を止めたんだ?」
クリスさんは一歩近づき、聞いてくる。怒っている……というより気になっているような感じ。
「俺にはあんなのが武人同士の戦いには見えなかった。確かに凄かったよ、素人が見てもそれくらいはわかる。でもそれだけでただのケンカにしか見えなかった。」
「二人共同意の上、全力で戦っていたのにか。」
「決闘ってのは終わった後、本人はもちろん見ているみんなが清々しい気持ちでいられることだと思う。」
「うーん、それは確かに神衣の言う通りかもしれない。」
その言葉とは裏腹に納得いかない表情を浮かべる。
「実際に決闘をしたことはあるのか?」
「数回見ただけでやったこと無いけど。」
「だからか、些か説得力にかけるな。」
クリスさんはそこでようやく少し納得したようだ。言葉的に理解できてもそれを俺が言うことで違和感が生じたのだろう。
「そこは否定しない。でもああいうケンカみたいな経験だけは積んじゃったから。」
「そうか、とりあえず理由が聞けてよかった。悪意に満ちた内容ならこの場で私自ら神衣の性根を叩き直すところだったがそうでないのがわかった。」
「この短期間でクリスが成長してるだと!?」
「一言余計だぞ、大和!」
「別に悪口じゃなく関心してるだけなんだからいいだろ。」
「むー。」
「じゃあこの件は一件落着ってこと?」
「あ――」
「いや、保留だ。」
直江くんが答え終わる前にクリスさんがかぶせて言う。保留と。
「理由はわかったが私の中ではすぐに結論が出せそうに無い。だから後日また機会を設けてもらってもいいか?」
「……クリスさんがそうしたいってんなら付き合うよ。俺は待ってれば良い?」
「ああ、近いうちマルさんとも話をして結論を出す。」
「なぁ、モロ。付き合うって言葉、良いよな。」
「今言ったのは岳人が考えてるのと違うけどね。」
「色めきだってるヤツが聞いたら告白とかってウワサになる可能性は高いかな。」
「え? これってそういう話だったのか?」
コソコソと話したわけじゃなく、近くの人には聞こえるような会話だった。だから周りには気になって立ち止まり話を聞いていた人もそれなりに居る。
「な! え!? こ、告白!? 違うぞ、断じて違う!!」
クリスさんは顔を赤らめる。
「えー、ならクリスは神衣のこと嫌い?」
直江くんの表情が心なしかニヤついているように見える。どうやらクリスさんをからかっているようだ。
「うぅ、会ったばかりでわかるわけ無いだろう!!」
何回かちらちらと俺を見た後、直江くんを睨む。
「じゃあ神衣はクリスのこと嫌い?」
そして俺。多分、色恋でどういった反応をするか試しているのかもしれない。おどおどすればいじり甲斐があるんだと思う。
「嫌いじゃないよ。」
俺は笑いとかも考えず答える。そして言葉を発してすぐに空気がおかしくなったことに気づくが時すでに遅し。
「ば、バカ!! バカ大和!!!」
クリスさんはなぜか直江くんに攻撃を仕掛けようとする。
「は? なんで俺なんだよー!!」
「お前が変なこと言うからだろー!!!」
まず一撃を避ける。そして続けての攻撃を避けるため直江くんは走って学園に向かうがクリスさんがそのまま追いかける。
「お前、ガチか?」
岳人くんが近寄ってコソッと呟く。
「真面目な話してたから真剣に考えちゃって。別に深い意味は無いんだけど。」
空気感的になぜか恥ずかしくなっていく。こういうことを今まで意識したことが無かったから尚更なのかもしれない。このなんとも言えない空気の中俺たちは登校し、それぞれの教室へと別れた。そして昼休み。
「まさかモモ先輩とマルギッテの間に割り込むなんてなー。」
「ええ、生きていること自体が奇跡ですね。」
「だいぶカバーしてもらったんでなんとか。」
結局学園全体にウワサは広がっていて、昼食を葵くんたちと食べながらその話をしていた。それとクリスさんに聞きそびれたマルギッテさんのことを朝、宇佐美先生から聞いた。どうやら少しの間欠席するらしい。理由は一度訳あって本国に帰るとのことだった。
「そういや三年のA棟行ったことあるか?」
「言われてみれば無いかな、どこにあるか知ってるくらいだね。」
たしか三年生は棟が違う。前に直江くんたちと登校した時、百代さんだけ先に別れていた。
「まー川神院に居て、モモ先輩と知り合いってだけだとわざわざ行かないか。ラジオの打ち合わせしに行くけど来るか?」
「ラジオってなに?」
「そういえば神衣くんはまだ聞いたことが無いんでしたね。毎週火曜のお昼休みに準とモモ先輩で放送してるんですよ。」
「ただの雑談と変わらないけどな。で、どうする?」
「興味あるしお願いしようかな。」
歩いてから少しするとB棟からA棟に入った。俺は転校生なので顔見知りなんていないから誰かの顔色やらを伺う必要なんてない。それでも、居辛さはわかる。
「部活とかで先輩とかと関わったりしてないけど……なんかこう、そわそわするね。」
「あーわかるわ。俺も最初はそんなんだったぜ。」
三年生の廊下を歩いていると見覚えのある女性の姿を見つけた。その隣にはメガネをかけた女性と、和服の男性。
「モモ先輩、ラジオの打ち合わせしたいんでちょっといいですか?」
「なんだお前か、やるなら手短にな。で、神衣はなんかようか?」
「実際三年生の教室を見てなかったんで見学です。」
そう言うと百代さんの方を向いていた和服の男がこちらを向く。
「見学、と言うと君が川神院に居候し始めた生徒か。」
明らかに上級生というオーラが漂っている、というか教師と言われても信じてしまうだろう。
「神衣輝です、よろしくおねがいします。」
俺は挨拶と同時に軽く頭を下げる。
「誠実さを感じる良い挨拶だ。私は京極彦一。」
「私は矢場弓子で候。」
京極さんと視線を合せていたので次に隣にいる矢場さんへと視線を合わせる。
「…………。」
何を言うでもなく、俺は矢場さんから目を離せなかった。
「……え、ちょ、な、なにかあるで候?」
「え? あっいや、なんでもないです! なんかすみません。」
「モモ先輩ありがとうございます、それじゃ。」
頭を下げ、矢場さんに謝っていると話を終えた井上くんが近寄ってくる。
「こっちは終わったからそろそろ行くぞ。」
「う、うん。それじゃ失礼します。」
「あれ、なんかあったのか? ユミ?」
「な、なんでもないで候。」
「初々しさが目立つな。」
A棟から出て、S組の近くまで来ると井上くんは立ち止まり、ニヤつきながら俺の方へと振り返る。
「お前、ああいうのがタイプなのか?」
俺が矢場さんを見つめていたことを聞いているんだろう。
「初めてだったからわからないけど、とりあえずメガネがよく似合ってたと思う。」
自分でも理由がわかっていないので今わかっていて合っているであろう事実を言った。
「メガネ、か。」
顔を伏せると俺の隣へ来て肩を組んできた。
「お前にもあるのか!! 誰にも譲れないところがっ!!」
「そ、そうなのかな?」
「まーこれからは少しその事を意識して周りを見ると真実がわかってくるはずだ。」
なぜだかいつもの言葉より重みを感じる。
「わ、わかった。そうしてみるよ。」
「S組でこういう話が出来るなんて思いもしなかったぜ。そっかー、メガネかー。」
「なんかちょっと恥ずかしいから、誰にも言わないでくれない?」
「わかってるって、今は心配すんな。」
「今はって!?」
バシバシと肩を叩かれながら、S組の教室へと戻る。その後は初めて感じた感情の事を考え込んでしまい、授業に集中出来ないまま帰路についた。
いかがでしたでしょうか?
予定どおり青春、というより色恋話するための回になったかな。少々無理やり感ありますがそこは学生テンションということで。
そんなわけで次回は今後の方針回の予定ですが変わる可能性が大いにありますので読者の方々も妄想を膨らませながら御待ちくださいませ。
読者の方々、ご観覧ありがとうございました。
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